madamkaseのトルコ行進曲

[旅に出て人と会う] カテゴリの記事

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• 出会いと別れ

  【 12月12日・火曜日】　昨晩寝る前にパッキングをしましたが、2ヵ所の店で買ったイスタンブールへのお土産はすべてコンヤ・シェケリ（飴）。ざっと計算したところでは14キロを超えています。ケース自体が２キロ以上ありそうで、貨物で載せられるスーツケースその他の合計が15キロを超える場合は、超過料金を払うか、機内持ち込みの限度を超えない重さで対処するしかありません。私はイスタンブールから持参してきた緑色の大きな布袋を広げ、自分の往路運んできた衣類その他を全部それに移し、2個口の荷物をアブデュラーさんに、前もってターヒルさんの店に運んでおいて貰うことにしました。　自分のトートバッグにも詰めるだけ詰め込んで、そのほかに入りきれなかった200ｇ入りの飴5袋を、こともあろうにビールの保冷バッグに詰めていました。これは８月に来た時、コンヤの皆さんに納豆をお土産に持ってきた保冷バッグを、恵さんが先日返してくれたものでした。　朝10時にメヴラーナ博物館駅の前でシェンギュルさんと会う約束をし、朝食を軽くご馳走になってチャーダッシュ家の起きている人々にお礼と別れの挨拶を交わし、トートバッグとビールの保冷箱だけ持って9時半頃家を出たのでした。乗り慣れた２５番アドリエ行きのドルムシュが来て、乗り込むとき、先客の人々の視線がビールのケースに注がれるのを、やっぱりねえ、と思いながら運転手さんの脇の席に座ると、７日の夜チャージをしに帰ってセマー会場に戻る時に乗った親切な人でした。私を覚えていてくれたので、今日で帰ります、と挨拶すると、「来年も来ますか」と尋ね、「アッラーとメヴラーナがあなたをお守りくださいますように」と言ってくれたので思わず胸がジンとしました。だからコンヤにまた来たくなるのだ、と思います。　外気は暖かくコンヤの6泊7日は到着の６日以外、暖かく晴天続きで恵まれた日々を過ごせたことになります。ちょうど１０時にトラムワイのメヴラーナ博物館駅に着きました。まだシェンギュルさんは来ていないようです。クッベ・ハドゥラー（緑の塔）とそこに路面電車の近づく写真が欲しかったので、次の電車が来るまで駅で待ちました。うまく撮れて、彼女に電話してみると、「あら、着いたの。じゃあマダム加瀬、今すぐに店を出るわ」と言う返事、も～う。結局彼女が歩きで到着したのは１０時４５分、すぐ目の前の、メヴラーナ財団の建物に入り、副総裁のエシン・チェレビ・バイル女史（メヴラーナの直系22代目の孫にあたる）に挨拶に伺いました。１１時にはお出かけとのこと、幸いそのちょっと前に訪問出来たので、エシンさんと私は２年ぶりに抱き合って挨拶を交わしました。シェンギュルさんはエシンさんのお気に入りの洋裁師で、彼女の妹の連れ合いが亡くなってチョルム県まで行っていたことで、みんなからお悔やみの挨拶を受けました。　エシンさんは出かけ、私たちもチャイをご馳走になってお参りに行くことにしました。身支度を整えて外に出ようとしたとき、入り口で上品で穏やかな銀髪の紳士と出会いました。エシンさんの夫君、オスマン・バイルさんでした。10年近く前にお会いしたきりだったので、もう一度中へお誘いを受けたのですが、廟へのお参りと次なる約束もあったので、再会を約しお暇しました。外に出るとすぐシェンギュルさんが出口の方に回ろうと言い出し、彼女は仕事に出る前にメヴラーナ廟に毎朝のようにお参りに来るし、来るたびメヴラーナ財団の建物に寄っていくので、警備員さんたちも顔パスで出口からでも中に入れてくれるのです。　まずはメヴラーナ博物館の建物を庭の方から眺められる記念撮影ポイントがあるので、2人で私の自撮りで記念撮影、それから脇にあるハムシャン門から前庭に入りました。シェンギュルさんは、10日以上もコンヤを留守にしていたので、廟内では懐かし気に丁寧に祈りを捧げています。12時半にはユジェルさんが日本からのお客様を連れて、ターヒルさんの店の前で会うことになっていました。　シェンギュルさんは2004年に私がシェムス・アヌ・ホテルで1ヵ月半ほど滞在し、ルーム・セルジューク王朝の歴史について勉強していた頃のある日、私が教えを乞うている考古学者のヌレッティン先生が一緒に連れてきて、メヴラーナに帰依している女性で、自分の遠縁にあたるシェンギュルさんだ、と紹介してくれたのでした。思えば長い付き合いです。お母さんを早く亡くし、十代で結婚、娘3人を授かったものの、夫が家庭を顧みない暴力男だったため別れ、洋裁師の腕一つで（と言うか、足と言うか・・・）猛烈にミシンを踏みながら子供たちを3人とも大学に進ませた天晴れな女性です。「マダム加瀬、今度も私にお悔やみに来てくれてありがとう」と外に出るとシェンギュルさんは私にぺったりと張り付いたまま、腕を私の首に回し、頬にチュッチュと口付けしてくれました。今度も、というのは、おととしの9月に、私がコンヤに行く前日、彼女の故郷ホッパ（トルコの東隣の国ジョージアとの国境に近いアルトヴィン県の黒海に面した町）で大洪水発生、何人も激流に流されて犠牲者が出たというニュースを見た私が、バイラムなので彼女も郷里に行っているはずだが、と心配になって電話してみると、シェンギュルさんと娘たちはその朝バスに乗り、コンヤに戻る途中で、長距離バスの休憩時間にドライブインで事件を知ったそうですが、その時点ではまだ親類が被害に遭ったことは知らなかったそうです。私が電話を切り、コンヤに戻ったシェンギュルさんからその後連絡があったのですが、残念ながらその洪水で彼女のおじさんや従妹などが激流に呑まれて犠牲になってしまったのだそうです。　私もそれより前の9月2日にアブデュラーさんのお母さんが亡くなり、翌3日の午後、葬式の当日ポストニシン様から電話が来て訃報を知ったのですが、9月半ばに当のポストニシン様から相談を受けていた件があり、コンヤ行きのチケットもすでに買ってあったので、その際、チャーダッシュ家とシェンギュルさんのお店に、それぞれお悔やみに行ったのでした。　それにしても今回、妹さんの夫君が39歳で急逝し、驚いて駆け付けたシェンギュルさんも、初七日の法事を終えてコンヤに戻るにあたっては、妹さんが心配で後ろ髪を引かれる思いだったことでしょう。私はもう今日の午後コンヤを離れるので、次のシェビィ・アルースではなく、それより以前にコンヤを訪問する折があれば、その時ゆっくり話をしようね、ともう一度彼女としっかり抱き合いました。シェンギュルさんも本当の母親に甘えているかのように見えました。メヴラーナ広場に出ると、ユジェルさんがお客様を伴って、早めにターヒルさんの店に来ているのが見えました。さあ、私にはまた別な出会いが待っているのでした。　トラムワイの線路を渡り、ターヒルさんの店の前に近づくと、ユジェルさんのお客さんが私たちに気が付き、笑顔で会釈してくれたので、あ、この旅行に満足してくれている、と一目で感じました。シェンギュルさんもターヒルさんやユジェルさんには久々に会うので、挨拶を交わしてから私たちと別れ、二つ先の区画にある店の方角に帰って行きました。　お客のMさんはカジュアルな服装で化粧つ気もなく、しかし目元にはこの旅行にとても満足しています、という明確なメッセージを浮かべた若い女性でした。トルコに今まで2回旅行していて、メヴラーナについてもっと知りたかったのに、有名なガイドブックでも、コンヤについては1～2ページしか触れておらず、物足りなく思っていたところ、ある日「トルコスキップ歩き（トルコ文化センター刊）」というガイドブックに遭遇、その本ではコンヤについても現地の取材協力者が詳しく説明、特集されているのでそれを見てとうとうメヴラーナをターゲットにした「シェビィ・アルース直行便」とでもいうような日程の旅行を計画、都内のトラベル・エージェンシーに相談、そこからカッパドキアのベテラン・トラベルプランナーのサイマズ陽子さんにコンヤの日本語ガイドさんを探して貰いたい、と打診があり、11月の中旬に陽子さんが私に尋ねてこられたので、私は迷わずユジェルさんを推薦、かくてお客さんの願いが実現したのでした。　ターヒルさんがチャイを取り寄せてくれたので、外の小さなテーブルの周りに座って初対面同士とは思えないほど、打ち解けて話をすることが出来ました。一昨日、ユジェルさんと事前に出会った日、私はちょうど10年前にメヴラーナ生誕800年祭のときに、メヴラーナ紹介の小冊子、と言っても中味はびっしりの本を日本語に訳したことがあり、もうほとんど在庫も底をついていると思われるので、手元に保存してある何冊かのうちの1冊を持参しユジェルさんからお客さんにプレゼントしてほしい、と頼んだのでした。　午後1時ころ、私たちのいるところにアブデュラーさんがやってきました。そしてターヒルさんの店に預けてあった赤い小型スーツケースと緑色の大きな袋を自分のタクシーに移し、「2時45分までにここに戻ってくれば、私の都合がついたので空港まで加瀬さんを送っていきますよ」と言ってくれたのです。　かくてMさんとユジェルさん、私の３人は目と鼻の先の市役所のレストラン「コンヤ・ムトゥファウ」に入り、夕べ私がエスマさんからご馳走になった焼きナスとラム肉の炒め物やサラダでお昼を共にしました。話も弾み、メヴラーナ本は帰国してからゆっくりひもとき、学ばせていただきます、と嬉しそうに言いました。私もまだ初期のころの作品なので今読むと訳し方にも必ずしも満足していませんが、メヴラーナの生涯や、作品集、有名な研究家たちのメヴラーナ論、などなど薄い本の割には文字が小さいので内容はこってりで、当面は満足していただけるだろう、と思いました。　それにしても、ユジェルさんの協力した本を読んで現地に来たら、ホテルに迎えに来たのがそのユジェルさん、彼と出会った瞬間にMさんはさぞかし驚いたに違いありません。ユジェルさんは最初に行ったメヴラーナ博物館で、実に２時間半もかけて廟や本館、別館になっているマトゥバー（台所）とそれに付随する施設をすっかり説明したのだそうです。　それらは本の中にも細かに書かれているので、一度見学したMさんにはしっかりと思い出すことが出来ると思います。楽しい１時間余りは瞬く間に過ぎて、昼食はご馳走になり、２時４５分、レストランの前で二人と別れ、私はアブデュラーさんに空港まで送って貰いました。せめてガソリン代だけでも取ってください、と言うと「いえ、駄目です。私が家族からお金を取りますか」と笑い、荷物をセキュリティのところまで持ってきて、がっちり握手し頬を擦り寄せて別れました。　いよいよチェックインです。赤いスーツケースがどのくらいになるか問題です。　赤い小型スーツケースは、機内にも持ち込める大きさですが、重さは８キロまでと言う制限がありますから、貨物預けにします。空港には３時１５分頃着いたので、チェックインカウンターも空いていました。まず赤いのを載せてみると１５．７キロと出ました。中味はケース自体の重みといくらか入っている小物の合計で、赤いケースの中には大体１３キロ分の飴と言うことになり、私の手にはまだ１キロ分のコンヤ飴がビールの保冷バッグに収まっているわけです。私の衣類その他の入った緑色の布袋だけでも５キロ超、トートバッグはもっと重いので６～７キロあるかもしれません。こんなのを毎日肩にかけて歩いているので、実は肩こりも結構あって、凝りすぎていて凝っているのかどうかもわからない状態です。　コンヤ空港で飛行機の到着を待つ間、お世話になった方々に挨拶の電話をして過ごし、やが定刻通り飛行機は飛び立ち、定刻より少し早めにアタテュルク空港に着陸しました。赤いスーツケースも順調に流れてきて、機内から両肩にかけて担いできた紐長のトートバッグと布袋を載せ、到着ロビーに出ると空港ビルの出口の真ん前が、送迎のシャトルバスの乗り場になっています。一人で運ぶには重い大荷物ですが、タクシー代の節約と言うより、シャトルバスのハヴァビュス乗り場で会いたい人がいたのです。　到着ロビー出口のそばの大きな銀行の看板の前で自分の荷物の写真を写し、ハヴァビュス乗り場に行くと私は2つの大きな荷物を預け、「ハレケット・アミリ（シフト管理者）のアブデュルラフマンさんは今日、出勤しておられますか」とカプタン（運転士）に聞いてみました。「今日は夜勤だから9時頃来ると思うけど、何か？」「私は彼とハバタシュ（ハヴァビュスの以前の名）が出来た頃からの友達なの。コンヤから戻ってきたので、小さなお土産を渡したいと思って・・・」「あああ、アブデュルラフマンの日本人のお母さんはあなたですか。もしよければ私が預かって、国際線の乗り場で係りに預けて彼に届くようにしましょう」「ああ、よかった、ありがとうございます、カプタン」　私はビールの保冷ケースから取り出した200g入りの飴２袋をビニール袋に入れ、もう一袋をカプタンに差し出し、「これはあなたと皆さんでコンヤの香りを分け合ってね」とプレゼントしました。6時25分頃バスは発車、ぐるりとカーブを曲がって国際線の出口に停まりました。そこに2人くらい座れるボックス型の詰め所があり、カプタンはそこにいた係員にアブデュルラフマンさんの飴の袋を預け、もう一つの袋は開けてみんなで分けるように、と言ってデスクの上に置きました。乗客がみな乗り込み、集金係が車内に乗り込むときにドアの外にいたカプタンは「4番はアミル（管理者）のお客様だ」と彼に言いました。最前列の席の4番には私がいます。乗車賃が只になったのが嬉しい、と言うのでなく、僅かな物でも人を和やかに出来たと思うと、シェビィ・アルースに行った甲斐があったとしみじみ思います。　タキシム広場で降りるとき、荷物を出して貰いながらカプタンに礼を言うと「こちらこそ。アブデュルラフマンさんには後で電話しておきますよ」と笑顔で言いました。最近、ハヴァビュスの発着所はここ数年間停留した場所から、タキシム広場の下に降りるトンネルの脇に移動しました。そこはバスの乗降には最も不適切な場所で、バスの幅の脇に乗降するスペースはごく僅か、タキシム広場の地下に降りず、Uターンするバスやタクシー、一般車両で大混雑しているところにあります。「タクシー、タクシー」と数人の客引きの男たちが声をかけてきます。「バヤン、タクシー要るかい？　どこまで行くの？」「ジハンギル方面よ」「今日はデモやなんかがあって、街中えらい混雑なので、ここから別な道を少し遠回りしなくてはならない。40リラ払えば車を出すよ」「いいえ、要らないわ」」　すると男は「じゃ35でいいよ」と・・・フン、一生客待ちしてろ！　もう答えず道路を渡って広場に入ろうとしたら、1台のタクシーがUターンの場所で客を下ろし、空車になったので手を挙げると年配の運転手さんがすぐに後ろのトランクを開け、降りてきて荷物を入れてくれました。助手席に乗り、「近くて悪いけどジハンギルに行って」と言うと、「どこにでも行きますよ、近い遠いは関係なく、お客さんの行きたいところへお連れするのが私たちの仕事です」まあ、さっきの雲助たちと大違い。車は最短距離を通り、瞬く間に家の前に着きました。10リラです。お金を払い、荷物を下ろすとき、私はビールのケースにあと二つ残っているコンヤ飴の一つを、運転手さんにおすそ分けしました。「おお、懐かしい。私はコンヤの隣のアクサライの生まれでね、子供の頃はしょっちゅうこの飴をなめていたもんだ」と運転手さんは嬉しそうにニコニコして去っていきました。　さて、アパルトマンの中に入ると、出発の日に壊れていたアサンソール（エレベーター）が直っている様子、苦労なく4階の自分の家まで運ぶことが出来、猫の面倒を見てくれたアフメットさんはすでに午後1時に家を出るとき、缶詰肉を配ってくれていたものの、猫たちはお母さんが来たからご飯だ～とばかり、7匹揃って私が荷物を家に入れ終わり、「チョジュックラ～ル！」と言ったとたん、ドドド～ッと台所に走って行きました。　ああ、ありがたい、何事もなく家に帰り着き、猫たちも元気、家の中は私がいるときより心もちきれいになっていました。　コンヤ旅行のお話はこれでおしまいです。　お世話になった皆様、本当にありがとうございました。

  2017年12月12日

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• 女子会第２ラウンド

  【12月11日・月曜日】　一昨日の女子会の別れ際に、コンヤ在住ン十年のエスマさんが「このままでは何か寂しいわ、加瀬さんが帰られる前に、私がボル・ロカンタスのエトゥリ・エクメッキで皆さんをご招待したいので、どうかもう一度集まって下さらない？」と恵さんや私に言いました。恵さんもオズデミル育子さんも異存はなく、月曜日の午後２時に、メヴラーナ広場からもほど遠からぬボル・ロカンタスの２階で再び同じ顔触れが揃うことになりました。　私は家を10時過ぎに出て、コンヤのアタテュルク博物館長になっているヌレッティン先生を訪ねるつもりで、ドルムシュに乗ってすぐ先生に電話してみました。ところが先生は今日は休暇で家におられるとのこと、でも街に出る用事もあるので、キリム問屋のアスムさんの店で会おう、11時をちょっと過ぎるかもしれんよ、と言うのでした。私もアスムさんの店にも寄るつもりだったので丁度いいと思い、ドルムシュを下りてまっすぐ店に向かいました。　アスムさんの店の人々とも、もう十何年の付き合いなので気心が知れています。おお～、加瀬ハヌム、ようこそと古参の店員が出て来て、奥のサロンに案内してくれました。広い部屋にキリムが山と積まれており、その一隅には大きな薪ストーブが勢いよく燃えていて、番頭格のナーディルさんが見積書でも作成中なのか、忙しくパソコンと計算機を交互に叩きながら仕事をしています。ソファに座るとチャイを取り寄せてくれたので、冷めるのを待ちながら私の隣で新年早々に催される大々的な商業フェスティバルのダイレクトメールの封筒詰めの続きを始めた古参店員の作業を見るとはなしに見ていました。2018年にちなんで1800枚、シェビィ・アルースの期間中に配布、郵送するために少し前から封筒詰めを始めたのだそうです。　この店員さんの名前は忘れてしまったので仮にアリさんと呼びます。アリさんがテーブルにうずたかく積まれた100枚束のカードを、人差し指をなめて1枚取り、封筒も同じく指をなめて1枚取り、カードを膝に置いて封筒を広げます。そしておもむろにカードを入れ、封筒は糊付けせず、ふたを閉めただけで段ボール箱の入れました。そして次のカードのために指をなめます。ずっとそうしているので、1枚詰めるのに1分近くもかかっている感じです。「アリさん、先生が見えるまで少し手伝いましょうか」「あんたは遠くから来た客人だ、手を煩わせては申し訳ない」　私はアリさんの横で、カードを十数枚取り、扇形に広げながら指をなめなくてもすぐに1枚持ち上げられるようにし、封筒も十数枚全部ふたを開けて並べ、それも縦にずらしてすぐ1枚つかめるようにし、アリさんのテーブルの上に載せました。彼が指をなめずに作業出来るようになり、箱の中にはみるみるうちにカード入りの封筒が詰まってきました。アリさんは「やりやすいねえ、ありがとう」と能率倍増で嬉しそうに作業しているところにヌレッティン先生が到着しました。ほどなくアスムさんも外出から戻り、先生と私がゆっくり話が出来るように、と別な小部屋を開けさせてくれました。アスムさんはナーディルさんの作成した書類を持って商工会議所に出かけなくてはならず、１時間以内に戻るので戻ったらお昼を一緒にどう？と言ってくれましたが、私には２時の女子会があるため、その前には何も食べられません。　ヌレッティン先生とたくさん話が出来、１時半も回ったことだしそろそろ女子会に向かおうと、上の階の化粧室を借りようとサロンに入っていくと、おそらくナーディルさんがそうさせたのでしょうが、各階の店員が手伝いに来ていて、テーブルの周囲にみんなが座り、一人が私のやったようにカードをずらし、封筒を開けてから並べ、これも少しずつずらして置き、あと３人がどんどん詰め込んでいく、と言う形で能率よくやっていました。　さて、そこを暇乞いして１０分足らず歩けば、会場のボル・ロカンタスに着きます。エトゥリ・エクメッキがもう一度食べられるのはうれしいことです。カンディルで食べたのも美味しかったし、ボルも昼時は地元の人でいっぱいになるほど繁盛する店です。ここにもエスマさんが先乗りしていて２階の奥まった席に待っていてくれました。私も約束の２時ちょうどに到着、すぐ後から恵さんと育子さんが相次いで登場し、今日は注文品が届いた時点で話は弾むわ、食欲も増進したわで、たちまち短時間で平らげてしまいました。そして、あと１人前追加で取り寄せて、みんなで一切れずつ食べながら、普段でもときどきこうして会いましょうよ、と言う話が本決まりになったようです。　ここはエスマさんにご馳走になり、２次会がアブデュラーさんの親友、ターヒルさんのバッカル（雑貨屋）の隣にある、ちょっと洒落たHi Coffee（ハイ・コーヒー）に行って、もう１時間ほどお喋りしましょう、と全会一致で楽しみにしていた店に４時頃移動しました。　このカフェが３年前くらいに出来た時は、そのおしゃれなたたずまいにコンヤにもこんなお店が、と驚いたものですが、幸い繁盛してずっと続いているようです。あれこれお喋りしているうちに夕方５時近くなり、育子さんは坊やたちの待つ家に、恵さんもお使いをしながら帰る、と言うことで私もエスマさんへのお礼にカフェは私が支払い、２人で店に残りました。　実は本日はユジェルさんが観光ガイドとして案内に出ていて、私も朝のうち彼に電話でメッセージを送り、女子会が５時くらいまでに終わると思うので、そのあと、そちらの都合のついたとき電話をお願いします、と書き送ったのでした。彼のお客様の女性は、９日の夜東京から単身イスタンブールへ、10日早朝のイスタンブールから朝の便でコンヤに飛び、メヴラーナのシェビィ・アルースが始まったコンヤの街を観光し、夜はセマーの儀式を観賞し、翌日の夜の飛行機でコンからイスタンブールへ、その夜中にイスタンブールから成田へと飛ぶ強行軍なのだそうです。　私も土曜日にユジェルさんとちょっとだけ会っていますが、一度はゆっくり話をしたいと思い、お客様をセマー・サロンにご案内すればお役御免になります、と聞いていたので、そのあとユジェルさんに逢おうと思っていたのでした。ところが、5時を過ぎても一向に連絡がないので、その間にエスマさんに土産物（コンヤ飴）を買い足すのを手伝って貰い、そのあとはしばらく近所のおやじカフェで時間をつぶすことにしました。こちらからも電話してみたものの、全然通じないのでした。　そのうちに７時を回り、２人とも小腹が減ってきたので、今度は市役所のレストラン「コンヤ・ムトゥファウ」に入って夕飯を食べることにしました。焼きナスとラム肉の料理がことのほかおいしく、エスマさんと思いがけなく５時間以上も一緒にいられたことも、彼女の人柄をさらによく知ることが出来て幸運でした。この店に入ってユジェルさんにはここにいることをメッセージして送っておいたので、しばらくすると彼から電話が来て、今お客様をセマー・サロンに送り、私たちのいるレストランの目の前に到着した、というのです。「まあ、よかった。ユジェルさんが見えたら私はお暇しますね」とエスマさんは身支度を始めました。２人は挨拶を交わし、エスマさんはガルソンにユジェルさんと私のためにチャイを注文し、会計も全部済ませて行ってくれました。ユジェルさんはチャタルホユックという、世界遺産のヒッタイト時代の遺跡に行っていたため、電波が全く届かず、私の２度にわたるメッセージも電話も通じなかったのだそうです。「お客様は加瀬さんが用意してくれたメヴラーナ生誕８００年祭の本の日本語版をとても喜んで、明日のお昼ぜひお会いしたい、と言っておられました」　ユジェルさんは私が食事を食べ終わると、コンヤ飴の入った大きな袋２つを持ち、ドルムシュに乗って一緒にメラムのチャーダッシュ家まで私を送って来てくれたうえ、メラハットさんが上がってチャイでも、というのを断り、みんなに挨拶だけして、セマーの儀式が終わるころ、お客様を出口で待っていてホテルまで送り届ける約束なので、と腕時計を気にしながら戻って行きました。彼のお陰で重いコンヤ飴の袋を２つも下げて、坂道をひいひいしながら登らずに済みました。ターヒルさんの店で買った飴も相当重いのですが、これもアブデュラーさんが家に届けておいてくれたので、今晩は荷造りを済ませ、深夜アブデュラーさんが家に戻ってくる時までに、玄関に出しておけば車に積んで日中、ターヒルさんの店に預けておいてくれることになりました。　そうなんです、明日は早くもイスタンブールに戻る日となったのです。

  2017年12月11日

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• 日本人女子会と眼鏡屋さん

  【 12月９日・土曜日 】　昨日、アブデュラーさんの家に帰りついたのは６時少し過ぎ。早速台所を覗いてみると、奥さんのメラハットさんと次姉のミヤセさんがキョフテ（肉団子）をこしらえ、茄子の薄切りをさっと油通ししたものでそれを包み、上にトマト、ピーマン、さらにもう一枚トマトを一切れ載せて、オーブンのトレイに並べ、ソースをかける作業を進めているところでした。長姉のアイセルさんは、ピリンチ（米）の中の石、ごみ、などの異物をより分けて、ピラフを炊く準備です。私はイスタンブールから持ってきたクレープのようなユフカを使って、挽き肉を少し貰い、ワンタン・スープを作る予定で材料を揃えておきました。　７時少し前に準備が整うと、女性陣はすぐにトルコ・コーヒーやチャイを淹れて、小一時間あれやこれやと四方山話で過ごしたあと、アブデュラーさんが７時半過ぎ、今日は９時頃一度家に戻り、夕食を食べたらまた仕事に戻る、と連絡してきたので、台所はまたにわかに慌ただしくキョフテの料理・イスリム・ケバブをオーブンに入れ、ピラフを炊き、料理に取り掛かりました。ミヤセさんがオーブンレンジのガラス窓を時々覗いて焼き具合をコントロールし、奥さんのメラハットさんは付け合わせの豆の煮ものの仕上げにかかりました。ワンタンスープは説明だけしてくれれば、自分たちが作るからゆっくりお茶でも飲んでいらっしゃい、とミヤセさんがスープを引き受けてくれました。なにしろ、ミヤセさんは国立セルチュク大学家政学部の準教授、服飾から料理までお手の物です。長姉のアイセルさんは児童教育の専門家として、トルコ文部省からも功労賞をいただくほどの教育者なのです。　一昨年９月にお母さんが亡くなったあと、お父さんはすっかり気力が衰え、この夏、私がポストニシン様の長男ミタットさんの結婚式にコンヤに行って、そのとき泊めて貰ったころは嫁いだアブデュラーさんの二人の妹さんも、毎週交替で姉たちとお父さんの世話をしに来ていました。ところが秋口に一挙に弱って、この２か月余り、お父さん専門のバクジュ（看護人）を雇っているのだそうです。その、住み込みのバクジュは６１歳になるウズベキスタン人の女性で、お父さんの身の回りの世話をしているのですが、家族と分け隔てなく厚遇されて、アブデュラーさんの子供たちとも親しい様子です。　午後８時きっかりにミヤセさんがオーブンからイスリム・ケバブを取り出すと忽ち香ばしい肉の香りが家中に広がりました。チャーダッシュ家の食洗器は、日に何度も洗う皿小鉢、チャイやコーヒーのカップなど満タンで、ごうごう音を立てて稼働しています。盛り付けのために開かれた食洗器、ぎっしり詰め込まれているので、そこから注意深く必要な皿やスープ皿を取り出すのです。そして食事が済むとまた食洗器が満タンに・・・。休む暇もないよ、と食洗器がストライキを起こさないといいのですが。　奥さんが盛り付けてくれたので早速席についてご馳走になりました。ミヤセ・コックさんのワンタン・スープはやはりどことなくトルコのスープになっているような気がしますが、まあいいか。９時少し前、アブデュラーさんが帰宅しました。コンヤで英語を話せる数少ないタクシー業者であるアブデュラーさんは、シェビィ・アルースの期間中引っ張りだこ、夜と言わず昼と言わず、ほとんど休息することが出来ないほどなのだそうです。毎年来ているヨーロッパからのお客さんが遅い飛行機で到着するので迎えに行き、ホテルに送り込んで明日は早くから一日あちこちを回り、夜のセマーに送っていったら、その間にまた、家に食事に来る、と言っています。明日は私がミヤセさん達に日本風コロッケを伝授する約束になっているので、また明日の晩、コロッケで一緒に食事出来るのは嬉しいことでした。　食後あまりゆっくりも出来ず、また出かけて行かなくてはならないお父さんに会いに、下の階からアブデュラーさんの息子２人（ハリム君、オヌル君）と末娘のアルズちゃんも来て、嬉しそうにコーヒーやジュースを飲みながら話をしてゆきます。アブデュラーさんは家に戻ると、まずはお父さんの部屋に様子を見に行き、それからダイニングキッチンに来るのですが、昔ながらの長幼の序や家族愛に満ちた、大家族を守る大黒柱のようなアブデュラーさんは、時に厳しくても、慈愛に満ちた父親の鑑のような人で、それはとりもなおさずいまでこそ病床にいても、ババジャン（父親気質）に満ちたハリムさんが築き、アブデュラーさんが受け継いだ家庭の素晴らしさを見る思いがしました。　コンヤに来て早や4日目、日付が変わってから床に就いたにもかかわらず、やはり早く目覚めたので、ダイニングキッチンにまだ誰もいないうちに、イスタンブールの友人に頼まれた日本語翻訳原稿を取り出し、ノートに訳しながら手書きでメモして行きました。そのうちメラハットさんが起きて来て、チャイダンルック（二層式のやかん）を火にかけてくれました。アブデュラーさんは2時過ぎにいったん家に戻り、仮眠と軽い朝食をとって、６時前には家を出たのだそうです。外はまだ星が降るようだったことでしょう。　私も土曜日だし、今日開く予定のコンヤ女子会は２時の集合だったので、寝ていてもかまわなかったのですが、貧乏性と言うか、宿題など持ってきたので、やらずにいるとそれはそれで気が気でないのです。やがて１０時くらいになると奥さんもミヤセさんも起きてきたので、コロッケの作り方をメモして、簡単な絵と身振り手振りも入れて日本のコロッケの平たい楕円形を説明し、お姉さんたちは夕方私が戻るまでには揚げるだけにしておく、と言います。私も集合時刻の２時には早いものの、余裕をもって家を出て、ドルムシュで最初に７日の朝に降りた場所まで行き、とある眼鏡屋さんに寄ったのです。　７日の朝、パレードの出発点に行くときに降ろして貰った場所で、歩きだしたらすぐ、眼鏡屋さんがあったので眼鏡拭きの布を買うつもりで入ったのですが、愛用の眼鏡がもう何年もかけっぱなしで傷だらけなので、ガラスを入れ替えることが出来るかどうか、駄目元で聞いてみたのでした。するととても親切な眼鏡職人さんが、私の外したメガネのフレームとレンズを見て、一目で「これはいい品ですね。しかしレンズの方の傷は直らないでしょう。新たに眼鏡を作るには、トルコでは病院の検眼を受けてその診断書を提出しないと作れないことになっていますが、このフレームがまだしっかりしているので、レンズを取り換えるだけ、ということでお直ししましょう！」と引き受けてくれたのでした。　昨日の夕方までに出来る、とのことでしたが、今朝寄ってみたところ、レンズ取り寄せのカーゴがまだ届かないとのことで、夕方もう一度来ることになりました。チャイを出してくれたので、座ってチャイが冷めるまでの間に、仕立て屋のシェンギュルさんに電話してみると、チョルム県に嫁いだ妹の夫が、10日くらい前の朝、朝食を始めるとき、いすに座ったまま突然亡くなって、シェンギュルさんも急遽チョルムまで来て、初七日まで滞在したため、月曜の晩に帰宅することになる、と言うのでした。　聞けば心臓発作でまだ３９歳の若さなのだそうで、どれほど家族が悲しんだことでしょうか。「ご愁傷さま、妹さんの旦那さんが天国で眠ることが出来ますように」とお悔やみを言ったのでした。コンヤに来ているので会いたいと思ったのですが、この分では最後のイスタンブール出発の日に会うことになるかもしれません。　歩いてとろとろ行くうちに、後ろから同じ路線のドルムシュが来たのでそれに乗り、メヴラーナ博物館と並ぶセリミエ・ジャーミイの前で降ろして貰い、それからせっせと歩いて見覚えのある待ち合わせ場所にやっと着いたのでした。カンディル・レストランは２０１４年に出来て以来、もう何度も来ているので、オーナーとは顔なじみ、コンヤの最古参エスマさんが、シャルク・オダス（東部地方の様式の部屋）で待っていてくれました。　ほどなく皆さんが揃って、とは言え一時からすると日本女性も減って、エスマさん、恵さん、育子さんと私の４人だけ、それにもう一人、育子さんが３年前から住んでいた日本女性と偶然ショッピングセンターで知り合いとなり、その女性の話が出たらエスマさんが、「じゃあ、次回加瀬さんが見えるまでに、その方にも声をかけて、みんなで参加出来るようにしましょうよ。それに、もっともっと私たちも普段の交流を盛んにして、いろいろお付き合いしたいわ～。いつかまたうちにも来ていただいて、楽しくやりましょう」と言ってくれたのでした。　　今日、これが初めてのコンヤ・エトゥリ・エキメッキです。たまたま団体さんがたくさん来ていたので、カンディルは超混雑していましたが、個室を取っておいてくれたので楽しいひと時を過ごすことが出来ました。昼は３時半でお開きになったので、みんな揃って昨日のイスラーム文化センターに行ってみることになりました。かなり遠いですが、みんなで歩けば遠くない、とばかりぶらぶらと歩きながら到着、文化センターの内部を見学、皆さん本当に感嘆の声を上げ、素敵な会館が出来たのね、今度また来てみるわ、と評判は上々でした。、最後に広場の前で育子さんと別れた後、記念撮影をしなかったことを思い出しました。育子さんはお子さんたちが待っているので急ぎ足で立ち去った後なので、仕方なく３人で自撮りをしました。育子さんの写真は、2015年の9月に出会った時の写真を貼りました、ごめんね。　エスマさんが「もう一度会いたいので12日の昼、私が皆さんをご招待しますので是非来てくださいな、ボル・ロカンタスのエトゥリ・エクメッキも美味しいのよ～」と熱心に言ってくれるので、もう一度会う機会がありそうです。メヴラーナ広場の前のターヒルさんの店で土産にするコンヤ・シェケリを買っているうちに、ユジェルさんが到着、2人でまずは眼鏡屋さんに行き、店長のシナンさんと、職人のハヤッティさんとも話が弾み、私の眼鏡もきれいに新しいレンズがはめ込まれ、フレームも上等品とはいいながら、長年使っていたのでゆるんでしまったネジや鼻の上の支え具などもきっちり直してくれました。　きれいになった眼鏡は軽くて使いやすく、イスタンブールのエドで買った老眼鏡もスペアに出来るし、万事うまくいきました。それにお店では「あなたはメヴラーナを日本に紹介し、シェビィ・アルースに毎年来てくれるので、眼鏡の修理はレンズ代だけを頂きます」と店長さんも職人さんもニコニコして、え、それだけでいいの？、と言うくらいのお値段しか取ってくれなかったのです。　最終的にはありがたく好意に甘え、またコンヤに来た時は伺いますよ、と約束して店を後にし、ユジェルさんとそのあと近くのケーキ屋でチャイを飲み、彼には飛行機のチケット代を立て替えて貰っていたのでお返しし、今セルチュク大学の図書館で、間近に迫った修士論文の作成のために毎日勉強しているので、今回はあまり一緒にいられませんが、とてもいい日々を過ごしているというと、「加瀬さんはコンヤの皆さんの大事なお友達ですから」とユジェルさんも喜んでくれました。慌ただしいけれど心温まるひと時を過ごしたのち、彼はメラム行きのドルムシュを呼び止め、私を車に乗せるまで一緒にいてくれたのでした。さあ、チャーダッシュ家のコロッケはどうなったでしょう。　帰り道は土曜日でもあり勤め帰りの人が少ないので7時頃に乗ったドルムシュも空いていて、コンヤ市内の渋滞もほとんどなかったため、7時半にはもう家に着きました。ダイニングキッチンに声をかけてから奥の部屋に荷物を置き、帽子やジャケットを脱いで手を洗い、キッチンに入ると、「素晴らしいのが出来たのよ、加瀬ハヌム！」とミヤセさんの朗らかな声が出迎えてくれました。「私たちや子供たちは待ちきれなかったのでもうお先にいただいたけど、美味しいわねえ。あなたもすぐに食べるでしょ、盛るわよ！」「ええ、ありがとう。エルレリニゼ・サールック（作ってくれた人へのお礼の言葉＝あなた方のお手に健康を）！」すぐにメラハットさんも立ち上がり、大皿にエリシテ（トルコうどん）を盛り、そのあとミヤセさんに渡すと、大きなコロッケを２つ盛って長姉のアイセルさんが漬物を盛り付けて渡してくれました。希望すれば豆の煮ものなども添えてくれますが、昼が遅かったので、それだけで十分でした。　コロッケはトルコ料理の「イチリ・キョフテ」のような形をしていました。つまりちょっと紡錘形なのです。あれあれ、ほぼ丸くまとめたものを、両方の手のひらに挟んで軽く押しつぶし、平たくする工程を手ぶりで示したのだがなあ、と思いながら食べてみると、あれ、何か食感が違います。おおお、挽き肉がこってりで、ポテトの量が僅かなので、ぬめりがなくだいぶゴワッとしているのです。　私がちょうど食べ終わり、デザートのメロンが出て来たところに、アブデュラーさんが帰ってきました。「いや～、これはうまいね、イチリ・キョフテにちょっとポテトを加えるだけで、こんなにうまいキョフテになるとはね。８月にはシュウマイを教えて貰い、あの後も作ってくれたんですよ。妹たちも学んだし、コンヤに見えるたびに何か伝授して貰えれば、姉妹たちや家内もレパートリーが増えて大喜びですよ」とアブデュラーさんは上機嫌です。「あの、本当は日本のコロッケはもっとポテトが主で肉よりたくさん入っている柔らかいものなんですよ、アブデュラーさん。例えば１００ｇのコロッケでは、５０ｇがポテト、あと、肉と玉ねぎが２５ｇずつ、というぐあいに・・・」「ああ、そうなの。でも私はこれがいいなあ、肉が大好きだからねえ。その家の家族が好きなものを優先して入れればいいんじゃないの、量目にはこだわらずに」私は目から鱗が落ちるような思いでした。料理教室やコンクールでご馳走を作るわけではないのですから、これが究極のコロッケだ、と言うものを伝授しなければならない、という決まりもなし、また教わったものをベースに、習った人はいろいろ自分なりの工夫を加えてもいいのです。　可愛い子には旅をさせよ、と言うのは昔のことわざですが、私もこの歳になっても旅先で学ぶことがたくさんあります。伝えたかったコロッケと少々違うけど、アブデュラーさんはじめ家人がみんな美味しく食べてくれたなら、それはそれで多少なりと役に立ったのだと解釈した方がいいのだ、と思いました。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

  2017年12月09日

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  ４ヵ月ぶりにコンヤへ

  【１２月６日　水曜日】　直前まで行かれるかどうかがはっきりしない状況だったものの、一昨日の夜やっと何があっても行こうと決心して、夜になってからユジェルさんに頼んで飛行機のチケットを取って貰った。昨日は出発前に片づけておかなければならない２つ３つの用事に関してパソコンと首っ引き、あちらこちらに電話をかけているうちに夜が更けてしまった。留守中猫の面倒を見に来てくれるアフメットさんに泊まって貰う部屋を片付けて見苦しくない程度に掃除し、これが終わったのがもう明け方になる頃。　そのままNHKの朝のニュースを見て、そして入浴、洗髪を済ませた後、朝食を簡単に済ませ、洗濯物は台所への廊下に吊るしスーツケースの中を再点検し、最後にもう一度猫の砂箱を清掃して７匹にたっぷりと缶詰を与え、タクシーを予約しておいたのでいよいよ来て貰おうともう一度電話を入れると、今１台も車がないとジハンギル・タクシーはつれない返事をする。何のための予約だったのかと、運転手達のリーダー、アリ・シャーヒンカヤさんに電話してみると、自分の車はもう交代時刻よりやや早く雇いの運転手に渡してしまったので、彼に電話してどこにいるか聞いてくれるという。　アリさんからの連絡を待っていると、彼の運転手イブラヒムさんは客を送り届けて戻る途中だそうで、１５分以内に来てくれるというので待つことにしたが、ではその前にごみを捨てておこうとエレベーターの前に行くと、６階に止まったまま故障している様子だった。仕方なくまたごみを部屋に戻し、アフメットさんが明日の昼頃来るので彼に頼むとして、１０キロ余りの赤いスーツケースを左手で壁に手をつきながら、やっとのことで一段ずつらせん階段で降ろしたのだった。　１５分以内に来ると言っていたタクシーが実際には２０分以上かかってやっと来たので、アジア側のサビハ・ギョクチェン空港行きのシャトルバスを、３０分早く出るのに乗れるようにタクシーを頼んだのだが、ちょっと怪しくなった。そこに持ってきて、シャトルバスの乗り場がごく最近変わったらしく、運転手もエルマダーのタリマーネ地区のどこかだよ、としか知らないのだそうだ。タリマーネはタキシム広場とエルマダー交差点との間にあり、いくつものソカクが入り組んでいるところだ。　結局その中のどこにシャトルバス「ハヴァビュス」の乗り場があるのかわからず、またタキシム広場の前に戻ってきてしまったので、予定していたバスには完全に乗り遅れたし、イブラヒムさんはボスポラス海峡の橋が大混雑する時刻なので、次のバスでは完全に飛行機を逃すよ、と言う。仕方なく私はイブラヒムさんに続行してくれるように頼み、予定外の大出費になってしまうが、タクシーでサビハ・ギョクチェン空港に乗りつけることにしたのだった。　イブラヒムさんは混雑するオンベシ・テンムズ・シェヒットレル・ヴェ・ガージレル・キョプルス（７月１５日戦没者達・生還者達の橋＝旧名ボアズ・キョプルス）を避けて、少し遠回りすることになるが空いていると思われるファーティヒ・スルタン・メフメット大橋（通称第二大橋）を渡って空港に急いでくれた。おかげで５時少しすぎにはサビハ・ギョクチェン空港に到着、今度は搭乗まで２時間近く待つことになった。でも、2015年の暮れには、途中の大混雑で飛行機を逃した人が続出、私もラストコールでコンコースを必死に走った記憶があるので、やはり搭乗まで不安のない時刻に着くと後が楽だった。 　サビハ・ギョクチェン空港の207ブリッジから黄昏時のグラウンドを見る。 　搭乗口の待合室　夕方の飛行機は利用客も多く、広々とした動線を持つ機能的な空港です。　空港の搭乗待合室でアブデュラーさんに電話をかけると、8時15分着なのでそれに合わせてコンヤ空港に迎えに来てくれるとのこと、私はまたチャーダッシュ家に泊めて貰うことになった。コンヤ空港でタラップを降りるとき、外気は恐ろしく寒く、ボタンをかけずに出てきたため、下からの風にあおられてジャケットもマフラーも脱げて飛んで行きそうになった。朝の天気予報でコンヤは雪のマークが出ていたが、日中は雪とはならず雨が降っていたらしい。それにしても寒い一日だったようだ。　チャーダッシュ家では家族みんなが大歓迎してくれた。アブデュラーさんはこれでパイドス（仕事じまい）ではなく、夜中に到着する常連のお客があるとのことで、私を家に連れ帰るついでに夕飯を食べ、また出かけて行くのだそうだ。特にシェビィ・アルースの期間中は人の出入りが激しく、アブデュラーさんは英語が話せるので、外国からやってくる常連のお客さんも多く、カッパドキアやアンタルヤ、アランヤなどにも観光用車両として小旅行にも利用されているとのことだ。　私もこのところ寝不足気味の日が続き、夕べは特に徹夜に近い状態だったので、午前２時少し前、部屋に引き取らせて貰った。こうしてコンヤの第一夜が終わり、猫達はどうしているだろうかと寝る前にちょっと思っただけで、何も考えず眠りに落ちてしまった。　 

  2017年12月06日

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  今年もコンヤにやってきた！

  【１２月５日・月曜日】　午後３時半、チュクルジュマのガラタサライ・タクシーから車を呼び、タキシム広場の北にあるエルマダー交差点の、ハヴァビュス乗り場に駆け付けると、あと３分で出発すると言う、サビハ・ギョクチェン空港行きのバスに間に合った。２席空きがある、と言うところに乗り込むことが出来、私のすぐ後にもう１人乗ったので、バスは時刻表通り３時４５分には満席となって出発したのだった。　昨年の１０月、シワスに飛んだときは、同じサビハ・ギョクチェン空港行き、４時出発予定のバスが、空席が多いからと４時３０分に延発となり、途中の道路が大渋滞で、６時半にやっと空港に到着、多くの人が乗る予定の飛行機に乗り遅れ、私もシワス行きのラストコールの最後でやっと搭乗口に駆け付ける始末だった。　そこで用心して４時の出発にはどうしても間に合うように、と考えていたのだが、順調過ぎて全然道路の渋滞もなく、１時間後の４時４５分にはサビハ・ギョクチェン空港についてしまったのだった。私の飛行機は午後７時２０分発なので、２時間３５分も空港で待つことになった。おまけに搭乗は順調に終わったのに、離陸命令がいつまでも出なかったため、３０分遅れて出発、コンヤ到着も遅れてしまったのだった。 　サビハ・ギョクチェン空港の２０７番ブリッジで搭乗を待っています。 　乗ってきた飛行機。エルジンジャン号という愛称がついています。　コンヤで荷物を受け出し、ハヴァッシュという会社のシャトル・サービスでコンヤの中心地にあるアヌットと呼ばれているアタテュルクの銅像前が終点であり、出迎えに来てくれたユジェルさんと無事に出会うことが出来た。　いつも私はフィナーレの１７日か１６日のセマー儀式を見に来て、そのあと幾日か滞在してきたのだが、今年は、７日のシェビィ・アルースの開会式の日に、イスタンブールから招待されたメフテル軍楽隊が、セマーゼンや市民達の先頭に立って、メヴラーナ・ブルヴァルを練り歩くところを見たいと思っていたのが実現することになった。　ユジェルさんにチケットを買っておいて貰い、宿もメヴラーナ博物館に眼と鼻の先にある便利なホテルを予約して貰ったのである。バスを降りた後は彼がキャリーボックスを引いてくれた。「お腹空いていませんか、加瀬さん」　サビハ・ギョクチェン空港であまりにも長い待ち時間だったので、私は売店でパンを一つ買って食べたし、機内でケーキと飲み物を貰ったので空腹と言うほどではなかったが、温かいバーミヤ・チョルバス（オクラのスープ）が飲みたい、と言うと、彼は近くのスープ専門店に案内してくれた。　そこで２人とも別々なスープを注文したのだが、店員が間違えてエゾゲリン・チョルバスを持って来た。確かめもせずに手をつけたら間違ったものが来たことが分かった。でもそれもたいそう美味しかったので、そのままいただき、スープを頼むとパンがおまけについてくるので、それだけでも一食になるのだった。 　エゾゲリン・チョルバスはレンズマメのスープの一種。手が混んでいて美味しい。　これはユジェルさんがご馳走してくれたので有難くいただき、タクシーでホテルに行った。コンヤに行くようになって１３年以上も経つので、そのホテルの名前はかなり前から知っていたが泊まるのは初めてだった。　夜１１時過ぎまでロビーでユジェルさんと話をし、明日の６日は、私が朝１０時にメヴラーナ博物館内の廟にお参りに行き、そのあと１１時頃から、セマーの総帥であるポストニシン様、ファフリ・オズチャクルさんを訪問することになっている。　１２時を過ぎたらファフリさんのところを暇乞いして、コンヤに住む３人の日本女性と私が、コンヤ・エトゥリ・エクメッキでお昼に女子会を開く約束になっている。　女子会が４時か５時でお開きの後、ユジェルさんの日本語の生徒である若い医師夫妻と夕食を共にするため、今度はユジェルさんが私をホテルに迎えに来ると言うスケジュールなのだった。　１１時半頃、ユジェルさんが帰り、私は部屋に引き揚げた。朝の３時頃からずっと起きていたのでさすがに眠くなり、広いベッドに横たわると、あとあといろいろなことが胸に去来し、今度は寝付かれなくなった。しかし、今年も何とかシェビィ・アルースのコンヤに来られたことで、充分幸せな気分になれたのが嬉しい。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2016年12月05日

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  コンヤに行ってきます。

  【１２月５日・月曜日】　今年も１２月７日から１７日までコンヤ市では、「シェビィ・アルース」が始まります。今年はいつもと違って、コンヤ・トルコ神秘主義音楽楽団の団長で、メヴラーナを象徴するお役、ポストニシン様のファフリ・オズチャクルさんから、フィナーレでなく幕開けの７日の儀式にご招待して頂いたので、コンヤのメヴラーナ大通りを練り歩くメフテル軍楽隊と、メヴラーナ楽団のミュージシャンとセマーゼンの皆さんの行進を見ることが出来ます。　７日の初日の舞台を見せていただき、翌日の便でイスタンブールに戻ってきますが、しばらくの間、私自身がメール、ブログ、Facebookなどの閲覧・書き込みが出来なくなりますので、ご了承ください。（友達みんなに、早くスマホにしたら、と言われますが、去年の３月、友達の勧めで買った品が、安物買いの銭失いで全然使いものにならないバッタ物だったことがあり、嫌気がさして放り出し、そのままになってしまいました。）　昨年はコンヤ在住の日本女性との女子会で、エスマさん宅で集まり、餃子をみんなで作って晩餐会をしました。あいにくそのあとがもっと忙しくなって、ついにブログがアップデート出来ないまま、期限切れとなって楽しい様子をご紹介出来ませんでした。今度帰宅した後に、ちゃんとオンタイムで書けるかどうかも心配です。　毎日仕事など入ってこないのにやたらに忙しく暮らしているので、ブログも先月はキュタヒヤに着いたところで止まってしまっています。果たして遅れが取り戻せるのか、運を天に任せてコンヤに出発します。　昨年のフィナーレの日、昼間のプログラムで観賞したセマー　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2016年12月05日

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• ファーティヒさんの実家で楽しいひととき

  【４月１０日・日曜日】　テルマル温泉ホテルでの一夜が明け、昨夜恐ろしい勢いの驟雨に洗われた山裾の高原に爽やかな朝が来た。　つづく　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2016年04月10日

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• ファーティヒさんの結婚式

  【４月９日・土曜日】　朝８時、私はニリュフェル・ツーリズムのバスのオフィスに行ってサービスバスに乗り、まだ２週間前にサフランボルに行った時と同じアリベイキョイ・オトガルからボルへの度に出発したのだった。　ボルはアンカラに行く時に越える海抜１０００メートル弱のボル峠のそばの町である。ファーティヒさんはそこの出身なのである。　ボルは高原のさわやかな町で、昔から優秀な料理人を輩出していることで有名で、特にメンゲンという町には現在大きな料理学校があるそうだ。　つづく　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2016年04月09日

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  懐かしい３年半ぶりのサフランボル

  【３月２６日・土曜日】　昨日の朝、１０時３０分にアリベイキョイ・オトガルを出発したキャーミル・コチュの長距離バスに乗り、私はサフランボルへの旅に出た。　アンカラに通ずる国道の景色はもう、１９９５年から１０年間、毎月イズミットに通っていたことがあるので、その１０年のうちにも、その後の１０年余りでも、大変化を遂げたのをずっと見て来ていたが、ディルオヴァスを過ぎたあたりから、イズミット湾に巨大なつり橋が完成の日も間近となっているのが見えたのには大きな感動を覚えた。　長いボル・トンネルを抜けたあと、アンカラに行く道との分岐点で左折すると、バスは北に進路を変えて、サフランボルのあるカラビュク県に向かってひた走る。　やがて午後４時少し前、カラビュク市のオトガルに到着、サフランボルはあと少しである。６時間にも及ぶバスの旅は、それでも昔に比べて座席が横３列（左側１席、通路、右側２席）のコンフォート・スタイルだったので、１席のところにゆっくりと座れて快適だった。　カラビュクから、宿の主人エルハンさんに電話をすると、「すぐ行くよ！」と弾んだ声がした。サフランボルに着き、アンカラから来る日本語教師のミチコさんを待つうちに、彼女の乗ったバスもほどなく到着、私達は昨年暮れのコンヤでの出会い以来、丸３ヵ月ぶりに再び出会えたことを喜んだ。　このサフランボルは、ミチコさんがぜひ行きたかった場所の一つで、２０１４年のシワス県ディヴリーに続き、私達は二度目の旅行を楽しむことになったのである。　３月も下旬だと言うのに、サフランボルは恐ろしく寒かった。雪でも降るのだろうかというほどで、私は冬のコートを着て来てよかった、と思った。　いくらもしないうちにエルハンさんが現れ、車まで私の荷物を運び、山の中腹のバーラルにある懐かしい木造邸宅を改造した宿屋に連れて行ってくれた。 　変わらぬたたずまい。朝のラシットレル・バー・エヴィ 　車の音が聞こえたので待ちかねていたらしい夫人のウムランさんが、玄関の大扉を開けて顔を出した。３年前に伊久子さんと２人で訪れたサフランボル以来、私には当時鍼灸診療ツアーの手伝いほか、用事が山ほどあって、しかもほとんどがボランティアで身銭を切って動いていたため、自分のための旅行に使えるお金や暇が無くなって、大好きなサフランボルに来たくても来られない日々が続いていたのだった。　ウムランさんは私達が前回、2012年秋に出会った直後、がんの宣告を受けてしまい、幸い早期発見だったので抗がん剤治療を続けていた。よくなってきた矢先、昨年夫のエルハンさんまでが同じように体調不良をきたし、検査を受けて初期のがんであることが判明、半年ほど病院通いが続き、現在は小康を取り戻して月に一度抗がん治療を受けているとのことだった。　当初、私達以外に泊まり客はないはずだったのが、今日になって急に３組の家族から予約が入り、今晩、４室だけの旅館は満室となったのだそうだ。「由美子、あんたの足がウール（幸運）を運んで来てくれたわ」　ウムランさんは私を抱きしめながらそう言った。えええ、それはよかった。本当に去年から相次ぐテロ事件のとばっちりで、この静かな山奥の、世界遺産になっている観光地にすら、一番現金を落として行く外国人ツーリストが激減、木造邸宅を改造した独特の旅館、宿屋、ホテルにも、チャルシュと呼ばれる人気スポットの店々にも閑古鳥が鳴いている、というのだった。　私達がチャイを飲みながら歓談している間にも、エルハンさんはせっせと薪を大きなショミネ（暖炉）の脇に運び、やがて日が暮れると暖炉で盛大に火を焚いてくれた。　私はカメラは持っていたが、うかつなことに前夜バッテリーをチャージにかけたまま忘れ、その見事なキャンプファイヤーを想わせる紅蓮の炎を映すことが出来なかった。　ほかの泊まり客はまだ到着していなかったので、私達にはウムランさんが４人分のエリシテ・チョルバス（いわばうどん・スープ）を拵えて、吹きぬけ天井のサロンで、まるで家族の夕食のように、仲良くテーブルを囲んで熱々のご馳走を頂いたのだった。　ミチコさんは物静かで口数の少ない人なので、会話の大部分は私が喋っているのだが、不思議と互いにそばにいると安心出来ると言うのか、同じ価値観を持って生きているところが受け容れ合えるゆえんなのであろう。　やがて予約の二家族が到着し、夕飯を食べに出て行った。もう一組はイスタンブールからバスでこちらに向かっている途中で、遅くなるだろうとのこと。こちらは土曜の夜も泊まるのだそうだ。　私達も早めに部屋に引き上げ、ミチコさんの念願だった木造邸宅を改装した民宿に泊まることになった。空模様がよくないので、降るような星空は望むべくもないが、清潔な夜具にくるまれて、早いうちに焚いておいてくれたカロリーフェルのお陰で、余り寒さも感ずることなく、快適な眠りに落ちて行った。　朝は2人とも少しゆっくりめに起き、8時頃身支度を整え、階下に降りて行った。ウムランさんが朝食の支度をしてくれている。幸いに空は晴れていた。ゆっくりと朝食を取りつつ、この木造邸宅のたたずまいをも愛でながら、地元の農家から産直の野菜サラダや、地玉子でぷりぷりした茹で卵を味わった。 　ウムランさんはミチコさんにも十年来の友人のように接してくれた。 　この窓際にたっぷり置かれた観葉植物、夫妻が癌にならなければもっともっと茂っていたのに・・・ 　よく来てくれたわねえ、と夕べも同じことを繰り返していたウムランさん 　家の前の水車小屋の周囲には、西洋姫踊子草の花が一杯です 　 さて、エルハンさんに送られてチャルシュ（まち）の観光に　ミチコさんはこの家をすっかり気に入って、６月には日本に里帰りするが、秋口にアンカラに戻って来たらまたこの宿に遊びに来る気になっていた。２人であらかじめ相談したのだが、夫妻は私を招待客として呼んだので、宿泊代その他は一切要らないと言うけれど、こんなにツーリズムが不景気な時に、甘えさせて貰うだけではいけない、と２人分の正規の料金と少し色を添えて封筒に入れ、ウムランさんが押し返すのを無理に受け取って貰った。　さて、いよいよ観光である。私の足腰が以前のように達者ではないので、今日の観光は短い時間に効率よく回れるように、エルハンさんに頼んで貰い、地元の旅行会社でゴルフカーのような観光専用の車をチャーターした。1時間半で1台借り上げ料75リラのところをエルハンさんの客というので60リラにして貰うことが出来た。　ドライバーは、ヌルギュルさんと言う大学生のアルバイトさんで、縦横大きな健康そのもののお姉さんだった。私もこの車という選択はよかったと思った。気ばかり若くても、足や腰はちゃんと歳相応の反応をするからである。 　このクマの人形は湯たんぽになっています。左はガイド兼ドライバーのヌルギュルさん。 　こんな可愛い湯たんぽを持たせて貰い、早くも童心に返っています。 　深い渓谷です。谷底に細い渓流が見えます。 　なめし皮屋のジャーミイ、トルコ名はなんだっけ、むむ、忘れました。　この車にはピラカ（ナンバープレート）がないので、公道は走れないそうだ。そのため、フドゥルルックの丘と言う、一番の名所に上ることが出来ないのが惜しいところである。細いくねくねした道はガタゴトするが、安全運転を心掛ける、気立てのいいヌルギュルさんの運転は安心で、ミチコさんとお喋りしながらなかなか快適な道中を楽しむことが出来た。 　西洋姫踊子草の群生しているところ。ムスカリも見えます。 　地層の面白い形。スンドゥルマ（ひさし）みたいなところがあります。雨宿り用？ 　観光用の電気自動車、可愛らしいです。 　天然の湧水、ここは伏流水が地表に出てくるところ。 　元の郡庁の庁舎、いまは博物館・図書館になっています。 　最後にみんなでチャイを飲みました。 　皆でセルフィー、なんと楽しかったひとときでしょう。 　フドゥルルックの丘から見るのとは反対側からの景色です。　ちょっと途中雨に降られたりしたが、12時半までにはコースを回り終えて、私達が昼に行く予定をしているレストランの前で降ろして貰った。　昔から顔なじみの社長と奥さんの姿はなかったが、店は客がもう入っていて、さすがに土曜日の午後、チャルシュと呼ばれる昔ながらの商店街にも少しずつ人出が増えているようである。　ホウレン草や挽き肉を入れたビュクメという、料理が好きなので、毎回来るたびに同じものを食べる。コンヤに行くとコンヤ・エトゥリ・エクメッキと言うのを、飽きもせずに毎回食べるのと一緒である。 　ビュクメの美味しい店、カドゥオール・レストラン　食後少しチャルシュを回ってお土産を買った。自分の生涯の持ち物として、ウフック工房と言う木工所の、みごとな木箱の一番大きなものを買った。しかし、それは手に入れた途端、半月後に控えている、ロンドンに住む旧友ファーティヒさんとプナル嬢の結婚式のお祝いに、リボンに着ける現金と一緒に新郎新婦へのプレゼントにすることに決めたのだった。　エルハンさんに迎えに来て貰い、ミチコさんは2時半のバスでアンカラに戻ることになっていたのでオトガルに向かった。慌ただしい旅行ではあったが、ミチコさんも心から喜び、ウムランさんが私としんみり話をしたい、と言っていたのに、いきなり満室になってしまったため忙しく、それは次回のお楽しみにして、いい旅が出来たと思った。　私はウムランさんとしっかりと抱き合い、またエルハンさんに送られて、夕方５時のバスで出発し、６時間後にはアリベイキョイ・オトガルに、そしてサービスバスでタキシム広場に、そこからタクシーで自宅にと順調に帰り着いて、猫達も元気で待っていたし、本当に行ってよかった、逢いたい人がいるときには、とにかく行くべきだとしみじみ思った。　なお、私がバッテリーを装填し忘れて行ってしまったため、２６日の観光には私のメモリーチップをミチコさんのカメラに入れさせて貰い、撮影は私が担当、と言うことになりました。お陰でブログに写真も載せられます。ミチコさん、ありがとうございました。　そして私を呼んでくれたエルハンさんとウムランご夫妻にも心からお礼を申し上げます。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2016年03月26日

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• コンヤ滞在記　その６

  【１２月２０日・日曜日】　あとで写真を掲載します。　コンヤではポストニシン様、アヌ・ホテルのべギル会長、ヌレッティン先生、アブデュラーさん、そしてユジェルさん、「私の愛するコンヤの五つ星」と勝手に決めている皆さん方である。　ユジェルさんとは１７日にシェビィ・アルースの入場券を貰いに行って数分間出会ったが、今日は滞在の最後の日なので、ユジェルさんと会う約束になっていた。ミチコさんが１２時半発だったか、アンカラ行きの高速列車に乗るので、彼女を見送る前に早目に出迎えに来た日に休憩したカフェで出会うことになった。　１１時少し前に２人でアブデュラーさんの家のそばから市営バスに乗って、駅の近くの交差点のそばのバス停で降ろしてほしいとカプタン（運転士）に頼んだら、ちょうど２日前のカフェをちょっと通り越したところだった。　ほどなくユジェルさんも来て、３人でいろいろ話をし、１２時過ぎにミチコさんは駅もすぐそこだし、見送りはここでいいですからゆっくりお話しして、と私達を残して出て行った。　「加瀬さん、ちょっとお昼のお祈りに言って来てもいいですか。２０分くらいで戻ります」とユジェルさんもそのあと出て行き、私は彼が戻るまでまっていた。ふと外を見ると、交差点に先日は気がつかなかったが、「エルトゥールル・１８９０」の大看板があるのに気がついた。　ユジェルさんが戻って、何を話したかもう覚えていないがあれこれ話をして、最後にコンヤ・エトゥリ・エクメッキを食べてから帰りたい、と言うと、では、日曜日でもやっている「カンディル」に行きましょう、ということになった。　看板の前で写真を１枚撮り、ミニビュスで県庁前に来た。カンディルは、CD 製作などを手掛けている、ヒクメットさんがオーナーの食堂である。なかなか美味しいコンヤ・エトゥリ・エクメッキが食べられる。　私達が着いたのはもう午後２時を回っていたが、またまたユジェルさんが払ってくれたので有難くご馳走になった。私はそのあと、もう１人、今回まだ会えずにいるアヌ・ホテルの会長ベキルさんに電話してみると、今日はホテルに出て来ている、５時までに来られれば待っているよ。との話。　私はユジェルさんと一緒にベキルさんを訪問した。２００３年以来、まるまる１３年近い日々をサミミ（とても親しい間柄）として過ごしてきたベキルさんは、夏場は避暑地に行っていたりして会えないこともあるが、今日は１時間余り、ゆっくり話をすることが出来た。「これからどうする、家へ夕飯に来ないか？」と言ってくれたが、私ももう今夜の飛行機で出発する、と言うと残念そうに「じゃあ、せめてアブデュラーさんのうちまで私の車で送ってあげよう。ユジェル君はそのあと最寄りの駅に送ってあげるよ」と言って、ピカピカの日本車のドアを開けてくれた。　「車も人も日本人が一番だ。そうだろ、加瀬ハヌム」と言ってベキルさんは上機嫌である。だいぶアブデュラーさんの家に近づいてきた、と思う頃、「あっ、大変。鞄をベキルさんの部屋に置いてきちゃった」と私は叫んだ。　またホテルにとんぼ返り、往復３０分くらいロスしてしまった。１０月にシワスに行った時も、大事な青いフェルトの帽子を昼を食べた食堂に忘れて来て県庁を訪問している時に気が付き、県の職員さんが取りに行って来てくれたりしたこともあって、ちょっとこの頃要注意な私である。　ベキルさんとアブデュラーさんは、２００４年とか２００６年に私がアヌ・ホテルに長期滞在していた頃、ちょくちょく彼の車を呼ぶことから、もともとヌレッティン先生という共通の友達もいたのですぐに親しくなり、やはり非常に信頼の厚い運転手だということで、すぐそばのタクシープールに車が見当たらない時は、アブデュラーさんを呼ぶことも多いらしい。　ポストニシン様とアブデュラーさんも子供時代、同じ地区に家があって、その後私が２人を紹介したら「おおーっ、ファフリじゃないか」「いやあ、３０年振り以上だね、アポ（愛称）！」てなことになり、私の目の前でどちらも１８７～８センチはあろうという長身の大男が抱き合ったのを見て、まあ、私は縁結びの神様みたい、と思ったことがある。　いま、ファフリさんとアブデュラーさんの一家は、折々互いの家を訪問し合う仲で、９月１日にアブデュラーさんのお母さんが亡くなる少し前、ファフリさん一家はアブデュラーさんの一家を訪問し、昔話をして楽しく一夜を過ごしたそうだ。そのあと、お母さんが発病し、私は、ファフリさんからアブデュラーさんのお母さんの訃報を聞き、９月中旬、２週間後に弔問と墓参に訪れたのだった。　アヌ・ホテル会長のベキルさんが私を家人に渡すまでちゃんと見守ってくれたので、アブデュラーさんの奥さんが引き留めてせめてお茶でも、と言ったが、ベキルさんはいずれ伺いますよ、とユジェルさんと共に帰って行った。　アブデュラーさんのチャーダッシュ家で私は夕飯を頂き、夜もアブデュラーさんに送られてコンヤ空港に向かった。たくさんの人々に囲まれて、コンヤはトルコにおける第二の故郷と思える。コンヤのみなさん、ありがとう。　コンヤ空港で飛行機の到着がやや遅れたので、私はイスタンブールの猫だらけの家に思いを馳せた。結局一時間ほど遅くなって、しかもサビハ・ギョクチェン空港からなので、帰宅は夜中の１時半、とにかく真夜中であれ、猫どもは私の足音を聴きつけてしっかりと扉の内側に集まっていた。　美由紀さん、猫達、どうもありがとう。　　　　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2015年12月20日

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• コンヤ滞在記　その５

  【１２月１９日・土曜日】　あとで写真を掲載します。　いよいよシェビィ・アルースよりも楽しみにしていたコンヤ在住の日本人お三方と、コンヤに縁のあるミチコさんと私、５人の「手作り餃子・コンヤ女子会」の日が来た。　夕べは家族みんなが遅く寝たので、朝も遅めに朝食を頂き、午後一番にアブデュラーさんの車でメヴラーナ博物館の前まで送って貰ったミチコさんと私は、博物館の前にあるウチレル墓苑に、元日本文化センターの所長、故メフメット・アリさんの墓参りをした。　午後３時にエスマさんの家に近いクレシテと言うショッピングセンターの入り口で落ち合うことになっていたが、コンヤにしては珍しい交通渋滞があってみんなそれぞれ少し遅れ、３時半過ぎにやっとメンバーが揃った。　広々としたエスマさんの客間でチャイを頂いたり、恵さんのお土産のバクラバを頂いたり、エスマさんが日本のご両親や弟さんをネット通信で呼び出して思わぬご対面があったり、楽しいお喋りで過ごし、その間にエスマさんが餃子の皮用に小麦粉を練って寝かせておいた。　５時、いよいよ全員前掛けをかけて台所に集合した。まず白菜とキャベツを茹で、その間に玉ねぎ、青ねぎをきざむ、ニンニクとショウガをする、挽き肉を練って、餃子用とロール白菜用に分け、刻んだ野菜と混ぜ合わせ、玉子、ほんだし、塩、胡椒、コーンスターチなどと混ぜ合わせて、その間にエスマさんがハムル（小麦粉の練ったもの）を開いて、チャイダンルックの蓋で切りぬいた。　調理の模様。　みんなで包んでいる間に私はロール白菜を煮たり、あの大根で揉み漬けを作る。このほかにおかずに、イクコさんが春雨をたっぷり使って作った中華サラダを拵えて来てくれたので、テーブルの上はたいそう賑やかになった。　６時２０分過ぎ頃ロール白菜を煮始め、それが出来ると入れ替わりに餃子を焼き始めた。７時過ぎにすべて整ったので、楽しい餃子パーティが始まった。エスマさんのしかけておいてくれたピラフも炊き上がった。　餃子パーティの模様。　わいわい、がやがや、それは楽しい食事だった。餃子はたくさん作ったので、子供さん達を置いて来ている恵さんとイクコさんに持ち帰って貰うことになり、一旦テーブルの上を片付けて、エスマさんが用意してくれてあったおおきなフルーツ・ケーキがカットされた。　尽きることのない楽しい会話が続き、１０時少し前お開きになったので、私達はまた来年と言わず、集まろう、と約束し合って別れたのだった。ミチコさんと私はアブデュラーさんに電話してみたら、すぐ行くよ、今日は私も早じまいしたいのでちょうどよかった、とアブデュラーさんが迎えに来てくれた。　みなさん、餃子は白菜がなければキャベツだけでも大丈夫なので、またこんな風に作って食べてね。ジューシーな餃子が食べたいばかりに、試行錯誤を繰り返しつつ、ついに自分のレストランで安定供給出来るようになったのに、その人気レストランを乗っ取られてばかりいたために、手打ちラーメンとかせ餃子ととしお麺をいつでも食べられる気軽な店がなくてごめんなさい。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2015年12月19日

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• コンヤ滞在記　その４

  【１２月１８日・金曜日】　後で写真を掲載します。　二晩泊めていただいたものの、あまりメフタップさんの家でゆっくりすることがなかったので、彼女は何度も行くな、行くな、と引き留めてくれたのだが、あとでミチコさんが到着したら挨拶に来るから、と約束して私は荷物を全部まとめて二晩お世話になったメフタップさんの家をお暇したのだった。　すぐ脇のカバタシュ・タクシーでメヴラーナ広場の前のターヒルさんの店に行き、そこで荷物はアブデュラーさんの車に積んでおいて貰うよう頼んで、私はメヴラーナ博物館の入り口で１１時に会う約束をした友人ムアッラさんを待った。　彼女がやや遅れて出会えたのが１１時３０分、私達はメヴラーナ博物館内にあるメヴラーナ廟に詣で、午後からミチコさんがアンカラから来ると言うと、ムアッラさんも「知り合っておきたい」と一緒にコンヤ駅まで出迎えに行ってくれることになった。　メヴラーナ廟を出た後、私がコンヤの路線延長となったトラムワイに乗って見たいと言うと、彼女はすぐにカードを出してチケット代を払ってくれた。なかなか乗り心地がいいのだが、まだ新駅の入り口の改札は機能していいないらしく、電車に乗ってからカードを読み取り機にかざすのだそうだ。　アラエッディンの丘の裾にあるザッフェルという駅が終点なので。そこで降り、コンヤ駅は近いと言うので歩くことにした。　私の感覚では近いと言えば歩いて５分かせいぜい１０分。しかし、行けども行けども駅には着かない。歩き疲れて途中の大きな交差点の一角に洒落たカフェがあるのを見つけて、私は休憩したいと言った。　実は家を出る前に、洗面所で髪を洗い、熱いお湯で身体も拭いたのがよくなかったのか、ヘアドライヤーを借りることもなく、帽子を被っているとはいえ、洗い髪のまま寒風の中を歩いたために風邪を引いたらしい。　それに足も冷え切ってしまい背中がぞくぞくし始めたので、あと５分で駅に着くよ、と言われてももう歩けなくなってしまったのだった。カフェで休んでいる間に、ヌレッティン先生から電話が来て、会わせたい来客がいるので、アタテュルク博物館に来られないか、と言う。　いまミチコさんを出迎えに駅に来ているので帰り道に寄りましょう、と約束した。　午後２時１５分に予定通りアンカラ高速列車がコンヤに到着、ムアッラさんと駅にいたら、ターヒルさんのタクシーが客を下ろしたところに出会った。　ちょうどミチコさんもバス乗り場のあたりで見つけたので、ちょうどいい具合、ターヒルさんの車でザッフェルのアタテュルク博物館に向かった。　ヌ先生が、かつてコンヤの隣県カラマン博物館の総館長だったころ、カラマン市にメヴラーナの母と兄の墓所があるので、当時コンヤ在住だったアキコさんと一緒に先生を訪問したことがあった。　ヌ先生が私に会わせたいという人は、その日、私達に自分の事業所で昼食をご馳走してくれた人で、私財をなげうち、数年前にすでに試験的に建設したリハビリセンターが好調で、ゆくゆくは学校や職場も設け、一大養護リハビリ村の開設を目指して、関係各方面に交渉中だとのこと。施設の敷地としてはすでにカラマン県から山のふもとに広大な用地の提供を受け、ドイツのさる財団から資金の何分の１かに相当する巨額の寄付を受け、目下残りの資金集めに、親トルコの国々へ働きかけをしている、とのことだった。　その男性はメフメットさんと言い、既に出来上がっている計画書を見た限りでは、完全無欠のビジョンを考えていて、村内での水やお湯なども、すべて循環システムだそうだ。　会った限りでは誠実そうな人に見えるし、調子のいいところは全くないので、よくペテン師が使う福祉関係の事業を起こす、などと手段ではないことが明白だが、この１１月に連れて行って貰った「ターティル・キョイ（休暇村）」の巨大施設にも劣らない大きなプロジェクトであることは確かだった。「ついては、日本から資金の提供をお願い出来る機関、企業などにお口添えをお願いしたいのですが、加瀬ハヌム」　見たからに真面目そうなメフメットさんにはしかし、残念な言葉を返すしかなかった。「せっかくのご計画、お手伝いしたいのは山々ですが、私はいま全く何の力もない立場です。残念ですが・・・」　メフメットさんはそれでも日本とのつながりが私１人しかいないと言うことを強調するのだが、経済的に自分の頭のハエも負えない自分が、こんな大プロジェクトを進めつつある人に、はいはいとどうして言えよう。「加瀬ハヌム、いつかあなたは私達のプロジェクトのために動いて下さることを期待して、今日のところはこれで失礼します。この計画書の写しは、ヌレッティン先生にお預かり願っているので、あとでもう一度ご覧ください。あなたがいつか私に手を差し伸べて下さるように、神様がお手伝いくださることを祈っております」　うそ～。そんなことが私に出来るわけもないので、私もそこでお暇することにした。何しろアタテュルク博物館は、アタテュルクの残した大事な遺品などを傷めないよう、暖房はないわ、みんなオーバーコートを着たり、毛糸の帽子をすっぽり被って執務しているシベリアみたいなところである。　長時間いるのも苦痛だし、今晩ミチコさんと私は、ヌレッティン先生の奥さんが夕飯の支度をしてくれているので夜７時半頃そちらに伺うことになっているので、その間にメフタップさんの家に行って、挨拶をして来よう、と言うことになったが、昼を食べていないので余計寒かった。　　ムアッラさんがお勧めの市営のレストランに行くと、ラーメン、と言うのがある。８．５リラ（１８日のレートで３５４円）なのでどんなものが出て来るか、一つ頼んでみた。　出て来たのは、スパゲティの皿のくぼみに乾麺が載っていて、そのくぼみに日ぬるいお湯がかかっており、青海苔らしきものが皿の周囲に散らかしてあるのだった。　うっへー、知らないで料理出してんじゃないでしょうね。私は店のボーイ長に言って、コックを連れて来て貰い、材料を見せてほしいと言った。すると、それは韓国製のカップ麺をカップの外に出して皿に盛り、お湯をかけて持って来ただけのことだと分かった。　コックに聞くと、「え、やり方間違っていますか」とびっくりしている。私が説明して今後はこのカップに入れたまま、熱湯を入れて客の前で再び蓋をし、同封の粉や調味料を入れてかき混ぜ、３分から５分待ってから食べるように、と客に説明しましょうね、と教えたのだった。　　かくてまずいのを我慢してそれを食べ、不満のしるしに半分くらい残して、と思ったがとにかくお腹が空いていたので全部食べてしまった。　メフタップさんの家ではミチコさんを大歓迎だったが、夕食を食べて行きなさいと言うのをやっと断ってタクシーでヌレッティン先生のお宅に行った。結局食事が始まったのは８時半頃だったので、さあ、居間に戻ってチャイでも、と言うところに、時刻は９時半になろうとしている頃、ポストニシン様から電話がかかってきた。「由美子ハヌム、ご機嫌いかがですか。家族みんながぜひお目にかかりたいと申しますので、今晩どうしておられるのかご都合を伺いたいと存じまして。もしお越しいただけるようなら息子達を車で差し向けます」ヌレッティン先生に言うと、「おお、ファフリさんからのお誘いでは仕方ない。お行きなさい。今度はわが家に泊まるつもりで来なさいよ、加瀬ハヌム」そう言って快く出してくれた。２０分後に長男のミタット君と、いとこのフィクレット君が来るまで迎えに来てくれて、ファフリさんの娘さんの家にお邪魔した。コンヤに来るときは訪ねる家が多いので、常に土産物は持ち歩いているのでちょうどよかった。ただし、ブルサ絹のスカーフはファフリさんの母堂と奥さんとナズミエさんの分しかなかったが、チョコレートをまぶしたロクムはコンヤでは珍しいので喜ばれた。ファフリさんの娘、ナズミエさんの家には、そのときですら２０人以上の来客がいて、それは賑やかだった。まだあとあと人が来る様子だった。私はそこにいたほとんどの人と顔なじみだったが、ナズミエさんの夫メルトさんのお母さんは初顔合わせだった。皆さん、私がほとんど全員の名前を覚えていることで喜んでくれた。１１時半過ぎ、さすがにアブデュラーさんの家に行かないと悪いので、また息子さん達に送って貰い、１２時過ぎにシンデレラ叔母さん２人が家に着くと、まだこちらの家でもみんな目をギンギンにして起きていた。１０分くらい後にアブデュラーさんが戻って夕食、ミチコさんと私もとうに眠気が覚めてしまっていたので、チャイでお相伴したのだった。　　　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2015年12月18日

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• コンヤ滞在記　その３

  【１２月１７日・木曜日】　写真を後刻追加します。　今日１７日はメヴラーナ追悼祭のフィナーレ、つまりシェビィ・アルースとメヴラーナ自身が名付けた命日当日である。　セマーの儀式で、シェイフ（道場長）、あるいはメヴラーナを象徴する存在であるポストニシン様（ポスト=毛皮、ポストニシン＝ポストに座る人）は、現在コンヤ・トルコ神秘主義音楽楽団の団長を務めるファフリ・オズチャクル氏が任命されているが、団長としての職務が多忙を極めているので、昨年秋ごろ文化観光省は、団長が留守の時に補佐するもう１人のポストニシン役を任命した。　それがアフメット・サミー・クチュック氏で、彼のセマーゼンとして、見るからに無我の境地にある熱の入った旋回ぶりは、各種のポスターやDVDに取り上げられているのでつとに有名だった。　今日の午後のセマーでは、ファフリさんが公務で外せない用向きがあるので、ポストニシン役はサミーさんが勤めると決まっていたらしく、私はそれを知らなかったのでいつものように、ファフリさんに午後の舞台で伺います、と挨拶の電話を入れたところ、ファフリさんは夜のフィナーレの時にしか登場しないことが分かった。「由美子ハヌム、もしお望みでしたら夜の部に私に割り当てられている席がありますので、そちらにお取りしますよ」とファフリさんが言ってくれたが、そこでまた幾人かの手を煩わせることになるのも申し訳ないと思い、私はそれを辞退して（やせ我慢ですが）、予定通り昼間のプログラムに行くことにしたのだった。　シェビィ・アルースにはるばるやって来てファフリさんの舞台姿を見られないのは残念だが、夕方、友人のエスマさんに会う約束をしていたので、夜、メフタップさんの家に帰ったらテレビ観賞すればいい、と思っていた。　金曜日にはメフタップさんの家の後ろ側の広い空間で、金曜市場が開かれる。彼女のお母さんはその市場の様子を、ベランダをすっかりガラスで囲った小部屋から、日がな一日楽しみに往来する人々を見ているのだそうだ。　ふと見ると、日本の大根らしいのがあったので、私は家を出るときそのうちの１本を買って、今日、街で会う約束をしたエスマさんに預かって貰おうと思い、長い大根を抱えてタクシーに乗り、ユジェルさんから招待券を貰って、会場のメヴラーナ文化センターに向かったのだった。大根を持ってセマーに来る人なんて私だけだな、おそらく。　昼間のプログラムには満席と言うほどではないが９割５分の入り、という感じである。私がコンヤに通うようになってからも１０年以上経っているのだが、その頃ですら、フィナーレのセマーは満員で会場が狭すぎる、と言われていたのである。　昨（２０１４）年、コンヤ市に１万人のキャパシティを持つと言う、総合スポーツ・センターが建設され、１４年のシェビィ・アルースでは初めて１７日のフィナーレをそこで実施したとのことである。そのとき私は、父の３回忌で日本におり参加出来なかったが、会場が広すぎて、セマーの神秘的な雰囲気が出なかったらしい。　新しいポストニシン様のサミーさんは、まだ４０代後半だと言うのに、濃いあご鬚もほとんど白くなっており風格十分。私もかなり前から知り合いなのだが、見たところ、７歳年上のファフリさんより年長に感じられる。　荘厳な雰囲気の中でフィナーレの一つ前のセマーの儀式が終わったのが午後４時少し前だった。エスマさんの用事も４時半には終わるとの連絡があったので、５時近くまでターヒルさんの店で待たせて貰い、待つ間に、イスタンブールに持ち帰るお土産のコンヤ飴をそこで買った。　そのうちにエスマさんが、技芸学校を出た、と言うので、９月以来３ヵ月ぶりの再会を喜び合い、近くの「ボル」というロカンタ（食堂）で、大好物のコンヤ・エトゥリ・エクメッキを食べた。　これはエスマさんがご馳走してくれたのでその後、私が食後のチャイを、とメヴラーナ広場に向かい合ったターヒルさんの店の隣にあるカフェに誘った。エスマさんは「あら、この店素敵ですね。私初めて知りましたよ。お友達と会うのにいいですねえ」とエスマさんは喜んでくれた。　私達は１９日に予定している「手作り餃子で女子会」の打ち合わせをした。私はコンヤでは手に入らないかもしれない白菜をイスタンブールから持って行き、おととい出会ったイクコさんの家の冷蔵庫に預かって貰っていた。　エスマさんは今度の女子会には、家を提供してくれた上、挽き肉や玉ねぎ、キャベツ、にんにく、しょうが、鰹節出汁などを用意してくれることになり、お礼を言うと、「こちらこそ、加瀬さんのお陰で皆さんが集まって下さるし、餃子の作り方などを教えていただけるのですから有難いです」と優しく答えてくれた。カフェで過ごしているとき、私は彼女に忘れないうちに大根を預かって貰った。　明日、１８日にはアンカラから日本語の先生ミチコさんがみんなに会いに来てくれる。ミチコさんと私は日曜日までの２泊をアヌ・ホテルに取るつもりでいたら、満室だと言う。ほかのホテルでもいいのだが、アブデュラーさんやお姉さん達が「どうしてホテルなんかへ行くの、ミチコさんも一緒に家で泊まればいいじゃないの」と言う。　一方、メフタップさんの家でも「なあに？　ミチコが来ると言うのにどうしてうちで泊まらないの？　泊まりなさい、泊まりなさい、うちで！」と言われるのだった。　あさって、女子会に集まるメンバーは、エスマさんのお宅に、メヴラーナ大学の事務員を退職し、いまは自宅で翻訳の仕事に精を出していると言う恵さん、小学生の坊やを育てる傍ら、トルコ語教室にも通っているイクコさん、そしてアンカラから古巣に戻ってくるミチコさん、そして私の５人、みんなが楽しみにしていてくれるのだ。　あれやこれやと話題豊富で、エスマさんとはすっかり話がはずみ、とうとう７時を過ぎてしまったので、慌てて帰り支度し、いよいよシェビィ・アルースのフィナーレが始まるので、まっすぐメフタップさんの家に戻った。　ところが私がしばらくぶりの訪問だったので、メフタップさんが一緒に見ようと私の脇に腰掛けて、シェビィ・アルースの夜にふさわしく、それはそれは賑やかに・・・と言っても、画面に映る誰彼となく、たとえば大統領であろうと首相であろうと野党第一党の党首であろうと、わけへだてなく痛烈に批判しながら、キンキンとした声で喋りまくるので、かなり疲れてしまった。　聞いていないと相槌を求められた時返事に困るし、とうてい私のつたないトルコ語で応酬しきれず、かといって頭はセマーの儀式のことで一杯だし、本当に困った。　　私の敬愛するポストニシン様ファフリさんのことだけは批判することはなかったが、メフタップさんがガゼテジ（ジャーナリスト）だったら、いまごろとっくにシリヴリの個室（独房）にいるかもしれない、と思ったりして、舌鋒鋭いこの女性がジャーナリズムに躍り出なくてよかった・・・とメフタップさんのために胸を撫でおろした。　かくてアップに映ったポストニシン様を、しみじみともうっとりとも眺めることさえかなわず、ほとんど見逃してしまった状態だった。　いやはや、来年のシェビィ・アルースには、開幕の時、メフテル軍楽隊と一緒に来て、シェビィ・アルースの日にはイスタンブールにいて、自宅で猫に囲まれてしんみりとテレビ観賞しようと固く決意したのだった。　　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2015年12月17日

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  コンヤ滞在記　その２

  【１２月１６日・水曜日】　遅く寝たにもかかわらず、目覚めたのが朝５時半。アブデュラーさん一家の４階建ての大きな家はまだ寝静まっているが、ちょうど階下でドアの閉まる音がして、奥さんのメラハットさんがアブデュラーさんの出勤を見送るらしく、かすかに車の音が聞こえた。　メヴラーナの追悼祭シェビィ・アルースの期間中はことに海外からの来訪者が多いので、コンヤで数少ない英語の出来るタクシー・ドライバー、アブデュラーさんには、古い馴染み客もたくさんいて引っ張り凧なのだった。　早いときには国際線の一番機に間に合うよう３時起きして、客を送り迎えし、そのまま夜中の１時過ぎまで働くことが多いのだそうだ。タクシー・ドラウ（タクシー・プール）に戻ってくると少しでも車の中で眠り、睡眠不足解消に努めているとか。　９月にお母さんが亡くなったチャーダッシュ家のお父さんは８５歳だが、６０年も連れ添った愛妻を失って急に老け込んでしまい、４人の娘達と嫁のメラハットさんが交互に面倒を見ている。姉２人、妹２人の真ん中にアブデュラーさんがいて５人きょうだいのチャーダッシュ家は、嫁に出た妹２人も同じ町内に住んでいるとのことで、お父さんの世話に交互に実家に泊まり込みで手伝いに来ているのだった。　女性達が長女のアイセルさん（児童教育問題専門家）、次女のミヤセさん（コンヤのセルチュク大学家政科准教授）、アブデュラー夫人メラーハットさん、嫁いでいる三女サニエさんと同じく四女アイシェギュルさん、みんなたいそう仲が良く、日本ではもうきっと見られなくなった大家族で普通の家より広いダイニング・キッチンが狭いほど。 　チャーダッシュ家の朝食。４つ星ホテルくらい品数豊富。 　ここに盛り付けただけでももう十分お腹が膨れるのですが、もっと、もっと、といろいろ出してくれるのです。 　お父さんと末娘アイシェギュルさん 　左アブデュラー夫人メラハットさん、右、次女ミヤセさん。 　長女アイセルさん。児童教育一筋の先生です。 　次女ミヤセさん。セルチュク大学の家政科准教授、服飾専門家　 もう一人アブデュラーさんのすぐの妹サニエさんは週末の当番　１回に作る料理の品数と量は半端ではなく、まるでちょっとしたロカンタの厨房のようである。お姉さん２人は特に情の深い感じで、年取ったお父さんにはもちろん大事に接し、弟のアブデュラーさん、２人の大学生の甥っ子達と、高校生の姪っ子をたいそう可愛がっており、もちろん嫁いだサニエさんやアイシェギュルさんの子供達にも等しく愛情を注いでいるのが伺える。　この家での会話は文化的で、政治や経済、教育の話、世界の情報などなど幅広く、内容がやや難しいが、アタテュルクとメヴラーナを誇りとしており、私からも日本文化を吸収しようとしてくれるのだった。もし、私に外出する用事さえなければ、高度な教育者でもある姉妹を相手に、一日中ディスカッションと食事で過ごすことになりそうだ。 　アブデュラーさんの豪邸、石塀に隠れていますが４階建、長方形プラン、４階はテラスと破風のついたお洒落な部屋があります。各階バルコン付。 　こんな素敵な部屋で泊めて貰いました。１８，１９とまたお邪魔することに・・・　さて、本日も午後１時くらいに、アイシェギュルさんの夫、オウズさんが私を街中まで送って来てくれた。「すみません、オウズさん。あなたには何度も送り迎えして頂いて、何のお土産も持っていないのが恥ずかしいです」「何を言われますか、加瀬ハヌム。家内に素敵なお土産を頂いて私も喜んでいますよ。私もこの家族の一員ですから、あなたのお手伝いをして当然です、遠慮せずにいつでも必要な時に声をかけてください」　この夏、癌性の腫瘍手術をして休職しているのに、こうして送迎に来てくれた穏やかなオウズさんの優しい言葉にも感動した。　メヴラーナ広場に面した、メヴラーナ大通りには９月下旬から新しいトラムワイが開通している。オウズさんを見送ったあと、メヴラーナ広場に面したバッカルの前から、私はイクコさんに電話してみた。　すると、坊や２人を学校に送り届けた後、時間を持て余して一人でぶらついていたところです、とイクコさんの弾んだ声が返って来た。しかもすぐそばのソカク（横丁）にいるとのことで、５分もしないうちに私のいる場所に来てくれた。　彼女の夫君アリさんのお店も近くだったので、そこにスーツケースを預かって貰い、入用のものだけ持って２人で仕立屋シェンギュルさんの店に向かった。アリさんの店のすぐ１軒おいて隣は、人間国宝メフメット・ギルギチさんのフェルト工房だった。　メフメット・ウスタは今、コンヤの店をラビア夫人に譲って、イスタンブールの店に専念しているので、私はラビアさんの顔を見にドアを開けて入って行った。　彼女もアルゼンチンからウスタのもとに弟子入りして２０年余り、メフメットさんと結婚して２人の間の息子も成長し、前夫人を母とする幾人もの兄達に交じって、彼はいま大学に行きながらフェルトづくりにも励んでいる。ラビアさんはメフメット・ウスタに替わって、コンヤの本店を守る堂々たるウスタ（親方・師匠）だった。　チャイをご馳走になり、また後日来られたら顔を出すからね、とそこを辞して、今度こそシェンギュルさんの店に向かった。もちろん、何も事前に告げずに来たので彼女の驚きよう、喜びようは尋常ではなかった。　彼女には足腰を冷えから守るユニクロの股引風なタイツを土産に持って来ていた。去年池袋で買ったのに、どこに仕舞いこんだか見当たらなかったのである。　足や膝の痛いシェンギュルさんは今も私の顔を見る度、ドクトル（鍼灸師）を呼んでほしい、と毎回言うのだが、それは無理だと断るしかなかった。　シェンギュルさんは近所の店からコンヤ・エトゥリ・エクメッキを取り寄せてくれたので、私達は２人で一人前にして貰い、有難く頂いた。　そのあと、私達は歩いてもほど遠からぬアヌ・ホテルにアイドゥン社長を訪ねて、１０月にシワス行きの日程を変更した時に買い直したチケットの料金を払いに行った。　社長も、お父さんであるベキル会長（コンヤの勝新）も留守だったので、電話で話をして借金だけは払い、チャイをご馳走になって外に出た。　イクコさんとぶらぶらしながら店に戻り、預かって貰った荷物を受け取り、彼女にイスタンブールから持って来た白菜を預けて、夕方タクシーで今日・明日お世話になるメフタップさんの家に向かった。　メフタップさんの母堂、ハスレットさんは９５歳、夫君のムスタファさんは８０歳、メフタップさん自身も６７～８歳くらいだが、みんな元気で、特にハスレットさんは身仕舞いもきちんとしていて、歩くのにしずしずとしか歩けないが、じぶんのことはすべて自分でこなし、昔の記憶もしっかりしていて、テレビをよく見ているので現代の話題にも通じていた。　私の選んで来たスカーフをとても気に入ってくれて、親子でもメフタップさんとはまるで違う性格だし、好みも違うので２人へのスカーフは対照的な色模様となった。　明日は１２月１７日、メヴラーナ追悼祭第７４２回シェビィ・アルースのフィナーレでもある。ユジェルさんにお願いしてあるので、朝のうちにインフォメーションに行って、チケットを受け取らなくてはならない。　晩はメフタップさんのお得意料理で、こちらでもまた腹いっぱいご馳走になり、夜寝る前にこっそりと太田胃散など飲んで、２００４年以来、長い付き合いのオズ家の寝室に横たわったのだった。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　

  2015年12月16日

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  コンヤ滞在記　その１

  【１２月１５日・火曜日】　いつもと全く同じように、何日も前から準備する時間はあったはずなのに、結局は出発間際にあたふたと荷物を詰め込み、頼んでおいたタクシーで、タキシム広場を１６時半出発のハヴァタシュ・シャトルバスに乗り継ぎ、アジア側の内陸にあるサビハ・ギョクチェン空港に向かった。飛行機は１９時１５分発、１８時４５分までにチェックイン出来れば乗れるはずだ。　サビハ・ギョクチェン空港は、ヨーロッパ側のアタテュルク空港からすると２倍以上の距離があり、タクシーを飛ばしたとすると、コンヤを往復する飛行機代よりもっと高くつくのが分かっているので、私のように自家用車も何もない人はシャトルバスだけが頼りである。 　ボスポラス大橋の手前に来たものの、渋滞はどこまで続くやら、遅々として進みません。　ところがいつも心配するように道路が大渋滞、なにしろ、距離的にはいくらでもないのに、ボスポラス海峡の橋を渡り終えるまでに既に１時間かかってしまった。道が混んでいなければ、とっくに空港に到着している時刻である。隣の座席の女性は、１８時半出発のアンカラ行きの飛行機を逃してしまった。　それでも彼女は最新のスマホを駆使して、飛行機会社とやり取りし、なんとか１時間後の次のアンカラ行きのチケットを確保した。私には到底出来ない芸当だ。彼女はイスタンブールのこの大渋滞が心底呪わしいわ、と言いながらも、私には「あなたはきっと間に合うわ、大丈夫よ」と、やはり不安を隠しきれない私を慰めてくれた。　飛行機を逃して憤懣やるかたない人、あるいは逃すかもしれないと心配顔の乗客４０人余りを乗せたバスは１８時３５分頃、やっと出発ロビーに到着したので、私もゲート閉鎖にあと１０分足らず、慌てて荷物を受け取ると、隣の女性と別れの挨拶をして、駆け足で出発ロビーに入り、セキュリティーを通るのももどかしく、走って走ってやっとアナドルジェットのカウンターに駆け付けたのだった。　チェックインしたはいいが「急いでゲートに行ってください」と言われ、人をかき分けつつ長いウイングを走り、汗びっしょりでようやくゲートに到達したものの、既にラスト・コールも本当に最後の呼び出しをされるところにやっと間に合ったのだった。　チェックイン済みでもまだウイングの端にあるコンヤ行きの３１４ゲートに到達していない人々のために最後にもう１台、小型のグランドバスが迎えに来て、私のほか１２～３人の旅客が、ほうほうの態でそのバスに乗ることになった。　でもまあ、何とか定時にコンヤ行きに乗れることになったので胸をなでおろし、グランドサービス・バスの中で、迎えに来てくれるアブデュラーさんに電話を入れた。「アブデュラーさん、いまグランドサービスのバスで、飛行機に向かっています。ロタル（遅延）もない様子です。定時に飛び立つので、コンヤ到着は２０時３０分くらいです」と告げた。すると、「それはよかった。私も到着より少し前に空港に行っていますが、毎年１５日の夜に来るいつものお客さんがあるので、あなたのことは義弟のオウスと私の娘のアルズがお迎えして家にお連れしますから、私の姿が見えなくても心配しないでください」と彼が言った。　最後のグランドサービス・バスが、駐機場の一番端の方にいたアナドルジェット・コンヤ行きのそばに停まった。私達最後の乗客が飛行機に乗り終わると、ほどなくドアを閉めた飛行機はしずしずとバックして誘導路に出た。機内はほぼ満席のようである。 　深い霧に包まれているコンヤ空港。でも最新の霧・ガス対応のライトがあるので大丈夫。　やがてほぼ時間どおりコンヤ上空に到達した飛行機は、機長のアナウンスでも知らされた霧の深いコンヤ空港にゆっくり旋回しながら無事２０時３０分に着陸、私はアブデュラーさんの娘、高校生のアルズちゃんと、アブデュラーさんの義弟（妹の夫）、オウズさんに出迎えられて、メラム区の郊外にある大家族のチャーダッシュ家に迎え入れられたのだった。　私のために夕飯も用意してくれてあり、それを頂いてから私もお土産を披露して、今回はチョコレートやバクラバではなく、男性には全然お土産なしなのだが、まず女性陣５人がブルサ・シルクのスカーフやその他を、イスタンブール土産らしくてデザインがどれもお洒落～、と喜んでくれた。　私もアブデュラーさんの姉さん達から東欧土産を頂き、夜１時過ぎ、アブデュラーさんが仕事を終えて戻り夕食になった。そこでまたいろいろテーブルに並べてくれたので、コンヤの第一夜目はたらふくご馳走になりながら更けて行ったのだった。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　

  2015年12月15日

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  コンヤに行ってきます。

  【１２月１５日・火曜日】　いつものように１２月１７日のシェビィ・アルース（メヴラーナの命日）のためにコンヤにまいります。　２１日までインターネットが出来なくなるので、ブログ、Facebook、Twitterなどしばらくお休みさせて頂きます。よろしくお願いします。 　９月に行った時のコンヤ　いろいろ楽しいことが待っています。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　

  2015年12月15日

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  ファトマさんのお墓参り

  【１１月２１日・土曜日】　今日は雨でも降らない限りは、ファトマさんの墓参りに行く予定だったので、夕べ散らかっている部屋をそこそこに掃き清めたあと、空を見ると星がいっぱい出ているので安心し、１０時過ぎに床についた。　すると、今朝は３時過ぎに目が覚めてしまい、４時前にはもう起きて風呂を立てたり、髪を洗ったり、食事の支度もしてきちんと食べ、ブログも書いてアップしてから出かけたのだった。 　イスタンブール・大オトガルのターミナルで。イスタンブール・セヤハット社は２０年前、１日に数便の小さな小さなバス会社でした。チョルル市の発展と共にたいそう成長しました。　予定より１０分遅れて９時２５分に出発したイスタンブール・セヤハット社のバスに揺られて、１１時２０分頃チョルルに到着、ファトマさんをハラ（父の姉妹つまり父方の伯母・叔母）と呼んでいた甥のハールンさんが、今は私のこともハラと呼んでくれているが、いつも彼がバスの終点に迎えに来てくれるのだった。　車に乗るともう既に、きれいな花束が積まれていた。彼は言った。「由美子ハラム（ムがつくと私の叔母さんの意）、この花は私からあなたへのプレゼントなので、これをファトマ叔母さんのお墓に飾ってあげてはどう？」　ハールンさんは独り暮らしの私に余計な出費をさせまいと、いつもさりげなく帰りのバスのチケットを買ってくれたりする、心遣いの行き届いた青年だった。　まずは彼の実家に行き、母のベトゥリエさんの用意してくれた朝食（私には早昼）をご馳走になり、チャイを飲んでいると、ハールンさんの妻チーデムさんや、その母のナジフェさんが来てくれた。お父さんのメヴリュットさんは、最近鶏の飼育をして、オーガニック地卵の販売も始めたとのこと、朝早く湖のほとりの農場に出かけたと言う。　ハールン夫人のチーデムさんは今日、仕事上の研修で土曜出勤しているのだそうで、昼休みに抜け出し、私に会いに来てくれたのだった。 　ハールンさん。各種保険の代理店を経営しています。 　昔から料理上手で一族でも評判だったベトゥリエさん 　広々としたサロンで、チャイやコーヒーを飲みながら楽しくお喋りしました。女子会４人組、左からベトゥリエさん、私、ナジフェさん、チーデムさん。 　ハールン・チーデム夫妻と。息子のチュナル・イーイト君は中学の友人の家にお出かけ。　キッチンからサロンに移ると今度はチーデムさんがトルコ・コーヒーを淹れてくれた。このお母さん達と私もファトマさんの親戚一同の結婚式や葬式で、必ず顔を合わせているので長い馴染みだった。特に２００１年、ハールンさんの結婚式の３日後には、あのニューヨークの同時多発テロが起きたので忘れもしない。　そのうち、ハールンさんの姉のナーリンさんが小学生の坊や、ヤウス君を連れてやって来た。その色白の美少年とは、つい１週間ほど前に、私にFacebookの友達リクエストをしてきて友達になったばかりだった。　午後１時くらいまでみんなで歓談し、やがてチーデムさんは研修会場に戻り、母のナジフェさんも家に帰った。ナーリンさんが留守番をして、ベトゥリエさんと私とヤウス君がハールンさんの車で墓参りに行くことになった。　ハールンさんの用意してくれた花束をほぐして、ヤウス坊やと一緒に、ファトマさん一家の３つの墓にほぼ均等になるように捧げ、その間にベトゥリエさんがクルアン（コーラン）の一節を読み、墓土にハールンさんが水を撒いたあと、それぞれに祈って、松の木の下に眠るファトマさんと夫のアフメットさん、娘のイレムちゃんに別れを告げた。 　花を持ってくれたヤウス君。大きな目がお母さんやハールン・ダユ（母の兄弟＝叔父）に似ています。 　ファトマさんの墓土の上に献花します。ヤウス君もアフメットさんの墓に献花しています。 　「川」の字になって眠る親子。真ん中は１０歳で亡くなった娘イレムちゃん。真っ赤なガーベラは幼くして亡くなったイレムちゃんの魂に捧げました。 　ベトゥリエさんがコーランを読み、ハールンさんが土に水を撒いてみんなで祈りました。まん前に植え込みがないので、西日の当たるファトマさんの墓の字がはがれています。 　ハールンさんが近々、墓石の文字を自分で修整に来るそうです。最後に３人で記念撮影、ヤウス君とはっかり仲良くなりました。　墓地から戻ると、今度はハールンさんの妹のナーランさんが、娘のエキンちゃんを連れて会いに来てくれた。一族はほぼ両親の家の近くに住んでいるのである。今度はナーリン・ナーラン姉妹と記念撮影。 　長女ナーリンさんとヤウス君。ヤウス君の姉のギゼム嬢は高校生らしい。 　末っ子ナーランさんと一人娘のエキンちゃん。水泳選手をめざしているそうです。 　ハールンさんが２０年前と違っているのは、髪の毛とヒゲの色だけ。いま４３歳です。 　チョルルの街にはものすごい数のスールジュック（ホシムクドリ）が住みついていて、明け方と夕方に大挙して乱舞するのだそうだ。子供達とベランダに出て、その写真を撮ったり、チャイを飲んだりしているうちに、ベトゥリエさんが前夜から用意したという夕食を並べてくれた。 　夕食が早くも並べられました。４時半にはお暇しなくてはなりません 　おやおや、西の空にスールジュック（ホシムクドリ）の大群が現れました。 　もっと、空が真っ黒になるほどかたまって飛んでいる大集団もあるのです。 　何だかずっと何か食べてばかりいるようだ。お腹いっぱいご馳走になり、５時２０分前に名残惜しいが暇乞いをしてみんなと抱き合って別れを惜しみ、またハールンさんに送られ、帰途についたのだった。　４時過ぎに研修の終わったチーデムさんがバス発着所まで駆けつけてくれたので、最後にまた会うことができた。「由美子ハラ、ごめんなさい。今日は全然おもてなしが出来なくて」「とんでもない、こうやって駆けつけてくれただけでも感激よ」と私達は抱き合った。「由美子ハラ（叔母）、何か困ったことがあったときは遠慮なく、私達に言って来てほしいんだ。あなたにはコジャマ～ン・アクラバ（大家族の親戚）があるのだから、忘れちゃ駄目だよ。きっとだよ」と、別れ際にハールンさんが言うと、チーデムさんもうんうん、と頷いた。　そう言ってくれる人々があるからこそ、それを力に自助努力出来るのだ、としみじみ感じた。　バスが２０分遅れてやっと到着した。私はもうすっかり暗くなった窓の外を見ながら、今日一日の、みんなの優しい言葉や楽しい出来事を、順を追って思い出しながら、イスタンブールに向かうバスでチョルルを後にしたのだった。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　

  2015年11月21日

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  シワスに行ってきます。

  【１０月４日・日曜日】　去年、シワス県の文化観光局長カディル・ピュルリュ氏のお招きで、浅田ミチコさんと共に堪能させて頂いたシワス旅行、今年もディヴリーの新しい施設のオープニングに招待して頂いたので、本日張り切って行ってきます。　シワスまでの交通費は自分持ちなのですが、４泊５日の滞在費のすべてを持って頂ける、という願ってもない旅で、再びディヴリーの大モスク、ウル・ジャーミイやディヴリーの写真家、ユスフ・ギュルダルさんに会うことが出来るのもありがたいことです。　トルコのことですから、前もって詳しいスケジュールは知らされていないので、何と言う施設がオープンするのかも知らないまま行くのですが、少しはめかして出かけたいと思い、これから白髪を染めるところです。　昼には留守中猫の面倒を見てくれるビラージュ美由紀さんとエブルージュ美樹さんが、励ましに来てくれるので、一緒にご飯を食べてから出発です。　アジア側のサビハ・ギョクチェン空港には、道路の混雑で予定通りに進まないことが多いので、４時のバスに乗る必要があり、これが結構大変そうです。　８日の昼頃の便で帰ってきますが、去年、ディヴリーのモスクをもっとじっくり見たいので、近いうちにもう一度来なくては、と思っていたのが叶い、本当に嬉しいです。　また留守の間、パソコンを家に残して行くので、メール、ブログ、Facebookなどはすべてお休みさせて頂きます。それでは行ってまいります。よろしくお願いします。 　故郷ディヴリーを撮り続けるユスフさんと、ウル・ジャーミイの病院の前で（２０１４・１０月）　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2015年10月04日

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  一枚のスカーフ物語

  【９月２０日・日曜日】　飛行機の出発が３～４０分遅れたために夕べ遅くと言うのか、今朝早く、と言うのか、最後のハヴァタシュのシャトルバスに乗ったのが、１時半少し前だった。１時４０分に空港を出て、２時１５分頃タキシムの終点に着き、タクシーがなかなか拾えず、家に着いたのは３時過ぎだった。　今回のコンヤ旅行はアブデュラーさんとシェンギュルさんへの二つのお悔やみと、アブデュラーさんのお母さんの墓参り、元コンヤ日本文化センター所長のメフメット・アリさんの墓参り、その他ポストニシン様に相談されたとある案件の解決のためのミーティングがあった。　そして２年半に渡る付き合いの、カラタイ大学の日本語教師ミチコさんの転職に伴う引っ越しで、もうコンヤでは会えなくなるので、送別会も兼ねた女子会、その他、メヴラーナの子孫であるエシンさんやヌレッティン先生、アヌ・ホテルへの訪問、コンヤ随一のキリム問屋社長、アスムさん訪問など、幾つも用事を兼ねての旅だったのである。　その件についてはブログに後ほど書くことにして、まずは気に入っている１枚のスカーフについて話をしたいと思う。　コンヤに行く前の、１５日のこと。チュクルジュマのわが家の近くに住む大部屋女優のシュクランさんとすれ違ってちょっと立ち話になったとき、とても素敵な色のスカーフを肩に掛けているのを見た。「あら、シュクランさん、それとても素敵よ」と言うと、彼女はさらりとそれを肩からはずして「気に入ったならあげるわ」と、気前よく私にくれたのだった。　「いえいえ、いいのよ、貰っちゃあ悪いわ、せっかく愛用しているのに」「なんの、なんの。いつもお茶菓子だのチョコレートを貰うお礼だわよ」　ところが、貰ったのは嬉しいが、なんだかスカーフの縁かがりのミシンの縫い目がとても怪しく、ガタガタに曲がっているうえ、布そのものが紫や黄色っぽいのに白い糸を使い、およそぶざまに縫ってあった。　そのままではどうにも気になるので、肩にかけて両端を縫い合わせ、ボレロの袖口のようにしてコンヤに行くとき羽織って行った。　コンヤ到着２日目に、黒海沿岸の郷里の洪水で、親類の人々を失った仕立て屋のシェンギュルさんにお悔やみに行った時に、そのスカーフを見せたら、「あらら～、なんてチルキンな（みっともない）縫い方、マダム・カセ、すぐ直してあげるから、１～２時間預けて行って。」というので、首に当たるところを直線裁ちではなく、襟ぐりのようにカーブをつけて縫い直して貰うことにした。　曲がった縫い目や布地の色など考えずに有り合わせの糸で縫ったらしいそのスカーフの縁かがりなどの古い糸を、ブチブチ音を立てて引き抜き、折り目もきれいになるよう、アイロンをかけてから縫ってあげる、というのだった。 　縁かがりのいい加減な縫い方が気になってたまらないシェンギュルさん。 　プロの手さばきで見る見る古い糸が引き抜かれて行きます。　２時間後、スカーフを受け取りに行ったら何ときれいに出来上がっていたことか、びっくりしてしまった。「そうよね、これがプロの仕事よね」と言いながら、私も羽織って見ると思わずため息が出たくらい、見違えるようにきれいになっていたのである。　シェンギュルさんは私がいくら言っても代金は取ってくれず、「いいの、いいの。お悔やみに来てくれたことが本当に嬉しいわ」と言うのだった。そして彼女は、仕事場の片隅で何度もミチコさんや、一緒に立ち寄った女子会の育子さんに写真を撮って貰っている私を、実に満足げに見ているのだった。　このスカーフを見たらもしかするとシュクランさん、返して、って言うかも知れないわね、と私達は冗談を言い合った。 　大満足の私を見て嬉しそうなシェンギュルさん。ミシンを踏んで女の子３人を大学に行かせた頑張りや。まだ４０歳を超えたばかりのトルコ版肝っ玉母さん。 　このイキンジ・エル（中古）のスカーフが幸せをもたらしたかのよう。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2015年09月20日

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  コンヤにて　その３

  【９月１９日・土曜日】　早くもコンヤに来て３日目となり、今日の仕事はやはり朝一番にメヴラーナ博物館内のメヴラーナ廟に詣でること。ミチコさんの支度してくれた朝食をいただいて、夕べ疲れてよく寝たこともあり、また元気が戻って来た。　アブデュラーさんに電話してみると、これから出勤するので迎えに来てくれるという。もう旅行鞄も積み込み、彼の車に預けておいて、まずはメヴラーナ博物館の前で降ろして貰った。　いつものように今は亡きファトマさんのスカーフを被って、帽子はトート・バッグに仕舞い込み、ミチコさんもずっとついていてくれるので、爽やかな空気の中２人で中に入った。館内は去年から入場無料になった上、写真もフラッシュをたかなければ撮影してもいいことになっていた。 　庭の方から見た博物館。緑の塔は「クッベ・ハドゥラー」とアラビア語で呼ばれています。 　ミチコさんと、自撮りしてみました。まぶしくてたまりません。 手前の柩がメヴラーナ、向こう側には息子のスルタン・ヴェレドが眠っています。 　メヴラーナ達の柩の真上がクッベ・ハドゥラーです。　何よりもよかった、と思えたのは、濃いオレンジ色の変な照明が施されていたメヴラーナの柩の上が、すっきりと青みを帯びた自然に近い色で照らされるようになったことで、周囲の壁に施された装飾の色彩がよく見えるようになっていた。　博物館は午後になると混雑するので、まだ空いているうちに見て歩くことが出来た。以前ほどコテコテと展示物を隙間もなく並べ立てることもなく、本館に向かいあう厨房に続く、以前は古参の修行者の個室だったところを改造した展示室に移されて整頓されたので、館内では希望者はお祈りすることも可能になった。　私達は博物館を出てから、現在はトラムワイ通りとなった大通りを横切って、２０１３年の大晦日に亡くなったコンヤ・日本文化センターの会長メフメット・アリさんの墓に詣でた。　ミチコさんも来たばかりのころ、生前のメフメット・アリさんにはお世話になったからと、氷雨の降る２０１４年の元旦にお葬式に出て、私に葬儀の模様を詳しく伝えてくれたのである。そして今日はメフメット・アリさんにお別れに来たのだった。　普通、死後１年くらいすると骨揚げするのと同じように、トルコでも遺骸を掘り出し、新しく墓石や囲いの石垣を築き、親族や友人が集い、お祈りしてからそこに収めるのが普通らしいが、メフメット・アリさんの墓はまだ葬られた時そのままだった。　墓参から戻って、メヴラーナの２２代目の子孫に当たるエシンさんと会う約束になっている１時半に行くと、秘書のドネさんがエシンさんはまだ見えていない、他によるので遅くなると言うので、近くの商店街でコンヤ・シェケリ（飴）などの買い物をして時間を潰していたら、ドネさんからエシンさんがオフィスに来たと連絡があった。　私達は急いで歩いて７～８分のエシンさんのオフィスに向かった。　ところが、アポなしで偶然エシンさんの到着した時に私達より一足早く訪ねて来た４～５人のグループがいて、そちらが先に招じ入れられた。同じ談話室に一緒に呼ばれたのだが、そちらとの話が延々と長引きそうな気配で、前日からアポを取っておいた意味が全然ないと思った。トルコだなあ、もう。　エシンさんの話の腰を折らないようにずっと待ってはいたのだが、私は今日のうちにほかにもまだ訪ねる人、会う人もいるため、しびれを切らしてついに声をかけ、私達と会話しているわけではないので中座させて貰うことにしたのだった。　私は我慢が悪いわけではないのだが、エシンさんの見えたのが、アポイントの時刻より１時間以上も過ぎていたし、もう１軒、毎回訪ねるところがあり、夕方はユジェルさんや恵さんと一緒に５時を過ぎたら早目に夕食を取り、今晩７時からのセマーの儀式を見て、夜の飛行機でイスタンブールに飛ぶという詰まったスケジュールだから、適当なところで中座するしかなかったのである。　第一、最後だからと３日間私にずっと付き合ってくれているミチコさんにも、申し訳ない。失礼のないように言葉を選んでエシンさんとはシェビィ・アルースで会うことを約束し、談話室を出た。ドネさんが残念がったが、今回はクスメット（運）がなかった、と言うしかなかった。　時刻は３時を回っていた。３時頃に行く、と約束したキリム問屋カラバンのアスム社長のところに顔を出し、コンヤに行くたび私を気にかけてくれるアスムさんのところで、商売仲間の人々と談笑してひとときを過ごし、４時過ぎにまたミチコさんと一緒にユジェルさんの職場、ツーリスト・インフォメーション（観光案内所）に行った。　恵さんも今日は仕事だったが早目に大学を出ることが出来たので、と４時半頃顔を出してくれた。終業時間間際に旅行中の日本人女性が訪ねて来たので、オフィスを出たのが５時半くらいになり、遠くに行くと間に合わないし、メヴラーナ博物館の塀の外にあるメヴレヴィー・ソフラスという名のレストランで慌ただしく３０分くらいで食べなければならなかったが、恵さんが参加してくれたのでそれも大して苦にはならなかった。　食後、私が買い物をしたターヒルさんの店に預けておいた品物を取りに行き、そこで息子さんが待っている恵さんとは別れ、アブデュラーさんにまた電話してメヴラーナ文化センターまで連れて行って貰った。　今週は会館内のセマー・サロンの床を張り替える工事があり、文化センターの前庭にある屋外セマー・シアターで行われると言う。幸い穏やかな天候だったので、暮れなずむ空の下、いつもとは雰囲気の違う舞台を見ることが出来たのだった。　ポストニシン様に一番近いブロックの最前列に陣取って始まるのを待つこと数分、ミュージシャンやセマーゼンが厳かな雰囲気の中、静かに入場してきた。館内のサロンで見るのとはまた違う趣があり、とても印象に残るセマーだった。 　セマーの屋外演舞場。左右対称になっており、正面にミュージシャンの演奏席があります。 　セマーの儀式、ポストニシンはこの式典の最高責任者、メヴラーナを象徴する存在です。　１時間ちょっとで静かに儀式は終わり、私達は客待ちしていたタクシーを拾い、メヴラーナ広場の方に戻った。私の荷物はずっとアブデュラーさんの車の中だし、メヴラーナ広場のまん前にあるターヒルさんのコンヤ飴や雑貨の店の前にはお茶を飲めるようにテーブルと椅子が置かれていたので、そこに行った。　ほどなくアブデュラーさんが戻って来てしばらく歓談したのち、私も早目に空港に連れて行って貰うことにした。名残惜しいが、ミチコさんには３日間ずっと付き合って貰ったのでお疲れだろうし、ユジェルさんも明日は日曜だが３日後に、コンヤ国際神秘主義音楽フェスティバルが始まるので、準備で出なくてはならないらしい。　アブデュラーさんにはコンヤに到着した日以来、ずっとお金を受け取らずに動いて貰っているので、これなら損をさせないで済むかな、という程度のお礼を置いてきた。　コンヤ空港で３０分遅れて出発した帰りの便は、多分着陸の時にも一度旋回したのかさらに遅れて、１２時１５分に着く予定が午前１時くらいになった。　赤いスーツケースを受け出してもう、最後のタキシム行きシャトルバスが出てしまっただろうな、と思いながら空港ビルの外に出ると、Havataşの大きな車体が見えた。　さらに私を嬉しくさせたのは、Havataşが開業した時、まだ誰もその存在を知らない時に、客が一人も乗って来ないので、ぼんやりと不安な顔でバスの前で立っていたお兄ちゃんに、幾日か前に新しくスタートしたタキシム広場行きだと聞いてためしに乗って見ることにした、あの時の青年、アブデュルアフマンさんとまた出会ったことである。　Facebookでも友達になっている。しかし滅多に彼のページに行ったことがないので、結婚したところまでは知っていたが、もう２年以上会っていなかったのに、彼がいたのである。 　アブデュルアフマンさんの家にももうじきこうのとりが赤ちゃんを運んでくれます。　３ヵ月後に生まれる赤ちゃんを待っているのだそうだ。それはいいね。私はスーツケースの中からコンヤ飴を一袋（４００ｇ）取り出して、彼にプレゼントした。彼も喜んで、今度Facebookのメッセンジャーで話をしよう、と言った。　家に着いたのは３時過ぎなのでそのまま起きて朝６時１５分のNHKのど自慢を見てから寝たのだった。　　　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2015年09月19日

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  コンヤにて　その２

  【９月１８日・金曜日】　ミチコ先生の家ではもう既に２～３回泊めて貰っているので、彼女も１人暮らしだから何の気兼ねもなく寄らせて貰っている。彼女が、日本語教師として経験も長く、外国では３ヵ国目の滞在となるトルコで、自律・自尊のポリシーを貫こうと奮闘しているところが好きなのである。　今朝ミチコさんが昨日私の貰った大きなタンドゥル・エクメイをフライパンで温め、紅茶を淹れて朝食の支度をしてくれた。その間にシャワーを使わせて貰い、１０時過ぎ頃家を出た。　通りがかりのタクシーを拾い、最初は今回のコンヤ行きのチケットを手配して貰ったアヌ・ホテルの２代目社長アイドゥンさんを訪ねて、挨拶と支払いを済ませた。　シワスに招待されて出かける日もはっきりしていたので、その往復切符もついでに買った。アジア側のサビハ・ギョクチェン空港から、プロモーション中の格安切符が手に入ったので、日本円で７０００円程度で往復出来ることになった。　ベキル会長は、娘達の家族とアンタルヤの別荘にいるらしい。あいにく今回は会えないようだった。小一時間アイドゥンさんのそばにいたが、やがて１２時になる頃、暇乞いして近くの仕立屋シェンギュルさんの店に行った。　彼女の故郷、黒海沿岸のアルトヴィン県のホッパという町が８月の終わりごろ、大雨の影響で大洪水に襲われ、十数人の行方が分からなくなった。そのうちの幾人かがシェンギュルさんの親戚の人々だったのである。　しかも、その幾日か前に、父親の顔を見に帰郷したシェンギュルさんと３人の娘がバスでオトガルを離れた１時間後に起きた事件だとのこと。ホッパの大洪水のニュースを見た私が、シェンギュルさんに郷里の事件のお見舞いを言うために電話をしたら、彼女達は正にコンヤに帰り着いたところで、親戚の人々が犠牲になったことを知ったのだと言う。　泣きながら話をする彼女に私は近いうちにきっとコンヤに行くからね、と約束したのだった。シェンギュルさんには、何も言わずに突然訪ねて行ったので、それはそれは驚いた様子で彼女は私の首っ玉にかじりつき、ブチュブチュブチュッと３～４回私の頬に唇を押し付け、小躍りして喜んでくれた。　お悔やみを言うとまた彼女は涙ぐんだが、私がアブデュラーさんのお母さんが亡くなった話をすると、びっくりしてすぐにアブデュラーさんに電話して、「今加瀬ハヌムから聞いて知ったの！」と興奮しながらお悔やみを述べた。　私の持って行ったゼリーをお茶菓子に広げ、チャイを取り寄せてくれたシェンギュルさんに、私はスカーフの首の回りを円形にカーブにして掛けやすいようにして貰おうと作業台の上に広げて見せた。すると、「なんてチルキンな（みっともない）縫い方をしてあるの、これはすぐに直してあげるわ、加瀬ハヌム」と忽ち鋏を出してドンドン糸を切って抜き始めた。　私とミチコさんはコンヤ女子会の友人達と２時に約束があったので、スカーフは彼女に預かって貰い、ほどなく店を出た。場所は前回と同じ、友人ヒクメットさんの店、カンディル・レストラン。エスマさんとイクコさんと私達２人。週末ではないので、大学の職員となった恵さんは参加出来ない。　トルコでは料理の一人前と言うのが日本人には考えられないほど多量なので、みんなで４人だが、私以外はみんなほっそりしていて、食欲旺盛、と言う人達でもないので、４人だが、３人前を４つに切って貰い、後でキュネフェ（甘い焼き菓子）を食べることにしましょう、と言うと全員賛成、たちまち注文が決まった。楽しみだった女子会。みんなで乾杯、と言ってもお水なんですが。 　美味しいものが並びました。今日の集まりを楽しみにしていた甲斐がありました～。 　エスマさんには大きな息子さんが２人。イクコさんには小さな息子さんが２人。どちらも素敵なお母さんです。コンヤに来れば会える楽しみがあります。 　後ろに午後の日が当たっていて暗いのですが、しわ・しみ・そばかすが目立たない。　久々だったので話も弾み、エスマさんはアンカラから外務省勤務の下の息子さんが、バイラムが近いので帰省してくるのが最大の楽しみのようである。　イクコさんはアデノイドの手術をしたこれも次男坊のサハ君の経過がよいので一安心です、と語った。そこまでは良かったが、２人ともミチコさんがコンヤを離れてしまうのを嘆いた。　数少ない日本人がまた減ってしまうので、これは何としてもユジェルさんに日本人のお嫁さんを探さないと駄目ですね、とエスマさんもイクコさんも本気な顔つきで話している。楽しい時間はすぐ過ぎてしまい、３時半過ぎにお開きとなった。　そのあと、エスマさんと別れて、ミチコさんとイクコさんの３人で、シェンギュルさんの店に行くと、スカーフはさっと洗ってアイロンも掛けられ、縁かがりも目立たない黒い糸ですっかり縫い直してくれてあり、見事に出来上がっていた。 　とても素敵になりました。さすが２０年以上も娘３人をミシンを踏んで育てた人です。　羽織って見たり、脱いでみたり、またひととき楽しく過ごし、６時頃、私はミチコさんとシェンギュルさんの３人で、ヌレッティン先生のお宅を訪問することになった。　坊や達が待っているイクコさんとは店のあるビルの前で別れ、アブデュラーさんのタクシーを呼んでヌレッティン先生の家に向かった。　先生のお宅には、孫が３人預けられているので、それはそれは賑やかで、バイラムで今週末から９日間休みになるため、長男夫婦も次男夫婦も明日から泊まりがけで家族全員が揃うのだそうだ。　ヌ先生は私のために明日の晩、家族全員が揃ったところで夕食に招待したいと言ってくれたのだが、明日の晩はセマーの儀式を見る予定なので、今日のうちにお邪魔したのである。　明日はせっかくいろいろ料理を計画していたのに残念、と奥さんのケズバンさんが言ってくれたが、短い３日間にたくさんやることがあるので仕方なかった。　ちょうどニュースで、シェンギュルさんの故郷ホッパの洪水事件を取り上げていたので、先生とシェンギュルさんとが大論争を繰り広げた。　２人とも今の政府のやり方に批判的で、ホッパやリゼ、トラブゾンの豊富な水を、コンヤなどの内陸部に運河を掘って供給する国土改良事業案を、今の政府が握りつぶし、お手軽にダムを造ってしまったことを非難している。　内陸では水不足、黒海沿岸では大雨が降るとダムから溢れた水でしばしば大洪水に襲われるのだ、という争点で雄弁な２人がとどまるところを知らず論争を展開したので、他の人が話をするチャンスがなくなった。　こりゃ駄目だ、メヴラーナとシェムス・テブリーズィみたいに、他の人のことが目に入らなくなったらしい、と思ったので、ちょっとした切れ目を待って私は緊急動議、つまり暇乞いしたのだった。　次男の娘で総領孫のファトマ・ニイメットちゃんは、さすがヌ先生の孫だけあって、学校でも抜群の成績なのだそうだ。私が来るのを楽しみにしていてくれたはずだが、今回はろくに話が出来なかったので、シェビィ・アルースで来た時にはもっとゆっくりして行くからね、と寂しそうな彼女を慰め、次回の約束をしたのだった。 　今年の２月に訪問した時の、ファトマ・ニイメットちゃん　帰りもアブデュラーさんに来て貰った。シェンギュルさんが私達を自宅に招いてくれたが、これからご飯の支度をするというのでまたの機会に、と辞退し、彼女の家の前で別れた。　ミチコさんの家の近くに適当なレストランでもあればそこで落としてください、とアブデュラーさんに頼むと、彼は「チャーダッシュ・レストランでいいでしょう。もう料理が出来ていますから、簡単ですよ」と答えた。「駄目ですよ、昨日もご馳走になったんですもの」と言うと彼は笑って、「もう予約を入れてありますから今から断るわけには行きませんよ。家のみんなが喜んでいますから、もう一度寄って顔を見せてやってください」と言う。　私はミチコさんと顔を見合わせたが、車がどんどん坂を上り始めたのでもう、アブデュラーさんのチャーダッシュ家が近くなったことに気づいた。　大邸宅の入り口を入ると家中にいた人達がお父さん以外はみんな玄関に並んで出迎えてくれたので、初めて来たミチコさんはびっくりしてしまった。　私はダイニング・キッチンでオクラのスープやナス料理やほうれん草のボレッキなど、ミチコさんと共にたっぷりご馳走になり、夜１０時半過ぎ、またアブデュラーさんに送られて、ミチコさんの家の前まで連れて来て貰ったのだった。チャーダッシュ・レストランの皆様、ご馳走様でした。　慌ただしい一日ではあったが、コンヤでは通いなれた親戚があるような気分で過ごせるのが嬉しい。ミチコさんの淹れてくれたお茶を飲みながら、喋っている自分が半分寝ていることに気がついたときは、１２時半過ぎだった。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2015年09月18日

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  コンヤにて　その１

  【９月１７日・木曜日】　１１時発のトルコ航空機でコンヤに到着したら、空の一角からものすごい轟音が聞こえて来て、トルコ空軍の誇るアクロバット飛行隊「テュルク・ユルドゥズラル　Turkish Stars　トルコの星達」の４機が突如として地平線から現れた。　ちょうど自分の降りた飛行機を撮影していたので、お姫様カメラにもかかわらず、何枚かキャッチ出来た。現れた次の瞬間にはとんでもないところまで飛んでしまうので、本当に一瞬の勝負だった。 　飛行機IĞDIR（ウードゥル）号から降りて写真を写し、また歩き出した時でした。 　突然、真っ赤な機体の「トルコの星達」４機が現れました。（左下の飛行機雲） 　たちまち、中天に躍り出たトルコの星達（一番上の雲の右下） 　上空でややこちらに機首を向けて近づいてきます。 　瞬く間に空港ビルを飛び越え消えて行くトルコの星達４機（ビルの左上に小さく赤い機体） ズームがついていないのでムーズムズする時があるけど、まあ、たまにはラッキーなことに、こういうのがちゃんと写っていたりするから私の腕前もすごい。　空港にはアブデュラーさんが出迎えてくれていた。２００４年２月頃からヌレッティン先生の紹介で十年余りの付き合いとなり、何度も自宅にも伺って家族全員と知り合いだった。９月２日に亡くなったというお母さんにもお世話になったので、今回のコンヤ来訪の一番大きな目的がお悔やみと墓参なのである。　海抜１，０００メートル以上の高地で、どこまでもまっ平らに続くその地形は、イスタンブールとは正反対だが、１２世紀１３世紀にはセルチュクル（ルーム・セルジュク）帝国の首都として栄えた。　この古都で２００５年に、聖人メヴラーナやその一族の廟所となっているメヴラーナ博物館のCDの日本語版訳と吹き込みを任された縁から、自分もよく知らなかった聖人の業績に触れ、日本ではほとんど知られていないメヴラーナについて研究したいと思ったのが、私とコンヤの深い縁の始まりだった。　コンヤのまっ平らな市街地を一望する郊外の高台の上に、今はアブデュラーさんが当主であるチャーダッシュ家の４階建ての豪壮な邸宅がある。トルコでは香典の習慣はないが、家族の悲しみを和らげる意味で、弔問には甘いものを持参するようなので、私もイスタンブールから用意して来ていた。　アブデュラーさんのお父さん、姉さん達、妹さん、奥さんと３人の子供達にお悔やみを言い、昼ご飯をご馳走になって、そのあとご近所の奥さん達とも一緒にチャイを頂き、３時過ぎにまたアブデュラーさんに送られて、市内で花を少し買って墓参りに行ったのだった。アブデュラーさんがブロックの不揃いな墓地の通路の、小さな段差にまで私の足元を気遣ってくれるのが嬉しかった。　墓参りのあと、アブデュラーさんはタンドル・エクメイ（掘った穴の中で焼いたパン）を作っている小さなフルン（パン屋）に連れて行ってくれた。家庭の主婦達が作るこのパンを食べ付けている人は、工場のオートメーションのパンなど目もくれないと言う。　パンが主食のトルコでは、どの町にもたくさんのパン屋があり、一日３回くらいパンを焼いて、常に焼き立てのパンを提供しているが、このタンドル・エクメイは、口に胃にずしりと食べ応えのあることで知られ、アナドル（アナトリア）の伝統的な手焼きのパンとして、いまもたくさんのファンに支えられているという話だった。 　この機械で大量の小麦粉を練ってパン生地（ハムル）を拵えます。 　タンドゥルと呼ばれる穴になったかまど。ここで一定の大きさにハムルを丸めて、かまどの内壁にぺたっと貼り付けパンを焼きます。 　あとあと焼けて行きます。かまど係は大忙し！ 　[一つ持っていきな～」とお土産に貰っちゃった。わ～い！　ちぎって食べたら、アブデュラーさんの言うとおり、ほっぺたが落ちそうでした。もぐもぐもぐ。 　フルン（パン屋）の外見。　５時少し前、アブデュラーさんにはユジェルさんのオフィスに送って貰った。そこにはしばらく前から浅田ミチコ先生も待っていてくれた。　いまコンヤではアラエッディンの丘からまっすぐにメヴラーナ博物館の前の広場でちょっと道がカーブし、そのあとはまたまっすぐにセマーの行われるメヴラーナ文化センターや、新しく出来た１万人収容のスポーツサロンなどの前を通り抜けて、カラタイ大学までトラムワイの線路が敷かれ試運転中だった。 　新しいトラムワイは、アラエッディン駅で旧トラムと乗り入れ、終点セルチュク大学まで繋がることになりました。便利～！空港まで行かんかい、どうせなら。とみんなが思っています。　来週、バイラムには開通するのだそうだ。バイラムが終わると、私も２年間コンヤで親しんだミチコ先生がイズミールに出来た新しい大学に転職するため、コンヤを去ることになる。イズミールも距離的にはコンヤよりちょっと遠いだけでそう変わらないのだが、やはり会いにくくなると思われるので、今晩と明日、宿をお願いしてたくさんお喋りをしよう、と約束してあった。　ユジェルさんの終業時間が終わり、ポストニシンのファフリさんに電話を入れると、１０分以内に車で迎えに行くので待っていてください、とのこと。ほどなくファフリさんが来て私達３人をまた自分のオフィスに連れて行ってくれた。　広いメヴラーナ文化センターの一角にある執務室のファフリさんは、「コンヤ・トルコ神秘主義音楽楽団本部」のミュドゥル（楽団本部長）であり、同時にメヴラーナの神聖な儀式セマーでは最高責任者であるポストニシン（道場長）を演ずる唯一人の人で、１９６１年生まれの５４歳、１８８センチの長身と言い、役目上、口髭・顎鬚を生やしてはいるがたいそうな美男子で、立ち居振る舞いから話し方からすべて上品そのもの。　問題は遠い姻戚関係にある人から持ち込まれた法律相談だそうで、その相談者一族の、日本に長らく住んだ、とある男性の死後の遺産相続問題に関することだった。日本語の書類が幾枚もあることから、相談者が顔の広いﾌｧﾌﾘさんに頼み、ファフリさんはユジェルさんと私に助力を求めたのである。　楽団本部長室で２月以来７ヵ月ぶりの挨拶をした後、早速本題に入り、３時間くらいの間に相談の当事者やその他あちらこちらに電話連絡を取りながら話を進めた甲斐があって、ひとまず解決の糸口に繋がるようにしたところで、時刻は９時になろうとしていた。　ファフリさんが３人を夕食に招待してくれた。途中自宅の前から夫人のミヤセさんをピックアップ、そこから程遠からぬ大きなレストランで、楽しく歓談しながらご馳走になった。　 右からファフリさん、ミヤセ夫人、ミチコ先生、私、ユジェルさん撮影。　食後、ファフリさん夫妻はまずユジェルさんを自宅の近くまで送り、次にミチコ先生の自宅前まで私達を送って来てくれた。私は二晩とも泊まらせて貰いたいと頼んであった。ミチコ先生とのコンヤでの最後の日々を出来るだけ長く一緒にいたいと思ったのである。　　　  

  2015年09月17日

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  カッパドキアに別れを告げて

  【２月２５日・水曜日】　３年半ぶりに訪れたカッパドキアで２泊目の夜が明け、幸いすっかり元気を回復した早苗さん２（イキ）も、普通に朝食を食べることが出来たので、着物の早苗さんと私もやっと安心し、朝１０時、スルバン・ホテルを後にして、メフメット・カプタンのチャーター車で空港に向かった。 　すっかり元気になった早苗さん２（イキ）。　楽しそうな朝食風景です。 　もう一晩、カッパドキアでゆっくりしたいところですが、また来るからいいわ。 　親子岩とも、三姉妹とも言われるカッパドキアのシンボル的なきのこ岩 早苗さん２（イキ）。後ろの岩と背比べできます。 　あんたが最初のお客さんだよ、なんか買ってくれ、という爺ちゃんにコロリ。女性が口あけの客になった日はよく売れるというジンクスで、大きなオニキスのさいころを買いましたよ。非常に気に入っています。 ずっしりと重く、天然石の模様もよく、マウスより少し遠くにおき、右腕が疲れた時に、手のひらを載せてちょっと一休みさせるのです。　広大な空港の敷地は、昨日アヴァノスのマクドナルドから眺めた、長大なクズルウルマック川のずっと下流の方角にあった。　トルコ最長の川、全長１，３５５ｋｍのクズルウルマック（赤い河）は、シワス県の山奥に端を発し、中央アナトリアを南下してカッパドキアのあたりから次第に向きを北に変え、紀元前にヒッタイト王国として栄えたハッティ、現在のチョルム県を通って黒海に向かい、港湾都市として知られるサムスンの西、バフラ岬から黒海に注いでいる。 　他に飛行機がいないので広々と見える空港。うしろがクズルウルマック。 　カッパドキア空港を飛び立ちました。悠久の大地が見えます。 　さようなら、カッパドキア。また来る日まで。　そのクズルウルマックを眼下に眺めつつ、ちょうど正午に飛び立ったほぼ満席のトルコ航空機は、まばゆい光の中を飛び８匹の猫達が待つイスタンブールに帰って来た。　やはり晴れた日の昼間の便だと、離着陸の際くっきりと地上の景色が見えるのが素晴らしい。 　日本行きは夜中、帰りは未明、国内線で昼間帰った時のみ撮影できる景色です。マルマラ海とボスポラス海峡と金角湾、サイの頭のようなイスタンブール世界遺産歴史地区の上空を飛んでいます。 　５日間の前半を岡崎さん夫婦に泊まって貰い、後半を少し家が遠くなった美由紀さんに通って貰い、猫の面倒は見て貰えたので安心だったが、旅をした後はやはり用事が滞っていたのを挽回するのに必死で、疲れがなお溜まるようなことにもなる。　私が初めてイスタンブールの娘を訪ねてトルコに来たのは、もう２３年も前の４９歳の時だった。そのとき、V子が自分の仕事が休めない日は、トルコ人の日本語ガイドさんを何日も雇ってくれた。そのガイドさんにあちこち案内して貰ったのだが、その女性ですら、６０歳だったが客の私の前で「疲れる、疲れる」を連発していた。　　なにはともあれ、３月には７２歳の誕生日を迎えることになるので、今後はもっと自分の体をいたわってやらなくては、としみじみ思った。　　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2015年02月24日

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  カッパドキアにて　スペシャル・ツアー

  【２月２４日・火曜日】　６時過ぎに目覚めるとのり子さんもすでに起きていて、シャワーの用意をしてくれた。２時間ちょっとしか寝ていないにしては爽やかに起きて、勢いよく出る熱いシャワーの湯で心ゆくまで身体を温めさせて貰った。　私が風呂場にいる間に夕べ遊んだ３匹の猫達は、私が掛け布団を折りたたんだソファーベッドの上にもうちゃっかりと座り込んでいた。私の身体に家の８匹の猫達の匂いでも染み込んでいるのか、クンクンとベッドを嗅ぎまわったりしている。 　魅惑の瞳、ただ１匹のメス猫イマンちゃん。まだ若いのでほっそりとスレンダーです。 　ふかふかの毛並み、なかなかの男前、遊んで貰いたくて仕方ないエフェジャン君 　エフェジャン君の双子の兄弟、アリジャン君。うちのオグリとそっくりで、テーブルの上の食べ物をすぐかっさらうし、細身のところも同じようです。　７時半頃には家を出てのり子さんの車でスルバン・ホテルまで送って貰い、今日の予定は車をチャーターしてのデー・ツアーなので、のり子さんの勤めるお店にも寄らせて頂きます、と約束し別れた。　早苗さん２（イキ）の体調は相変わらず良くなさそうで、車で回るのだからどこでも停まれるし、先に病院に連れて行くことが出来るよ、と言ったが、「とても出歩ける状態ではありませんから今日はずっと寝ています」と言うのだった。朝食にせめて温かいスープでも頼んだら、と勧めたがお湯だけでいいと何一つ食べなかった。　この具合の悪い人を置いて出かけるのも心配だが、間もなく迎えに来る車を断ったところで、行かなくてもドタキャンでは、チャーター料は全額払わなくてはならない。　早苗さん２（イキ）には、V子の電話も預けてあるし、何かあったら必ず電話してね、こちらも予定変更してなるべく近いところにいていつでも帰れるようにするし、具合が悪かったらすぐに病院に行くから必ず電話するようにね、としつこく言い残し、自分の体温計まで枕元に置いて出発したのだった。　ツアーにはトルコ語ガイドが付いている。最初に遠いカイマクル地下都市に行っておき、あとは近間のポイントを回るようにして、早苗さん２（イキ）に何かあったときのためにすぐに戻れる態勢にしておいた。　実を言うと、今日のツアーは、着物の早苗さんと早苗さん２（イキ）が、カッパドキアで会いたい人を訪問し、１人が友達と過ごす持ち時間１時間の間に、もう１人と私は近くの名所を見に行く、というもので、それは当日まで早苗さん２（イキ）には黙っていた。　特に早苗さん２（イキ）はかつてカッパドキアで１ヵ月滞在していたと言うので、会いたい人がたくさんいるだろうと、着物の早苗さんと相談して彼女のための再会ツアーにしたのだった。　しかし、行かれないのでは仕方ない。最初にホテルからもほど近い、やはりFacebook友達で、初めて会う陽子さんの会社に寄って、土産の納豆を届けに来たのだが、５分の筈がお茶を頂いて２０分も話に花が咲いてしまった。カプタンが時計を指差して急かすので、立ち上がった。　ここには陽子さんの同僚としてひとみさんという女性も働いており、いつかまたゆっくりとカッパドキアに来られるときに、もっといろいろお話ししましょう、と言って別れた。　カイマクル地下都市に着くまでの間、ガイドさんの詳しい話を私は着物の早苗さんのために通訳し、予備知識を仕入れて貰った。彼女も十数年前、ツアーでばたばたと回ったきりでも、今は少しトルコ語も分かるし、ガイドのオメル青年にゆっくり話して貰えばかなり詳しく分かるだろう。　カイマクルで私が運転手のメフメット・カプタンと待つ間に雨が降り出し、雪のあとの冷え込みでものすごく寒い天候が心配されたが、３０分ほどすると早苗さんは大満足、という顔立ちで「地下都市のこと、すごくよくわかりました！」とニコニコ戻ってきた。　まだ雪景色の中を戻る道すがら、オメルさんの説明が入るたび、私が通訳してカッパドキアの成り立ちやアナドルを制したいろいろな民族の歴史にまで話が及んだのだった。「すっごい贅沢なツアーです。地元のガイドさんとプロの通訳が私１人のために説明してくれているなんて。ありがとうございます」と着物の早苗さんは実際幸せそうだった。　いろいろな町を通り、そろそろ１１時になろうか、という時刻に、私達はのり子さんの会社の前を通りかかることになったので、社長のハールンさんへ挨拶に立ち寄った。　「HANEM」という名の大きな宝石店、その建物内には広いレストランや結婚式場、近々もう一つの１０００人規模のレストランが開店する、という、大きな観光グループ相手の総合店舗だった。　社長のハールンさんは４０代後半か５０をちょっと出たか、というくらいの、たいそうアクティヴな人で、のり子さんの話ではかねてから加瀬さんが来たら寄って貰え、と言ってくれていたのだそうだ。　観光バスが店の前の駐車場に何台も停まっており、私達も玄関口で車を降りたらほどなくそのハールンさん自身が２階から階段を駆け下りて来て私の手を握ってくれた。　すぐに社長室に通されのり子さんも呼ばれて、カプタンもガイドのオメルさんもみんなでお茶を頂いた。そのあと、ハールンさんは食堂に連れて行ってくれた。好きなだけ食べてください、何かご注文があれば作らせます、と太っ腹にも全員にオープン・ビュッフェの食事をご馳走してくれたのだった。　そのときはまだ大してお腹も空いていなかったので、着物の早苗さんも私も前菜ばっかり皿に取っていたら、のり子さんがスープのところに案内してくれて、自らよそってくれたのだった。 　のり子さん。この店ではいろいろな国の女性販売員がいるので、指導員的な立場かも。生き生きとして働いていて、それはそれは明るくてきれいな女性です。　ハールン社長は忙しいのにずっと私達に付き添ってお相伴もしてくれて、十年の知己のごとく気さくにいろいろと話しかけてくれた。 　ハールン社長とのり子さんが私達のテーブルでお相伴してくれています。 　沢山の種類の食べ物があり、どれも素晴らしく美味しい。あまりに前菜をたくさん取り過ぎて、それだけで満腹になってしまいました。　メフメット・カプタンとオメルさんも、近くのテーブルでメイン・ディッシュの中から豪華な肉の塊を食べていた。美味しそうだが前菜だけでお腹がいっぱいになり、すっかりご馳走になったあと、ハールン社長自ら施設の中を案内してくれた。 　結婚式場。ここはＬ字型になっているので向こう側にも大勢の席があります。 　豪華な宝石の展示室、いろいろな部屋があってものすごい数の宝石です。　ここだけは不景気知らず、世界中から集まって来る観光客のグループの大半が寄るのではないかと思うほどのにぎわいと、宝石展示室の豪華なこと。せいぜい、その辺の石コロを磨いた程度の指輪しかない私には縁のない、ダイヤモンド、ルビー、エメラルドで装飾されたトルコ石の数々、目の保養だけさせて貰って社長やのり子さんに心からお礼を言い、再会を誓って店を後にした。　カッパドキアの絶景ポイント、狩人の谷の休憩所に２００３年以来の友達、オスマンじいちゃんを訪ね、そのあと、ギョレメの町で着物の早苗さんの友達を訪ねて行ったが、あいにく日本に行って留守だった。残念！　仕方なく町はずれにある屋外博物館に行き、オメルさんが早苗さんを案内している間に、カプタンも心配しているので、ホテルでじっと寝ている筈の早苗さん２（イキ）に電話を入れてみた。　するとまもなく彼女が出たが、周りから賑やかな人声が入って来た。「あら、どうかしたの？」「あ、今、友達と会っているんです」「え、じゃあもう、外に出ても大丈夫になったの？　どこにいるの、私達はいまギョレメに居るからすぐ迎えに行くよ」と言うと、今はちょっと、というので１時間ほどほかの観光ポイントを回ってから、約束の時刻にギョレメのオトガルに行って待っていた。　遠くに早苗さん２（イキ）の姿が見えたが彼女は約束の時刻からさらに３０分ほど遅れて、ギョレメの人らしいおじさんに送られ、私達のバスにやってきた。送ってくれたおじさんに挨拶しようと、腰を浮かせてメルハバと声をかけたら、おじさんもにこにことメルハバ、と答えた。　すると唐突に早苗さん２（イキ）が私のことを「この人は私よりトルコ語がうまいのよ」と言ったので、おじさんは急に黙ってしまい、そのまま行ってしまった。　えっ？　なに、それ、挨拶しようとしたのにどうしちゃったのだろう？　腑に落ちないけど、まあ、いいか。早苗さん２（イキ）が歩き回れるほど元気になったのなら何よりだ。そのあと、もっと誰か訪ねたい人がいるのか聞いたら、彼女は遠慮がちにアヴァノスの川のほとりの友人を訪ねたい、と言う。　車は川を渡り記念撮影してから、彼女は友人の土産物店を訪ね、橋を渡って戻って行き、私は何だかマクドナルドのオニオン・リングが無性に食べたくなって店で休憩しようと提案し、着物の早苗さんと２階の窓辺から、ガチョウや雁、鴨達が無数に泳ぐ川の景色を見ながら、オニオンリングとチキンナゲットを一緒に食べた。 　クズルウルマック川のほとりで記念撮影。ここは私が娘のバイクの後ろに乗って、雪の次の日に凍えそうになりながら、回ってきた思い出があります。（1993年） 　マクドナルドの窓から見える景色。沢山の水鳥が集まっています。　とてもいい景色だし、オニオン・リングはここでも美味しく、とても満足だったが、どういうわけかもう何だか気が抜けてしまい、アヴァノスの観光は取りやめて、１時間後に川を渡り、早苗さん２（イキ）をピックアップしてホテルに帰ったのだった。 

  2015年02月24日

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  コンヤとお別れ、カッパドキアへ

  【２月２３日・月曜日】　コンヤに来たらこの人達に会わずにはいられない、という友人が他にもいる。メフタップさんと夫君のムスタファさんである。シェビィ・アルースの頃は、コンヤのどんなホテルも満室になってしまうので、よくメフタップさんのお宅に泊めて貰ったものだ。　メフタップさん夫妻はアンカラにも家があり、毎年１１月から４月いっぱいくらいはコンヤで暮らし、５月になるとアンカラに移動するのである。シェビィ・アルースの時期に何度もお世話になっているので、挨拶をせずにコンヤを離れたくないので、今朝はチェックアウトするや否やアブデュラーさんに来て貰い、まずはメフタップさんの家に向かった。　夫妻はことのほか喜んで私達を迎えてくれた。そうそうゆっくりしている時間もないのだが、メフタップさんはすでにお茶の支度をしており、玄関先でさようならを言う人ではないので、上がらせて貰った。何と、去年の夏の間に家の一部を大改造して、東のベランダに続く居間と、夫妻の寝室の壁をぶち抜いて、そこに厨房を移し、広々としたリヴィング・ダイニングにしてあった。　新しい夫妻の寝室はもとの広い厨房で、私がいつも泊めて貰っていた部屋も洋ダンスが作りつけられてすっかり改装されていた。 　チャイとポアチャ（朝食やおやつに食べる小さな柔らかいパン）を用意してくれていたメフタップさん 　新しい厨房とリヴィング・ダイニングで。 　大広間でみんな揃って記念撮影。着物の早苗さんは２度目の訪問です。　３年くらい前に大改装した西側の大広間で記念撮影し、次のところに行く都合上、３０分程度で暇乞いしたのだった。下まで見送りに降りる、というムスタファさんを押しとどめ、私達は「アンカラでも待っているからね～っ」とメフタップさんの賑やかな声に送られて車に戻ったのだった。　次には、ポストニシン様ファフリさんのオフィスを訪問した。もちろん、昨日のうちにアポイントは取ってある。おととい、セマーの儀式のあとはほかの来客もあり、慌ただしかった中を送って頂いたので、きちんと挨拶もしないまま、また当分コンヤには来られないだろうと思うと、再訪せずにはいられなかったのである。　お茶を頂きながら少し歓談していると、コンヤ神秘主義音楽楽団のセマー儀式の総コーディネーターであるユスフ・カイヤさんも来たのでそこでまた話が盛り上がり、３０分の予定が１時間近く居ることになってしまった。 　ファフリ・オズチャクル氏、５４歳。重鎮としての品格、相手思いの言動、そして心底から謙虚なお方で、誰から見ても比類なき、最高の紳士です。 　全員で記念撮影。ユスフ・カイヤさんはミュージシャンでネイ（葦笛）の第一人者です。 　ファフリさんと一緒に。去年の１０月末、セマーで会って以来です。 　穏やかなユスフさん。ファフリさんと同様、楽団を率いる大御所です。　ポストニシン様は、写真家でもある楽団の広報課長ラマザンさんを呼んで私達みんなと１人１人ツーショットに応じてくれた上、次に行くところまで誰か楽団の職員に送らせる、と言ってくれたが、仕事の用向きで来たわけでもなし、私の方もタクシーをチャーターしてあるので大丈夫、と有難くお断りし、名残惜しいが再会を約束して、とうとう楽団の頂点に立ったファフリさんのオフィスをお暇したのだった。　ユジェルさんが職場の昼休みを１時間早やめて、あのコンヤ・エトゥリ・エクメッキの美味しいババジャン食堂で待ってくれているのでかなり遅れる旨、電話して１２時近くなってようやく到着したのだった。　いつも美味しいババジャンのエトゥリ・エクメッキ、２人の早苗さんも生地が軽くてチョリチョリしてる、美味し～いと大満足。二人前を、３つに分けて貰ったので、無理なく食べられたのである。 　ババジャンの石窯を守るアムジャ（じいちゃん）はこの道５０年以上のウスタです。 　ユジェルさんは今日もお付き合いしてくれています。彼もこの上ない紳士です。 　これがババジャンの、脂っこくなく、生地が薄くてチョリチョリのコンヤ・エトゥリ・エクメッキ 　ババジャンのお店は、コンヤのエスキ・チャルシュ（昔からの商店街）に。 　そこは私が払うつもりでいたら、ユジェルさんが先回りして払ってくれたので、有難くご馳走になり、いよいよオトガルに向かうことになった。名残惜しいがユジェルさんと別れ、アブデュラーさんの車に乗り、１０分か１５分だけ、コンヤ随一のキリム問屋であるキャラヴァンの社長アスムさんのところに挨拶に立ち寄った。 　アスム社長。２００４年に知り合って以来、１０年以上過ぎました。「加瀬ハヌム、忙しいのに寄ってくれてありがとう。昔のように１時間でも２時間でも、ゆっくりソフベット歓談）出来た頃が懐かしいよ、今度はゆっくりと来てほしいな」　アスムさんは、私達が１杯のチャイもそこそこに出発するのを残念がった。　１３時２０分頃、オトガルに到着、アブデュラーさんが私の赤いキャリーケースをペロン（バスの発着レーン）に運び、手を振りながら去って行った。 　カイセリ行きのバスに乗って、ネヴシェヒールで降りるまで４時間程の旅です。 　アクサライに近づくとすっぽりと雪を被ったハッサン・ダーが見えてきます。　１３時３０分ぴったりにバスはバックを始め、コンヤのオトガルを離れて一路カッパドキアのあるネヴシェヒールに向かったのだった。地図で言えば北上することになるので、行くに従ってまだ雪がたくさん残っているのが見えた。やがて、ひときわ高いハッサン・ダー（山）が右手に見え始め、中間地点のアクサライに近づいたのが分かった。　アクサライの交差点に近いあるドライブインで２５分の休憩を取り、そのあと、近くのアクサライ・オトガルで乗客がかなり入れ替わり、再びバスはネヴシェヒールに向かって走り出した。 　バスの中では楽しく過ごしました。私は子供と同じで窓から景色を見ていれば幸せ。 　さすがにネヴシェヒールに近づくとまだ雪がいっぱい。昨日まで降っていたとか。 　　ネヴシェヒールのオトガルに着いたのは５時半頃だった。サービスバスはウルギュップの街まで行かないと言う。しかしいい具合に大通りに出ると前をウルギュップ行きのマイクロバスが走っていたので、停留所で追いつき、乗り替えた。　その頃から早苗さん２（イキ）が目に見えて元気をなくして来たのが気になった。ウルギュップに着くと、明日、終日ツアーの運転手として来るメフメット・カプタンがオトガルから今晩の宿のスルバン・ホテルに送り込んでくれた。　ホテルにはカッパドキアにもう２５年余り住んでいると言うのり子さんが出迎えてくれた。私達は３年前にFacebook上で友達となり、猫を飼っている同士、という縁もあっていつか対面を果たしたい、と互いに思っていたのだった。　２階の３人部屋でしばらくお喋りしたのち、すぐそばのDimrit （ディムリット）・レストランで夕食を共にした。この時も早苗さん２（イキ）は具合が悪そうで、サラダだけしか食べなかった。　その晩はホテルに早苗さん達を残して、私は一晩だけのり子さんの家の客として泊まらせて貰うことになった。彼女の車に乗せて貰い、ネヴシェヒールの街中にあるお宅まで連れて行って貰った。　「お三方ともおいでいただいてもよろしいですよ。充分に寝るところがありますから」とのり子さんが前から言っていた通り、わが家のサロンよりずっと広いサロンの他に、８畳から１２畳くらいの広さがある４つもの寝室や、ダイニングを兼ねた広い厨房もあるのだった。　そしてその広い部屋を縦横無尽に駆け回る３匹の猫と、遠慮がちに奥の部屋にこもっていることの多い２匹、合計５匹がのり子さんの家族だった。　その夜はビールを開けてくれたので、時々やって来る猫達の相手をしながら実に３時頃まで、来し方を振り返りながらお喋りし、朝６時に目覚ましをかけて実質２時間ちょっとしか寝ていないのではないか、という状態だった。　　　  

  2015年02月23日

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  コンヤの親友達との再会

  【２月２２日・日曜日】　夕べ、ポストニシン様の車が行ってしまうと、私達はホテルの隣にあるスーパーマーケットで、スナック菓子やクラッカー、大瓶の水などを買ってホテルの部屋でつまみながらしばしお喋りをしてから床に就いた。　今日は日曜日、夕べのうちに私が来てアヌ・ホテルに泊まっていることは、オーナーのベキルさんにも伝わっていたので、今朝、私にフロントから電話が来て、ベキルさんが日曜にも関わらず１０時頃にホテルに会いに来てくれるという。　今日の予定はベキルさんに会ったあと、コーヒー占いの得意なムアッラさんの実家がホテルの近くにあり、１１時頃、私達を訪ねてくれることになっていた。　午後１時にはユジェルさんとミチコさんとの５人でお昼を食べようと言う約束になっており、そのあとはコンヤの２人に早苗さん達を街の見物に連れて歩いて貰い、私はその間１人でヌレッティン先生のお宅を訪問することにしているのだった。　最初に出会ったのはベキルさん。早苗さん達を紹介すると、２人がトルコ語が話せる、と大いに喜び、ことのほかご機嫌でお得意のサズを弾いてしみじみ聴かせてくれたのだった。 　アヌ・ホテルの会長、ベキルさんは若い頃はイケメンで鳴らしたサズの名手だったのです。　そのあと１１時過ぎにムアッラさんが来て、私達は会長室からロビーの広い部分に移った。ムアッラさんは私達のために「カトメル」というアナドルの甘味を持ってきてくれた。　２人の早苗さんを紹介し、ガルソンに３つのトルココーヒーとムアッラさんのためのチャイを頼み、ムアッラさんのお得意とするコーヒー占いをして貰うことになった。ムアッラさんのコーヒー占いは、お遊びの域をはるかに超えていて、時に怖いくらい当たるのだった。 　着物の早苗さんを占うムアッラさん、真剣な面持ちの早苗さんです。 　早苗さん２（イキ）、コーヒー占いは初めて。なんだか嬉しそうです。 　私の番が来ました。仕事が入ってくる、とムアッラさん、自信満々言っています。　最初に着物の早苗さん、そして早苗さん２（イキ）、私の順で見て貰った。２人は結婚運、仕事運、住まいのことなどを見て貰い、着物の早苗さんは、トルコ人と結婚して今いる家を出て引っ越しする可能性あり、と出たので、婚活中の早苗姉さんには嬉しい結果が出た。　早苗さん２（イキ）には、結婚運も現れているがお相手は日本人で、将来は日本に住むだろうが、今年の暮れまでに吉報があるかもしれない、というような見立てだった。　私の場合は、飲み滓が１ヵ所で固まり、カップの縁のほとんどが白くなったのを見て、ついまだ先だって、２月の初めにも同じような模様が出たのを指してムアッラさんはこう言った。「この間見たときとほぼ同じね。ごく近い将来、仕事のお話が持ち上がって、そうね、４月か５月には一定の収入につながると思うわ。そして、このカップの周囲を見て。ベンベヤズ（bembeyaz）でしょ。これはあなたの心が真っ白で曇りがないと言うことよ。そしてこの広々とした空間は海のようにも見えるから、海に関連するお仕事をするかもしれないわね」　ムアッラさんは私の経済的不安などは次第になくなって行くから心配はいらないわよ、カセサン、と私の肩をさすりながらそこまで自信たっぷりに言い切り、占いを終えたのだった。　やがて１２時を回り、ミチコさんやユジェルさんがアヌ・ホテルに私達を迎えに来てくれた。近くのレストランに入るつもりで歩いて街に出たが、コンヤでは日曜日に休みのレストランが多いので、その辺のロカンタよりも２人の早苗さんのためにちょっと洒落たきれいな店に案内したいと思い、ユジェルさん推奨の「ベヤズ・サライ」という店に行くことにした。 　ベヤズ・サライでの昼食。ミチコさんと着物の早苗さん、ユジェルさん 　早苗さん２（イキ）と私。ご馳走がいっぱい並びました。あら、まだないじゃん！ 　全員揃って。ご馳走が並んだのは、後の、この写真でした。　幾つかの品を取り寄せ、みんなでシェアしながら美味しく頂き、ここの食事はミチコさんとユジェルさんにこれから街を案内して貰ったり、飛行機やバスのチケットを手配して貰ったお礼に、イスタンブールの３人組が払うことにした。　２時半頃、食事が済むと私はアブデュラーさんに来て貰い、ヌレッティン先生の家に向かい、４人はコンヤ見物に出かけた。集合は夕方５時半頃、メヴラーナ広場の向かいにあるターヒルさんの店の前で、ということになった。ターヒルさんは小さなバッカルを経営しながら、アブデュラーさんの配下でタクシーも運転する古い馴染みの人である。　昨年１０月末に、シワスからの帰りにコンヤに寄ったとき、ヌレッティン先生にはミチコさんと一緒に訪問しているので、４ヵ月ぶりの再会だった。　今回も日本から孫娘のファトマ・ニイメットちゃんに小さな土産があったので、それを持って訪問すると、ファトマ・ニイメットちゃんは大喜び、ヌレッティン先生夫妻も孫娘の喜ぶのを見てご満悦だった。　ヌ先生は私の研究や執筆ががどの程度進んだかを尋ねたが、何も進んでいないと答えると「人をあれこれ助けてやろうというのもいいが、志した自分の仕事が完成してからで充分です。少し身を引き締めてかかりなさい」と私の気持ちを見透かしたように言われた。 　ヌレッティン先生のご一家。奥さんと、長男の嫁ベイザさんとその子供達。大きな少女が二男の娘ファトマ・ニイメットちゃん（小学校４年生） 　ヌレッティン先生は、かつて私が贈った絵皿について、タヂカラヲノミコトではないかと言う　早苗さんという同名の友達２人を案内してコンヤに来て、明日はカッパドキアに移動するのだと話すと、お２人とも残念がった。今晩、うちにその早苗さん達も呼んで、晩ご飯を差し上げたい、とまで言ってくれたが、丁寧に辞退し、５時少し前またアブデュラーさんに迎えに来て貰い、集合場所まで戻った。　ヌ先生の奥さん、ケズヴァン・ハヌムは私達３人のために、チィ・ボレッキという、トルコのおやつを６枚上げたのを土産に持たせてくれた。 　アブデュラーさんは沢山の日本人と知り合いになりました。（ユジェルさん撮影）　日暮れが迫り、早々とメヴラーナ博物館にもライトアップが始まった。ユジェルさんとミチコさんに伴われて、満足げな２人の早苗さん達が戻ってきた。ミチコさんとは熱く再会を誓ってそこで別れ、私達はユジェルさんと一緒にアブデュラーさんの車でホテルに戻ってきた。アブデュラーさんには、明日の朝９時、ホテルを出発した後、コンヤを離れる前に市内で会いたい人々を訪問するのに付き合って貰い、昼を食べた後、オトガルまで送り込みまでやって貰うよう頼んだ。早苗さん達に部屋で一休みして貰い、ユジェルさんと私はロビーでこの４ヵ月の越し方を語り合い、あの、忌々しい人質事件が計り知れないほどトルコの観光事業に悪影響を及ぼしていることなど、およそ１時間半ほどもあれこれ話しあった。余り遅くなっても申し訳ないのでユジェルさんと明日の昼も一緒に食べる約束をして別れ、部屋に戻ると、私が毎週楽しみにしている連続ドラマはもう始まっていて、夕飯をどうしようかと思ったが、早苗さん２（イキ）が風呂に入っている間に、着物の早苗さんに水を買って来て貰い、朝、ムアッラさんにいただいた手作りのスイートと、ヌ先生の奥さんの揚げてくれたチイ・ボレッキを頂くことにしたのだった。こうして３人部屋でも暖房が効いてあたたかなホテルの一室で、テレビを見たり、お喋りしたり、ごく日常的な暮らしと同じように、コンヤの第二夜も更けて行ったのだった。　　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2015年02月22日

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  コンヤで女子会　つづき

  　【２月２１日・土曜日】　メヴラーナ広場に、夜の帳が静かに下りてくる頃、私達はセマーの儀式を鑑賞するために、ミチコさんや恵さんと別れて、アブデュラーさんのタクシーが来るのを待った。 　メヴラーナ博物館の脇を通って、トラムワイの新しい路線が突貫工事で敷かれています。アラアッディンの丘から県庁脇、メヴラーナ脇を通り、カラタイ大学まで行くそうです。 　メヴラーナ文化センターの駐車場からヒルトン・イン・ガーデンを望む。暮れなずむ空に三日月と一番星が出ていて、とても幻想的な光景です。　７時少し前、大きなセマーサロンの扉が開き、初めに司会の解説があり、ほどなくセマーが始まった。ポストニシン様の真後ろの、被りつきに近い席で私達は心ゆくまで１時間半ほどの儀式を鑑賞した。 　すべてのセマーゼンとポストニシン（道場の長、つまりメヴラーナ）が揃いました。 　セマーの儀式はきれいだけど、この照明は何とかなりませんか。 　セマーの最後はポストニシン様も襟を開いて回ります。　　セマー終了後、一番最後に会場を出てファフリさんにもう一度電話すると、「ご足労ですが、私の部屋にどうぞお越しください」と言う。　勝手知ったる階段を上りオフィスの廊下の奥に３人で入って行くと、一番手前の楽団長の部屋からファフリさんが扉を開けて待っていた。　ファフリさんは、「やあ、ようこそいらっしゃいました。私は、今年からこちらの部屋に移りました。さあ、どうぞ」と私達を招じ入れてくれたが、ほかの訪問客もあり、忙しそうだった。　ファフリさんは、それ以前にこの世界無形重要文化財であるセマーの儀式と、楽団運営に関する最高責任者だったオメル・ファルックさんが、アンカラの文化観光局に栄転した後、ポストニシン役と楽団長の両方の重責を担うことになったのだった。「由美子ハヌム、私があなた方をホテルまでお送りしますから少し待って頂けますか？」「あ、とんでもない、私達はタクシーを呼べばすぐ来ますからどうぞご心配なく」　ファフリさんはまあまあ、と私達を団長室の椅子に座らせてアメリカからの訪問客３人と、私達にチャイを振る舞いながら先客のアメリカ人との話を済ませ、彼らを送り出すと、私達を送るために、息子のミタット君から車の鍵を受け取った。　裏口の駐車場に行くと、ミタット君やメフメット君兄弟、そしてブルハーネッディンさんが私達を見送ってくれた。彼らはほかのセマーゼンの車に便乗して帰るようだ。「由美子ハヌム、いつまでコンヤに？」とファフリさんが聞いた。私も長らくご無沙汰したことを詫び、月曜日の午後、カッパドキアに移動するので、その前にお別れのご挨拶に伺います、と告げて、ホテルの前で降ろして貰った。「あんなお偉いお方に送っていただけるなんて、私達はものすごく幸運ですわ～！」と着物の早苗さんがうっとりとして言った。　早苗さん２（イキ）も、セマーの厳粛さと、ファフリさんの、いかにも聖人を演ずるにふさわしい凛々しくも品のある笑顔や優しい人柄に触れて嬉しそうだった。　３人とも、もちろんすぐにホテルには入らず、ファフリさんの車がバックして、ターンした後見えなくなるまで手を振って見送ったのだった。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2015年02月21日

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  コンヤで女子会

  【２月２１日・土曜日】　２１日朝６時５５分発のコンヤ行きは、幸い順調にまだ雪のかなり残るアタテュルク空港を飛び立った。翼の下に見える景色はどこも雪に覆われている。　定刻通りコンヤに到着、シャトルバスで街中まで行き、そのあとタクシーを頼んでアヌ・ホテルに直行した。 　雪の沢山残るアタテュルク空港を飛び立ちます。 　コンヤのアヌ・ホテルに到着しました。２００３年から泊まり始めた私の定宿です。　　ロビーでトリプルベッドの部屋の清掃を待ち、９時半にはもう使えるようにしてくれたので、私達は１時間ばかり体を休めることにした。　そこにカラタイ大学の日本語教師・浅田満智子（以下ミチコさん）さんが早速会いに来てくれたので、今日はコンヤ在住の４名の女性達に集まって貰い、昼食会を開こう、と言う話になった。　それもとんとん拍子にお昼の全員４名集合が決まり、それに先だってミチコさんと共に洋裁師のシェンギュルさんの店に立ち寄り、恵さんと待ち合わせした。 　洋裁師シェンギュルさんのアトリエで第一次集合。　やがて途中でエスマさんや、昨年後半に絨毯店経営の夫君アリさんと共に大阪から移転してきたイクコさんも、小学生のユーシャ君を連れて合流した。　特別な行事もない普段の日に、ツーリストではない日本女性がぞろぞろと７人も揃って歩いているのは壮観で、道行く人もおやおや、なんだろう、と振り返る。特に早苗さんの着物姿は人目を引いた。 　恵さんと、着物の早苗さん 　お昼を食べに行くところです。７人もの日本女性。コンヤですから珍しい光景。　私の１２年来の友人のヒクメットさんが開業したコンヤ・エトゥリ・エクメッキの新しいレストラン「カンディル」に、みんなで前になり後になりしながら歩いて到着、用意された大テーブルを囲んで座り、初対面の人同士は互いに自己紹介し合って、珍しい、と言うより初めてのコンヤの女子会が始まった。　コンヤ・エトゥリ・エクメッキを３人前、その他の種類を３人前、これを２枚の大皿に適度に盛り分けて２ヵ所に置いて貰い、アイランやコーラやソーダで乾杯し、２人の早苗さんが私のブログにこのところよく登場するだけに、みんな以前からの知り合いだったようにすぐに打ち解けあった。 　大テーブルに７人が向かい合って、コンヤ女子会とイスタンブールからの来客のプチ懇親会。 　コンヤ・エトゥリ・エクメッキやらピデやらミックスでなかなか豪華 　どれが一番美味しいのかな。食べきれない程あります。 　 　イクコさんとユウシャ君。 　窓際に座ったみなさん達。エスマさんとミチコさん、早苗さん２（イキ）と恵さん 　デザートには美味しいキュネフェです。 　キュネフェはハタイ地方の名物。でもアナドル（アナトリア）ではどこでもポピュラー　女子会は大成功だったように思う。コンヤの４人は今後も時々集まろう、何かあったら互いに連絡を取り合おうと決めたようである。私がシワスに行った帰りに寄った１０月末の、メヴラーナ文化センターでセマーの儀式を鑑賞した夜、話し合ったことが現実となったのだった。　２時半頃、店を出た私達はコンヤ在住２６年と言うエスマさんの、長男ブルハーネッディンさんが修業を積んでいるトルコの技芸学校に見学に行った。店からも歩いて１分もしない、筋向いと言ってもいいほど間近なところだった。　ブルハーネッディンさんはIT技師として勤める傍ら、週末にはこうした伝統手工芸を習い、夜はセマーの儀式の公演に参加して、ポストニシン様の息子さん２人とも仲の良い若手セマーゼンの仲間なのだった。 　エブルを始めて１年余り、ブルハーネッディンさんはもう高等技術を習得しています。 　細かい柄を画面いっぱいに置きました。 　着物の小紋のように整然と並ぶ花模様。ユーシャ君もやりたいのだそうですが、技芸学校は１５歳になると入学資格が出来るとのことです。もう少し待ってね。　３時半頃、エブル教室を出たところでエスマさん親子と別れ、ブルハーネッディンさんとはセマーの会場で再会を約束して、私達はもとコンヤ・日本文化センターの会長、故メフメット・アリさんの墓参りに向かった。　墓地のそばでイクコさんとユーシャ君とも別れ、ミチコさん、恵さんと私達３人は大きな墓地の正門から、奥まったメフメット・アリさんの墓地まで歩いた。　雪の溶け切らない地面を踏んで、まだ埋葬後の仮の墓石が置かれたメフメット・アリさんの墓にみんなで手を合わせた。着物の早苗さんの喜びはことのほかだった。 　まだ墓は造成されておらず、小さな石が置いてあるだけ。 　早苗さん２（イキ）以外はみんなメフメット・アリさんに縁のある人ばかり。　２０１０年の秋、私に同行してコンヤに来た時、メフメット・アリさんのオフィスに泊めて貰い、私が帰ったあとも日本語教室の生徒に着物の着方を教えたり、メフメット・アリさんの知り合いのおエライさん達に生け花をしてプレゼントしたり、５日ほど日本文化センターの友好活動を手伝ってきたことがあった。　訃報を伝えると息も出来ないほど驚き、トルコに行ったらぜひ、コンヤとメフメット・アリさんのお墓参りに連れて行って下さい、と私が頼まれていたのが実現したのだった。　そのあと、私達５人はメヴラーナ廟のある大きな緑色の塔で有名なメヴラーナ博物館に行き、メヴラーナの廟にも詣でた。そして冬場は４時４０分が閉館時間なので、もう厨房の方を見る時間もなくなり、庭園からも追い出されてしまった。　仕方なく、メヴラーナ広場の向かい側にあるカフェで６時半まで時間を潰し、セマーの行われるメヴラーナ文化センターに行く私達が立ち上がるまでミチコさんや恵さんも付き合ってくれたのだった。　その後６時過ぎにミチコさんや恵さんとも別れて、イスタンブールから来た３人で、７時から開幕のセマーの儀式にいく前に、ポストニシン様のファフリさんに電話をしてみると、「由美子ハヌム!? もしかして、コンヤにいらしたのですか？」とびっくりしたようなファフリさんの声がした。「しばらくご無沙汰していてすみません。お変わりありませんか。私、友人２人と今朝、コンヤに着きました。今日のセマーにファフリさんはご出演なさるのでしょうか？」「出ますよ。今夜セマーにお越しになれるのですか？」「はい、伺います。友人達も私もセマーの儀式を見るのと、ファフリさんにお目にかかるのを楽しみに、土曜日を選んで来たのです」「そうですか。ありがとうございます。公演が終わったらオフィスでお待ちしています」　そして私達は、アブデュラーさんのタクシーを頼んでメヴラーナ文化センターに向かったのだった。つづく。　　　 　　　 

  2015年02月21日

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  イスタンブールに戻りました。

  【１２月２１日・日曜日】　２０日夜、日本時間２２時（トルコでは午後３時）発のトルコ航空機で今朝イスタンブールに戻ってきました。　フライトは特に遅れもなく順調に着陸、所定の手続きを終わり入国、貨物を受け取ってタクシーで朝６時少し前にチュクルジュマの家に着きました。　荷物が大・中・小、３つのスーツケースと大きな鞄、そして私の重い肩掛けバッグ、成田空港でたんまり超過料金を納める羽目になりましたが、まあ、それほど持ちこんできたのですから仕方ありません。　エレベーターで４階まで持ちあげるまでが一苦労でしたが、私が廊下に降り立つと、猫達の騒ぐ声がドアの外に漏れてきました。　昨晩まで２週間泊まり込みで、勤めに行く前と帰って来た後、内外の猫達の餌やその他の面倒を見てくれていたビラ―ジュ美由紀さんのお陰で、８匹は元気そのもの。本当にありがたいことです。　帰宅してまず、冷蔵庫に入れるものを出すためにスーツケースと鞄を一挙に開けたら、せっかく美由紀さんが前夜掃除して行ってくれた私の寝室はまた空恐ろしいことになりました。　知り合いに頼まれたいくつかの預かり物も仕分けしたりするうち、やはりちょっと疲労を感じ、少し寝ることにしました。成田まで送って来た娘に無事到着の電話を入れ、串本行きに同行してくれた大阪の弘美さんと、山口・下関や福岡空港から羽田に戻るまでお世話になった北九州の熊さんにも到着を報告しました。　お二人にお礼を言ってひと眠りしたら１１時に目覚ましをかけたはずなのに、１２時少し前にかかって来た美由紀さんからの呼び出し音でやっと目が覚める始末でした。　午後１時少し前、てれてれしながらも出かける支度をし、ジハンギル・タクシーを呼んで、ダウン・カフェに向かいました。　日本でかなり鮨を食べたのに、帰って来るなりトルコの「寿司の日」に行ったのは、ダウン・カフェで出会う方々の中に、頼まれた買い物を渡したり、受験を控えた知り合いのお子さん方に私から小さなプレゼントがあったりしたからです。　それにやっぱりダウン・カフェで食べる海苔巻バイキングは、どこでも味わえるものではないのです。ダウン症の若者達に社会生活を体験させたいという、親御さんたちの願いを叶える場で、この意義深い催しに食べに行くだけでもチャリティーに参加したことになります。　イスタンブールの和食ケータリングや鮨店を経営する皆さんが、交替で自腹で提供してくれる鮨や鮨弁当は、私にとって昔のかせレストラン時代にいろいろと協力してくれた板前仲間の皆さんと会える機会でもあり、鮨の材料など簡単に見つからない時代から、近隣諸国に買い出しに行ったりしつつ、苦労しながらお店をやってきた皆さんとの交流の場に他ならないからです。　今日のスポンサーは和食ケータリングのバンバンのみっちゃんこと井俣満さんと純ちゃんこと平賀純一さん。ダウン・カフェに到着すると、まだ始まったばかりだというのにもう、座る席もないほどの超満員。主催者の森脇さんも黒い作務衣風な料理服を着てサービスを担当しています。　ダウン・カフェで開催される和食の日は、このほかに五味レストランの堀越さんやうどんやレストランのひろみさんなど、強力なラインアップが控えています。私はもうレストランはやっていないので、個人参加で材料費だけは店から出して貰い、仕込みと本番の２日間を労力奉仕し、これに友人達がボランティアで手伝ってくれています。　この大盛況を見て本当に喜んでいたら、サルハン店長がメニューにはないビールを抜いてくれた上、森脇さんが大皿にたくさん海苔巻各種やオードブルなどを盛って来てくれました。　数日後に日本に行くという万里子さんも、日本にいた頃福祉施設で働いていたというエブルの美樹さんも私の席に来てくれました。　森脇さんが広げた友達の輪の中には、大学生、ビジネスマンもたくさんいるし、日本人・トルコ人の別なく親交を結びあう人々の中に、領事館の首席領事、笹谷さんご夫妻も気さくにこの会に賛同して参加しておられます。　夕方お開きになる頃まで、同席した日本企業のトルコ人秘書の女性達と楽しく過ごし、あいにくかなり雨が降って来ていたので、馴染みのタクシー運転手さんに来て貰い、美樹さんと共に家に戻りました。　６時過ぎに美由紀さんもビール持参で来てくれたので、日本から買ってきたこわれ煎餅や揚げ餅、北海道の友人したひろさんが送ってくれたサーモン・チップなどをザラザラと景気良く皿に空けて２時間ばかり帰宅歓迎飲み会を開き、楽しいひと時を過ごしました。　ダウン・カフェでもビールを飲み、家でまた美由紀さんのペースで注がれるままに飲んだので、２人が帰った８時半頃、テレビを点けたものの、あらすじも分からずテレビに向かってお辞儀ばかりしているのに気付き、連続ドラマはもう諦め、寝ることにしました。　イスタンブールに帰宅第１日目はそんな風に過ぎ、パソコンも開かずに終わりました。　空港で出会い、お世話になった池内家の皆さん、翌日訪ねた大宮の義母、出沼博子さん、８日にお会いした澁澤幸子先生、佐藤紀子さん、荒木紀夫さん、竹内秀男さん、池袋トルコアズ・レストランのアーデムさんとちか子さん、ありがとうございました。　１２日にお会いした新宿書房の村山社長、加藤洋子さん、飯島英夫先生、１３日にお会いした後藤香織さん、高田桃子さん、阿部櫻子さん、樋口亜希恵さん、その夜、忘年会にご招待下さった篠原千絵先生、そこでお目にかかったオスマン朝研究の権威・鈴木董先生、岡田真弓さん、吉村瑠以さん、片山さおこさんはじめ篠原先生のアシスタントの皆様、そして嘉納愛夏さん、冨岡伊久子さん、渡邉千嘉さん、なべしさん、トルコ料理店ブルガスアダの麻歩さん、本当にありがとうございました。お会い下さった皆様にすっかりご馳走になったり、お土産まで頂戴して、感謝の言葉もありません。　その合い間には一族の墓参も欠かさず、父の供養の当日は他の墓にお参りは出来ませんから、前もって全部回っておきました。　１２月９日、観音寺の渋谷家・海老原家では従妹達にお世話になりました。１２月１０日、赤城山光明院では、伊藤本家、伊藤分家、加瀬家の墓参、伊藤分家の当主である喜八叔父の連れ合い幸江叔母さんの新しい墓に詣で、悲しみの中で冥福を祈りました。そのあと、伊藤本家の当主ゆき伯母さんを訪問、喜八叔父さんには終日お世話になりました。　１２月１１日、早起きして娘の出勤前に車に乗せて貰い、和田家の墓参に行き、舅・姑・夫の墓と、義兄の墓に詣でました。後半の西日本旅行をお守りいただきたいと、一族のどの墓前にもお願いしました。　　　１４日昼には娘に最寄りの駅まで送って貰い、東京駅に行きました。１４時発の新幹線で新大阪に着くと、前田典子さん、森口佳美さんがホテルまで迎えに来てくれて、第１回の懇親会をすっかりアレンジしておいてくれました。　ご出席くださったのは、前田典子さん、森口佳美さん、正来哲雄さん、則子夫人、令嬢涼子さん、浅野長宏さん、中井友子さん、前田碧さん、上田平依子さん、田中春美さん、絵美さん。皆さまお寒い中を、遠方よりありがとうございました。そして沢山のお土産をありがとうございました。　１５日～１６日の串本行きでは松本弘美さんが何から何まで同行してお世話してくれました。また串本町役場の濱口水道課長さんには、串本で人気のレストランで新鮮な海の幸や天ぷら、和風ステーキなどの豪華晩餐をご馳走になり、翌日の串本海中公園も招待券を手配して下さり、感謝に堪えません。　１６日午後１時３０分のくろしお号で新大阪まで戻り、そこからは出迎えに来てくれた神戸の足立知加子さんとお嬢ちゃんの小夜ちゃんが幹事役をバトンタッチ。大荷物を持って貰い、再びホテルに戻り、電車で懇親会に駆けつけました。弘美さん、大変お世話になり、お陰で忘れられない旅行となりました。どうもありがとうございました。　２日目の懇親会は足立さんと小夜ちゃん、２０１０年のコンヤの親善行事に参加された濱崎敦さん、よう子夫人、山田浩平さん、セツ夫人、山口春菜さん、トルコで暮らしていた弓仲洋子さんと高橋昌子さん、８年前、商品の買い付けに来た時お手伝いした福井崇之さん、去年知り合った友人波部容子さん、そしてアッ君と小さな娘クパちゃん（犬）。　遠方からご参加くださったかくも大勢の皆様、そして１４日、１６日の二晩、美味しい料理を提供してくださったレストラン、イスタンブール・コナックのルーザさん、本当にありがとうございました。　本当はもっともっとたくさんのお方にお会いしたかったのですが、私の準備不足で事前の連絡が取れなかったお方も多く、今回ご連絡出来なかった皆様にお詫び申し上げます。幹事をお勤めくださった知加子さん、遅くまで本当にありがとうございました。　明くる１７日朝、雪が霏々として降る新幹線・新山口駅で私を待っていてくれた北九州市門司の熊さん、山口の白坂和子さん、そして夕方は下関の松岡規子さん、楽しいひと時でしたね。お昼や晩ご飯、お土産などたくさんにありがとうございました。　熊さんには翌日も朝からドライブで「天神様」の太宰府天満宮、糸島半島、そして志摩岐志港の牡蠣小屋に連れて行って貰い、生牡蠣の炭火焼をたらふく味わい、旬の味を堪能しました。　夕方福岡空港内の喫茶店で再会した、メキシコから里帰り中の森口芳江さんと生後１１ヵ月の可愛いルナちゃん、博多に住む初対面の春香さんとイギリス人のパートナー、クリストファーさん、そして今回初対面には思えない、男の中の男一匹みたいな熊さんこと渡部公一さん、北海道の網走から釜ゆでタラバガニを始め、たくさんの海の幸を熊さんあてに送って、私に食べさせてくれたブログ友達したひろさんこと竹澤孝弘さん。ありがとうございました。 　熊さんと一緒に下関で松岡規子さんのお住まいに押し掛け、３人でボイルド・タラバガニを食べました。あ～、幸せ！写真は松岡規子さんの撮影したものを拝借しました。　皆々様に厚く御礼申し上げ、私が元気に大荷物を引いてイスタンブールに戻って参りましたことを感謝と共にご報告申し上げます。　どうぞ皆様、よいお年をお迎えくださいますよう、イスタンブールからお祈りしております。本当に本当にありがとうございました。　　　

  2014年12月21日

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  日本に行ってきます。

  【１２月５日・金曜日】　シワスの旅行記をお待ちくださっていた皆様、本当に申し訳ありません。ディヴリーの大きなモスクを見に行く日のことを書いている途中で、転んでしまい、右肩の打撲傷のため長い間、思うように書けずにいたところに、たくさんの用事もあり、とうとう書きあげることもなく日本に行く日になってしまいました。　幸い、怪我をしてから３週間余り、だいぶ右腕の動きがよくなって、巨峰のブドウみたいだった右腕の色もいまはかすかに一部が残っているだけで、元通りになりつつあります。　岡崎さん夫妻と長年の友、縁さん、そしてダウン・カフェのコックさんと見習いさんに助けられて無事にきりたんぽの日も乗り切り、バザー椿会も皆勤し、やっと日本の休日を楽しみに行けることになりましたが、あまり休日らしくはなく、もう、忙しく暮らすのが生涯、治りません。　今回は一番慌ただしいかも知れませんが、２週間フルに動いて見聞を広め、以前お見知りいただいた皆様と旧交を温めたり、初対面を果たしたりの旅になります。　今荷造りの最中で、もう時間的に危ないんですが、懲りずに毎回出て行き際にジタバタドタバタしています。　私が旅行中はメール、ブログ、フェイスブック、ツイッターなど出来ませんが、どうぞ私をお忘れにならないでくださいね。　では、行ってまいります！　主目的は父の３回忌法要出席なのですが、最後の日なので、また前回と同様、法事が済んで午餐をいただいたら成田に向かい出発です。　美由紀さんに猫の世話をお願いして行きます。ありがとうございます。安心です。　旅先でお世話になる皆様、どうもありがとうございます。よろしくお願いします。２０１４年１２月　日本行きスケジュール第１週　千葉・東京・関東地方５日（金） ２１：３０　家を出る６日（土） ０１：００　離陸・日本へ出発 １９：３０　成田へ到着　池内家の皆さんとV子出迎え 　　池内亮さん宅。亮さんの仏前に。 　　みんなで夕食、その後野田の家に。７日（日） １０時頃　　和田家墓参、中井家墓参、鈴木印章店訪問　 １３時頃　　大宮・父の家　父の仏前と母へ挨拶に。 １７時 　出沼さん８日（月） １１時 　トルコ大使館訪問。 １３時　　　澁澤幸子先生と新宿でランチ １６時　　　四谷の新宿書房訪問 １８時～　　佐藤紀子さんと９日（火） １０時　　　千秋さん、初枝さんと墓参に （渋谷家、利雄叔父・すゞ叔母の墓参、海老原家墓参）１０日（水） １０時　　　喜八叔父訪問、幸江叔母の墓参、伊藤家墓参、母の墓参 　　午後喜代美さん見舞い、夕方伊藤本家にゆき伯母さん訪問、１１日（木） １０時 　野田市初見接骨医院　初見先生訪問 １３時 　　沓澤さん、斉藤さん１２日（金） １４時 　茨城県坂東市　小林家訪問 １７時 　茨城県水海道市　草ヶ谷夫妻と面会１３日（土） １１時 　浅草仲見世　酒井好古堂山藤　妹と面会 １３時 　懇親会：後藤さん、樋口さん、高田さん、林部さん １８時 　忘年会：篠原千絵さんのグループ、（ブルガスアダ） 　　千絵さんほか３０名の皆様 第２週　午後から関西に移動　新幹線にて大阪へ１４日（日） 和歌山県串本、大阪、新山口、下関、北九州門司、博多、　 　　 １９時～　　第１回大阪懇親会（イスタンブール・コナック）　大阪泊 　　幹事：前田典子さん、森口佳美さん １２，３名の皆さん 　　１５日（月） １１時発　　串本に出発　松本弘美さんと串本泊 　　樫野崎灯台、トルコ軍艦慰霊塔訪問 　　１６日（火） １３時 　串本発大阪へ　 １９時～　　第２回大阪懇親会（イスタンブール・コナック）　大阪泊 　　幹事：松本弘美さん、足立千加子さん　１３，４名の皆さん 　　 　　１７日（水） ０８：２１　新幹線のぞみ９９号にて新山口へ １０：１４　新山口着　懇親会：白坂さん、渡部さん １４時 　渡部さんの車で出発、観光しながら下関に １９時～　　懇親会：松岡さん、渡部さん　下関泊１８日（木） ９時頃 　渡部さんの車で下関出発、門司、 大宰府天満宮、博多の町など見物 １６時頃　　懇親会：森口さん、春香さん、渡部さん（福岡空港内の店） ２０時台　　福岡空港より羽田空港へ　V子出迎え１９日（金）　　 １０時　　　買い物に出る。野田市内のマーケット等で。 １４時～　　パッキング開始２０日（土） １１時～　　加瀬俊雄３回忌法要　流山市赤城山光明院　 １４時～　　解散後、野田に荷物を取りに行き、成田に出発。 娘、息子、千代子叔母。４人で別れの夕食。 ２２：００　イスタンブール行き、離陸２１日（日） ０４：３０　イスタンブール着　帰宅 １３時～　　ダウン・カフェの行事「寿司の日」に参加 　あっはっは、こんなに飛びまわって大丈夫なんでしょうか、ご老体が！ 　タマオも行きたそうです。どの子も愛しいけれど、こんな顔をされるともう・・・　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　

  2014年12月05日

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  晩秋のアナドル、シワスへの旅　その２

  【１１月２４日・月曜日】　シワスの中央広場を取り囲む形で、県庁や憲兵隊庁舎本部があるが、最も大きな建物である国民会議場（アタテュルクが救国戦争を起こすにあたって同志や側近と共に会議を開き、司令本部として使用）は、現在大修復中だった。 　国民会議場はすっぽりと防護シートで覆われ修復中です。 　シワス中央広場からカレ・ジャーミイとチフテ・ミナーレリ・メドレセを遠望する。 　カレ・ジャーミイの近景、カレは要塞のことで、実際要塞のようにガッチリしています。　カレ・ジャーミイは１５８０年（オスマン朝時代）に、時のスルタン・ムラット３世の宰相だったアリ･ベイ･オール･マフムッド・パシャが建立、４３０年余り経た現在も毎日祈りの場として公開されている。　カレ・ジャーミイの太いミナーレ（ミナレット）の基礎部の壁には、へきがんが穿たれ、そこには「Yitik Taşı」（イティッキ・タシュ）という名前と謂われが書かれた看板がついていた。落し物や忘れ物を見つけた人は、その窪みに届けておくと、失くした人がそこに行けば届いている、というしくみだそうだ。 　イティッキ・タシュ、落とし物をさりげなく届けておく場所。 　サダカ・タシュ、人知れず喜捨をする場所。貧しい人は要り用な分だけ貰って行く。　その近くには、「Sadaka Taşı」｛サダカ・タシュ｝という、貧しい人に喜捨したい人のための石が建てられていて、穴が穿たれ、そこにいくばくかのお金を入れる。乞食や貧しい人はそこから今必要な金額だけを貰って行く、というのである。　イスラーム教徒達のいわば「社会鍋」である。泥棒や置き引きなどのいなかった、いい時代の名残なのだろうな、とカディル局長さんの説明を聞きながら、心温まる思いがした。　広場の反対側はブルジイェ・メドレセシ（神学校）の、見事なタチ・カプ（冠門）。中は広い空間で、街の人達の憩いの場になっている。 　ブルジイェ・メドレセシの華麗なタチ・カプ 　１２７１年、イラン出身のムザッフェル・ブルジェルディが建設した。宗教学だけでなく、人体学、化学、宇宙学などを学ぶ学校だったそうだ。　そこからまた広場の反対側に戻って、いよいよチフテ・ミナーレリ・メドレセ（１対のミナレットのある神学校）に移動した。このタチ・カプの上に２基の華麗なミナーレを持つメドレセ（神学校）は、シワスのランドマークと言ってもいいが、残念ながら本体のメドレセの方は残っていない。門のどの部分を見てもイスラーム文化の花が咲いているような、緻密で豪華な文様に彩られている。 　チフテ・ミナーレリ・メドレセは正面から写真撮影するのは難しい。向かい合って、シファイェ・メドレセシが建てられているためだ。 　イスラーム文様の美しいタチ・カプの門柱の彫り物とカディルさん 　流れるようなアラビア文字で縁取られた豪華な門柱です。　　このチフテ・ミナーレリ・メドレセの向かい側にあるのが、シファイエ・メドレセシ。１２１７～１８年間に、セルチュク王朝のスルタン、イッゼッティン・ケイカヴス１世によって建設された、医学系の神学校である。　ここはスルタン、イッゼッティン(1220没）の墓所であるとともに、現在は市民の憩いの場として開放されており、カフェや様々な土産物店などが、かつては学徒達の教室であったところに軒を連ねている。　歴史的建造物をこうした使い方で市民や観光客に親しませるのも悪くはないが、ちょっともったいないような気もしないではなかった。本来なら博物館となるべきものであろう。 　シファイェ・メドレセシのタチ・カプ。チフテ・ミナーレとは、道１本隔てた向かいに建っているので、正面からの撮影が困難。どちらも建立時には写真撮影など想像も出来ない時代でしたから・・・ 　若くして逝ったイッゼッティン・ケイカヴス１世の墓所。 　メドレセの一番奥の壁には、アーチの両脇に男女の顔の彫刻が・・・女性のおさげ髪が可愛い。頭の上に鳩がとまっているのが見えます。男性の顔の方は崩落していて今ははっきりと見えなくなっています。 　メドレセの内部では、教室だった部分が土産物店などになっている。 　このお店に、カディルさんの部下や観光協会の会長さんなどが集まりました。 　その店でチャイをご馳走になり、こんな恰好をさせて貰いました。　いつの間にか外は真っ暗となり、雨が降り出していた。　このほかに、大きなギョク・メドレセという神学校も近くにある。そこは２００７年に娘と行った時も修復中で見ることが出来なかったが、現在も内部は修復中で、それでもタチ・カプのある前面だけはシートも外され、見ることが出来た。街の中心部にかくも沢山のメドレセがあるということは、シワスが当時、どれほど繁栄していた文教都市だったかが分かるような気がした。　しかし、日がとっぷりと暮れてしまっていることでもあり、カディルさんは修復現場の前で、門柱に刻まれたハヤット・アーヂ（命の木）について説明してくれた後、私達を夕食に誘ってくれた。 　ギョク・メドレセの外見。あたりはすっかり夕闇に包まれています。　　ところがかなり歩き回ったにもかかわらず、私達はお昼にいただいたケバプが余りに盛りがよかったのと、大きなバクラヴァを残さず食べてしまったことで、全然空腹を感じなかった。　カディルさんは運転手のジャンさんに言って、郊外にある自然を生かした広大な公園に案内してくれた。敷地の中ほどに渓谷と渓流があるのが夜目にもくっきりと見えてきた。車から降りて私達は渓流を見に行った。「これがシワスのボスポラス海峡大橋ですよ」と冗談を言いながら、カディルさんはまず自ら渓流に架かる吊り橋を渡って見せ、私はやや高所恐怖症の気があるので、人の歩いた直後の僅かな揺れにも足がすくんでしまうため、恐る恐る歩いた。　その頃には雨も小止みとなり、明日の天気がよくなる前兆か、西空の一部にぽっかりと穴があいたように雲が切れ、月齢４日のやや太くなった月が顔を出した。 よく見えない写真ですが、左上方に月が見えています。シワスは山脈も多いが耕地にも恵まれた富裕な県です。　　カディルさんは橋を渡ってほどなく見えてきたレストランに私達を招き入れ、観光局の招待客ということで支配人に紹介してくれた。　山小屋風の洒落たガラス張りのテラスに案内され、カディルさんも同席してくれたが、明日はトルコ共和国の誕生９１周年のお祝いの日なので、県の要人であるカディルさんには山ほど仕事があるはず、ミチコさんと顔を見合わせ、軽いものをいただいて、ホテルに早く送って貰った方がいいね、と頷き合った。　夏はピクニック場としてにぎわう公園も、このレストランも今はひっそりとしている。相客のほとんどいないテラスで、カディルさんと歓談しながら野菜や豆の沢山入ったシワス名物のチョルバ（スープ）とパンと野菜サラダをいただき、それですらお腹にきついほどだったので、充分満腹し、ホテルに送り届けて貰った。「明日は私もディヴリーにお伴すればいいのですが、創立記念日の式典がありますので、この車で運転手のジャン・ベイと、ハティジェ・ハヌムを８時半頃お迎えに寄越しますよ。ディヴリーと、名高いカンガル犬の街、カンガルと、その近くの魚の温泉に予約を入れておきましたから、明日はじっくり楽しんできて下さい」「何から何まで本当にご親切にありがとうございます」「なんの、なんの。夕食はシワスでお待ちしていますので、ご一緒に食べましょう。ではゆっくりとお休みください」　笑顔も物腰も丁寧で優しいカディルさんに、私達は心から感謝し、ホテルの前で見送った。　ネッヴ・ホテルの部屋でミチコさんがシャワーを浴びている間に、私は明日、ディヴリーで私を待っていてくれるであろう、地元写真家のユスフ・ギュルダルさんに電話を入れた。　ユスフさんとは、前回のディヴリーで知り合ったのではなく、２００８年にディヴリー・カイマカムルーウ（ディヴリー郡庁）が、タキシム広場の、メトロの入り口から１階降りたところの、踊り場にあったギャラリーで物産展を開いたときに知り合ったのだった。つづく　

  2014年11月24日

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  晩秋のアナドル、シワスへの旅　その１

  【１１月２３日・日曜日】　１０月２８日の朝、イスタンブールは寒くこそなかったが、全体にどんよりとした曇り空であった。８時５５分発のトルコ航空機で、私はかねてよりもう一度行きたい、と願っていたシワスに飛んだ。　雲の層を突き抜けると上空ではまぶしい陽光がきらめいていた。今度の旅行は、シワス県の文化観光局長カディル・ピュルリュ氏の招待をいただいてのことである。 　シワスが近付いてきたので着陸のため降下態勢に入りました。　８月にロードス島から帰ったあと、シワス観光案内の小冊子を日本語版に翻訳した件で、出来上がりをお気に召していただき、シワス観光に招待して労ってくれることになったのだった。　シワスにはセルチュク王朝時代の名残の建造物がたくさんあり、それも県庁所在地のシワス市の中心部に歴史的にも価値の高い建物が数多く残されている。ディヴリー郡には世界遺産の「ディヴリー・ウル・ジャーミイ」があった。　それらをくまなく見せてくれるというので、私はカディル・ピュルリュ局長の言葉に甘え、この絶好の機会に、コンヤに住む友人と共に招待して貰うことにしたのだった。　アナドル（アナトリア）の山岳地帯を眼下に見ながら降下を始めた飛行機は、順調な飛行で予定通り１０時３０分、シワスの町から程遠からぬ山稜にあるヌーリ・デミルアー空港に着陸した。 　シワスのヌーリ・デミルアー空港に到着、近代的な建物です。　７年前にイスタンブールに戻るときに飛び立った頃とは段違いのモダンな建物に入ると、荷物もほどなく出てきたので、到着ロビーに出て行くと、私より１時間余り前にコンヤからバスで到着した浅田満智子さん（以下ミチコさん）と、シワス文化観光局の女性職員が待っていてくれた。　シワスの空はからりと晴れていた。カディルさんの差し回しの車に乗せて貰い、文化観光局の本部に到着、電話やメールで何度もやり取りをした局長のカディルさんと初対面を果たしたのだった。 　文化観光局長（県庁でもナンバー２とか３のお方）カディル・ピュルリュ氏　カディルさんはたいそう長身で恰幅もよく、何よりもその温顔に人柄がにじみ出ているようで、満面に笑みをたたえて優しく接してくれた。シワス土産のいろいろな品をお揃いで頂戴し、チャイが運ばれて少々歓談したのち、ホテルに送って貰ったのだった。　県庁や市庁舎、セルチュク朝時代の建造物などが並ぶ街の中心地からも遠くない、Nevv Hotelは三つ星で、新築あるいは改装されてほどない、きれいなホテルだった。運転手のジャンさんと付き添ってくれたハティジェさんは、「１時頃、局長とご一緒に昼食を食べていただきます。またお迎えに上がりますので、それまでお部屋でくつろいでお待ちください」と至れり尽くせり。　１階（日本の２階）の奥まった１０７号室にガルソンが荷物を持って案内してくれた。ミチコさんはオトガルからまっすぐにホテルに案内され、荷物を置いて空港まで私を迎えに来てくれたとのこと、並んだ真っ白なベッドに向かい合って腰掛け、６月下旬以来の出会いなので話に花が咲いた。　　１時少し前、ホテルにやって来た車で局長カディルさんは自ら助手席に乗り、街の中央の広場を少し過ぎたところで大通りに面した「ミス・ケバブ」と言う店に案内してくれた。　シワスではキョフテ（肉団子）が名物なのだそうだが、野菜やキョフテのほかに、名物の太い大きなドネル・ケバプから、ヤプラック（焼き肉を木の葉状に削いだもの）にしたものが３人前運ばれ、独特な形に焼かれたパンに野菜と一緒に包んで食べるのだった。 　緑色の看板が目印、県庁からもほど遠からぬ大通りに面した人気絶頂の店とか。 　大きなドネル・ケバプが、お昼だけで売り切れてしまうそうです。 　 カディルさんのご好意のお昼が並びました。 　シワス名物、でかキョフテ（肉団子） 　混じりけなしの牛肉こってり、ドネル・ケバプのヤプラック（薄切り肉） 　頂く前に記念撮影。入るかなあ、と不安の私達　ほっそりとしたミチコさんは食べきろうと頑張ったが３分の１ほど残し、私は胃袋に全部収めた。食後は大きな三角形に切ったバクラヴァが出され、しつこい甘さではなかったので、これもやや時間はかかったが私は全部残さず食べてしまった。　こんな大きなバクラヴァが出ると、イスタンブールからはるばる土産に買ってきたカラキョイ・ギュッルオールの小さくて上品なバクラヴァが、シワスの人の目にはショボく見えたのではないかと思えた。 　デザートのバクラヴァ、うへぇ～。 　こうなるともう、威風堂々、貫録です。きれいになくなります。「果物とか何か欲しいものはありますか」とカディルさんは聞いてくれたが、もう無理、何も入らない。この辺りでは人気ナンバーワンの店とのことで、後から後から人が入って来る。通路のあちこちに立ちん棒で待っている人々がいるので、私達はご馳走様でした、とカディルさんに頭を下げ、席を立った。　食事が済むと、元は学校だった建物を改造したという「シワス考古学博物館」に案内され、原始時代、金石混合時代、ヒッタイト時代などなど、実にたくさんの文明の舞台となったシワスの歴史が一目で分かるように展示された館内をじっくりと見せて貰った。　学芸員のオスマンさんとセマさんの２人が詳しく説明してくれるのを聞きながら小一時間かけて回り、その後庭の東屋の下でチャイをご馳走になった。 　考古学博物館の入り口にて 　アナドルから出土した数々の品が年代順に陳列されている。 　嵐の神テシュップのお使いだった２頭の雄牛の形をした、儀式の酒を注ぐリュトゥンアンカラのアナトリア文明博物館にも同様の、国の至宝となっているものがあります。 　この博物館の呼びもの。伸葬されたミイラ。年代は・・・（聞き忘れました） 　カメリアと呼ばれる東屋の下でチャイをいただきました。　明日１０月２９日は１９２３年の共和国創立以来９１回目の記念日。役所や銀行、その他公共機関、学校などはすべて正午で終業となり、シワスの街中は人出が目立って多くなってきた。　「今日は夜までずっと私がご案内しますよ。まずは中央広場から見て歩きましょう。ユミコ・ハヌム、あなたが日本語に翻訳した本の中にあった建物を思い出してください」「本当にありがとうございます。局長さん自らご案内下さるなんて光栄です」　中央広場で車を下り、カディルさんは周囲の建物を順番に指さしながらガイドさんよろしく説明を始めた。　建物を見ただけでそこがどこであるか、私には聞かずともよく分かった。県庁、市役所、憲兵隊のシワス方面本部、etc・・・ 　県庁は３階建て。デジカメのせいではなく空が曇りだしてよく写りません。　シワスの印刷会社からは翻訳物の原稿が送られてきただけで、それらの写真など一切添付されていなかったので、建物の形状や状況を解説してあっても、文章だけではどういうものか見当もつかず、どんな日本語に置き換えるのが妥当なのか、最初全く見当もつかない仕事だったのである。　建造物の１件１件につき、自分でネットで探して写真を見つけ、苦労しながら仕上げた翻訳だから忘れもしない。　　シワスはイスタンブールより７００キロも東に位置しているので、さすがに４時近くなると日は大きく傾き、あたりが薄暗くなった。いつの間にか県庁の上方の空の一角に黒雲がいっぱいに張り出してきていたせいもあった。　カディルさんはセルチュク朝時代からの遺物である、ちょっと離れたチフテ・ミナーレ（一対となった２基のミナレット）を指差し、「シワスの誇る遺跡ですよ。後でゆっくり見ましょう。さあ、ではこの、カレ・ジャーミイから見て行きましょう」と、長い脚で階段を上って行った。つづく　　　

  2014年11月23日

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  ファトマさんの命日

  【１１月１２日・水曜日】　このところ日本行きは控えているわ、目前にはダウン・カフェの「きりたんぽの日」も控えているわで、気ばかり焦るがその間にもメールで依頼事が入ったりして、ことが予定通り進まない。　でも、これだけは行かなくちゃならん、と本日これからチョルル市に、かつての親友ファトマさんのお墓参りに行く。　お墓参りはすぐに終わるが、ファトマさんの兄メヴリュットさん夫妻とその息子夫妻、同じくファトマさんの姉の息子のケマルさんなど、一族の人がたくさんいて、私の来るのを待っていてくれるのである。　せっかく岡崎さん夫妻がわが家にいるのだから、留守を頼んでゆっくり１泊すればいいのだが、週末に控えたきりたんぽの日の買い物リストや概算で経費を算出しなくてはならないし、そのほかにもたくさん用事があるので、夕方のバスでまたイスタンブールに戻って来ることになる。　今年はストゥク・ウスタの命日の１５日にキュタヒヤにも呼ばれているのだが、ダウン・カフェと重なって欠席せざるを得ない。でもまた、折を見て墓参りに行けば、家族のみんなも喜んでくれるだろう。　だんだん自分が年寄りになるにつれて、周囲の友人達が先に行ってしまい、墓参りだけでも日程がいっぱいになりそうだ。でも、せめて、３回忌（トルコでは３年）くらいまでは行けるうちに行っておきたいのである。　さあ、そろそろ家を出る。岡崎さん夫妻はメフメット・ウスタのところにフェルトの帽子作りに行っているので、私よりは早く帰れそうだ。猫の餌やりを頼んでちょっくら、チョルルへはバスで往復４時間、わが家からオトガルへの往復２時間あまり、遠いけど元気に行ってきます。 　おとなしく留守番頼むよ、猫達や～　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　

  2014年11月12日

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  イスタンブールに帰ってきました。

  【１１月２日・日曜日】　１０月２８日朝シワス行きの飛行機に乗って以来、６日目の今朝、コンヤからイスタンブールに戻ってきました。３０日の午後、シワスからコンヤまでは９時間ほどかかってバスで移動、今年の２月以来本当に久しぶりにコンヤの土を踏んだのでした。　シワスから一緒だった浅田満智子（ミチコ）さんの家に２晩泊めて貰い、土曜の夜、一緒にセマーをみたあと、ミチコさんと別れた私はアヌ・ホテルに一晩泊まって、イスタンブールに戻って来たのです。　土曜の夜、セマーの始まる前に、私は長いこと噂には聞いたことがあっても、今まで一度も会うことなく過ごしていた幻の日本女性と、ついに初対面を果たしました。その女性については後日、ブログに登場して頂くとして、出会いの場に同席していた彼女の長男のブルハーネッディンさんは、なんとセマーゼンだったのです。　ポストニシン様の２人の息子達と同様、子供の頃からセマーゼンになるために修行し、いまや若くても経験の長い中堅のセマーゼンとして、舞台できれいな旋回フォームを見せて貰いました。いずれ正規のメンバーとしてなくてはならない存在になることでしょう。　この出会いの場には、ミチコさんや恵さん、ユジェルさんも同席し、そこにコンヤのセルチュク大学の行事に参加するためにコンヤ入りしていた、ダウン・カフェの常連さん、コジャエリ大学の留学生の皆さん方も加わってくれたので、初対面にしてはたいそう賑やか、これはいずれ「コンヤ在住の日本女子会」に発展するかもしれません。 　ブルハーネッディンさんの、セマーゼンとしての正装。長い帽子はシッケ（墓石）、黒い外套はフルカ（墓）、踊る時の白衣はテンヌーレといい遺体を包む布の象徴です。 　エスマさんとミチコさん、恵さん、そしてコジャエリから来てくれた皆さん。 　コンヤ出発の朝、ホテルまで会いに来てくれたエスマさん（左）とムアッラさん　かくて今朝、アヌ・ホテルにはコンヤに実家のある友人のムアッラさんが会いに来てくれたのですが、前夜初対面を果たしたエスマさんも駆けつけてくれて、短いひと時でしたが互いに惹かれ合うのを感じ、私にとってはまたコンヤに行く楽しみが増えた思いでした。　後日ブログで書くつもりですが、エスマさんは３０年近くコンヤに住んでおり、コンヤ在住の日本女性と連絡を取りたいと願っていたにもかかわらず、今までチャンスがなかったとのこと。　夕べ奥さんと一緒に来たエスマさんの夫君ラマザン氏がたいそう喜び、次回私がコンヤに来た時、みんなを自宅に招待してくれるそうで、ラーメン・パーティをやろうなどと話が盛り上がり、コンヤで日本女性が一堂に会するのはそう遠い日のことではなさそうです。　さて、それはまた後日の楽しみとして、私の出発時間が迫り、名残惜しいけれどホテルの前で手を振ってくれるムアッラさんとエスマさんに見送られ、いつものアブデュラーさんのタクシーで９時ちょうど、空港に向かいました。コンヤの空港は今年新築なって旧ターミナルから引っ越したばかり。広々としてそれはきれいになっていました。 　アブデュラーさんとも長いおつきあいです。２００４年以来もう１０年を超えました。 　やはりここにもセマーゼンが・・・ 　広い待合室。着陸した飛行機が待合室の乗客を迎えに来るのがよく見えます。到着の乗客が降りて、機体は清掃中で、間もなくコンヤを飛び立ちます。 　サビハ・ギョクチェン空港に到着しました。シャトルバスに乗ってタキシムへ。　トルコ航空の子会社アナドル・ジェットの便で、１１時半頃、アジア側のサビハ・ギョクチェン空港に到着、１２時発のハヴァタシュのシャトルバスでタキシム広場のそばのエルマダーのターミナルに着きました。交通渋滞もなかったので、順調にタキシムまで来たのが１時２～３分前でした。　空港にいる間に、猫の世話をしてくれた美由紀さんに電話し、お昼を一緒に食べようと近くの堀レストランで待ち合わせることにしたのですが、ほどなく美由紀さんがかけ直して来て、「加瀬さん、私、バスの終点でお待ちしてます。レストランまで私がお荷物持ちますから」と言って、バスの到着を待っていてくれたのです。　長旅のあと、心優しい友達が迎えに来てくれて嬉しい限りです。イスタンブールの歩道は石畳風なので、旅行鞄を引いている人には歩きにくいところです。でも私は美由紀さんのおかげで身軽にレストランに着くことが出来ました。　日本食一辺倒の私が１週間近くも旅行をした後なので、家に帰っても野菜も肉もないし料理するのはおっくうで、美由紀さんに猫を見て貰ったお礼も兼ねてお昼を一緒にと誘ったのでした。　ビラージュ美由紀さんとはやっぱりビールで乾杯です。大久保料理長さんが私達のテーブルにパラムット（かつおと同種）のたたき（マリネー風）を送ってくれました。ああ、嬉しい、感謝しながら一口頂くと、うわ、美味しいこと、うっとりです。大久保さん、どうもご馳走様でした。 　どうしても肉料理中心のアナトリアではこういうものは食べられませんし・・・ 　早速いただきま～す！ 　出汁巻き玉子は厚くて柔らか、食べたかった～。 　私は刺身定食、トロがまったりと・・・うわ、もう駄目。 　生魚を食べられない美由紀さんはとんかつ定食。 　庭から写して貰いました。　食後、私はジハンギル・タクシーから迎えに来て貰いました。ディヴリーの地元写真家ユスフ・ギュルダルさんが、シワス地方の名物アルチュ（親指の先くらいの甘い木の実。リンゴと同じような香りがする）をたくさんお土産に持たせてくれたので、ちょっとだけ味見させて貰い、シワスから集団就職しているジハンギル・タクシーの運転手さん達に、故郷の味と香りをプレゼントしようと車を呼んだのでした、　すると、運転手のエユップさんから思いがけない訃報がもたらされました。ジハンギル・タクシーの創始者、シワス出身のミタットおじさんの妻、ハティジェさんが先日亡くなったというのです。　ミタットおじさん夫婦と私は二十年来の友達、私は先日何も知らずにシワスに行ったのでした。すぐにもお悔やみに行きたかったのですが、さすがに留守中の家や猫も気になり、明日にでも、アジア側のやや内陸に入ったところにあるミタットおじさんの家に行くことにして、６日ぶりにわが家に帰宅したのでした。　　美由紀さんが来るたびに猫達の落としたものを拾い上げておいてくれたとは言え、夜来るとまた同じものを拾うのが日課になっていたそうで、想像通りのふんづぐんづ状態のわが家に、嘆くよりもちょっと安心しました・・・　猫達が元気いっぱいの証拠だからです。　でもやはり口ではそういうものの、キャー、参った、参った、私の内心は悲鳴を上げてしまったのでした。　だって新しいソファにかけた古いカーテンの覆いはとっくにヒンめくられて（千葉県東葛飾地方の方言）、猫様達が８匹いっぺんに爪とぎの出来る巨大爪研磨場と化していたからです。愕然っ。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房）「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　 

  2014年11月02日

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  サクランボ狩り　後編

  【６月１５日・日曜日】　朝７時。農場の入り口方面にもう日が高く上って来ている。二階のテラスから見ると、爽やかな風が湖面に波を立てている。庭ではもう黄色い長靴を履いたアリスちゃんとヤウス君が白犬夫婦達と一緒に駈けまわっており、おじいちゃんのメヴリュットさんがもう一仕事したのか、果樹園の方から出てきた。　アリスちゃんとヤウス君は、前の晩メヴリュットさんが早起きしたらボートに乗せて、湖の対岸に連れて行ってやると言ったので、目を覚ますが早いか起き出したのだった。番犬のニーシャも鎖を解かれて、自由に子供達と駆けまわっていた。　子供達が足こぎボートに乗せろと騒いでいるようだ。私も夜具をたたみ、着替えて２階の部屋から下りて行き、庭の隅の流しで顔を洗った。庭に黒い実のなる桑の木があり、メヴリュットさんが「朝、これを３～４粒食べると、胃の調子を整えてくれるんだよ」と言いながら、赤黒くなった実をもいでくれた。 　メヴリュットさんがカラ・ドゥットゥ（黒い桑の実）をもいでくれました。 　白い実もあります。黒い桑の実は自然の胃腸薬としていいのだそうです。 　ニーシャ、３年前、もてあました飼い主に捨てられそうだったのを引き取り、今は農場になくてはならない忠実な番犬として、大事な家族の一員です。 　手前のオス、フユスズと奥さん。２匹の間には白っぽい子犬が３匹。ころころ、もふもふの３匹は今飼ってくれる人を探しているそうです。　家の中の台所ではベディリエさんがもう朝食用のサラダを作っていた。一日中、家族や来客、子供達の面倒を見てクルクルと休む間もなく働いているお母さんなのだ。　そのうちにみんなが起きて来たので、パンに玉子をまぶして焼いていたベディリエさんが、一切れをニーシャに高々と投げてやると、大きな番犬は飛び上って見事にキャッチ、得意そうに食べて見せた。 　鮮やかなジャンプで、ちゃんとパン切れを口にキャッチしました。 　大人達のテーブルに座ってポーズを取る、アリスちゃん（左）とエキンちゃん 　こちらが子供テーブル。チュナル君はさすがにお兄さんの貫録十分。 　女子多数派。後片付けは亜希子さんも手伝います。 　男性陣。これから力仕事が待っています。 　番犬ニーシャと私。まだ信頼されていません。どうしようか考えているようです。でも、一度頬の脇を撫でてやったらすっかりなついてしまいました。私も嬉しい。　朝食では子供達もまた一緒に楽しそう。私達おとなも、爽やかな朝の風の吹くテラスでこの上なく新鮮な庭の朝採り野菜で作られたサラダや、ポテトの揚げものなど豊富な食卓で舌鼓を打った。　チャイの後、亜希子さんと私が果樹園の方に散歩に出て緑のオゾンを吸っていると、日が高くならないうちにと、サクランボのもぎ取り作業が始まり、木の下に大きな脚立が運ばれ、メヴリュットさんとハールンさん、そしてトゥンジャイさんが働き始めた。　トゥンジャイさんもかつて郷里にいた頃、そういう農園で暮らした経験があるとのことで、「ああ、こういうところに住みたい」と言いながら誰よりも手早く、プロフェッショナル顔負けの手捌きで、何時間も飽きずにメヴリュットさんの手助けをしたのだった。 　一番最後に収穫する木、鈴なりの赤い実が魅惑的。 　トルコ語ではキラズと呼ばれるサクランボ。これはナポレオン種で、完熟すると赤黒くなります。 　こちらはヴィシュネ（vişne)、やや酸っぱいので食べるよりチェリージュースに使われます。 　サル・キラズ（黄色いサクランボ）も甘くて美味しく頂きました。 　イチゴはホルモンで大きくしたり糖分を注入せずとも、天然自然に甘いのですね。 　秋にはリンゴも真っ赤になるでしょう。私の手にはセリが沢山。 　サクランボを採りに行く女の子達、なんだか詩情豊かな可愛いショットです。 　サクランボの入ったかごを持つトゥンジャイさん。果樹園の仕事がとてもお気に入り。　そのうちに、ヤウス君のお父さん・お母さんもやってきた。亜希子さんと私が相談してお土産に持って行ったバクラバ他のスイーツは、夕飯のデザートにも、チャイの時間にもテーブルに並べられ役に立った。　午後２時頃、お昼になったが実に大人数だった。亜希子さんと私が庭で見つけたカズ・アヤウ（セリ）とセミズ・オト（すべりひゆ）をたくさん抜いてきたので、昼ご飯の時に、私がミュジヴェル（野菜のお好み焼き風）を作っておかずの一品として出した。　この、雑草として捨ててしまうことが多いセリやセミズ・オトのミュジヴェルは、みんなの評判がすこぶる良かった。特にセミズ・オトはお好み焼きに山芋を入れると美味しくなるのと同じように、ネバネバ効果を持っており、私は家では茹でてマヨネーズとしょうゆで和えて食べるのが好きだった。 　セミズ・オトのヨーグルト和え。ここにはメルジュメッキ（レンズマメ）も入っていて、優しい口当たりです。ベディリエさんのお得意料理でしょう。　トルコでもセミズ・オトは茹でて刻み、にんにくを擂りこんだヨーグルトで和えたりする。八百屋にもたくさん売っているが、市販品はホルモン剤を使って栽培されている大きなものばかりである。私達はキュウリやトマトのハウスの中に生えていた自然のままに見事なセミズ・オトを抜いて土産に貰ってきた。 　朝一度載せて貰ったものの、風がかなりあって対岸には出られず、午後もう一度足こぎボートに載せて貰って楽しむアリスちゃん達。　昼食後、子供同士でずっと仲良く遊んできた小さい３人組は最後に約束通り救命胴衣をつけて足こぎボートで水遊びもさせて貰い、アリスちゃんはとうとう私に言った。「加瀬ハヌム、あのねえ、あたし達、あと１日泊まったらいいと思うんだけど・・・」　やっぱりねえ、と亜希子さんと笑いながらも、夕方になって道が混む前に私達は帰る準備をしなければならなかった。メヴリュットさん一家にすっかりなついたアリスちゃんは、聞きわけよくまた来るからね、と約束してみんなと別れのあいさつを交わした。　サクランボもたくさん分けていただき、５時少し前に私達は出発した。　さようなら、チョルル市サルラルキョイの自然農法・ウチャル農場の皆さん。　自然の中で素敵な思い出をたくさんいただき、ありがとう。　途中で一度休憩をして、アリスちゃんの家のあるイスタンブール郊外の大きな団地の入り口近くにあるバス停には、タキシム広場行きのバスが来るとのことで、余り待つこともなく始発のバスに乗れた上、アクサライまで国道を走るノンストップのエキスプレスなので、私はタキシム広場まで難なく来られた。　バスの降車場の反対側がスラセルビレル通りなのでそこでもまたすぐにタクシーが拾えたので、亜希子さん一家と別れてちょうど１時間、８時２０分にはもう家に着くことが出来たのだった。　家に入るや否や、チョルルのメヴリュットさんやハールンさんに無事帰着の電話を入れ、楽しい週末を過ごさせて貰ったお礼を言った。そして亜希子さんの電話はかからなかったので、トゥンジャイさんにも１時間で帰り着いたことを知らせ、車で往復して貰ったお礼を述べた。　猫達に大急ぎで餌を配り、貰ってきたサクランボとセミズ・オトをきれいに洗い、テレビドラマ「O Hayat Benim」を見ながら、テーブルのうえで根や傷んだ葉を取り除き、その後よく洗った。 　きれいに洗ったサクランボ、セミズ・オト。これらは向かいと下の階の隣人におすそ分けしました。　　農場を歩き回ったので、足腰に疲労感はあったが、快さの方が大きく、私はよく眠ることが出来た。　　　　　

  2014年06月15日

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  サクランボ狩り　中編

  【６月１４日・土曜日】　日が傾いた頃、庭でマンガル（バーベキューのかまど、炉）に火が焚かれ、ハールンさんとチーデム夫人がかまど奉行を務め、夕食はチキンの手羽先手羽元をたっぷり焼いて、ベディリエさんや女性達の心づくしのサラダや前菜がたくさん並んで豪華なソフラ（食卓）となった。 　マンガル（かまど）に火が入りました。ハールンさんとチーデム夫人 　チーデムさんと息子のチュナル君、後ろはナーランさん、右の奥はヤウス君 　日没のとき、真っ赤な残照の中、あたりは夕闇に包まれてきました。 　手羽先、手羽元をきれいに網の上に並べて焼く準備をするハールンさんチーデムさんは焼きなすの皮をむき終わったところです。 　日没が近づいてくると、湖畔の蛙達が一斉にコーラスを始めたので、夕食の時間はことのほか賑やかだった。 　これが焼いたナスを刻み、トマトや玉ねぎ、ピーマンなどの炒め物と混ぜ合わせた美味しいサラダです。 　前菜はスライスしたトマトと玉ねぎのサラダ、いんげんのトマト煮、ヤプラック・サルマス（葡萄の葉で巻き、煮込んだピラフ）など。 　メインディッシュ、チキンの手羽焼きが出来ました。美味しいです。 （カメラの不具合でこれだけは色がきれいに出ませんでした。） 　子供達には別なテーブルが用意され、先に食べさせるのがトルコのならわし。アリスちゃんの嬉しそうな顔、お家では一人っ子なのでこういう食事は格別。 　和気あいあいの食卓、左からチーデム・ハールン夫妻、トゥンジャイさん、メヴリュットさん、末娘ナーランさん、ベディリエ夫人、亜希子さん。 　デザートにもサクランボ。甘さ抜群黄色い品種とナポレオン 　ベディリエお母さんの優秀なアシスタント、チーデムさんとナーランさん 　燃え盛るタキギの炎、火は幻想的な踊りを見せてくれます。　　食後もマンガルには薪を燃やし続けて、みんなで火を見ながら眠くなるまで談笑が続いた。さすがに子供達が１１時近くなると眠くなって来たようで、中学生のチュナル君を除いては寝室に連れて行かれたので、アリスちゃんとママと私も２階の部屋に引き取らせて貰った。　ベッドに入るとアリスちゃんはほどなく沈没してしまったが、私達はまだ喋り足りずにいた。下からウドゥ（琵琶に似た楽器）を弾き語りするメヴリュットさんの声がかすかに聞こえてくる。　この頃になるとカエルの合唱は収まって、辺りは静かになったようだ。　やがてウドゥの演奏もお開きとなったようで、１時近くになる頃、トゥンジャイさんも２階の部屋に懐中電灯を持ってやってきた。屋上のソーラー電池が終わってしまったらしく、２階は真っ暗になってしまっていたからだ。「君達の話は終わったかい？」トゥンジャイさんが聞く。「あと５分待っててね」と私達。「えっ、まだ終わらないのかぁ、よく話すことがあるよなぁ、飽きもせずペチャクチャペチャクチャ」　　湖畔の蛙の声よりうるさい私達２人の日本語のお喋りに、往路の車の中でも閉口していたらしいトゥンジャイさん、でも勘弁してね、この２～３ヵ月、亜希子さんも私も余りにいろいろなことがあって、これでも話足りなかったくらいなの。　やがて、イスタンブールの繁華街で暮らしていると、味わうことの出来ない静寂な夜の帳に包まれて、ほどなくおとな３人も眠りに落ちたのだった。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　

  2014年06月14日

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  サクランボ狩り　前編

  【６月１４日・土曜日】　チョルル市はイスタンブールの西隣のテキルダー県にあって、イスタンブールからは１００キロ余り。隣接するチェルケズキョイ市とともに一大工業地帯を形成しているので、近年人口も急増し、大きな発展を遂げた新興都市だった。　１９年前に私が初めて、今は亡き親友ファトマさんが社長を務めるオヌル・ケータリング・サービス会社を訪れた頃からすると、市街地が目を瞠るほど拡大し、当時２時間に１本イスタンブル・セヤハット社のバスの便があっただけだったのに、今は３０分おきに忙しく往来しており、非常に便利になった。　さて、そのファトマさんの兄メヴリュットさんが、チョルルの町はずれにある湖のほとりに広大な土地を持ち、かねてから無農薬の果樹園や野菜畑で晴耕雨読の暮らしをしているので、何年も前から遊びに来いと言われていた。　先月下旬、堀先生のイスタンブール診療の日、鍼を受けに来たメヴリュットさんが、サクランボは今が真っ盛りだから今度こそ来なさいというので、６月の半ばまでに必ず行くと約束したのだった。　１４日の午後、日本人学校補習校の終業式のあと、午後２時になろうとする頃、アリスちゃんのパパ・トゥンジャイさん運転の車で、ママ亜希子さんとアリスちゃん、私の４人はチョルルに向かったのだった。 　学校は夏休み、通信簿は「５」、アリスちゃんご機嫌でサクランボ狩りにいざ！　土曜午後の交通渋滞でイスタンブール市内を出るのに時間がかかり、途中のサービスエリアで軽い食事を取ったあと、チョルルのショッピング・センターの近くで、メヴリュットさんの息子ハールンさんと待ち合わせ、彼の先導で農場に着いた頃には６時近くなっていた。　チョルル市の共同牧草地を通過すると麦畑や菜種畑の先に小さな湖が見えて来て、辺り一帯が緑に覆われていた。そこがメヴリュットさんの農場だったのである。今日は午後一度驟雨が襲ってきて、気温がぐっと下がり涼しくなったそうだ。雨が降ったせいか、緑が濃くみずみずしく見えた。　金曜日の晩からすでにメヴリュットさんの妻ベディリエさんやハールンさんの妻チーデムさんと息子のチュナル君、ハールンさんの妹ナーランさんと娘のエキンちゃん、ハールンさんの姉の息子ヤウス君などが来ており、家族全員のほかに、犬の夫婦と３匹の子犬が尻尾をちぎれんばかりに振って出迎えてくれた。 　牧草地で出会った牛の群れ。 　牧草地や麦畑を過ぎると、向こうに緑の茂みが見えてくる、それが目指す農場 　入り口の柵を入ると湖のほとりに続く農場の道。たまに間違えて知らない車が入ってきたりする。 　みんなが大歓迎、アリスちゃんも元気百倍、楽しい予感がいっぱいです。 　住居兼用建屋のひさしの下のテラス。チャイを飲んだり食事をしたりする。　アリスちゃんはたちまち大喜び。挨拶の後、住居兼用建屋のテラスで歓迎のチャイや軽食が振る舞われたが、子供達はチャイなど見向きもせず、キャッキャと広い果樹園を駈けまわり、メヴリュットさんも汗だくになって子供達の後を追って遊ばせてくれるのだった。　亜希子さんと私も果樹園でサクランボをもいだり、イチゴをつまんだり、写真を撮ったり、お喋りしたり。週末はベディリエさんがたっぷりと買い物をして息子か娘の車で農園にやってくる。　孫達が集まって来る、親族や友人達が来る、そういう人達のもてなしのためにサクランボのほかにも、ブルーベリー、モモ、リンゴ、ブドウ、洋ナシ、など収穫して、田舎暮らしを楽しんで貰えばいいんだよ、商売としては考えていないよ、と夫妻は語った。　たっぷりの自然に囲まれた湖畔の暮らしでは、果物と野菜と玉子とはちみつは全部自家製なのだそうだ。そしてときどき、湖に小舟で漕ぎだし、網を打って淡水魚を獲る、これを焼いて食べるのが美味いんだよ、とメヴリュットさんは嬉しそうに語った。 　２階のテラスからは湖が見渡せる。 　まだ日は高く、やや雲があるので涼しい感じ。 　洗いものはここでする。チーデムさん（左）とナーランさん 　２階のテラスでおばあちゃんと孫達、そして真ん中がアリスちゃん 　庭でもいできたサクランボを味わいます。アリスちゃんとエキンちゃん 庭と鶏舎との境にこぼれんばかりのピンクのつる薔薇　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「チュクルジュマ猫会」海泡石のパイプやアクセサリーと、「宮古島月桃」の買える店　　アントニーナ・アウグスタ　　

  2014年06月14日

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  コンヤでの残りの３日半　その３

  【２月２０日・木曜日】　ユジェルさんの日本語教室では日曜日に手伝いに来てくれたスヘイラさんとハティジェさんをはじめ、数人の生徒が集まっていた。３年前までは、コンヤに来るたび、いろいろ文化活動をやっている人達とも知り合う機会があったのだが、鍼灸診療ツアーに関わり始めてからこの方、皆無となっていた。　週２回ずつ、２時間程度の授業のようだが、生真面目なユジェルさんもここでは先生として生き生きとしており、生徒達から冗談も飛び出して笑い声に溢れていた。　休憩時間にはみんなが持ち寄ったビスケットやジュースを分け合ってお喋りも弾んだが、私が「君が代」を披露して、日本の国歌を聞いて貰った。　８時半頃授業が終わり、解散後、同じ方向に帰るユジェルさんとミチコさんと私、そしてハティジェさんの４人で「チョルバジュ（スープ屋）」に行くことになった。スープにはパンがついてくるのでお腹の足しにもなるし、遅い時間に取る夕食としてぴったりだ。 　左：ミチコさんとユジェルさん　　　　　　　　　右：私とハティジェさん　そこでも楽しいひと時を過ごし、１０時過ぎにタクシーを呼び、その晩はまたミチコさんの家にお世話になるので一緒に帰った。朝から歩き過ぎの状態なのでぐったりと疲れを感じたが、その分よく眠れたような気がする。　翌朝（２０日）、早目に起きてシャワーを使わせて貰い、朝食には私が手打ちうどんを作ることにした。ミチコさんのところにあった小麦粉は、いわゆる全粒粉（小麦の皮や胚芽など全部一緒に製粉したもの）だそうで、栄養価も高いが色がエスメル（日焼けした肌のような色）で、麺やパンを作るには柔らかさが足りないのでちょっとやりにくいらしい。　それをなんとか力でこねあげ、ウイグルのラグメンを作る手法で拵えた。充分寝かせて待てればいいが、朝食だからそうもいかない。出来上がりの姿にやや不満もあるが、そばのような色をしたうどんが一応出来るには出来た。 　ウイグルのラグメン風に拵えた手打ちうどん。初めて使う茶色い粉です。　いい具合にミチコさん宅には出汁の素や青ねぎもあったので、つゆもまずまずに仕上がったが、茹でるうちにうどんがぶつぶつ切れて、すっかり見栄えの悪いものになってしまった。「ああ、でも美味しい。こんなの、自分だけじゃ作れませんよ。加瀬さんにやり方を教わったので今度やってみますね」とミチコさんがフォローしてくれた。お喋りしながら楽しく食事を終え、ゆっくりと出かける支度にとりかかった。　私は赤いキャリーケースに土産物も全部収めてしまったのだが、重いのでミチコさんがミニバスの乗り場まで引き、アヌ・ホテルの最寄りの停留所まで送ってきてくれた。「ホテルまで行きましょうか？」と言ってくれたが、今日は金曜日でトルコ語の授業があるので、停留所で再会を約束して別れた。。　　ミチコさんも用事があって私の２日後に日本に行くことになっているとのこと。　思えばミチコさんとも、彼女から来た１通のメールが結んだご縁。海外で日本語を教えてきた経験者であり、外国で暮らすことに覚悟のほどが伺える女性だった。　今までたくさんのボランティア希望者を無償でサポートしてきたが、「私はトルコ語が喋れないんだから、関わっているあんたが通訳して当たり前」みたいな人もいるのである。　何から何まで丸投げで私にやって貰っているにもかかわらず、ぐずぐず文句を垂れたり、自分の方が上位であるかのごとく、私をないがしろにした振舞いをする人間が余りに多かった。　ミチコさんは懸命にトルコ語も覚えよう、コンヤにしっかり根を下ろして、日本語教育の基礎を築いていこう、と頑張ってくれている。そういう、謙虚で自助努力をする人は素晴らしいと思う。いつまでも友達でいたい人である。　午後３時５０分発のイスタンブール行きで帰ることになっているので、時間にも気持ちにも余裕がある。　私は昼にまたアヌ・ホテルでユジェルさんを待った。最後の最後に、ヌレッティン先生も誘って、ババジャンでコンヤ・エトゥリ・エクメッキを食べて帰ろうというつもりなのである。 　アヌ・ホテルのロビーにて　２００３年に初めて来た私の定宿、なんだかほっとする。　私がメヴラーナの生誕８００年祭記念誌「メヴラーナ・ジェラーレッディン・ルーミイ」の翻訳の最後の部分を完成させるため、１ヵ月半あまりコンヤで滞在した２００６年末～２００７年初頭の頃は、よくヌレッティン先生とユジェルさんとの３人で、ババジャンのコンヤ・エトゥリ・エクメッキを食べに行ったものだった。　鍼灸診療ツアーに関わっていた３年間、ほとんどババジャンにも行かれなかったので、この前の１０月には１日長く残って、コンヤの友人達と食べに行ったほどだった。　おととい（１８日）ミチコさんと行った時にも、ヌ先生やユジェルさんはどうしたのかね、と店の主人に聞かれ、近いうちに揃って食べにくるわ、と言ったのだった。 　ヌ先生と私。ユジェルさんが歩く辞書なら、ヌ先生は歩く図書館。でも一緒にコンヤ・エトゥリ・エクメッキを食べるときは楽しい。 　コンヤで一番美味しい「ババジャン」のエトゥリ・エクメッキ　　ババジャンの石窯は入口階にある。　いい具合にヌレッティン先生も誘うことが出来た。店の主人の父親である年老いたウスタ（エクメッキ職人）は、何年振りかで一緒に来た３人を見て喜んだ。パンがチョリチョリした独特のエクメッキを美味しく食べて、先生とは店の外で別れ、ユジェルさんとミニバスでメヴラーナ文化センターに向かった。　滞在中何度も、ファフリさんにあちらこちらに迎えに来て貰ったり、送って貰ったりしたので、最後にマロングラッセの箱詰めをお礼に持って、ポストニシン様の部屋を訪ねたのだった。　やがて２時半に、アブデュラーさんのタクシーがメヴラーナ文化センターの車寄せに迎えに来た。玄関まで見送ってくれたファフリさんと別れ、車に乗った。ユジェルさんがメヴラーナ広場で降りたあと、空港に向かった。アブデュラーさんも１０年のお付き合いだ。　前の日、イスタンブールではものすごく深い海霧が発生し、連絡船やシーバス、飛行機も多くが欠航したと聞く。コンヤは良く晴れていたがイスタンブールの霧の影響か、昼間にただ１本しかない私の乗る便も、６０分遅れで到着、もちろん、出発も７０分遅れて５時にやっと動き出した。　今度は窓際、翼の後方に席を取ったので、まだほのかに残る落日の明かりの中を飛び、１時間後には暮れなずむイスタンブールに戻ってきた。 　コンヤを飛び立った直後。翼が空をゆくとき、地上ではアンカラ～コンヤ特急が首都を目指して疾走する。　体調がいま一つ爽やかではないのだが、鍼灸診療ツアーから手を引いて、いずれ私の本来の仕事に戻るための布石が出来たことが、私を少し楽な気分にさせていた。　家にたどり着いたとたん、カプジュの妻が玄関先にいて私の赤いキャリーを見て、「ハディ（さあ）、ジャポン・テイゼ。あたしんちへコンヤ・シェケリ（砂糖菓子）を買ってきたかい？」と言った。　この女も懲りてないな。ぬすっと猛々しいに似たコンヤのことわざを思い出した。（Hem suçlu hem guçlu　自分が悪いくせに居丈高）「何を言う。猫を見てくれたわけでもないのに、どうしてあんたに土産を買わなくちゃいけないんだ？」と一喝するのは簡単だが、ぐっと飲み込んでこう言った。「今回はずっと忙しくて、シェケルを買いに行く暇がなかったのよ。だけど、だいたい、私は土産を買うためにコンヤに行ってるわけじゃないからね」　すると女はさすがにまずかったと感じたのか、「わかったよ、ジャポン・テイゼ。冗談だってば」と取り消した。　欲深い人間と付き合って腹を立てるより、無関心でいた方が自分も楽な気がするが、あいにく同じビルに住んでいるのでどうしようもない。（かつてこの女は部屋の掃除を依頼していた私から、娘と共にお金を盗んでいた）　多分そうだろうと推測していたが、わが家の部屋の中は思った通り見事にすべてが散乱していたが、通いで餌やりに来てくれた友人達のお陰で猫達はたっぷり餌を貰っており、元気に集まってきた。　これからは不毛のボランティアは止めて、なるべく猫達のそばにいてやる、自分の仕事をする、これが正解だ。　　　

  2014年02月20日

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  コンヤでの残りの３日半　その２

  【２月１９日・水曜日】　昨日アヌ・ホテルから、イスタンブールの人々への土産を買いに出たとき、ミチコさんとメヴラーナ大通りに面したシファー・レストランでちょっと半端な時刻にお昼を食べた。３時から４時の間くらいである。　レストランは周囲が全面ガラス張りなので外がよく見える。私の席はちょうどメヴラーナ大通りと交差するアズジエ通りの一時停止線のあたりの前になっており、ふと顔をあげると目の前にMETEなんとか、と大書した色鮮やかな風船の写真に彩られた箱型小型トラックが見えた。　そう言えばメテさんとしばらく会っていないな、どうしているだろうと、私は２００３年にNHKのドキュメンタリーを撮影中に知り合った、旅行会社の若き経営者メテさんを思い浮かべた。　彼はセマーゼンとしての修業も積んだ人だったので、２００７年に朝日新聞の記者さんが取材に来た時、コーディネーターだった私はこのメテさんに頼んで、「旋回を詳しく分析できるように見せて貰いたい」という記者さんの要望に答えたのだった。　私がそのカラフルな小型トラックを見てから５分もしないうちに、交差点を渡ってきた男性２人のうちの１人が私に目を留めて手を振った。丸顔の、太った見覚えのない人である。　すると彼は歩み寄ってガラス戸をとんとんと叩き、私に何とか言っている。向かい側にいるミチコさんには見えないが、ほどなく彼は店の出入り口から入って来て私に「メルハバ！」と言った。「メルハバ、でもベイエフェンディ、何かのお間違いでしょう。私はあなたを存じ上げませんけど」「何をおっしゃってるんです、加瀬ハヌム。メテですよ、セレーン・ツーリズムのメテですよ！」「エイワー（失敗したりまずかったりしたときの感嘆詞）、メテさん、今あなたのことを思っていたら、ご本人が来たので驚いたんです！　それにしてもなんでそんなに太ったの？　見違えちゃったじゃないですか～」「かれこれ３年以上会っていませんね。どうですか、お食事が済んだら私のオフィスはこのレストランの２階に引っ越してきたばかりなので、ぜひお立ち寄りください」　私はそうする、と約束した。　レストランの会計を済ませると、私はミチコさんとともに店の２階にあるというセレーン・ツーリズムのオフィスを訪れ、チャイをご馳走になった。　メテさんは１年ほど前に結婚したといい、美人の奥さんの写真を見せてくれた。奥さんが料理上手だとトルコ男は太るのである。オフィスも移転してまだいくらも経たないらしく、ミチコさんを紹介すると、メテさんは達者な英語でミチコさんにも話しかけて、笑顔を振りまき如何にも嬉しそうだった。こうしてまた一人、親切な友人をミチコさんに紹介出来て私も嬉しかった。　　さて、今朝、ミチコさんは私のためにご飯を炊き、ポテトサラダやオムレツで朝食を作ってくれた。 　ミチコさんが作ってくれた朝食。お鍋でご飯を上手に炊いてくれました。　本日１９日はユジェルさんの現在の職場を訪問することになっていて、朝もゆっくり出たのだが、ミチコさん宅の近くから乗ったミニバスを、ザッフェルという地区で下りて、ダラダラした長い坂を下るうち、気分が悪くなり、目指すエトノグラフィア・ミュゼシ（民族誌学博物館）に着いた頃、がっくりして玄関ホールの長椅子に腰を下ろしたきり立ち上がれず、博物館内をユジェルさんが案内してくれると言うのをパスしてしまった。　とろとろと、長椅子でしばらく居眠りをしていたのか、館内の人声が昔の短波放送のように近づいたり遠のいたりして聞こえた。ユジェルさんの部屋に通され、同室の考古学者アイシェギュルさんが注文してくれたトルココーヒーをご馳走になってから博物館をあとにした。　延々４キロ近く歩いて、コンヤのもっとも古い商店街に出た。カラタイ区のメフメット・ハンチェリ区長は、自身が建築家なので古色蒼然とした商店街を、一気に作り替えて美しい街並みにしようと、３月３０日の地方選挙をターゲットに突貫工事を進めさせている。 　いつになったら普通に歩けるんだい、と市民は困惑状態の、商店街大改造プロジェクト　どこもかしこもいっぺんに全部掘り返しての工事だから、街にはもうもうと砂埃が上がり、道はほじくり返されて車は通行止め、住人さえどこをどう歩いたら自分の店にたどり着けるのか、という具合で、一部出来上がった街並みを見ると、映画のセットのように、表側はきれいになっているが、後ろはつっかえ棒で支えているんじゃないかというくらい、薄っぺらな感じ。　ミチコさんを案内して、私が最も気に入っているコンヤ・エトゥリ・エクメッキの小さな店「ババジャン」に入った。ババジャンと言うのは日本語で言えば「親父気質」とでも訳そうか。　すると同時に店に入った１人の紳士が、「トルコ語がお上手ですね」と話しかけてきた。そして、コンヤ・メヴラーナ文化センターの渉外部長のセリムさんと言う人に電話をかけてその場で紹介してくれた。　話してみると、セリムさんは日本語ペラペラの中年紳士だった。２０１２年に、２２年いた日本から郷里のコンヤ市役所に部長職で赴任したという。食事のあと、私達はファフリさんを訪ねる予定にしていたので、同じメヴラーナ文化センターの館内にオフィスのあるセリムさんに挨拶に行ってみよう、ということになった。　最初にファフリさんを訪ね、ちょうどファフリさんはコンヤ・トルコ・イスラーム神秘主義音楽集団の芸術監督であるユスフさんと打ち合わせ中だったので、その部屋に招かれた。ほどなくユスフさんが私達の話を聞くと、交換台に電話して「ジャポン・セリムの部屋に繋いでくれる？」と言った。ミチコさんと顔を見合わせ頬笑み合った。ジャポン・セリムとは日本人のセリム、そういう愛称で呼ばれているらしい。　セリムさんには先客があったので、その人との話が済み次第、会ってくれることになり、ファフリさんがセリムさんの部屋に付き添ってくれたのだった。メヴラーナ文化センターの建物も広大な敷地に２棟が並んで建っているのだが、片方は国の機関、片方はコンヤ市の機関が入居しているのだった。　しばらく秘書の部屋で待つことになったが、やがて４時頃招き入れられ、ファフリさんもセリムさんに普段あまり接する機会がないので挨拶して行きましょう、と一緒に入って、私のことを、メヴラーナを愛するドスト（親友）だと紹介してくれた。　セリムさんの日本語も素晴らしいもので、私はこのお方なら、メヴラーナ文化センターの外に掲げられているモニュメントの格言が間違っている話を、きっと理解してくれそうだ、と思った。　セリムさんは自己紹介しつつ、日本でどんなに輝かしい人々と仕事をしてきたかを説明してくれた。日本の首相、大臣達、国会議員達、実業家達、トルコ大使、日本を訪れたトルコの首脳達・・・　話の切れ目を待って、私は用件を切り出した。　　メヴラーナの７つの教え（格言）のうち、最後の、「ありのままの自分を見られるか、あるいは見られたとおりの自分でありなさい」（加瀬訳）という一文が、この建物が完成した２００３年には建物のアプローチのモニュメントに、こんな訳文で彫り込まれていたのだった。　あることをようであると同時にまたはあるためにあるようにあることをであって下さい　　私はこれを２００５年の暮れに見た日本人のブログから知り、ブロガーの女性にメールを出して承諾を取り、コンヤ市役所に２年近い間に３度も足を運んで、これを直してほしいと申し込んだが、相手にされなかった。　その不誠実な態度に、ついに最後はメディアに訴え、テレビや新聞で取り上げて貰ったら、ようやく担当の役人Eはメディアに私をこき下ろしながらも、モニュメントを塗り潰させた。　その後、１年以上も経って、忘れた頃に新しいモニュメントが嵌め込まれたが、今度はいくらか日本語らしくはなっているものの、メヴラーナの言葉とはほど遠い、意味不明の言葉が並べてあるだけのものだった。　心のままにあれ　さもなくば　ありのままの心を持て　　私はこれを訴えたが答えは意外だった。　「この件については、前の責任者のEさんから、私が仲介を頼まれまして、異なる翻訳者の訳した幾つかの候補の中から、高名な国文学者の○○先生に選んでいただいたものです。あなたのは直訳過ぎますね。じゃあ、ありのままの人間が悪い考えを持っていたらどうですか。私はこの文章は、読んだ人にそうあってはいけない、ということを考えさせるという意味でふさわしいと思います。そういうわけで日本の高名な学者の先生が選んだ言葉ですから、これを取り下げるわけにいきませんので、この件についてはご了承願いましょうか。いいですね」　セリムさんはニコニコしながらそう説明している。　え～っ、だったらその、高名な国文学者って、よっぽど馬鹿だよ！　「そうでしたか。でもやっぱり私から見るとメヴラーナの言葉とは違います」　一矢を報いたつもりで言ったが、セリムさんはただ笑っている。　こりゃ駄目だ、私はもうこの人とは話しても仕方ないと思い、口を閉ざした。　セリムさんはかつて私をさんざんコケにした元の担当役人Eをほめちぎった。「いま、あの方はコンヤ市長のヤルドゥムジュ（副市長）ですよ。優秀な方ですから出世して高い地位におられるわけです」　５時ちょうど、セリムさんのところを辞して、ファフリさんに電話すると、ポストニシンの自室で待っていてくれて、ミチコさんと私をユジェルさんの日本語教室の開かれる建物まで送ってくれた。　　道々ファフリさんが聞いた。「セリムさんとはどうでしたか？」「ファフリさん、それが実はこれこれしかじかで・・・」「エイワー、それはまずかったですねえ。Geçmiş olsun! 」「ありがとうございます。でも、モニュメントなどもう大した問題ではありません。私は高名な学者ではないので、忠実にメヴラーナの言葉を訳していこうと思います」　　ファフリさんが笑って「それがいいですね。あなたならきっと成功なさいますよ」と言ってくれた。ポストニシン様の応援こそ、私にとっては最強。もうくよくよしないことにした。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

  2014年02月19日

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  コンヤでの残りの３日半　その１

  【２月１８日・火曜日】　２月１７日（月）　お世話になったアヌ・ホテルのオーナー、ベキルさんに会って礼を述べ、チェックアウトした私は、ホテルに荷物を預け、１２時にユジェルさんと待ち合わせて食事をしたが、私が持つつもりでいた食事代をさっと払ってくれて取ってくれなかった。有難くご馳走になり、タクシーを拾ってメヴラーナ博物館の向かい側にあるウチレル霊園に向かった。　コンヤに来てからずっと天気がよく、温かい日が続いている。旧市街の中心部にあると言ってもいい霊園は広大だが、まっ平らな地勢なので長く歩いても疲れない。奥へ奥へと進んだところで、通りからも見える位置にメフメット・アリさんのまだ新しい墓があった。　１９６８年生まれ、満４５歳。学生時代から日本大好きで、とうとう私財を投げ打って設立した日本文化センターが、ようやく文化協会として機能し始めてきた去年の３月、体調を崩し検査の結果がんと診断されてまず胆嚢を切除、それでも快復せず、２度目の開腹手術では、医師が手の下しようがないと、そのまま縫合されて、あとは抗がん治療など病院通いが続いていた。　去年シェビィ・アルースの翌日、１２月１８日にお見舞いを申し込んだが、既に重篤な状態で家族以外は面会謝絶、会えないままに、３１日の深夜、不帰の客となったことを元旦の朝、ミチコさんが知らせてくれたのだった。　私はメフメット・アリさんと親しかったり、友好行事などでお世話になった日本人の人々を代表して墓参に来たのだが、みんなの思いが私に乗り移ったかのように、初めて彼の墓前で声をあげて泣いてしまった。 　ウチレル霊園の門の前にはメヴラーナ博物館があり、コンヤの聖地といえましょう。 　メフメット・アリさんのまだ新しい墓。（立木の向こう側、小さな石がある）半年から１年後にこの上に、名前を刻んだ大理石の墓石や囲いを作ります。　人の命のはかなさ、あの日のこと、この日のこと、日本文化センターの開所式に招待を受けて、メフメット・アリさんと初めて出会った２００９年の５月１６日（土）のことなどが思い出された。　あの、コンヤ・日本文化センターの開所式の日はメフメット・アリさんにとって生涯最良の日であったろう。　　　開所式の日　　　　こちらから　その後何度も私はコンヤと日本の交流行事にコーディネーターを頼まれ、ずっとメフメット・アリさんを手伝った。　ユジェルさんもそろそろ職場に戻らないといけないので、私はそのあと道路を隔てたメヴラーナ博物館内にあるメヴラーナ廟にお参りすることにして、博物館の入り口で別れた。１月に購入したミュゼ・カルトが役に立った。　メヴラーナ博物館を訪れるとき、私はかつての親友ファトマさんの形見のスカーフを被り、襟もとには富成アイシェさんの遺影、指には母の形見の指輪を嵌めていた。先日セマーを見たときと同じいでたちである。 　ファトマさんのスカーフ、富成アイシェさんの遺影、そして指には母の形見の翡翠。　博物館を出た後、クレシテという大きなショッピング・センターまでタクシーで行き、ブティックを経営しているムスタファさんを訪ねた。メフメット・アリさんの子供時代からの親友ムスタファさんとも、あの開所式の日に紹介されて以来よく出会っていた。　彼は未亡人のアイシェさんに電話して、私が訪問したい意向を伝えてくれた。それでは明日の晩、７時に、という約束が成立したのだった。　クレシテを出た私は、アヌ・ホテルでミチコさんと出会い、今夜泊めて貰うことになっているメフタップさんに連絡を入れてホテルを出た。ミチコさんも久々に夕飯を一緒に、とメフタップさんが呼んでくれていたのである。アパルトマンの入り口にあるパスターネ（ケーキ店）でお土産を買った。　メフタップさんと夫君のムスタファさんが大歓迎してくれる中、チキンのピラフやヤプラック・サルマス（ブドウの葉にピラフを巻いたもの）をご馳走になったあと、歓談のひとときを過ごし、やがてミチコさんは自宅に帰って行った。 　テーブルをセッティングするメフタップさん。堀先生の痩せる療法でこんなにスマート・・・ 　ヤプラック・サルマスと、チキンを入れた炊き込みご飯（タヴック・ピラヴ）　２月１８日（火）　メフタップさんの家で朝を迎え、朝食をご馳走になって、朝のうちにヌレッティン先生のいるアタテュルク博物館を訪ねる約束だったが、博物館で何か工事をやっているらしく今日まで休み、先生はアヌ・ホテルで会おうと言う。　メフタップさんの家を出るとき、もう一度パスターネで今晩訪ねる予定の、メフメット・アリさんの家族に向けてチョコレートの詰め合わせを拵えて貰った。　アヌ・ホテルでは、私がまたそっくり同じ格好で戻ってきたのでベキルさんが驚き、「これならホテルで泊まった方がよかったじゃないか！」と言った。 　ベキルさん（奥）と、ヌ先生。 いつもここで延々と四方山話をする。　　ほどなくヌレッティン先生も到着、１２月に私に依頼した掛け軸の文字の読み方について、友人の紀子さんを通して調べて貰い、分かったことを披露した。　そのうちにミチコさんも着いて、しばらく歓談したのち、先生達と別れ街に出てイスタンブールの人々への土産を買い、用事を済ませておいた。　アヌ・ホテルに置いた荷物を取りに戻って、ユジェルさんの来るのを待ち、６時頃アブデュラーさんのタクシーで、先にミチコさんの家に私の荷物を置いて貰い、それからメフメット・アリさんの家に向かった。　どこをどう通っているのかさっぱり見当がつかないほど遠く、ユジェルさんにあらかじめ渡しておいた１００リラで往復できるのかどうか心配になるほどだった。小一時間も走ってようやく着いた。タクシーには３０～４０分待って貰うことにして、家にお邪魔した。　アイシェさんはもともと小学校の国語の先生で、車で４０分ほど北西に行ったサライオニュ郡の学校に通っているのだそうだ。トルコ女性には珍しく、若くして未亡人になっても、悲しみを引きずっている様子はなく、覚悟の出来た人と言う印象だった。　日本やイスタンブールにいる、メフメット・アリさんを知る人々からのお悔やみを伝え、わけても現在大阪に住む昌子さんと言う女性はかつてコンヤに住み、希望者に日本語や英語教えていた。彼女こそメフメット・アリさんの日本好きにおおいに拍車をかけた人で、私と昌子さんは２００４年に知り合って、時々メールのやり取りもしていた。 １月の初め、昌子さんにメフメット・アリさんの逝去を告げるメールを出したら、彼女も友人からのメールでその日、彼の死を知ったとのこと、私のメールに返事を書きながら涙にくれています、と昌子さんは書いてきた。　その後、アイシェさんにお悔やみの電話を日本からかけたのだそうだ。私がアイシェさんに昌子さんのことを切りだすと、アイシェさんは初めて切ない表情をして、そのときはやっぱり電話口で２人ともずっと泣いてしまいましたよ、と昌子さんについて語った。 　左から私、次女ベリルちゃん（１０歳）、アイシェさん、三女ギュルニハルちゃん（７歳）、右端ミチコさん　開所式の日に５歳だった次女のベリルちゃんも今年は１０歳になる。まめまめしくお母さんを手伝い、断片的に日本語を知っていて、いまに日本で勉強したい、と行った時にはさすがに目の奥がじんとしてしまった。　　その夜、アブデュラーさんも「お悔やみに行く人には私も協力しよう」と言って片道分だけしかお金を取らず、帰りはまたまた長い道のりを走って、私の頼んだメラム地区のとあるレストランに送ってくれた。　ずっと気になっていたメフメット・アリさんの墓参、遺族への弔問を果たしたので、私は協力してくれたミチコさんやユジェルさんとゆっくり晩餐を楽しみたい、と思ったのだった。 　Ｔボーン、トルコで初めて食べました。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「チュクルジュマ猫会」

  2014年02月18日

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  鍼灸診療ツアー　コンヤの３日目　通訳見習い

  【２月１６日・日曜日】　朝早く目覚めたので、夕べ、食べきれなかったコンヤ・エトゥリ・エクメッキのパッケージを冷蔵庫から取り出し、カロリフェル（蛇腹式温水循環式ヒーター）の上で温め、朝食にはそれを食べた。　今日もポストニシンのファフリさんが、堀先生をシューレさんの家のそばからピックアップ、そのあと私をアヌ・ホテルまで迎えに来てくれたので、メヴラーナ博物館の少し西の方にあるメヴラーナ文化センターに９時前に到着、日曜日でメヴラーナ文化センターは休みなのだが、職員のアフメットさん他が出勤していて、セマーゼン・バシュ（セマーゼンの長）の部屋に３台のランザ（寝台）が持ち込まれ、用意が整っていた。　来る途中でファフリさんに、サフランボルから患者が２人、前日時間内に終わらなかったので今朝、ここでやらせていただきたいと頼むと、もとより寛容なファフリさんが嫌と言うはずもなく、「ハイハイ（トルコ語でも同じ意味）、どうぞあなたのご希望通りにして下さい」と答えた。　既にミチコさんも到着、顔なじみのセマーゼン達が幾人か来ていたので挨拶を交わし、すぐに先生も私達も道具類を広げた。そこにセイフさんがムスタファさんとその息子を連れて賑やかに登場した。まったくさわがしい人ではある。　白髪のドクトル、ムスタファさんが長い廊下を歩いてくるのを出迎えると、その歩き方はやはりとても辛そうで、息子につかまってやっと歩いている感じだった。「堀先生、ではサフランボルのドクトルを最初にお願いします。あと息子さんも」と言って、私が息子さんの方を見ると、彼は手を振って「今日はよそ様にお邪魔しているので、どうぞ父だけを診てやってください」と言う。　かくて、ムスタファさんと若いセマーゼンの２人を寝台に招き、先生がまずムスタファさんから診療を始めた。腰骨が左右とんでもなくずれていて、その姿勢で長年無理に歩いていたので、右側の筋肉が縮んで２センチも足が短くなっていたらしい。　少し強めな鍼と灸でその縮み切った長年の苦痛のもとを充分伸ばし、やがて背中に最後の処置である置き針を貼り付けた後、先生はムスタファさんに歩いてみるように言った。　すると、さっきまで息子にすがってようやく歩いていたようだったムスタファさんが、「あれえ？」と言うような顔をしながらも、胸を張って右足をしっかりついて部屋の中を２，３度歩き、「すごいね、歩いた感じがまるで違う」と私に小声で言った。「２～３日の間、縮んでいた身体が元に戻ろうとして、なお、腰や首筋に痛みをもたらすかもしれませんが、そのあとはずっとよくなったのを感じられるでしょう。今度の５月末、堀先生は再びコンヤに来られます。サフランボルの皆さんもこちらへ治療を受けにくるので、ムスタファさん、あなたもお時間の都合をつけてぜひ、皆さんと一緒にコンヤへまたおいで下さいね。では、お大事に」　ムスタファさんは「私も医者だ！　一介の通訳と話をしても埒が明かん」と息まいていた昨夕のシニルリな（怒りっぽい）態度は全く影を潜め、私と話をしなければそれこそ埒が明かないのをよくわかってくれたようである。　部屋を出ると、もう息子さんの差し伸べた手を無視して心なしか背すじもしゃんとした老ドクトルは、元気に長い廊下を歩いて帰って行った。　２巡目の男性３人の中に、常連のスアットさんがいて、年々太さが増してゆくお腹に嫌気がさし、昨年の２月に先生に相談、無理のないやり方でダイエット・プログラムを施行して貰うことになった。間に２度治療しているので、今回は４度目、１年のうちに５～６キロ痩せたと言う。　スアットさんが最初に痩せるプログラムを受けた頃のブログ　　こちらから 　ミュージシャンのスアットさん。１年前から先生の痩せるプログラムを受けている。自然のままに暮らして全部で５～６キロ痩せたそうです。　　そのあと女性達の番となった昼過ぎ頃、スヘイラさんとハティジェさんという、スカーフを被った若い女子大生２人がやってきた。ユジェルさんの日本語教室でもう３年ほど日本語を学んできた２人は、ときどき「てにをは」を間違えたりはするが、かなり上手に日本語を話せるので、私がこの仕事から手を引いた後、通訳の必要に迫られることを察したミチコさんが、実習のつもりで２人を呼んでくれたとのことである。　　　私もミチコさんや２人の若い学生に感謝して早速どんなことを通訳するのかを実習して貰うことにした。真面目な２人がミチコさんの指導で先生の反対側に立ち、患者さんのどこが痛むのか聞いて先生に伝えるのをやって貰ったのだが、いきなり呼ばれてきたところで、通訳の経験など皆無の学生に、先生の通訳が務まるわけもない。かえって可哀想なことにならなければいいが・・・と心配しながら見ていた。　　案の定、先生が「いや、そうじゃなくて！　どこがどう痛むのかを聞きだしてほしいんですよ。たとえば日本語だったら、ちくちく痛む、ずきずき痛む、ガンガン痛むなど、何種類も痛さのバージョンがあるわけですよ。それを知りたいんです」　まあ、１日に何万円も出して雇っている通訳が役に立たないなら、雇った方は何とでも文句が言えるけど、好意で来てくれた、しかも新人も新人、日本語習得中の学生には無理な話なので、「それは追々に覚えて貰えればいいのよ」と２人にトルコ語で助け舟を出しておいた。　それでも彼女達は一生懸命、「鍼灸」という言わば中国伝来の古来からの日本文化の一つである治療法に関して熱心に学びながら、通訳を務めようと頑張ってくれた。　本日は最終日で、ユジェルさんも午後からやってきた。先生が泊まりではなく、夜９時半くらいのイスタンブール行きで飛び、そのまま成田行き０時５０分の便に乗るためには、遅くも６時までに終わらせなければならなかった。 　左からファフリさん、先生、スヘイラさん、ミチコさん、私、ハティジェさん　いい具合に６時ちょっと過ぎには店じまい出来て、そのあと、ファフリさんの親友で、治療を受けに来た近くのガソリンスタンドチェーンの社長メフメットさんが、私達全員に夕食をご招待したいと言って、メヴラーナ文化センターからもほど遠からぬ大きなレストランに連れて行ってくれた。　そこでコンヤ・エトゥリ・エクメッキはじめ、ガソリンスタンドの社長さんは既に注文しておいてくれたので、あとあとご馳走が届いた。　しかし、ミチコさんも私もご馳走は嬉しいが、慌ただしかった最終日の疲れも感じて食べようと言う気にならず、わずかに玉ねぎの炒め物をたべただけだった。　空港にはファフリさんが車で送ってくれることになっていたので、私とユジェルさんも見送りに行った。拡張工事の続くコンヤ空港のセキュリティの手前には、ものすごい人垣が出来ていた。ウムレと言うイスラームの宗教行事でメッカに行く人々と、その数倍の数の見送りの家族がいるので、大混雑なのである。　以前は見送りの人々もみんなロビーに入ることが出来たので、待合室がそれこそ芋を洗うような大混雑だったが、これでもいくらか改善されたのだろう。　コンヤというところはそういう土地柄で、鍼灸診療ツアーでも受診を申し込んだ人が奥さん、兄弟、おじおば、いとこはとこを引き連れてやってくる。　ついでに診てやってくれ、という。予約の時間もへったくれもない。先生がそれらの人を診てやってしまうので、１日に３０何人も押し掛けた。　でも、そういうたぐいの人々は、スタッフの交通費の支援に、昨年夏から４０リラ（２０００円）ほどを申し受けたい、と言ったら、もう来なくなった。　さて、先生がセキュリティに並んだのを見届け、私達は空港を離れた。ユジェルさんが私に付き合ってアヌ・ホテルまで戻ってくれた。ファフリさんも昨日の夜、セマーの儀式に出て、今日は一日私達に付き添っていてくれたので、お疲れと思う。私が４日ほど逗留すると言うと、自宅にも誘ってくれたが、今回は用事が多いので、オフィスでの再会を約束してホテルの前で別れた。　そのあと、アヌ・ホテルのロビーでユジェルさんと私は２時間半ほど、ゆっくり話しこむことが出来た。彼と話していると心が落ち着くのだった。　明日の昼、ユジェルさんと待ち合わせ、お昼を食べた後、メヴラーナ博物館の道路を隔てた向かい側にあるウチレル霊園に、メフメット・アリさんの墓参りに連れて行って貰う約束をして別れ、長く感じられたコンヤの３日間に渡る鍼灸診療ツアーは幕を下ろしたのだった。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「チュクルジュマ猫会」

  2014年02月16日

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  鍼灸診療ツアー　コンヤの２日目　セマー

  【２月１５日・土曜日】　サフランボルの老ドクトル達が引き上げ、残ったゼフラさんともう１人のコンヤのとある工場主のムスタファ・ジェイランさんを７時１５分までに仕上げて先生は診療を終わらせた。　院長のメフメットさんは先生とミチコさんと私をまた食堂に案内し、コックさんに命じて色鮮やかなキュウリやトマトのスライスをたっぷり並べ、近所の食堂から取り寄せてくれたコンヤ・エトゥリ・エクメッキのまだ温かなもので夕食を調えてくれた。 　メヴラーナ大学病院での夕食。メフメット院長の一人娘イペッキちゃんとお父さん。イペッキちゃんの両頬の白い丸いものは私が貼り付けた灸点紙、お気に召したようで、ずっとはがさずに家に帰ったそうです。 　さすがにお腹がすきました。みんなでいただく夕食は格別。　　私が以前から三度の飯よりコンヤ・エトゥリ・エクメッキ、と騒いでいたので、いつもちゃんとそれも出してくれるのである。食べきれないのでまたパッキングして貰い、先生やミチコさんとは別れて、病院の連絡車でセマーを観るためにメヴラーナ文化センターに送って貰った。　私を送り届けた連絡車がミチコさんを自宅の前まで、先生を今夜泊まるシューレ嬢の家まで送ってくれることになっている。文化センターに向かう途中で、ファフリさんから電話がかかってきた。「由美子ハヌム、こちらへ来られますか」「はい、今メヴラーナ病院のかたに送っていただいてもうじき着きます」「そうですか。では儀式が終わってお帰りになる時、私がアヌ・ホテルまでお送りしますから電話をください。」　コンヤのメヴラーナ文化センターでは、毎週土曜日、セマーの儀式を本格的なメンバー構成で一般公開している。入場無料で、シェビィ・アルースの時のように、アトラクションや演説などがないので正味１時間半くらいで終わるのである。これを見逃したくなくて、以前は必ず土曜日にかけてコンヤに来ていたものだ。　私は去年の１２月、日本から帰ってすぐにシェビィ・アルースのフィナーレに間に合うようにコンヤに来たのだが、このセマーサロンは３，０００人の客席ではとうとう足りなくなり、文化センターの近くに、１万人分の客席を持つ巨大なセマーサロンが建造されていて、この夏までは完成するので、今年のシェビィ・アルースはそちらで行われるだろうとのことである。　年に一度のシェビィ・アルース、１２月１７日のメヴラーナの命日のために、エルドアン首相がツルの一声で造らせているのだそうだ。何しろ、イスタンブールのチャムルジャの丘に、おそらく「レジェップ・タイイップ・エルドアン・ジャーミイ」なるものを造る手前、メヴラーナにもプレゼントをして、首相には何かみそぎをしなければならないことがあるのだろう。　真冬の土曜日なので、場内は空席も目立つが、コンヤに来てからの２日間、上天気で気温も高く、昔の寒さはなくなったような気がする。　巨大な丸天井に、近年立派な照明装置が取り付けられたのはいいが、その色の使い方が最悪で、せっかく厳粛な儀式なのに真っ赤だの、海の底のような暗い青みどりだの、最後の旋回の時などは紺と紫のどんよりした照明なので、セマーゼン達の踊る姿がカメラにはっきり写らないと言う、どうしようもない状態だ。　それでもファフリさんのポストニシン、亡くなった日本文化センターの会長、メフメット・アリさんの同級生で、親友でもある、サミーさんのセマーゼン・バシュというコンビで、舞台は重厚な雰囲気を醸し出していた。 　ファフリさんのポストニシン（手前）と、サミーさんのセマーゼンバシュ　私の指には母の形見の指輪、髪にはファトマさんの形見のショール、そして胸には富成アイシェさんの遺影、そんないでたちでセマーを観賞したのち、私はファフリさんと、セマーゼンとして舞台に出た２人の息子さんに送られて、アヌ・ホテルに帰ってきた。　明日はいよいよ最終日、セマーゼン達のオフィスで鍼灸診療ツアーが行われる。その晩、私は暖房のきいた暖かい部屋で、初めてのびのびと手足を伸ばして熟睡することが出来た。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「チュクルジュマ猫会」

  2014年02月15日

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  鍼灸診療ツアー　コンヤの２日目　帝王切開

  【２月１５日・土曜日】　今日は授業がないので、とミチコさんが朝から手伝いに来てくれた。９時になると、前回のツアーで初めて治療を受けた、ムーンフェイスの女性トゥーバさんが、再びお母さんと共にやってきたが、この４ヵ月で驚くほどの変化を見せていた。　トゥーバさんは医者の誤診で、通常の何倍もの高単位で、男性ホルモン剤を服用するよう指示されていたのだ。生理が無くなり、子供が欲しいのに妊娠の機会もなく、絶望的な顔つきで私達の前に現れたのだった。　最初に診察した時、まるで男の顎髭のように伸びていた頬から顎にかけての産毛がほとんどなくなっており、まん丸だった顔が、お母さんに似た細面の美人の面影を取り戻していた。体重も５キロ余り減ったそうで、すらりとした体型が戻りつつあった。　トゥーバさんは、診療が済むと遠慮がちに先生に聞いていただけないかと私に頼んできた。彼女の弟嫁が出産以来幾年も、体中の痛みに耐えきれないほどの日々を送っているというのである。先生も診察を承諾、弟が車ですぐに迎えに行き、ほどなく彼女がやってきた。　もちろん、その間にも顔なじみの人々が来たりして昨日の午後以来、忙しさが続いていた。午後はメヴラーナ大学病院に移動する約束になっているので、あまり新患は受け入れられないが、せめて彼女の痛みを和らげてやれたら、と先生も快諾してくれたのだった。　ハティジェさんはまだ２８歳、３年前に帝王切開で女児を産み、それまでは特に変わったこともなかったのに、出産後、とにかく体のあちこちがピリピリと痛み、時には料理も掃除も出来ないほど悩ませられるとのことだ。「これは日本では線維筋痛症と呼ばれている、比較的新しい病気で、まだ世間であまり広く知られていないものですよ。何しろ原因が分からないのです。いろいろ検査をするでしょう、でも結果が出ないんですよ。要するに異常なし、と出る。リウマチ系の病気と思われるんですが、とにかく本当にあちこち痛いらしく周囲にはそれが分からないから厄介な病気です」　先生はミチコさんと私にこう説明してくれたが、鍼と灸で丁寧に痛みの原因となっていそうな部位を治療した。ハティジェさんのお腹には、帝王切開だと言うのにおへその下に縫合のあとがなかった。「そう言えば変ですね。もし差し支えなければ、縫合の跡を見せて貰えるでしょうか」と先生。彼女に頼んでみると快く下着をずらして見せてくれた。そこには１５センチ程度の細い傷跡が横真一文字に残っていた。「えーっ、トルコでは帝王切開、横に切るの？」先生と私がほとんど異口同音に言い、私はハティジェさんに聞いてみた。「ええ、横ですけど」とハティジェさんは怪訝そうな顔つきで答えた。「世界的に帝王切開は縦切りですよねえ。それをトルコでは横に切っている。いや～、これは知らなかったねえ。腹筋の繊維を真横から切ってしまうのでは開腹後の縫合も面倒になると思うのですがねえ。こりゃあ、研究の余地がありますなあ」と先生。「先生、トルコでは自然分娩より帝王切開の方が多いらしいですよ。医者の都合のいいときにやれますものね」　私も常識を覆すこの帝王切開の横切りと言うのにびっくりしつつも、ビキニを着たいがために、手術の仕方も変えてしまうとか、バストラインをきれいに保つために、赤ちゃんを産んでも母乳をやらないとか、自然の摂理に逆らったことが多すぎる。　自分は自然分娩と母乳で子育てしてよかった、と思った。まあその代わり、３０代のうちからもう、思いっきり「垂乳根の母」となってしまったが・・・　とにかく、トルコの横切り帝王切開の話題で、先生と私達は大いに盛り上がった。　ところが、知らぬが仏とはよく言ったもの、これには後日譚がある。　先生が１６日（日）の夜のイスタンブール行きでコンヤを離れ、１７日の午前０時５０分の便で日本に帰国した。１９日の朝、ミチコさん宅に泊まっていた私に、先生から帰国報告の電話が来て、１７日の夜無事帰宅、高齢の母堂も安泰だったし、患者が押し寄せてまるきり休憩もなく、翌朝からすぐに診療を再開したとのこと。　「よかったですね」と言ったら、「あともう一つ報告があるんですよ。実はね、私達が知らなかっただけで、日本でも帝王切開はこの頃横切りが主流なんだそうですよ」「えーっ、本当ですか!?」「いや～、うちの患者さんに聞いてみてよかったですよ。こっちも医者のはしくれ、知らなかったでは済まないですからねえ」　たしかに・・・トゥーバさんとその義妹は、先生に沢山の研究材料を提供してくれたことになる。　さて、２日目の午後はメヴラーナ大学病院からお迎えの車が来て、ハティジェさんで長引いたので３０分遅れにして貰い、病院の食堂にまずは連れて行って貰った。　院長の眼科医メフメット・ボラザン氏と看護師長の女性ゼフラさんがお相伴を務めてくれて、コンヤ・エトゥリ・エクメッキはじめ、美味しいチキン料理が待っていた。 お昼からして盛りだくさんな、メヴラーナ大学病院のお食事、院長メフメット・ボラザンさんがいつもこうしてくれるのです。　有難くご馳走になって、いつものようにメヴラーナ大学学長夫人、セルピルさんやその友人のエスラさんから治療が始まった。　　病院の２室を使って、順調にことが運ぶかに思われたが、４時から５時の間に予約を入れていたサフランボルからの父子２人組が遅れに遅れ、５時半頃到着した。しかも長い廊下を私に手を振りながら先頭でやってくるのはおとといイスタンブールでごねたあのセイフおやじではないか！　このセイフと言う名の、学校の先生をしているという５０歳前後のおやじは、１３日朝、サフランボル組が来た時、予約に入っていないのに、みんなと一緒にやってきて、初めは連れて来ただけだと言っていた妻までやってくれ、と言いだし、団体の日なので２人も余計に増やすのは無理、と言っているのにしつこく診療中の部屋に顔を出し、何度も奥さんのことを言い立てるので、うるさくて仕方なく、私達のお昼の時間を半分にして診てやることにしたのだった。しかも彼は２人分の診療スタッフへの支援金を、自分の受け持ちの生徒の父親に払わせているのだった。　あの日、お昼は真由さんが日本料理の仕出し屋に出前を頼んでおいてくれたので、それを大急ぎで３０分で食べて、セイフさんの奥さんを招じ入れたのだった。まったく、ヤツのせいでせっかくの和食弁当の味が半減したわな！　メヴラーナ大学病院の診察室の前にやってきた３人は、もし、すぐに診療出来ないなら、途中でお祈りが出来なかったので、この病院内のメスジット（礼拝所）で先にお祈りをしてくる、と言う。　６時過ぎ、病院長のメフメットさんと、向かいの部屋ではミチコさんの診療をしている時に３人組は戻ってきた。院長の次は看護師長のゼフラさん、その次はもう１人男性患者がいる。　セイフおやじは「私達の予約の方が早い時刻の筈だ、すぐにこの２人の診察をしてくれ」と強い口調で言った。　私はもっと強い口調で答えた。「セイフ・ベイ、そうですよ、４時から５時の間にお２人の予約を入れてあったのです。それが電話もなく、待てど暮らせど来ないのでは、あとの番でも先に来ていた人を診察するのはごく当たり前のことです」「だからこうしてもう、ここに来ているだろう。こちらはもう準備は出来ているんだ、すぐに診察を始めてくれないかね」「駄目です、物には順序があります。予約が先でも遅れてきた人は早く来た人の後ろについて待つ、それがルールです」　おとといもごり押しをしたセイフさんは、居丈高にこう言った。「こちらのお方もサフランボルの街の有名なドクトルだぞ、ドクトルはドクトル同士話せばわかる、院長を出しなさい」　予約の患者ムスタファ・イェトキンさんは大きな体をした白髪の老人だった。彼は恐い顔をして私をにらんだ。「院長と話し合いたい。一介の通訳と話をしても埒が明かん」　一介の通訳とでも何とでも言ってくれ、駄目なものは駄目だと思い知らせてやる。「ムスタファ・ベイ、院長は今堀先生の治療を受けています。彼は今、堀先生の患者以外の何者でもありません。あなたはサフランボルでご自身の患者を診ているときはドクトルでも、いま、足腰の痛みに耐えかねてはるばるここまで治して貰いに来た患者ですよ。ドクトルと言えるのはここでは今、堀先生だけです」「彼はどんな資格を持っているのだ？」「ムスタファ・ベイ、あなたもお医者さんでしょう。ご自分のところに診療に来た患者が、ひどく威張っていたら、よく診てやろう、と言う気になりますか」　白髪の老ドクトルは私をマジマジと見た。「皆さんが遅れて来られたので、今日はもう無理です。堀先生は７時半頃までに幾人も患者の待っている家に行く約束です。私もセマーの儀式に招待されています。あした、セマーゼン達のお部屋で診療をしますから、ムスタファ・ベイ、どうぞそちらに朝一番９時にいらしてください。私がポストニシン様にお願いしてあなたを真っ先に見て貰うようにします。メヴラーナの名にかけてお約束します！」　私がそう言うと、ムスタファさんの難しかった顔がにわかに穏やかになって、私の手をがっしりと握りしめ、「勇敢なハヌム・エフェンディ、あなたの言うとおりだ。無理を言うべきではなかった。明日の朝、よろしく頼むよ」と笑顔で言い、息子と一緒に潔く踵を返した。　メヴラーナと聞くと、セイフおやじさえにこにこして、その場はなんとか丸く収まった。つづく　　　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「チュクルジュマ猫会」

  2014年02月15日

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  鍼灸診療ツアー　コンヤ初日の出来ごと

  【２月１４日・金曜日】　私がいつも言うポストニシン様とは、長い茶色の帽子を被り白いスカートを翻したセマーゼン達が、神に近づくために無我の境地で回り続ける、あのセマーの儀式の長老（最高責任者）で、メヴラーナを象徴する地位にある人を言い、ポスト（毛皮）に座る人、という意味である。 　長老として赤い毛皮に座るポストニシン様。中央に楽団員の並ぶステージがあり、美しい男声テノールの「ナート」というメヴラーナを讃える独唱で儀式が始まる。　１９９１年に文化省によって創設されたコンヤ・トルコ神秘主義音楽集団（ユネスコ無形重要文化財）で、初代のポストニシンとして２００８年まで任務を果たしたムスタファ・ホラットさんが引退したあと、２００９年から２代目のポストニシンを引き継いだファフリ・オズチャクルさんは、この上ない人徳者として仲間内から推薦され、ポストニシンに就任したという、紳士中の紳士である。　そして、ファフリさんはヌレッティン先生やアヌ・ホテルのベキルさんと同じように、私の大切な親友でもある。　そのファフリさんが空港まで出迎えに来て堀先生と私をピックアップ、途中、有名なスープの店で身体の温まる多様なスープの中からお好みのものをご馳走してくれるので、今回も有難く頂いた。９時少し過ぎ、ファフリさんはアヌ・ホテルに私達を送り届けて職場に出かけて行った。　アヌ・ホテルでは３台ベッドの並ぶ広い部屋が空いたばかりなので、大急ぎで掃除をして明け渡してくれた。その向かい側に先生の部屋、広い部屋の左隣に私の部屋を貰い、１０時からアヌ・ホテルのオーナー、ベキルさんやその友人達から診療が始まった。　中の１人、フュセインさんは７０歳の事業主、４０年も前に、若い頃乗り組んでいた船の炎上で大やけどを負い、右足、右手、右の体側に大きなケロイドのあとが残っていて、歩くときにひどく不自由で疲れがひどいのだそうだ。　右足の指などは火傷をしたとき、折れ曲がったまま足の裏にひっつき、そのまま固まってひどく変形しており、歩くたびに１８０センチ以上の長身がガクンガクンと傾くほど足の長さが違ってしまっているのだった。　先生も難しい顔で、どこの筋肉をどう緩めてやれば、この恐ろしい緊張が緩んで楽に歩けるようになるか、と患者の体を見据えながら通常の腰痛患者などの２倍も鍼を使いながら、考え考え治療し、灸も背中にびっしりとすえ、１時間余りかけて慎重に仕上げたのだった。　驚いたことに、二度三度足にも灸をすえるうちフュセインさんの変形した右足の指が動くようになり、縮み切っていた右の体側も伸びて、左右の腰骨の高さが揃い、右足に踏ん張る力が戻ってきたのだった。　猫背で前かがみにやってきたフュセインさんは、帰るときには胸を張って、右足もしっかり踏みしめ、先生とも握手を交わし、私の集金袋の上に１００リラをぽんとおいてくれた。そしてこの上なく嬉しそうに颯爽と帰って行った。　私も自分の体調が極めて悪いことなども忘れてしまうほど嬉しかった。我慢強く熱いお灸に耐えたフュセインさんはサムライのようなトルコ人だと思えた。続いて常連のキリム問屋の社長アスムさんやKonTVの役員メヴリュットさんなども来て午前中の診療が終わった。　アヌ・ホテルの好意で先生と私に昼食が振る舞われ、地下の食堂でいただいていると、エレベーターから若い金髪のポニーテールの女性が下りて来て、先生の顔を見るなり「ハーイ」と言った。　「ヤッ、ヤッ」と先生がニコニコ顔で返事をし、英語で二言三言何か話をしたあと、彼女はロビーに上がって行こうとしたので、私が「メルハバ」と言うと、ちらと一瞥をくれたのみで特に言葉を交わすでもなく、上がって行ってしまった。　「誰ですか、あの人？」と聞くと先生は「シンシアさんですよ」と言った。そして手早く食事を済ませ「じゃ、私は先に行ってます」と急いで席を立って行った。　ブラジル人のシンシア！　前回の１０月の鍼灸診療ツアーのとき、彼女のトルコ人の夫が電話をかけて来て、もう締め切ったと言うのに「そこを何とか・・・」と無理やり頼みこんできたので、コンヤの２日目の午後のリストで、何人かの人に電話をかけて１時間ずつ順番をずらして貰い、やっと夫婦が一緒に受けられるようにして知らせてやったところ「ああ、もともとバイラムで忙しいので、やっぱり行かれませんからもう結構ですよ」とぬかしたのだった。　じゃ、なんで頼んでくるんだ～！　あの日、私はこの２人の順番を確保してやるためにあちこちに電話をかけて調整している間に、猫達が私の寝室に入り込み、わけてもマヤちゃんが大きな洋服ダンスの後ろ側に落ちてしまい、助けを求めてミャーミャーと鳴き続けると言う大きなアクシデントで、どんな思いをさせられたことか。　その日のこと　　こちらから　そして今回は全然申し込んでもいないのに、友達から先生が来たのを聞いて、先生と英語で話が通じるからいいわとばかり、図々しくも予約も何もしないで、私を無視して直接乗り込んで来たのであり、彼女の件については先生にも話してあったにもかかわらず、私が１０分ほど遅れて診察室に行ってみたら、あはは、おほほ、と楽しそうに先生とお喋りしながらシンシアが鍼をやって貰っているではないか。　その瞬間に、この３年余り身を粉にして先生のボランティアを手伝ってきた意味も必要性も、全部水泡に帰したのを感じた。　イスタンブールでは、もともと日本人とトルコ人の患者の数が拮抗しているので、ほとんど問題は起こらないが、コンヤでは放っておけばいくらでも予約のない家族や友人、おじおば、いとこはとこを連れてきてしまい、先生に何とかお願いします、と頼みこみ、それをまた博愛の精神からか先生も受け入れてしまうので、以前は、ホテルに引き揚げるのが真夜中の１２時、１時になったりもしたものだ。　それも私が事前にしっかりと予約を入れた人のリストを作っておいても、現場でそうなってしまうのである。　私ははるばる遠い日本から、飛行機代自分持ちでボランティアに来てくれる先生が、滞在中の１週間煩わしい目に遭わないように、それ以上お金を使わないように、との配慮から、予約者のリスト作りに励み、普通なら通訳も雇わなくてはならないところを私が無償で事前のオーガナイズ、希望者への通知、受診者の受け入れ、場所を貸してくれる施設との交渉、そして診療の日々の通訳までもすべてこの身に引き受けてきたのである。　シンシアのような規則破りの図々しい患者ではなく、頭痛・腰痛など悩みを持つ人が先生の破格のテクニックと、無償のボランティアと言う善意に感謝しながら、病状が改善されて喜んで帰って行ってほしい。私はそのために協力してきたのである。診療が終わるのを待って私は言った。「シンシアさん、あなたは申し込みもせず勝手に来て、この診療ツアーの秩序を乱したので、今日の診療を最後にもう受け付けませんからね」と彼女に言うと、トルコ語で言われても分からないと言う。　先生に英語で私の言うことを説明してほしいと頼み、先生から私の意図を聞くと彼女はしくしく泣き出して、どうして私をいじめるの、みたいなことを言っている。　そこに私を手伝ってくれるミチコさんや、正規の患者のシェンギュルさん達がやってきた。先生は急いで自室にシンシアを連れて行って説得を始めた。　やがて３０分ほど経った頃、彼女は帰り、先生も診療に戻って来た。午後から幾人も難しい病状の新患などがいて忙しい盛りに、シンシアの夫が私に電話をかけてきた。「あんた、私の妻をなぜこんな目に合わせたのだ。いじめたわけを聞こうじゃないか。家に戻っても泣いているぞ。こんなに悲しませたのはどうしてだ！」「ベイエフェンディ！　あなたの奥さんがそれほど泣いているとか、悲しんでいるとかおっしゃるなら、よくわかるでしょう。あなた方はそれと同じかそれ以上の目に私を遭わせたのですよ。説明することなんかありません。いま診療で忙しいので後にしてください」「じゃあ、夜もう一度電話するかそっちに行って、ヘサブヌ・ソラジャウム（お前に落とし前をつけて貰うぞ）！」　だがその晩、シンシアの夫は来なかった。　診療が終わり、９時過ぎ外から配達して貰ったコンヤ・エトゥリ・エクメッキを先生と食べながら、私は５月の第１０回鍼灸診療ツアーのリスト作りまではお手伝いするが、今回を限りに通訳はしないこと、もうコンヤにもついてこないし、イスタンブールでも通訳には出ないこと、今後は自分の本来の仕事であるメヴラーナ本の翻訳仕事に専念する旨を先生に伝えた。　すると「ああ、そうですか。じゃあそうしてください」と先生もあっさり了解してくれたようである。　　もちろん、急に感情的になってまくし立てたりしたわけではない。今年からは翻訳やものを書くことに専念したいと、すでにこの鍼灸診療ツアー開始以前に先生にメールで伝えてあった。　１３日から１４日の朝にかけて、東京のラジオに出演したこともあって具合が悪いのに一睡もせずにコンヤに到着して、すぐに通訳など手伝っていた私は、この不快な事件でさらに病状が重くなり、そのまま疲れ果ててベッドに横たわったが、咳も出てひどく胸苦しく、ふと思いついて熱を測ったら３８．８度もあった。　あああ、こんなことなら来るんじゃなかった、家で猫達と寝ていた方がよかった、と私は外から入る薄明かりの中でいつまでも天井を見つめて後悔してしまった。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「チュクルジュマ猫会」

  2014年02月14日

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  コンヤの３日間　後編

  【２０１３年１２月１８～１９日・水～木曜日の記事】　メフタップさん夫妻がアンカラで過ごしていた夏の間、彼らの家を借りていたミチコさん、まだ言葉は十分に通じなくても、およそ５ヵ月間、大家と店子だった関係で、家に入るとそれはそれは大歓迎された。　お客様好きのメフタップさんは、ほとんどはしゃいでいる、と言ってもいいくらい賑やかに弾丸トークである。お母さんと夫君のムスタファさんはもう、余計な口は出すまいと、おとなしく居間に引っ込んでテレビを見ている。　早速、メフタップさんは得意のパン生地作りを応用して餃子の皮作りを、ミチコさんと私は野菜を刻み、餃子の中味を拵えることになった。この間、メフタップさんは遊び心満点に私の頼んだカメラを構えるミチコさんにポーズを取って見せている。　後で見てみたら、まあ、肉と野菜をこねるのに夢中だったので、こん棒で殴られそうなのも気づかずにいたわ。くわばらくわばら。 ハムル(パン生地）係のメフタップさんは武器を打ち合わせて鬨の声をあげる。片や、泣きながら玉ねぎを刻むのはミチコさん。お気の毒です。 　肉をこねて野菜と混ぜる私。後ろにヘラクレスそこのけの女傑がいるのに気づかない。 　中味の出来あがり。ニンニクのほのかな香りが・・・　　皮がちと厚めだけど包みやすい。 　ジャンボ餃子が５０個くらい出来ました。　　焼いてみました、一人前です。　１時間余りかかったが、８時過ぎには人数分３０個が包み上がったので、いよいよ焼き始めた。その間にも包み続けて合計５０個出来た。ユジェルさんもお客として招待していたので、８時半過ぎ、オズ家にやってきた。　彼は高校生時代に本屋で店員のアルバイトをやっていた頃、ムスタファさんに目をかけられて、２０１１年の１２月、鍼灸診療ツアーのためにメフタップさんが家を開放してくれたおかげで、受診者として訪ねて来てムスタファさんと十数年ぶりに再会したのだった。　餃子は予想通り、ユジェルさんも、ムスタファさんも、アンカラから一緒に来ていたメフタップさんのお母さんも、美味しい、とにこにこ顔で残さず食べてくれたのだった。帰るまでの間冷凍にしておいて、ユジェルさんに１０個を持ち帰って貰い、メフタップさんのうちに１０個残した。　その晩は「２人ともうちに泊まっていらっしゃいよ」とメフタップさんが何度も勧めてくれたが、私も最後の一晩はミチコさんの家で泊めて貰う約束にしてあったので、食後チャイをいただいた後、すでに朝まとめてあった荷物をユジェルさんに持って貰い、メフタップさんの家をあとにした。　ユジェルさんを最寄りの場所で降ろし、ミチコさんの家に向かった。　この頃、コンヤにも県外からの学生が多くなり、学生寮が足りないので、時代の要求で１DKとか２DKなどのアパートが建てられるようになってきたと言う。静かな住宅街の一角にミチコさんの１LDKがあった。さすがコンヤなので部屋が広々としている。　その夜、咳が出て何度も目覚め、風邪が悪化するのを心配したが、起きた時体調は悪くはなかった。ミチコさんの準備してくれた朝ごはんをいただいたあと、訪問記念にミチコさんの部屋で並んで写真を撮った。 　根本的に太さが違うので、乾電池のマークみたいな２人。これから先、ミチコさんにコンヤの日本人代表になってほしい。　 　　１０時頃家を出て、ミニ・バスでコンヤのザッフェルと言う地区にあるアタテュルク博物館にヌレッティン先生を訪ねた。コンヤは数日前に降雪があったらしく、日陰にはまだ汚れた雪の塊が残っていた。　最後の日には空港に近い、別な知り合いを訪問する予定だったが、前の日にヌ先生に「アタテュルク博物館にある掛け軸の落款を読んでほしい」と頼まれてもうイスタンブールに帰る日しか時間はないので、知り合いとは次回にして貰い、ミチコさんとともども博物館に出向いたのである。　それはまだ、オスマン朝時代の１８９０年に、和歌山県の串本沖で遭難したトルコ海軍のフリゲート艦エルトゥールル号事件のあと、全国から集めた義捐金を携え、単身トルコに渡った日本の若者、山田寅次郎（トルコ・日本の間に初の貿易を開始した。のちに茶道・山田宗偏流の第８世家元を継ぎ、山田宗有となる）から、ずっと後年になって、旧知の間柄のアタテュルク初代大統領への贈りものであった。　彼は１８９１年にトルコで拝謁した、時の皇帝アブデュルハミット２世の要請で、２５年の長きにわたってトルコにとどまり、士官学校などで日本語や日本文化を教えたのである。　その中に若き日の、まだ近衛士官だったムスタファ・ケマル（アタテュルク）もいたという縁で、日本に深く興味を抱いた青年士官はのちに明治維新を手本に起こした救国戦争に勝ち、皇帝を追放、トルコを主権在民の共和国に導いたのちも、寅次郎との交流は続いていたのだった。 　全長約１．８ｍくらい、中国製のアンティークと思われる。 　アタテュルク大統領に贈られた掛け軸の落款。　なお、この落款の文字については、私もその場では右側半分しか読めず、その後カナダにお住まいの、先日先輩達の料理教室で初対面を果たしたブログ友達佐藤紀子さんにメールを書き、書道に詳しい紀子さんのお力を借りた。　紀子さんは多分全部読めたに違いないが、万全を期して、さらにその友人、そしてまたその人の先生格の古文書読解の達人というお方に鑑定していただき、やっと朱印まで全文字を読むことが出来た。文字を読めてもその意味が示す出来事、時代背景なども重要である。　今度の２月の鍼灸診療ツアーのあと、私がコンヤに居残ってトルコ語でヌ先生に分かった限りを解説することになった。　そしてこの掛け軸についていろいろ書かれたトルコ側のアーカイブをもとに、ヌレッティン先生と協議のうえ、解読されたいきさつなども記した文章を先生が作成、博物館の史誌に記載されて以降、私が日本語に訳していずれブログでお知らせ出来ることになるだろう。　紀子さんとそのご友人、解読なさった先生に感謝いたします。ありがとうございました。　さて、火の気のない博物館の中を見学させて貰っているうちに、背筋がぞくぞく寒くなって指先がかじかんでしまった。暖房費を節約しているのか、展示物・文化財に害のないように、暖房は極力抑えているのか、よくわからないがこれじゃあ、誰も見学に来ないよ、もう。　病院に用事があると言うヌ先生と門の前で別れ、私はミチコさん推薦のケバプ屋でお昼をご馳走になり、アブデュラーさんのタクシーで空港に向かった。日本とコンヤ、二つの旅を終わり、無事にイスタンブールに帰ってきたのだった。ミチコさん、お世話になりました。 　３時４５分発のイスタンブール行き。目的地に近づくに従い、美しい夕日を浴びて、このように翼が輝いて見えてくる。 　イズニック湖を過ぎ、ブルサ上空と思われるあたり。　　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「チュクルジュマ猫会」

  2014年01月13日

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  コンヤの３日間　前編

  【２０１３年１２月１６～１８日・月～水曜日の記事】　日本から帰るとすぐに、メヴラーナ追悼祭シェビィ・アルースの７４０回目の大祭に、１６日夕方の飛行機でコンヤまで出かけた私。　日本からの機内で寝られたのもせいぜい３時間程度だったし、寝不足気味だが、朝５時前、家に着いて慌ただしく荷解きをし、日持ちの悪いものを冷蔵庫に収納、風呂に入り、溜まりに溜まっていたメールを一通り読んだりしているうちにもう午後２時、空港に行く時間が迫ってきたので、再び猫をアフメットさんに託し、家を出たのだった。　機内のサンドイッチを食べてお腹を満たし、オズ家に到着したときは、ひどくせき込んで風邪の引き始めらしく、やっぱり疲労困憊状態だったので、すぐに寝かせて貰った。　翌朝、メフタップさんの心づくしの朝食をご馳走になった後、１０時頃家を出てタクシーを拾い、メヴラーナ博物館に行った。午後になると参拝者で館内がたいそう混み合い、歩く隙間すら無くなってしまうからである。 　庭園から見たメヴラーナ博物館。どんよりと曇って寒い日です。　１２時半にはミチコさんと待ち合わせ、メヴラーナ博物館の脇の通りにある「メヴレヴィー・ソフラス」というよく行くレストランで待望のコンヤ・エトゥリ・エクメッキを食べた。 　トルコ料理で一番好きなもの、なに？と聞かれたら迷わずコンヤ・エトゥリ・エクメッキ　　コンヤの旧市街を見て歩き、夕方一緒にセマーの儀式の行われる｢メヴラーナ文化センター｣まで行き、センター内の土産物店などを見て回った。　すると、私がよくDVDの吹き込みなどを頼まれたチェティネル音楽出版のブースがあって、オーナーのヒクメットさんが来ており、ミチコさんを紹介したら、３年前くらいに私の吹き込んだメヴラーナについてのビデオを気前よく彼女にプレゼントしてくれた。　そのあと、セマー楽団のオフィスに行ってセマーの儀式で最高位のポストニシン（メヴラーナを象徴する存在）であるファフリさんが用意してくれた招待席のチケットを貰い、ミチコさんと明日の再会を約束して一人セマーの会場に入った。　会場では１７日の夜の部がシェビィ・アルースのフィナーレでもあり、国営のTRT1と、コンヤの地元局KONTVがそれぞれの映像で全国放送をするために、２基の大きなジミー・ジップ（カメラを吊るしたクレーン）が持ち込まれ、そのテスト中だった。　それに円形の舞台の周囲にはカメラの放列で、各放送局、新聞社、その他もろもろのプレス関係の人々がぎっしりと並んでいる。　やがて開演時刻の９時が迫って来ると、来賓の入場が始まり、拍手とともに、野党第一党CHP(共和国民党)党首クルチダルオール氏が着席、４～５分後に近隣国の国賓が数名着席、そして最後に割れんばかりの大歓声の中、レジェップ・タイイップ・エルドアン首相とエミネ夫人が着席、場内は沸きに沸いている。　数年前から政治家の演説合戦は一切なくなって、大統領のメッセージが朗読されるだけ。常にこうあってほしいものだ。やがてプログラムが始まり、最後のセマーは今までの１０年間で見た最大規模の３６人が円形の舞台で旋回すると言う豪華版。 　セマーゼンは気持ちよく回っているように見えても相当な体力を消耗する。神に近づく方法としてメヴラーナが編み出したと言う、旋回で無我の境地に。　１１時半には会場の外に出た。駐車場の入口に行列を作って待っているタクシーの１台に乗り、メフタップさんの家に帰り着いた。　次の日は、コンヤ・日本文化センターの事務所に電話を入れて、ミチコさんと２人で病床のメフメット・アリさんの見舞いに行きたい旨を伝えたが、事務員が枕頭にいる弟のシナンさんに取り次いでくれたものの、医師から家族以外は面会謝絶なので申し訳ありません、という回答があった。　遠くから無事を祈るしかなく、ミチコさんと私は午後２時半頃アヌ・ホテルで落ち合うことにして、とりあえず私は昼少し前にまたメヴラーナ大通りのある旧市街に行った。　今日はメフタップさんのところでミチコさんも交えて夕食を食べる約束だったが、日本からメフタップさんのためには何の土産も買う時間がなかったので、手ぶらに近い状態でやってきたことへのお詫びに、私が夕飯の材料を買い、餃子を作ると約束したのだった。　私がコンヤで一番気に入っているコンヤ・エトゥリ・エクメッキのうまい店、「ババジャン」に１人で行ったところ、チャルシュと呼ばれる碁盤の目のようになった古色蒼然たる商店街が、半年の間にがらりと様変わりしていて驚かされた。　家々が軒並み建て替えられて、オスマン朝時代の様式できれいにリニューアルされていたのだった。それはそれで結構なことなのだが、あの雑然紛然としたコンヤのチャルシュが何だかお澄まし顔を決め込んでいるようで、寂しい気もした。 　すっきりと、きれいになったのは確か。でも、何か物足りない・・・ああ、きっと映画のセットみたいな感じがするせいでしょう。 　ババジャン・エトゥリ・エクメッキ・ロカンタス(食堂） 　２分の１ポーションのコンヤ・エトゥリ・エクメッキ。やはり逸品！　朝食が遅かったせいか、いくらババジャンのコンヤ・エトゥリ・エクメッキでも、一人前食べきる自信がなかったので、半分の大きさで焼いて貰った。チャイも頼んだのにたった３リラだと言う。５リラ札を出してお釣りは受け取らなかった。　その足で私はアヌ・ホテルへ行くことにし、土産にマロン・グラッセの箱入りを奮発してベキルさんを訪ねた。ベキルさんは私を見て大喜びでヌレッティン先生にも電話をし、先生もちょうどチャルシュに来ていたところだと言って、１０分もしないうちに来てくれた。 　ベキルさんとヌレッティン先生(鳥打帽）は刎頸の交わり。でもよく口喧嘩してます。　ヌ先生に続いてミチコさんも到着、ベキルさんの息子でホテルの社長アイドゥンさんも加わり、四方山話に花が咲いた。冬至も近い季節なので、４時を回るともう薄暗くなってきた。　ベキルさん達に暇乞いし、ミチコさんと近くのスーパーで餃子の材料を買い、タクシーに乗る前に３０分ほどそれぞれの友達に会って行こう、と歩いて行ってみたら、なんと偶然にもそれが２軒隣り合っていたのだった。　ミチコさんは１１月から引っ越した家のことで、日本語の出来る絨毯屋さんのウールさんにたいそうお世話になったから、と訪問したのである。　私はその隣の、フェルト職人のラビア・ギルギチさんに会いに行った。温かいストーブの燃え盛る広い作業場で、ラビアさんは大喜びで突然行った私を暖かく迎えてくれたのだった。 　人間国宝がイスタンブールの店にかかりきりなので留守を守るラビアさん。　しばし歓談した後、ラビアさんと２月にはまた堀先生の鍼灸診療ツアーで会う約束をし、隣の店から出てきたミチコさんと共に、メヴラーナ広場の前からタクシーに乗ったのだった。つづく　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「チュクルジュマ猫会」

  2014年01月13日

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  亡き友が待つチョルルで

  【１１月２４日・日曜日】　私が初めて、今は亡きファトマさんが社長を務める会社オヌル・ケータリングの本社を訪ねたのは１９９６年１月２日で、チョルルはトルコの全国土のたった３パーセントに当たるヨーロッパ側、トラキア地方のほぼ真ん中の内陸部にある冴えない田舎町、と言う感じだった。　ところがチョルル市はこの十数年で大変貌を遂げ、少し北の方角にハイウェイが開通、そばにチェルケズキョイという一大工業団地が拡張の一途をたどると、チョルルもまたイスタンブールのベッドダウン、ひいてはチェルケズキョイのベッドダウンとして人口急増、２時間に１本くらいしかなかったイスタンブールからのバスの便も３０分おきとなって、大きなシテ（団地）の高層住宅が林立するようになったのだった。　　昨日の午後４時、家を出るとき、道が混んでタクシーが思うように進まず、５時のバスに間に合わなかったうえ、５時半に出たバスがオトガルからオ―トバーンの料金所までの大渋滞で予定より大幅に遅れてしまった。　私の到着が予定より１時間以上遅くなったので、ハールンさんの両親、妻のチーデムさんの母ナジフェさん、妹のナーランさん、息子のチュナル君もお腹をすかして待っていた。ハールン・チーデム夫妻の家は、チョルル市の入口に近い一角の近代的な団地にあり、両親やナジフェさんはもっと西の方の旧市街中心地に住んでいる。　ハールンさん宅の夕食　普段は親子３人のハールンさんの家ですが、両親夫婦、妻の母、妹が来て、お料理をたくさん作って待っていてくれました。 　左から妹ナーランさん、妻チーデムさん、ハールンさん、妻の母ナジフェさん、父メヴリュットさん、息子チュナル君、母ベトゥルさん 　チョルバ（スープ）、手作りマントゥ、漬物、サラダ、ナスのミートボール包み焼き 　すがすがしい朝の空、まるで春のように暖かな陽気です。 　東の空に太陽が輝き、薄いきれいな雲が少し見えます。南も薄い雲だけで上天気。　次の朝は上天気。地平に近いところにやや雲が張っているがおおむね青空が広がり、１１月下旬のトラキア地方とは思えない上天気で、暖房を焚かずにいても暖かい。　朝　食 　チーデムさんは袖なし姿で台所に立つ。 トルコの標準的な朝ご飯はこんな感じ。 ハールンさんとチーデム夫人　２人でチョルル市内にある保険代理店を経営している。 　左：薔薇の花のジャムと、右：あんずのジャム。どちらもハールンさんの母方の祖母の手作り。 　ご馳走様でした。ここのキッチンは夕方まで明るい。 　ハールンさんの家の広いサロンで、私が気に入っている家具と植木類 　坊やはダイニング・キッチンの椅子を私に占領されてこんな恰好で食べている。名前は、Yiğit Çınar（イーイト・チュナル、勇敢な鈴懸けの木の意）現代風です。　トルコでは同じ名前が実に沢山あるな、と来たばかりの頃に思ったものだが、男の子が生まれると父方または母方の祖父の名前、女の子が生まれると同じく祖母の名前をつける例が多いからだろう。ハールンさんも父方の祖父の名前なので、従兄弟ハトコにハールンが沢山いる。　親思いのハールンさんだが、息子の名前には夢を託してイスラーム教に関係のないYiğit Çınar「イーイト・チュナル、勇敢な鈴懸けの木」と名付けた。　　友人夫妻　ハールン・チーデム夫妻には、子供同士がずっと同じクラスだという親友、ユジェさんと妻ズヘイラさんがいる。ずっと前から私にも紹介したい友人がいる、と説明していたどちらも弁護士の夫婦である。朝食後、家からほど遠からぬカフェで落ち合った。　ユジェさんが日本語に興味を抱いている、という話から、テキルダー県の「ナムック・ケマル大学日本語学科開設準備委員長」の准教授ジャーヒット・カフラマンさんとナナ夫妻について話したところ、ぜひ紹介してほしい、と両夫妻が言うので話が急展開し、ナナさんと連絡を取ってとうとう、午後４時頃テキルダーまで会いに行くことになった。 　ユジェさんは弁護士と言う固い職業に似ず陽気で冗談やエスプリが大好き。当たるのかどうか全然分からないが、コーヒー占いがお得意とのこと。　墓参り　チョルル市の市営墓地に眠るファトマさんの墓の隣には、３９歳の若さで亡くなった夫のアフメットさんや１０歳で失った娘のイレムちゃんの墓もある。ユジェ夫妻と別れた後、花を買い、墓参りを済ませた。 　墓はまだ土盛りのままになっている。 　今日は暖かいが、葬儀と埋葬の日、チョルルは凍えそうな寒い風と強い雨だった。 　トルコの墓には花立てと線香置き台などはない。墓の上に花を置くだけ。 　　ケマルさん　近くのチェルケズキョイ工業団地に行く道筋に、「Advantage」という小規模なショッピング・センターがあり、ここでレストランを経営しているファトマさんの甥の一人、ケマルさんを訪問した。ハールンさんと歳が近いので気が合うらしい。 　「Chocolate Station」と言う名前のおしゃれなレストラン＆カフェ。右端ケマルさん　テキルダーに行く　チョルルから車で３０分ほど南下すると海際の国道に出る。県庁所在地のテキルダー市である。　テキルダー市街地の入り口に当たるナームク・ケマル大学に近い、とあるカフェで出会ったのだが、年齢の似通った３組の夫婦はたちまち打ち解けて、これからはしばしば訪問し合おう、いずれはチョルルにも日本語教室や、テキルダー県に「日本文化センター」を作ろう、と言う話にまで発展して行った。 　左側の丘陵は小麦畑、まだほんのりと若草色。 　道路の右側は左側の小麦畑よりもやや濃い緑色に見える。１～２月に開花するKanola（カノーラ、菜の花）畑である。 　市街地への入り口付近にあるきれいなカフェでミーティング、左からハールンさん、ジャーヒット・カフラマンさん、ナナさん、私、チーデムさん、ズヘイラさん、ユジェさん 　猫達の夕飯までには帰るつもりでいたのだが、美由紀さんが見てくれることになったので私も安心して、それにしてもあれよ、あれよと言う間の事の成り行きにびっくりしながら見守っていた。　１１月２４日は「先生の日」である。ジャーヒットさん一家は「教員の家」のパーティに出ることになっていたので、５時半に名残惜しそうに帰って行った。 　日曜の夕方とあって、外食大好きのトルコ中産階級で大混雑の焼き肉レストラン　そのあと、カフェの並びにあるテキルダーの有名焼き肉店で、ユジェさんから夕食をご馳走になった私は、帰りのチケットをハールンさんが買ってくれたので、なんだかすっかりご機嫌な旅をしてイスタンブールに戻ってきたのだった。　　　　　 

  2013年11月24日

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  鍼灸診療ツアーでコンヤに

  【１０月１４日・月曜日】　先ほど、午後１１時少し前、鍼灸診療ツアーの第２日目を終了し、先生と最後の受診者お２人と食事をした後、家に帰ってきました。　これから、とうとう事前にやりそこなった掃除と、コンヤ行きの支度をしなければならないので、幾つかのメールの返事などをしたためたあと、行動を起こします。　明日１５日は４時頃家を出なくてはいけないので、おそらく横になる時間もなく、コンヤに到着後、間もなく鍼灸診療ツアー第３日目が始まるわけです。　１７日に第５日目を終えた後、翌１８日に３時起きしてコンヤから早朝の飛行機でイスタンブールに戻り、そのまま第６日目の診療に取り掛かります。　そして１９日の午後に先生は、日本を目指して帰国されますが、９７歳の高齢の母堂を残しての旅ですから、心配もひとしおと推察します。　そうした中、多くの人に痛みや悩みの除去と、健康を取り戻させる鍼灸の診療に無償奉仕、毎日が多くの積善となることでしょう。　オーガナイザーとして、またアシスタントとして通訳やら雑事を手伝っている私にも天の恵みがあると信じてハードスケジュールに立ち向かっています。　　どうしてこんなに自分を酷使してまでやっているのか。　それは毎回、「ああ、こんなこともあるのだ」とため息の出るような感動的人間ドラマに遭遇することがあるからです。そうしたことに関わることが出来た、と言うことだけでも手伝っている甲斐があるというものです。　またイスタンブールに戻って旅の疲れも取れた頃、ブログに書くつもりでいます。例によって数日間、ブログ、Facebook、twitterなどソーシャル・メディア、E-メールなどを休ませていただきます。　それでは行ってまいります。 　えっ、お母さん、またコンヤに出かけるって？　納得のいかなそうなタマオ　　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「チュクルジュマ猫会」お知らせ　　◎※△　海泡石（リュレタシュ）がネットで買えます！　イスタンブール唯一の海泡石アトリエ、シナン・ウスタの作品がついにネットで購入出来るようになりました。追々品数も増やしていくとのことです。ぜひご覧ください。ネットショップ　「リュレタシュ」

  2013年10月14日

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• シュープリーズ極め付け（書きかけ事項）

  【９月４日・水曜日】　本日４日はテキルダーで７月９日以来の集まりがあったのですが、私はこのところめちゃくちゃ忙しくて、このブログを書きかけたまま止まってしまっています。　あとでまた必ず続きを書きに来ますので、いささか新鮮味を欠く話になってしまいますが、シュープリーズ（サプライズ）満点のお話だったので、どうぞお待ちください。　　　　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「チュクルジュマ猫会」お知らせ　　◎※△　海泡石（リュレタシュ）がネットで買えます！　イスタンブール唯一の海泡石アトリエ、シナン・ウスタの作品がついにネットで購入出来るようになりました。追々品数も増やしていくとのことです。ぜひご覧ください。ネットショップ　「リュレタシュ」

  2013年09月08日

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  結婚式その１　＜キュタヒヤ＞

  【８月１６日・金曜日】　結局１５日夜から今朝まで一睡も出来ないまま、私はタクシーを呼んでタキシム広場のそばにあるバス会社のオフィスに７時前に到着、やがてやってきたサービスバスに乗り、アリベイキョイと言う地区にある中継施設に行き、そこから一路キュタヒヤに向かったのだった。　バスはいろいろな地区のターミナルから客を拾いながら行くので、イスタンブールのオトガルを８時に出たバスが、結局キュタヒヤに着いたのは、午後３時になろうとする頃だった。　キュタヒヤの人間国宝、陶芸家ストゥク・ウスタ（1948～2010）の三女キュブラさんが同じ大学出身のオウス・エルデンさんと４月１３日に婚約式を挙げた時、私は都合で行くことが出来なかった。「ハラム（私の伯母様）、８月の半ばに結婚式を挙げるので、そのときはぜひいらしてね」と、婚約式に出られない旨、電話で断りを言う私に、キュブラさんは明るくそう言った。　ところがその後、５月の初めにイスタンブール在住日本人の小林正貴さんと、恋人のシェナイ・デミルさんも婚約し、８月１７日に挙式を予定していますのでぜひおいで下さい、と招待されたのだった。　どちらにもぜひ出席させて貰いたいものだ、と思ったが、心配なのは同じ日になったらどちらかを諦めなくてはならないこと。やがてキュブラさんから招待状が届き、小林カップルより１日早くキュタヒヤで挙式するという。　頑張れば両方とも参加できる、とキュタヒヤへの６時間前後のバスの旅でとんぼ返りを決意した。　考えてみると、５月頃から私は休暇と言うものなしに働くかボランティアで動いていて、一日たりとのんびりとした覚えもないが、この２日連続の、しかも４００キロも離れた二つの都市を往来する結婚式は極め付けだった。　さて、１６日、キュタヒヤでは、花嫁の姉ニーダさんがもう迎えの車をオトガルまで送ってくれていたので、すぐにホテルに入ることができた。　出迎えの、故ストゥク・ウスタの職人ゼキさんが「もしお疲れでなかったら、午後４時から、キュブラの実家での最後の食事にご招待したいとニーダ・ハヌムが言っているのですが、どうしますか？」と私に聞いた。　家族同様と見てくれているニーダさんや未亡人のヌライさんの温かい心づかいが感じられたが、会いたいのは山々でも私は丁寧に礼を言い、あえて辞退した。　こんなときは、本当の家族水入らずで過ごして貰った方がいい。まして花嫁は結婚後、地元キュタヒヤではなく、新郎のオウスさんの勤務先のあるコジャエリ県イズミット市に住むのだそうだ。　ゆっくりと旅の衣を脱ぎ、しばらく足を高くして横になって休憩した後、洒落た衣装は持っていないので黒いうすもののブラウスに琥珀のネックレス、ロングスカートにほんの少しかかとのついたパンプスを履いて支度をした。　ホテルの後ろ側の道を隔てたところが結婚式場で、６時１５分前に行くとぼちぼち招待客が集まり始めていた。私はストゥク・ウスタの古い友人達のグループに配されたテーブルに着いた。　そこには、ストゥク・ウスタの馬友達、エスキシェヒールの伯爵さまと私が仇名をつけた上品なオスマン氏や、エブルの芸術家第一人者であるヒクメット・バルッチュギル氏とフュスン夫人、アンカラの芸術家フェイハン女史と夫のケマル氏などもいた。　やがて結婚行進曲に乗って新郎新婦の入場となり、タキシードの花婿の腕に左手を預け、右手にはブーケを持った花嫁が、透き通るようなベールを被り、長いドレスのすそを引いて大拍手の中を進み、中央の席に着席した。　すぐにニキャーフ・トゥレニ（結婚式）が始まり、キュタヒヤ県知事自らが法服をまとって、２人の結婚宣誓式を執り行った。 　新郎新婦の入場　ストゥク・ウスタがどこかからきっと見ている。 　男勝りの気丈な姉、ニーダさんも妹をしっかり見守っている。 　キュブラ側の証人として亡きストゥク・ウスタの親友達が席に着いた。　　２人がいかなる抑圧にも妨げられることなく、互いを伴侶と認める旨の宣誓の後、４人のシャーヒット（立会人・証人）もこれに同意し、結婚式は２０分ほどで終了した。　タクの儀式（新郎新婦の首のリボンにお祝いの金貨や現金などを着けて祝う）に移る前、余興として地元の青年達の踊り「エフェのダンス」が披露され、そのあと来客達がそれぞれのお祝いを持って、正面に立つ新郎新婦の首にかけたリボンにピンで留めるタクの儀式が続いた。　これが済むと新郎新婦がダンスを披露し、その間に男性客は静かに姿を消して行った。ほどなく新郎新婦も控室に去って行き、いよいよ８時から、キュタヒヤの伝統的なクナ・ゲジェシが始まるのだった。 　タクの儀式。先に新婦側の親戚や友人から金貨やお札をピンで留めてお祝いをする。 　記念撮影。オウスさんは温和なとても優しそうな人で安心。 　明眸皓歯、代表的キュタヒヤ美人のニーダさんと（心情的伯母）の私。　　このクナ・ゲジェシ、昨年３月初めにも一度体験している。ジャーナリストの嘉納愛夏さんが、南スーダンの取材の帰り、キュタヒヤのストゥク・ウスタの墓参りをしてくれることになり、イスタンブールから一緒に出かけた夜、ちょうどニーダさんの友人メルヴェさんのクナ・ゲジェシが開かれたのだ。　翌日夜の結婚式までキュタヒヤに残れなかったが、その晩の賑わいと言ったら素晴らしいものがあり、伝統衣装のビンダルルと呼ばれる、足元まである長い上着をはおった花嫁やその友人達が何度も民族衣装を取り替えながら休むことなく踊りを披露したものだ。 　まず花嫁とパートナーが踊りを始めます。 　美人姉妹のツーショット 　花嫁と踊る私　キュブラさんも５回くらい衣装を取り替え、姉のニーダさんもキュタヒヤで一番豪華だと新聞にも取り上げられたビンダルルを着て登場、友人達も続々と衣装を抱えて駆け付け、賑やかな踊りが展開された。　９時半頃、踊りが一段落すると、みんなが腕をかざして作ったトンネルをくぐって、花嫁が赤いベールを被り、クナの衣装を着て、現れた。　早速クナ親とでもいうべき年長の女性からクナ（ヘンナ）を両掌に塗りつけて貰い、赤いベールと同じ生地で作られた手袋をかけられて立ち上がると、みんながいっせいに手のひらにかざした蝋燭の明かりの中、花婿が呼ばれて２人でダンスを踊るのである。 　クナを染める儀式。ここではクナ親がかぶさっていて花嫁は見えません、あいにく。 　めでたくクナを染め終わると花婿が呼ばれ一緒に踊ります。これでフィナーレ。　１０時半、クナの夜はお開きとなり、私は同じ招待客のエブルの第一人者ヒクメット・バルッチュギル氏夫妻、アンカラの陶芸家フェイハンさんとケマル・バイク夫妻などとともに、ニーダさんから食事つきの二次会に誘いを受けたが、とてもその時刻から何か食べて明け方まで起きている気にはなれず、辞退してホテルに引き揚げた。　次の朝５時半発のイスタンブール行きのバスに乗るし、６時間余りかけて戻れば、イスタンブールでは夕方また小林正貴さんの結婚式が待っているので、体力を温存しなければならない、　ニーダさんはこういうとき行き届いた手配をしてくれる人で、朝５時５分にホテルまでタクシーの運転手を送る、と携帯にメールを入れてくれていた。私は、安心して、朝４時半に携帯電話の目覚ましをかけて午前零時頃、やっと眠りに就いたのだった。　　　 madamkaseのトルコ本　「犬と三日月　イスタンブールの７年」（新宿書房） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「チュクルジュマ猫会」お知らせ　　◎※△　海泡石（リュレタシュ）がネットで買えます！　イスタンブール唯一の海泡石アトリエ、シナン・ウスタの作品がついにネットで購入出来るようになりました。追々品数も増やしていくとのことです。ぜひご覧ください。ネットショップ　「リュレタシュ」

  2013年08月16日

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