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カテゴリ:おとぎ話 ”春”
春<19> この時、晋吉の脳裏には、春の母 初 の訃報を知らされたときの、祖父の様子が映し出された。 春の家で初の葬儀を行った時の祖父は、終始一貫淡々と取り仕切っていたという話は、 村の者も、周囲の者達も、口々に話していたので知ってはいたけれど、 初の死を耳にし自室へ向かったときの祖父の姿、我が目に映った、 愕然とし己を失った祖父の足取りは、晋吉にとって忘れがたい光景であった・・・ あの時、祖父の様子になんとなく尋常でないものを己が感じたのは、 単なる思い込みだけではなかったのだろう・・・ っと晋吉はこの時直感したのだった。 晋吉は、己の祖父と、春の母の父親であった善造という人についての関係やら、 初と祖父の関係についてもう少し詳しく、庄助爺に尋ねてみたい衝動に駆られていた。 がしかし、、、晋吉は、今自分がそれを口にすることは、浅はかであるような、 まだ、問うための言葉も己の中で推敲されておらず、 なによりも問うたその答えを、受け取る己の心の準備も整っておらず、 時期尚早のような、、、けれど心のほうは、どんな些細な事でも 春と己の家 に関することは、 どうしても、今すぐにでも知りたい・・・ という、複雑な想いがしばらく彼の心と頭の中で交互に入り乱れていたのだった。 結局彼の理性は、あらゆる己の好奇心をねじ伏せて、 心のなかに浮かんできたあらゆる疑問を問うことを躊躇(ためら)い、 どうしても彼はそれらを、口にすることができなかったのだった。 庄助は、己の語る言葉に明確な ある反応 を示した晋吉の様子に気がついていたが、 晋吉が自分の想いをなかなか言葉にしないのは、 何か複雑な想いがそこにあるのだろうと彼の心を慮って、 話の方向を変える言葉を続けたのだった。 ”若先生の御名は晋吉だったかな? のう、晋吉先生や。名医というものは、村の宝なだけでなく、 一族の宝、家宝でもある、っと、わしはあの時、善造さんに教わったんじゃよ。 腕の立つ主治医がいれば、家の者の健康は守られ、 一家の柱である者も安心しておられるじゃろ。 わしは修吉先生のお父さんに、また修吉先生に、そして今は永吉先生のおかげで、 長生きさせてもろうとる。 そして、わしが日々健やかにすごしてきたことで、 どれほど一族の者たちも安心して過ごしてきたかということも知っとる。 そこでじゃ、・・・これは名医は家宝と心得た爺から、若先生への肩入れじゃ。” っと言って幾らかの金子(きんす)を晋吉の手に握らせたのだった。 未だ目の前で起こっている出来事と、己の頭と心にうつりゆくこととの間に 隔たりがあった晋吉は、爺に握らせられるままに金子(きんす)を手の中に入れていたのだったが、 己が手のうちのものが金子(きんす)であると気がついたときに、 彼は、驚きの表情をもって、その厚意を辞退することを庄助に伝えていた。 それでも庄助は言葉を続けた。 ”若先生のことを皆の者がどのように話しているか、わしも良くしっておる。 修吉先生は己の子供だから、孫だからといって過大評価するようなお人でねえし、 その修吉先生が、おめェさんは医者に向いておる、良い医者になるってんだから、 若先生は名医から、お墨付きを頂いた有望な、滅多にいねえ、お医者様ってことだ。 晋吉先生、これからも医学の道を高い志をもって歩んでくだせえ。 医学のことはちっともわからんが、医者の家に生まれて、医学の道を歩むったって、 てェーへんな苦労があろうさ。そんでオラができることといえば、こんなことぐれェだ。 高価な医学書の購入のたしにでも、なんにでも若先生がお遣いくだせェ。 否、どうしても受け取ってくだせェ。 そしてその代わり、倅、孫、ひ孫の代まで、わしがここに居なくなってもよろしく頼みまさア。 さすれば、わしの子供も、孫も、孫の子供達も安泰、 わしがそう安心できりゃア、ますます長生きができますぞ。” 祖父よりも年長者の庄助爺の口から発せられた、 思いもかけなかった言葉に改めて、 村医者の家に生まれ、医師を目指す己が十字架の重さを、晋吉は実感したのだった。 にほんブログ村
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Last updated
2014年08月24日 21時04分29秒
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