【粗筋】
助けた狸の子が恩返しにやってきた。男はこれを鯉に化けさせると、祝いの品として持参する。もらった方ではさっそく料理しようとするが、まな板の鯉といわれるのに、ぶるぶる震え出した。とうとう飛び出して積んであった薪を登って逃げ出す。
「これが本当の鯉の薪上りだ」
【成立】
柳家小さん(5)が演じていた。落ちはもちろん「鯉の滝登り」の洒落。逃げ出して「狸賽」につなげるのが本来の型だが、落ちが付いて一席になった。
【一言】
報恩譚はひとつまちがうと修身くさくてたまらないものだが、この報恩は実におおらかでたのしい。落語という芸能の発想と表現のすばらしさに改めて驚きながら、ぼくは刻々と失われつつある報恩という行為の美しさに打たれる。しかも、それを子狸に教えられようとは……。(榎本茂民)
●「親狸が親方のことォ褒めてましたよ。こういう義侠心に富んだ方は人間にしとくのは惜しいって。狸の仲間に入れても恥ずかしくない人だ」(小さんのくすぐり)
【蘊蓄】
柳家小さん(5)はよく狸の絵を描いたが、「他抜き」という字を添えていた。五代将軍・綱吉の母・桂昌院が同じ意味で狸を祀り、秋葉原の柳森神社になった。狐ではなく狸がいる。