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2008年05月02日
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カテゴリ:日記
一週間後、彼女のアパートに台本を受け取りに訪ねていくと、寝ていた彼が起き出してきて、私に聴かせたいとギターを弾いて歌い始めた。私に温厚な印象を与えようと頑張っている風にも見えた。その夜、彼女は非常に気分屋になっていて、私の容姿をバカにするようなことを言い始めた。そして私の髪が長く洗っていないように見える、油っぽいから一緒にお風呂に入ろう、洗ってあげると言い出した。私は気分を害して、すぐに帰ってしまった。その翌日、彼女からお詫びのメールが来た。さらに、同居の彼氏は実はDVの常習者で、彼女は彼から暴力を始終受けてひどい目にあっているというのだ。私はすぐに彼女に電話をし、その翌日に誘われていた知り合いの米人映画監督のクリスマスパーティに彼女を誘った。翌日、行きのタクシーで彼女にDVのことを問いただした。彼女は、すべてが真実だといい、彼とは別れるつもりだと言った。パーティの会場には早く着きすぎたのか、誰もまだおらず、私たちは近くのカフェで時間をつぶすことにした。そこでも彼女はカラフェでワインを注文していた。そして回りの人々と親しげに言葉を交わし合っていた。彼女が荒れた実生活とはうらはらに、キチンとした装いをした、洗練された知的な大人の女性に見えるのは確かだった。そして初めて会った人は、男女ともにみんな彼女の古くからの友人のようにきさくに話し始めるのだった。私はそれを見ていて不思議な気持ちにならざるをえなかった。そのパーティ会場で彼女は飲み過ぎもせず、洗練された控えめな、大人の物腰をくずさなかった。

数日後、彼女からDVで受けた数カ所の青アザの写真を撮ってくれという電話が来た。それを証拠として彼を警察に訴えたい、そして別れたいと言うのだ。しかし彼が同じ部屋で昼間から寝ている以上、そこでは撮れない。近所のホテルで撮ろうと彼女が言い、私たちは57丁目のスターバックスで待ち合わせをしてから、近所のホテルのバスルームに行った。トイレの中で、彼女は手早く上着とズボンを脱ぎ、私に人が入ってこないうちに撮影してくれと頼んだ。見ると、彼女の手首と脇腹には確かに青紫のあざが数カ所あった。しかしそれよりも何よりも、彼女の体の衰えようの方が気になった。腹はたるみきっていて、もはやかつて見たダンサーの引き締まったものではなかった。彼女がせかすので、コンパクトカメラのフラッシュでどれくらい撮れるのか疑問だったが、とりあえず撮影し、彼女にカメラごとネガを渡して自分で現像に出すように言った。その夜、私は心配になってDVシェルターのメールアドレスと電話番号を調べたりしたが、彼女には送らずじまいだった。そしてその一週間後、彼女の家にカメラを受け取りに行った。男は相変わらず昼間からベッドでうつぶせに寝ていた。彼女に小声で写真を現像したかどうか聞くと、ほとんどボケたものしか映っていなかったという。私の知り合いのプロカメラマンに照明付きのスタジオで撮ってもらったらと勧めたが、彼女は50ドルでも代金を払う余裕がないと言って断った。「これからどうするの」という私に、彼女は当然彼とは別れるつもりだと言った。しかし見たところ、彼はまったく今の生活に安住しきっていて、別れる気など毛頭なさそうだった。実際、しばらくして起き上がった彼は、再び私の前で、DVとは遙かに無縁の温厚なアメリカ人を演じ始めるのだった。「クリスマスにターキーをクックするから、食べに来なさい」。そう私に言ったとき、彼はまるで結婚したカップルのように彼女の肩に手をかけて微笑んでいた。彼女の方は引きつった表情だった。





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最終更新日  2008年05月02日 21時54分51秒
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