カテゴリ:独断と偏見に満ちた映画評
今夜の映画は「晩秋」‥‥
1966年の韓国映画で、その当時、公開されるや韓国内で大きな話題を呼び、 韓国内のさまざまな映画賞を総なめにした不朽の名作です。 殺人罪で刑務所に服役中の女・ナム・ヘリム(ムン・ジョンスク)は、 模範囚ゆえに、母親の墓参りのために数日間の外出を許され、 郷里へ向かう列車に乗る。 その車内に偶然居合わせた、得体は知れぬがひょうきん者の青年キム・フン(シン・ソンイル)。 フンはなぜかヘリムの行く先々に現れ、互いに名も知らぬ男女の奇妙な旅が始まるのだが‥‥ 「ボーイ・ミーツ・ガール」の王道のような作品ですが、 シンデレラのごとく、約束の時刻までに刑務所に戻らなければならない女と 当局に追われる男の切迫した愛の姿が、観客の胸を打ちます。 それでもじめじめしたメロドラマにならないのは、 キム・フンという、いい加減臭いけど、どこか憎めない男のキャラクターです。 海岸の漁場(?)のラジオから流れる音楽で、 当時韓国でも大流行のゴーゴー(若い人は知らないでしょう)を、 「オレは世界一のゴーゴー・ダンサーさ!」と言いながら踊りだしたり、 テントに無断で入り込んで、魚を焼いて暗い翳の消えぬヘリムにキャンプ気分を味わわせたり‥‥ 前半、ヘリムはあまり口をきかず、ほとんどフンが一人でしゃべっています。 しかし、一見底抜けに明るい彼も、実は警察に追われる身‥‥ 映画通の方ならおわかりでしょうが、 この韓国映画は、1972年の斎藤耕一監督作品「約束」(松竹 岸恵子、萩原健一出演)のベースとなったものです。 斎藤監督が韓国でこの作品を観て、そのストーリーを脚本家の石森史郎氏に話し、 石森氏はその聞いた話をモチーフに、「約束」のシナリオを書き上げたそうですが、 その「約束」のシナリオと、「晩秋」のシナリオは、実は驚くほど似ています。 否、「全くそのまんま」と言ったほうがいいかも。 二人の男女のキャラクター、ストーリー展開、各シーン(特に列車の中の)、それに台詞にいたるまで! 実はモイラは数年前、この「晩秋」のシナリオをとある脚本家の方から入手し、 日本語に翻訳したことがあるんです(本当です)。 なぜこのシナリオを翻訳するに至ったか‥‥? それは翻訳作業のふた月前、モイラはとある会合で、 「晩秋」のシナリオを書かれた韓国の脚本家キム・ジホン氏とお会いし、 少しばかりお話をしたことがあるんです。 (キム・ジホン先生は、朝鮮半島が日本統治下の時代に少年期を過ごされた方ゆえ、 日本語がとても達者でした。) モイラはその会合でキム先生に、 自分には韓国語の新聞がなんとか読める程度の韓国語能力があることを話し、 「近い将来、韓国映画のシナリオを翻訳してみたいです」と、 ちょっとデカイことを言ってしまったのです。 するとキム先生は、薄笑いしながら驚くほど流暢な日本語でこう答えました。 「新聞が読める程度じゃ、シナリオの翻訳はダメだね」 モイラはちょっとカチンときて、内心こう叫んでいました。 「よ~し、それじゃキム先生よ、あなたの日本語よりも韓国語が上手になってやらあ!」 帰国したモイラは、「晩秋」のシナリオを入手するや、 捻り鉢巻で翻訳作業にとりかかりました。 ‥‥で、一週間後に「晩秋」シナリオの日本語訳が完成したのです! キム先生、それを聞いてびっくりなさったそうですよ。 「よく訳したねえ‥‥!」と。 しかし、この「晩秋」のシナリオの翻訳は誰かに頼まれたわけじゃないから 全くの無償。 映画人の亡父の友人でもあった石森史郎氏には、無償で差し上げましたが、 その噂をどこからか嗅ぎつけた大手映画会社のKというプロデューサーが ある日、モイラの家に電話をかけてきて、 「『晩秋』の翻訳をぜひ一部ほしい」と言ってきたのです。 モイラは、翻訳が大手映画会社の人の目に触れれば、あるいは翻訳料がもらえるかもと思い、 添付ファイルでKに送ったのですが‥‥ 翻訳料どころか、謝礼ひとつありませんでした! いや、何もお金がほしくて翻訳をしたわけじゃないけど、 大手映画会社が謝礼もなしってのは、あんまりじゃないですか?! 映画業界ってのは、ほんとに無礼者が多いです。 あ、「晩秋」の日本語訳を欲しいとおっしゃる方、 もうモイラはタダじゃ差し上げませんよ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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