象印夫人のCM-岩下志麻さん雑感
このCM、大好きだ。長年の岩下志麻さんのファンだからということも多少は影響しているけれど、象印の一連のCMには、何か哀切が漂うカンジがして、とても好きだ。 CMに出演している象印の社員役は、実際象印社の方(それもCM担当か何か)であると、どこかで読んだ記憶がある。そう、素人さんであるがゆえに、あの、どことなくペーソスと哀愁が漂うCMになっているのだろう。芸達者な役者さんでは、ああはいかない。いいところの奥様然(いや、それ以上の存在か)とした岩下さんの存在感は、いかにもフツーのサラリーマン数人が束になってかかって、ようやく均等に近くなってくるのだが、その画面から私が感じるものは、世間離れした、非日常的な美しさと品格は、どこまで行っても日常とクロスすることはないということだ。 ちょっと話が逸れるが、岩下さんは、金田一耕助シリーズの映画「悪霊島」を見たときに、強烈な印象をもらった。恐ろしく怖く、恐ろしく美しく、そして恐ろしく哀しい人だと、子ども心に、忘れ得ぬ印象だった。 それ以降、いろいろな女優さんを目にするたびに、岩下さんの持つ「恐ろしさ」を、その背後に求めてしまうようになった。そのたびに、がっかりしてしまうことになるのだけど…。 象印のCMでは、岩下さんに、あの「恐ろしさ」は全く感じない。それでいいと思う。きっとあの笑顔や雰囲気が、本当の岩下さんに近いのだろう。幸せな家庭を持った、残り少ない映画女優。でも、私た魅せられた、あの「悪霊島」でも岩下さんも、また岩下さんの中、奥深くに眠る、岩下さんの一面だとも思っている。自分の中に潜む、様々な自分の一面を表面化させて演技へと昇華させていくのが、演技者の仕事であると、私は思っているから。