カテゴリ:大森美香の脚本作品。
NHK『青天を衝け』第一部が終了。
とくに第11~12話、 「横濱焼き討ち計画」からの展開が、 とてつもなくスリリングで面白かった。 渋沢栄一って、こんなに過激でヤバい人だったの? という驚きもあります。 もし、 彼らが本当に横浜を焼き討ちにしていたら、 その後の日本史は一体どうなっていたのでしょう? ◇ 武士の真似事をして、 「攘夷」などという理念を口にし、 政治にのめりこんでいく農家の若者たち。 まるで全共闘時代の大学生さながらです。 しかし、 攘夷決行を目論んだ主人公が、 「俺を勘当して追い出してくれ」と父に頼むと、 妻もそれに同調し、父もまた、 「お前はお前の道を行け」と言って送り出します。 大河ドラマなのですから、 「百姓の生活」よりも「天下の大事」が優先されるのは、 当然といえば当然の展開かもしれないけれど、 攘夷の決行なんてのは、 ほとんど死にに行くようなものだし、 まして妻や赤子を置き去りにしていくなんて、 とんでもないことですよね。 すくなくとも、 従来の大森美香脚本のドラマだったら、 けっしてありえないような場面だったと思う。 ◇ 百姓としての「生活」を守ろうとした父や女たち。 妻子を捨てて「政治」にのめりこむ血気盛んな若者。 いまのところ、大森美香は、 そのどちらに肩入れするのでもなく、 それぞれの立場を相対化しています。 さらには、 過激な「攘夷派」の志士たちと、 冷静な「開国派」の幕臣の立場も相対化される。 ◇ 大森美香が過去に書いた、 『不機嫌なジーン』にも『里見八犬伝』にも、 『エジソンの母』にも『あさが来た』にも、 あくまで物語の後景としてならば、 なんらかの「政治」の要素はあったかもしれません。 しかし、 彼女がこれまで書いてきたのは、 (たとえ広岡浅子のような人物が主人公だとしても) 基本的には「女性」や「家族」の物語だったので、 前面にまで「政治」の要素が出てくることはなかった。 どちらかといえば、 彼女は「政治」や「男性」の物語を避けてきたともいえる。 しかし、今回は大河です。 さすがに「政治」や「男性」の問題を避けられない。 そもそも、 大森美香が大河を書くなんて想像もしなかったけれど…。 ◇ かりに、 朝ドラが「庶民の物語」であるとするならば、 大河というのは「天下国家の物語」にほかなりません。 つまり、 前者は「生活者」の話であり、後者は「政治家」の話です。 でも、 今回の大河ドラマでは、 「生活者」の視点と「政治家」の視点がぶつかりあい、 そのこと自体が、 物語にとっての最大のダイナミズムの源泉になっている。 これは、過去の大河にはなかったことです。 大森美香が大河を書く、ということの意味は、 まさにこの点にあるのだと思う。 それはとりもなおさず、渋沢栄一という人物が、 「生活者」でありながらも「政治家」であった、 「百姓」でありながらも「武士」であった、ということでもある。 そのような人物を描くうえで、 大森美香ほどふさわしい脚本家はいなかったのだと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.10.05 22:19:31
[大森美香の脚本作品。] カテゴリの最新記事
|
|