カテゴリ:シネマ/ドラマ
伊丹十三監督『タンポポ』 挿話(通称)「最後のチャーハン」 井川比佐志 三田和代 同 英語字幕入り 「タンポポで最も悲しいシーン」 映画全体の本筋とは別の、わずか4分間のシーンだが、深く心に残る。 世界映画史に残るといっていいのではないか。 井川比佐志、三田和代の鬼気迫るほどの入神の演技に加え、 せりふのない子役の動きまで、ほぼ完璧である。涙止めえず。 唯一、臨終を告げる医者役の演技が上手くないと思っていたのだが、 医者も人間である。手立ては尽くした。精一杯やった。礼も尽くした。 もう帰りたいよという気分を表現していて、これはこれでいいのだと思い直した。 映画好きであれば直ちに気づくことだが、このシーンは 巨匠・小津安二郎監督の代表作で、日本映画屈指の名作『東京物語』で 母親が亡くなるシーンへのオマージュと挑戦が入っているのだろう。 そこで大声を立てて泣くのは、大女優・杉村春子だったが、 (・・・これがまた、書けば若干長くなるのだが、書いてしまおうか。 当時のこととて、割と優しいけれどもやはり威張っている父親に 忍従気味の古いタイプの母親に反発して、手に職をつけて自立して、 今は天下の大東京で美容院の経営者として成功している長女・杉村は 映画の初めから母親にクールでドライで冷笑的な言動を繰り返す。 見事な脚本と演出を得て、歴史的演技派大女優の面目躍如の独壇場である。 母親の危篤に際しても、ますますそのドライな怜悧さは冴えわたる。 女って、女に対してこうだよなと、いちいち思い当たって男は苦笑する。 ところがそれが、長大な伏線であったと気づくのが、くだんの 母親の臨終シーンであり、この瞬時、魂の叫びのように杉村春子が泣き崩れる。 「ああっ」という声だったか。そしてすべての伏線が回収されたのである。 脚本・監督のたくらみであり、ドラマツルギー・作劇の見本であると思う) この長女役の子役の泣き声は、それに勝るとも劣らないと思う。 長男役の子役もいい。母の死を目前にして茫然としつつ 父の命に従い、その最期のチャーハンを黙々と食う。 かなしみは、やがてじわじわと後から襲ってくるだろう。 かなしい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年09月15日 19時32分37秒
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