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カテゴリ:日々の診療の狭間で
先日、両親の家に行ったら駐車場で金木犀の匂いがふわっとした。
お隣の家から香ってきたようだ。 思い出して、近くの患者さんの家に行った。ここのお家にも、大きな金木犀がある。残念ながら少し遅かったようで、花は固くなっていたが、まだほんの少し香りが残っていた。 この家にはもう誰も居ない。在宅で診ていた患者さんは、介護をしていたご主人が急な病気で失明してしまい、介護が出来なくなり、病院へ入院した。ご主人の方は娘さんの家に引き取られたようだ。 在宅の患者さんは数年のスパンで、亡くなったりして居なくなることが多いが、この患者さんはあしかけ18年ぐらい私が訪問していた。 脳出血、くも膜下出血で四肢麻痺、球麻痺(喋れない、飲み込めない)の状態で、胃瘻での完全栄養だった。 胃瘻の是非が問われる昨今だが、この患者さんは胃瘻のお陰で息子さんの結婚式にも出席、孫の誕生も、孫の高校入学も経験できた。この胃瘻を無駄だと言う人は誰も居ないだろう。 最後の訪問は数日前に終わっていたが、引っ越しの日、もう一度お別れに行った。患者さんをハグして「長い間患者で居てくれてありがとう」とお礼を言う。次に旦那さんをハグしたら、旦那さんが泣き出した。突然の失明(片方の目の血管が突然詰まったそう。もともと反対の目はよく見えないらしい)で本当に不安だったのだろう。 こういう形で在宅の患者さんと別れるのは私もはじめてのことだった。 来年も再来年も、咲くであろう金木犀を見に来ようと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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