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カテゴリ:この漫画が好きだ!
朝8時過ぎに出発。ナビ様のおかげで迷うことなく、天保山のサントリーミュージアムには10時過ぎに到着。
壁面に吊された絵を見て既に心は躍っている。 時間ごとに入場者数を区切っているようなので大きな混雑はなく静かである。 と、言うよりは静かに熱を帯びていると言う感じ。 お腹が空いたと言う子どもたちをなだめて、先に入場する。 入場口で記念撮影。これ以降は撮影禁止。電話の電源もお切りくださいと言われる。 館内は静かだ。全体に薄暗く、時々真っ暗な部屋もあるので歩くのには気を遣う。 無駄話をする人もいない。携帯の音も鳴らない。みんなが無言で絵に対峙している。 う~ん・・やられた。 マンガの原画などが大きく引き延ばされて並べられているのだろうと思っていた。 全然違う。 すべて新しく書き下ろしたのだと思う。 ある絵は壁の天井から床まで届くばかりに、ある絵は近寄ってみないとわからないぐらいの大きさで。 注意していないと、通路の壁にも小さく絵や言葉が書かれているのを見過ごしそうになる。 もうマンガではない。墨絵と言おうか水墨画画なのだ。 それがただ並んでいるのではない。ひとつひとつの絵が意味を持ち、新たな一つのストーリーになっている。 具体的には武蔵の最期の1日と言う感じか。 若い頃からその時までのフラッシュバックのような流れを、幽体離脱?したように冷めた目で武蔵自身が見ていると言う感じ。 「前のお客様を追い越していただいても結構です」とスタッフが時々叫んでいたけど、それじゃダメだ。 ストーリーになっているので、順を追ってみていかないと分からなくなる。 最後の絵は海だ。 砂浜に、武蔵が居る。子どもの顔をした小次郎が武蔵を迎えに来る。 二人は手を取り合って遠くの方へ消えていく。絵は淡く・・薄く・・。 後に残るのは波の音だけ。 そのとき自分の足下の様子が変なのに気づいて下を見た。 砂浜なのである。絵の下、会場の通路に砂が敷き詰められて、入場者自身が砂浜に立っているような仕組みになっている。絵に目を奪われていて、自分の足下に砂が敷き詰められているのに気がつかなかった。 そこで、このマンガ展は終わる。 会場で見た絵は、外のショップで売っている「いのうえの」と言うアルバム(画集)を買うことによって、もう一度見る事が出来る。自分ももちろん購入したが(アマゾンで見つからないので、多分会場でしか売っていない)、やはりあの会場で、あの照明で暗闇の中で、あの巨大な絵と対峙しないとそのすごみの100分の1ぐらいしかわからないと思う。 そのアルバムの最後に、井上がこう書いている。 ********************************************************* この「最後のマンガ展」は僕にとって、 僕が描いてきた「武蔵」の人を何十人も斬ってきた人生を、 それでも肯定するための機会になると思った。 それはつまりこういうことです。 「バガボンド」をずっと読んできてきてくれた人に、 この10年の僕の紆余曲折を受け入れて、ついてきてくれた人たちに、 どうしてもいい思いをさせてあげたかった。 「読み続けてきて良かった」 絶対にそう思って貰いたかった。 「光」を書くために「影」を描く。 争いや人を斬ることは「影」。 それを描かなくては「光」も見えないはずと思っていました。 そこに向かっているのだと。 たけどそこに向かっている過程だとしても、 例えば人を斬る絵そのものは、 絵ではあるが、気づかないうちに人の心に傷をつける力があった。 読み手にも、描き手にも見えない棘を残しました。 神のままのむき出しの魂の持ち主のような、 例えば幼い子どもには見せたくないなと感じる自分を見つけたとき、 その事を確かだと思いました。 今この時期に、この物語を描く事ができて良かった。 いや、今この時期でなくてはならず、 「全体で感じて貰う空間漫画」でなくては、 ほんとうのところは伝わり得なかったのでしょう。 やっと「光」そのものを描く機会を得られたと実感しています。 そう思えばすべては間違いではなかった。 向かってきた通りの形になったのです。 例え、悲しみを描いても、 それはもう行き場のない悲しみではないのです。 *************************************************************** 2008年の7月、この文章を井上が書いたときと言うのは、恐らくバガボンドで武蔵が、吉岡一門70人と決闘して、その70人を斬って捨てる場面にちょうど直面しようかとしていた頃ではないかと推察する。 週刊誌の連載漫画を描く裏で、これだけの事を考えながら描いている。 まさに命を削って描いているように思える。 その命と対峙する機会を得られた事を嬉しく思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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