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2008年05月02日
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カテゴリ:日記
一人の男性と終わるたびに、彼女のときおり見せる陰鬱なムードは深まって行き、ある日、指圧の途中で涙を流し始めたこともあった。彼女はスタイルのよい艶っぽい美人なだけに、気になった男性を振り向かせるのは苦労しないようだった。歌手のフリオ・イグレシアスにバーで出会い「可愛い」と言われたとか、五番街でテレビ女優に間違われたとか、寝た男性の国籍と人種で世界制覇したと豪語したこともある。しかし実際に交際する相手は、優越感をもてるような、自分より劣った男性を常にピックアップしているように思え、決して自分をリードしてくれるような男性的な人、人間的な人、金銭的に頼れる相手とは付き合わなかった。職業にしても、医者や弁護士、銀行員などスーツ姿の白人男性とは付き合わなかった。ほとんどの彼女の選ぶ男性は年下か、年上でも幼児性の強い人、体格の小柄で痩せた人、容姿の冴えない人、アル中ぎみの芸術家、役者、アルバイトでようやっと生活している人、そして外国人や有色人種が多かった。彼らはつきあいが進むと彼女の部屋にルームメイトという形で同棲していた。時にはルームメイトがいるまま、彼女の住むリビングルームの一室で彼氏と同棲していた。彼女の彼らとのつきあい方を見ていると、彼らはまるで彼女の息子か弟のようだった。彼女は母親のように彼らを甘やかし、世話をやき、そして何かと生き方や生活習慣にアドバイスを与えるのだった。私から見ても、彼女の男性とのつきあい方は不思議だった。もしかしたら、彼女は自分に自信をもてないから、常にルーザー、自分に優越感を与える劣った男性に惹かれるのかと時々思った。知性ではなく動物的な感性、セックスアピールで選んでいるという感じもした。別れる時は、彼女の方が愛想をつかして、男性を部屋から追い出すようなこじれた別れ方もいくつかあった。同居の男性から暴力を受けたと警察を呼んだ事もあったという。

相変わらずダンスは続けており、スタイルも良く、頭脳も明晰で洗練された外見をもち、男女を合わせて友達は山のようにいる彼女だった。私は彼女とは部屋を訪ねて指圧を与えてから話したりするだけで、一緒に映画館に行ったり、レストランに食事に行ったことは全くなかった。彼女は私の芝居や写真展などのイベントには必ず来てくれたが、彼女と自分が親しい友人と呼べるのかどうかもよく分からなかった。もしかしたら、完璧な英語も話さず、アジア移民である私は彼女にとって、アメリカ人のメインストリームの知人もろくにいない同情すべき存在なのでは? と思うこともあった。ある時、彼女が鬱なムードのとき、「貴方は写真展をやったり芝居を書いたり、才能があって本当に恵まれているわ。私ときたら何にもできないでいるのに」と言われたことがあった。そう言われると、自分一人が良い思いをしているような気がして、つい彼女を励まそうと学生ローンの借金が数万ドルあって、月々の返済が大変なことを話した。そうすると彼女は急に嬉しそうになって、「そう聞くとホッとするわ」と言うのだった。一度、彼女も何か書いてみたら?と勧めたことがある。彼女は自分の父親が60年代に狂牛病で死んだのではないかと疑っていて、それについて、狂牛病が話題の頃にニューヨークタイムズに電話をしたところ、知っていることをすべてエッセイに書いて送って欲しい、と編集者に勧められたそうだ。じゃあ、なぜ書き始めないのか?と私が聴くと、彼女は「自分にはあなたのようなエネルギーと継続力がないのよ」と答えた。そしてさらに私に、「あれはどうなったの? 書かないの?」と毎回会うたびに思い出させ、叱咤して欲しいと頼むのだった。そう言われて何度か試してみたが、彼女は一向に始める様子はなかった。





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最終更新日  2008年05月03日 00時34分50秒
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