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愛と夢を結ぶことば☆Lillian

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2006.02.13
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カテゴリ:Stories


閉店後、ひとりで店のディスプレーを変えていた。

少し早いけど、街のクリスマス模様はそこまで来ている。



時計を見るのも忘れていたぐらいに没頭していた。


「ああ、、明日は筋肉痛だなあ。」と思いながら、

ボディをあっちこっちに動かして既に腰も痛い。


ふと時計を見ると・・・午前1時をまわっていた。

店の近所の自販機で買った、缶コーヒーをゴクリと。



周囲の店は真っ暗で、電気がついているのはここか、

後は、バーや居酒屋だけ。



「やあ!まだ仕事!」と閉めた店のウインドウ越しから声がかかる。



「お!アキラ!お疲れさま!買い出し?」


アキラは長い髪を後ろで縛って、

黒い制服に黒いロングのエプロン姿で立っていた。



「うん。」

「いい感じじゃん。今度のディスプレー。」



アキラはお店の近くのキャバクラで働いていた。

スーパーへ買い出しに行くときは大体、顔を出したり、

手を挙げて通っていく。



「オレさあ、絶対に飲食で独立するんだ。今は勉強中。」

「昨日は新作のレシピを作ったんだよ。なかなかよかった。」

ロングの髪をなびかせてアキラは、身振り手振りで熱く語りに来ることもある。



「でも、最近アメ車を中古で買ったじゃない。お金溜まるのー?」

ついついツッコミを入れたくなる。



「ああ、アレは別。安く譲って貰ったんだよ。いつも店の前に停めて悪いねー!」



「早く独立しなよー!」と言いたくなるのは、

アキラの母親が私よりチョッピリ年上だからかもしれない。



アキラは独自の美意識とプライドを持っている。


いつだったか、太い針金のようなモノで作ったオブジェを見せにきたことがあった。

それが、独特の雰囲気があって、

ヘンリー・ムーアとバスキアを合わせたようなモノだった。


「へえ。どうしたのコレ?」と聞くと、


「店の前で客引きしてた時に落ちてたから拾ってさあ、暇だったんで作った。」

「いいね。コレ!」

「そう?」



アキラは、時々何かに閃いたようにいきなり店に入って来ることもあり、

今日の早い時間の買い出しの時には、


「ねえ。日本人の美意識って凄くない?陰と陽のバランスなんだけど。」

「日本語の言葉とかさあ、こういうディスプレーの光と陰とか?建築や灯かり。」


(「その割には、タメ語で話してる癖に・・・。」と思って笑いそうになる。)



「アキラ、日本人の美意識なら、谷崎潤一郎の”陰翳礼讃”を読んでごらんよ。

絶対にオススメ。」


「うん。探して読んでみる。」



「ところで、仕事はまだかかるの?」

「あー、もうこんな時間だし、後は明日の開店前にやるわ。」



「そ?じゃあ、オレももうすぐあがり。」

「あのさあ、角に新しいバーが先週できたじゃん。行ってみない?」

「いいわよ。じゃ、そこで待ち合わせしようか?」


「OK!いいよ。」



お店の鍵をかけ、コートをひっかけ小走りにバーへ向かうと、

既に深夜も遅い時間。


「お客様、そろそろラスト・オーダーになりますが。」と、

若いバーテンダーに言われた。


「チンザノ・ハーフをロックで。」



程なく、アキラも現れた。

デニムに濃いブルーのシャツ。

胸にはシルバーのごっついターコイズのチョーカー。



「何を呑む?」

「うんと・・・オレは、タンカレーをロックで。」



「疲れてるとまわるわよ。」とからかった。

「大丈夫。そんなに弱くないねー!」



アキラは煙草を吸わない。

「煙草って味覚によくないような気がするんだよねー!舌が痺れそうで。」

「オレにとって味覚は命だからさあ。」



閉店まで呑んで、いい感じに酔って交差点で別れた。


「じゃ、気をつけてね。二日酔いで遅刻しないでよ。」

「そっちもな!明日も忙しんだろ。」



翌日、知らせが入ったのが、夕方6時をまわった頃だった。


アキラと同じ店で働く別の黒服のコが来て、

「アキラ、今日の午後、刺されたんだ。」と一言。



今日の午後の出勤途中、遅刻しそうで例のアメ車をぶつ飛ばし、

前の車を追い抜こうとして、互いの車体を擦ってしまった・・・。


相手も同じ年ぐらいのグループで爆音で音を流しながら車を乗り回してたという。


アキラは車から引き摺り出され、口論となった。

プライドの高さと遅刻の焦り。


焦燥感で喧嘩になり、いきなりグループのひとりに腹部を刺され、

病院には担ぎ込まれたものの、出血多量で死んだと聞かされた。





「オレ、絶対に成功する!自分の店が出来たら来てくれよな。」

アキラの昨晩の言葉が未だに私の耳に残っている。

21歳のアキラから何度となく聞いた言葉。



店は今月から来月の年末までのセールに忙しい・・。

ふと、店のレジの横に置いておいた、”陰翳礼讃”の文庫本に視線を落とした。


今年も、もう後2ヶ月で終わる。







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Last updated  2006.02.14 00:48:12
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