カテゴリ:近代短歌の沃野
与謝野鉄幹(よさの・てっかん)
神無月伊藤哈爾濱に狙撃さる この電報の聞きのよろしき 詩歌集『相聞(あひぎこへ)』(明治43年・1910) 神無月十月、伊藤博文がハルピンで銃撃されて亡くなった。 この外報を聞いて、日本男児として見事な生き方、死に様だったと 私はいっそ痛快に思った。 註 初代内閣総理大臣で、当時の前・朝鮮総督だった伊藤博文は、明治42年(1909)10月26日、当時満洲のハルピン(現・中国黒龍江省都)駅頭で、韓国人過激派活動家・安重根(アン・ジュングン、あん・じゅうこん)に狙撃され、暗殺された。 妻・晶子とともに短歌結社「明星」を主宰するとともに、今でいう保守派知識人のような立場でも鳴った作者はこの知らせを聞いて、激動の幕末から明治維新、そして近代日本の草創期を駆け抜けた伊藤の生き方・死に様を、日本人として、政治家として、男として、人として立派だったと讃えている、一種の壮絶な追悼詠。 この目も眩むような凶報を、明治時代の日本人がどのように受け止めたのかが分かる貴重な肉声であり、短歌の形で示された歴史的証言であるとも言えるだろう。 漢字を多用し、「聞きのよろしき」という、韻を踏みつつ聞きなれない言い回しの硬質な文体を用い、遺憾なく重厚鮮烈な表現になっている雄渾な秀歌。 初句「神無月」は、縁語である「紅葉」を暗喩し、鮮血の赤のイメージを響かせていると思われる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024年10月10日 06時28分17秒
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