名作落語大全集

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• 落語「こ」の３１：黄金餅（こがねもち）：その２

  ​【一言】​　故古今亭志ん生の『黄金餅』に、怠けものの和尚があくびをしながらお経を唱える所がある。奇抜な文句なので後半を引用してみよう。「きんぎょー金魚。三い金魚、はなの金魚はいい金魚、なかの金魚は出目金魚、後の金魚はデコ金魚、天神天神、鉛の天神いい天神、虎が鳴く虎が鳴く、虎が鳴いては大変だァ、犬の仔が、チーン。きみと別れて松原行けば、松の露やら涙やら、チーン」  これは名文句である。ところが、この原作は圓朝であって、その全集には正式のお経が書かれている。おそらく、志ん生はそれでは退屈なので、アドリブでいろいろいっているうちに、この形に定まったのであろう。（吉行淳之介）​○　御成街道をまっすぐに、五軒町の堀様と鳥居様のお屋敷、筋違い御門の大通り、神田須田町、新石町、鍛冶町、今川橋、本新金町（ほんしろがねまち）、石町（こくまち）、本町、室町から日本橋を渡り、通四丁目、中橋、南伝間町、京橋通りをまっすぐに、新橋前を右に切れ、土橋を渡り、久保町から新橋の通りへ出て、愛宕町の天徳寺を通り抜け、西の窪から神谷町、板倉六丁目の坂を上がって板倉片町、祖のころおかめ団子を売っていた前の通りを通って、麻布長坂を下り、十番に出て、大黒坂を上って、一本松、麻布絶口釜無村の木蓮寺に着いたときには、ずい分みんなくたびれた……あたしもくたびれたヨ……（ここまでは私が速記をもとに、実際の録音を加えた）​  現在でいえば、林家正蔵（彦六）が住む台東区東上野から、麻布六本木のＮＥＴテレビまで、約10キロの道のりである。その上、金兵衛はこのあと一人で死骸の入った樽を背負って、桐ガ谷の火葬場まで５キロを歩き、さらに約８キロも離れた新橋の夜あかしの店で一杯やって、明け方再び桐ガ谷にとって返すのである。「すごいですねえ、いくら昔の人は脚が丈夫だといっても」  というと、馬生、「あれはネ、“道中づけ”という、言いたての面白さをねらったもんで、いくら昔の人だからって、あれだけの時間で、とっても歩けるもんじゃござんせん」  （中略）この咄は、まともに暮らしていたのではどうしても浮かび上がることのできない下層庶民の、ある意味であたくましい、良識などというものを超越した出世物語である。たとえ死骸の腹の中の大金をかすめ取らずとも、それと似た過去を持つ大金持はこの世に多く存在する。又、いわゆる善いことをした人間がすべて幸福となり、悪事を働いた人間がすべて悲惨な末路をたどるものとするならば、不慮の災害や事故で死んでゆく人々は、すべて悪人ということになろう。その人々は、不運な死に方をした上に、過去の生きざまにまでケチをつけられることになる。そんなバカな話はない。勧善懲悪物語などは、庶民を手なづけようとする強者のごまかしか、弱者である庶民の自己欺瞞に過ぎないのである。  そういう観点から、笑いのうちに世の真実を描く落語という芸においては、この＜黄金餅＞は前編だけで終わらせるべきである。だがこれを芝居として上演するならば、後編の因縁話は蛇足ではない。そこが、たった一人の演者によって語られ、聴衆がそれぞれのイメージをふくらませ、陰惨な部分も笑いに転化できる落語と、目の前に、いやが上にも真実性を帯びた虚構が展開する演劇との相違であろう。（馬場雅夫）　志ん生の言葉などあるので、もう一回続く。

  2022.05.30

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• 落語「こ」の３１：黄金餅（こがねもち）：その１

  ​【粗筋】　下谷山崎町の西念という坊主、小銭を貯めてけちに暮らしていたが、風邪をこじらせて寝込んでしまった。隣の金山寺味噌を売る金兵衛が見舞いに行くと、「餡ころ餅が食いてェ」と言う。買ってきてやると金兵衛を追い出すので、妙に思ってのぞいてみると、西念は餡だけを先に食べ、胴巻きから二分金や一分銀を取り出すと残った餅にくるんで食い始め、最後の一つを飲み込むのが喉に詰まって死んでしまう。​　金兵衛は長屋の連中と一緒に葬儀を行い、「自分が骨を拾ってくれるよう頼まれた」と一人で焼き場へ行き、「仏の遺言で腹ンとこだけを生焼けにしてくれ」と頼んで、翌朝死骸を割いて金を取り出す。これを元手に目黒に餅屋を出し、繁盛したという。　​​江戸名物黄金餅由来の一席。【成立】　松崎堯臣が、江戸初期から享保年間（１７１６～３６）までの見聞録として遺した随筆『窓の須佐美』にある、金を餅でくるみ、これを４８個食って死ぬという「執着深き僧」をそのまま生かして、三遊亭圓朝がまとめた。​【後筋】​　兵衛に跡取りもできて、一家は万々歳。しかし、子供が年頃になり、生活が安定すると思い出すのは西念のこと。供養を思い立って仏壇を作って位牌を置き、墓を建てようと、死骸の腹から取り出したのと同じ６２両を仏壇に隠しておいた。これを息子が見付けて女に使い、伜に騙された女が仕返しすることから大騒動になり、これが元で黄金餅屋は滅びてしまう。　「一言」「蘊蓄」は後刻​​

  2022.05.29

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• 落語「こ」の３０：五月幟（ごがつのぼり）

  ​【粗筋】　酒ばかり飲んで子供の初節句に人形の一つも買ってやれない熊さん、おじさんに金をもらって人形を買いに行くが、喧嘩の仲直りをしている連中に捕まり、飲みに行って気が大きくなると、持っていた金を全部使ってしまう。家に帰って夫婦喧嘩になり掛けたところへおじさんが来たが、熊さん酔った勢いで人形も幟も用意したと言い出す。今日初めて二階へ上がって初上り（幟）、酔っ顔が赤くなって金太郎、俺が熊だからちょうどいい、酔いが覚めると正気（鍾馗）になる。博奕をやめるから勝負断ち（菖蒲太刀）、こうして蒲団にくるまって柏餅……と並べ立てる。​「馬鹿をいえ。しかし、洒落たことを言う奴だ。それなら俺も一つ何か祝ってやろう」「おじさん、大きな声だな」「この声（鯉）を吹流しにしろ」​【成立】　「初幟」「お幟」とも。「さつきのぼり」ではなく、「ごがつのぼり」と読むのが本当だという。子供の時代に聞いたが、その後聞いていないなあと思っていたら、柳亭市馬師匠が演ってくれた。​​【一言】　端午の節句の季節を背景にしたこの噺は、ほのぼのとあたたかかった、むかしの親子、親戚などという人間関係がよくでていてうれしい。それにしても、しゃれによっていいわけをするという洒脱な日常生活は、いかにものどかで胸あたたまるものがある。（興津要）​​【蘊蓄】　鯉は滝をのぼって龍に変身するという。​　柏餅は、「かしわめでたきもの也。神代は、この葉に供御を盛れり。」（俚言集覧）「米の粉をねりて円形扁平となし、二つ折りとなし間に砂糖入り赤豆餡を挟み、小なるは二枚を以って包み蒸す。江戸にては砂糖入れ味噌をも餡に替え交ぜる也。赤豆餡には柏葉表を出し、味噌には裏を出して印とす。」（守貞漫稿）

  2022.05.28

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• 落語「こ」の２９：強欲五右衛門（ごうよくごえもん）

  【粗筋】　強欲の五右衛門と呼ばれる男、水害で流れた品物を拾っていたが、大きな長持が流れて来て、引き上げようとしたが一人では上げられない。通り掛かった仏の又市に手伝わせて引き上げたが、中身を独り占めしようと、又市には、「さっさと行っちまえ」　と言う。又市が怒って、「中は何だ」　と聞くと、「布団だ」　と言う。開けると確かに布団だったが、布団にくるまっている老婆まで出てきた。五右衛門がこれを川に捨てるのを又市が助けて介抱すると、二、三日で元気になった。​　さて、この老婆が庄屋の母親だというので、庄屋に知らせると、水害で行方不明になっていた母親が無事に帰ったので喜び、又市にはお礼に五十両を出そうと言う。又市は断るが、押し問答をしているところへ五右衛門が現れ、「いらないのなら、俺がもらってやろう」　と言う。あきれた又市と喧嘩になるが、庄屋が、「この金を淵へ放り込むから、飛び込んで先に取った者が受け取ることにしよう」　と提案した。又市は泳ぎが得意でないが、庄屋が、「放り込んだ財布の中身は石や瓦だ。五右衛門は流されて死んでしまうだろう」　と耳打ちしてくれたので、飛び込まずにいた。五右衛門だけが飛び込んで流されるかと思いきや、しぶとい男で、しっかりと財布をくわえて上がってきた。そこへ屑屋が流されて来て、たまたま五右衛門を下敷きにしてしまう。もがいているのを見て、岸から、「強盗五右衛門、財布の中は石や瓦じゃ」「何ィ……石瓦（石川）の五右衛門じゃ」　気楽な奴だと皆で笑うと、「屑屋負うたがおかしいか」​【成立】　正徳４（１７１４）年、江島屋其磧の『商人軍配団（あきんどぐんばいうちわ）』五ノ巻１、２を笑い話にしたもの。文政から天保（１８１８～４４）にかけて流行した「出しものばなし（実話そっくりにつくった落とし噺）」にある「石川の洪水」。芝居『釜淵双級巴（かまぶちふたつどもえ』の五右衛門は、浪人者の家で葛籠を背負って行こうとすると、幼児がはい出して来る。​「子を持ちし身はよその子の、愛にひかれが愛しかかり、（中略）我を忘れて余念なく、背負いし葛籠振り廻し、葛籠負うたがおかしいか」　と父性愛を見せた場面が評判になった。つまり、この落ちを言いたから、人物名を五右衛門にしただけ……としか思えない。

  2022.05.27

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• 落語「こ」の２８：公冶長（こうやちょう）

  【粗筋】　昔唐土にいた公冶長という人は、諸鳥の鳴き声を聞き分けたという。​　堪左衛門という烏が中心になって、拾った物は仲間に分け、もらった物は独り占めしてもよいという決まりを作った。　ある烏が、魚屋の放り出した魚のはらわたをくわえて屋根に上がると、他の烏が、「ひろったかァ、もらったかァ」「もらった、もらった」「半分食おう、半分食おう」「いやァ、いやァ」「そんなら買おう、そんなら買おう」　嘉平という酒飲みが、朝昼晩にそれぞれ五合ずつ飲んでいた。烏が、「嘉平、嘉平」「なんだ」「五合かァ、五合かァ」  しゃくにさわった嘉平が、一升徳利を於いて飲み始めると、「五合かァ、五合かァ」「今後は一升だ」「おごったァ、おごったァ」​【成立】　鳴き声を言葉にとりなすので、「紀州」の中に用いた例もあると聞いた。​​【薀蓄】　公治長は『史記』｢仲尼弟子伝｣に登場する春秋時代の人物。中身は読んでいないのだが、仲尼（孔子）の弟子であることが分かる。当時、孔子がいた魯の国王であった昭公が実権を失って亡命する事件が起こるが、この昭公の娘の一人が公治長に嫁いでいる。​　『西鶴諸国ばなし』巻１－５「不思議のあし音」では、公治長の末裔という盲人が登場する。道を歩く人の足音の調子から、人数・性別・風体などを正確に言い当てる。

  2022.05.26

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• 落語「こ」の２７：高野違い（こうやちがい）

  【粗筋】​　鳶頭がお店の旦那を訪ねると、百人一首をやっている。「これは紫式部の歌で、　　めぐり合ひて見しやそれとも分かぬ間に雲隠れにし夜半の月かな　こちらは小野小町で、そっちが六玉川のうち高野の毒水だ」「毒水ってェのは何です」「高野の玉川は毒があるので、弘法大師が歌でいましめた。    忘れても汲みやしつらん旅人の高野の奥の玉川の水  というのだ」　これを聞いた鳶頭は、折から大和めぐりに行く親分のところへ行って注意をする。「親分、高野の玉川の水は飲んじゃあいけませんよ。歌にあるんです。    忘れても汲みやしつらん旅人の……あとより晴るる野路の村雨……」「それは道灌さまの歌じゃねえか。『タカノの奥の玉川の水』ってんだ」「親分、これはタカノじゃなくってコウヤでしょう」「タカノでもコウヤでも、音訓の違いだけで同じだ」「それから、洗い髪の女が歌ったのが、　　めぐり合ひて見しやそれとも分かぬ間に雲隠れにし夜半の月かな　ってんです」「今度は間違いねえな。誰の歌だ」「鳶色式部です」「それは紫式部だろう」「ムラサキとトビイロは音訓の違いで」「何を言ってやがる。大変な違いだよ」「それじゃあ紺屋（こうや）の間違いでしょう」​【成立】​　落ちは「高野」と「紺屋」の洒落。紺屋が間違えて、紫を鳶色に染めたのだろうという意味を含む。​【蘊蓄】​　明治時代に女学生を袴の色で「○○式部」と呼ぶことがはやったが、その中に、「鳶色式部」というものあった。  紫式部は『源氏物語』の作者として有名。藤原為時の娘であったので藤式部と呼ばれていたらしい。後の世では『源氏物語』の美女・紫の上を取って、紫式部と呼ばれるようになる。『源氏』の作者というのも、ここからの推察で、真実であろうが、確たる証拠はない。「めぐり合ひて」の歌は女の友達に詠んだもので、恋の歌ではない。なお、弘法大師の「忘れても」の歌は『百人一首』に入っていない。六玉川は、歌を素材にした絵でよく取り上げられている。

  2022.05.25

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• 落語「こ」の２６：紺屋高尾（こうやたかお）

  ​【粗筋】　神田紺屋町の吉兵衛という親方の染物屋に働く久蔵、吉原の花魁、高尾への恋患い。医者から、３年働くと給金が９両、あと１両を工面して​10両とまとまれば高尾を買ってやると言われ、元気を取り戻して働き始める。３年目、高尾を買いたいと言うと、親方も元は元気を出させるための嘘だったのだが、３年の給金を一夜の栄華に使うのは威勢がいいと１両足してくれた。流山のお大尽という触れ込みで出掛け、無事に逢うことができた。翌朝、高尾に、「主は、今度はいつ来てくンなます」　と聞かれると、紺屋の職人だから「あさって来ます」とか何とか言っときゃァいいのに、べそをかいて自分が紺屋の職人で、３年の給料を貯めなければ来れないことを白状してしまう。高尾は久蔵の情の深さに感じ入り、来年３月に年期があけたら女房にしてくれと言い出した。すっかりぽーッとした久蔵、家へ帰ってもぼんやりして、時折「来年の３月」とつぶやいているので「来年の３月」というあだ名が付いてしまう。　翌年３月、言葉違わず高尾が来て、親方の世話で暖簾分けをしてもらった。最初は客もないので、その場でどんな物でも染めるという「速染」を工夫した。美人で評判の高尾が染物をする。瓶をまたいで仕事をするので、ひょっとしたら中にうつっていないかしらと、客が瓶をのぞくので、これを「瓶のぞき」……あまりあてにならない。これが評判で客が途切れない。とにかく高尾を見たいと、家にある物を残らず染めて、白い物がない。「何かねえかな。おう、猫がいらあ。こいつを持って行こう」「お前さん、白猫ならともかく、黒猫じゃないか」「ああ、色上げしてもらうんだ」​【成立】　三遊亭円生（６）は金原亭馬生（１０）から教わったという。「駄染高尾」「かめのぞき」「紺屋の思い染め」とも。芝居では藤山寛美が演じ、初めて高尾を見て腰を抜かす場面が語り種になった。古今派には同じストーリーで「幾代餅」がある。どちらが先かという話題になるが不明。ただ「幾代餅」は講談にもあるので、そちらからの移入か。​　以前は「瓶のぞき」の由来を説明して、「紺屋高尾でございます」と高座を下りるのが一般的だったそうだ。本文にある瓶をまたいで仕事をするのが本来の型であるが、客層によってはバレになることを避けて、「高尾が下を向いて仕事をしているので、顔が見えない。それで瓶の中にうつってやしないかとのぞく」という演じ方も行っている。　立川談志は、初見で床入りするのはおかしいので、初めて顔を合わせたところで素性を自白してしまうようにした。　文化９（１８１２）年『妙伍天連都』の「子供劫し」は、洗濯の盥をのぞく子供に、母親が「ももんじい」と脅す。おびえた子供が父親の所へ行くと、やはり悪戯をとがめて口に指を入れて「ももんじい」……「お父っちゃんのももんじいは、口が横にさけてらあ」……ももんじいは毛むくじゃらの化け物で、ももんがあと同じ。盥をまたいで選択をしている訳で、発想は同じ。　本文の落ちは狂歌楼馬楽（３）が演じたもの。三遊亭圓生（６）が速記から掘り起こして『百席』で初めて採り上げたもので、寄席で実際に演じたことはないという。落ちとしてはこちらの方が効果的と思われるが、客の方で「色上げ」が分からなくなっているので、説明が必要。​【一言】　一般に「こんやたかお」で通って居りますが、圓生（６）は「こうやたかお」と言って居ります。これはこの方が正しいので、この頃は文字から言葉をおぼえる人が多いので、「こうや」を文字通り「こんや」と発音してしまっているので、したがってこの噺もいつのまにか「こんやたかお」になってしまいました。「こうや町」も「こんや町」になってしまいました。こういうところに日本語の乱れがあるわけで、その点古い修行をした圓生は、決して文字から言葉を勉強せず、口から口へつたわった言葉を身につけているのです。こういうところが、いい意味で古い噺家のありがたいところであります。言いかえれば、ねうちのあるところだともいえましょう。（宇野信夫：江戸から明治の頃の文献によれば、専門の職人は自ら「こんや」と呼んでいたが、専門家以外は「こうや」と言っていた。そのためか、名高い辞書でも「こんや」しか載っていないものがある。一般には「こうや」を使うはずで、芝居なども「こうや」でやっている。落語でも「こうや」と言う方が正しい）​​【蘊蓄】​　藍染の業者を紺屋といい、愛染明王が「藍染」に通じるということで業者が信仰した。７月２６日の縁日には「六夜待ち」と称して、業者が月の出を拝む。高輪・洲崎・九段坂・湯島天神・目白不動などが有名。　「紺屋の白袴」は「医者の不養生」「大工の掘建」「髪結の乱れ髪」などと同じ、専門の者は他人のことで忙しく、自分自身にかまっている暇がないという例え。人にやかましく言うが、自分のことはできないことにもいう。　「紺屋のあさって」は、染物屋では天候に左右されるので、催促をされて「明日」とは言えず「明後日」と答えるが、期日が遅れることが多いので当てにならないこと。「紺屋の明後日、七十五日」ともいう。「約束をたがえぬ紺屋あわれなり」という川柳は、約束通りできる店は繁盛していないので景気が悪いという意味。これらの諺も「こうや」で発音しないとおかしいが、テレビのアナウンサーが平気で「こんや」と言ってしまっている。　落語の中でも「今度いつ来なんす」と問われて、紺屋だけに「明後日にも」と言えばいいのに……というくすぐりがある。安永２（１７７３）年『飛談語』の「紺屋」は、喧嘩をして「おととい来やがれ」というところをうっかり「あさって来やがれ」と言ってしまう小噺。　江戸では「紫屋」といい、武蔵野に野生する紫草を用いて「江戸紫」色に染めた。染め賃は『産業漫筆江戸紫』（田中長嶺：明治２５年）に絹１疋に銀１５匁と記されている。２反を染めて１分（４万円）という値段になる。

  2022.05.24

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• 落語「こ」の２５：高野雪隠（こうやせんち）

  ​【粗筋】　高野山へ行くと、谷にかけられた天然の水洗便所があって、老夫婦がすっかり感心して帰った。その後長屋の路地に入ろうとした人に、声を掛けた者がある。​「気ィ付けや。また糞（ばば）が降ってくる」​【成立】　上方噺。こともあろうに長屋に同じ仕組みの便所を作ったのだ、という「考え落ち」らしい。高野山は天然の流れを用意した水洗トイレが完備されていた。それでトイレを高野というと説明した真面目な本があったが、これは「厠（かわや）」の音が変わったもので高野山とは何の関係もない。平安期の貴族の屋敷も、庭園に流れを作っているが、これもそこで流すのが目的。だから間取り図にトイレはなく、角の目立たぬ所に流れがあると、ああここがトイレだなと見当がつく。​

  2022.05.23

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• 落語「こ」の２４：高野駕籠（こうやかご）

  ​【粗筋】​　本妻と妾が実に仲がいい。幇間の提案で、旦那が本妻、妾、幇間らを引き連れて海へ行き、駕籠に乗ったままで釣りを始める。本妻と妾の釣り糸がもつれると、旦那は、加藤左衛門の故事を思い出し、「やはり、この二人はもつれるか。世は無情だ」　とか何とか行って姿をくらます。皆がどこへ言ったのかと騒ぎ出すと、本妻が、「おおかた、浜の厠（こうや＝高野）へでも行ったんでしょう」​【成立】​　上方噺。「絞り紺屋」のもとになった噺ともいわれる。加藤左衛門は、妻と妾が仲良く碁を打っているが、障子に写った影は髪の毛が蛇のようにからみ合って争う姿だったので、左衛門が無常を感じて高野へ上り、刈萱道心となった。世をはかなんで高野山へ行ったというのと厠（かわや＝こうや）という洒落である。　トイレを「こうや」というのは……次回。

  2022.05.22

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• 落語「こ」の２３：弘法の馬（こうぼうのうま）

  ​【粗筋】　汚い坊主が似ている豆を少し恵んでくれと言うのを、女房、「これは馬に食わすもので、人間が食う物ではない」と断った。豆が煮上がったので、亭主に食わそうと持って行くと、何と、亭主が馬に変身している。あの坊さんが弘法大師だったのだと追い掛けて謝罪する。戻って来た坊さんが念仏を唱えて頭をなでると、頭が人間に戻った。肩、胸、腹と戻すと、女房,「そこから下はそのままで」​​【成立】　馬並という言葉があって、大物のこと……何がって、うぶな私にはよく分からない。貞享４（１６８７）年『正直咄大鑑』の「夢想の馬薬」は、観音様から、馬になったり人間になったりする薬を授けられる。観音様って何考えてんのか分からない。まあ、神々のことで人間には分かりませんからなあ……金原亭馬生（１０）を聞いた。​

  2022.05.21

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• 落語「こ」の２２：好物（こうぶつ）

  ​​【粗筋】　新参者の働きに感服した旦那、「何でも褒美をやろう。一番好きな物はなんだ」「はい」「かまわぬから言え」「はい、二番目に酒でございます」​【成立】　安永２（１７７３）年『坐笑庵』の「好物」。噺の中に入れて使うことも多い。柳家小さん（５）はこのまま小噺で演ったが、ちょっと考えて「二番目が」と答える、その間の取り方が素晴らしかった。三遊亭圓歌（３）の「浪曲社長」では、」「二番目が酒」という新入社員に、社長が怪しい笑顔で何としても一番を聞こうとする。社員が耳元でささやくことにして「南京豆」。肩透かしが受けるのだが……じゃあ一番は何なのか、うぶな私には全く分からない。​

  2022.05.20

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• 落語「こ」の２１：こうふい

  ​【粗筋】​　甲府から江戸へ来た伝吉、浅草の人ごみで財布をすられ、空腹に耐えかねて豆腐屋で卯の花を盗み食い、店の者になぐられる。止めに入って話を聞いた主人が同情し、店で働かせることにしてくれたので、毎日「豆腐ィ、ゴマ入り、がんもどき」と売り歩く。ここの娘が年頃となったが、主人夫婦が熱心な法華の信者だったので、法華の本場の甲州から来た、働きぶりもいい伝吉を婿に選んだ。婚礼もすんで間もなく、伝吉は新妻を連れて身延山に大願成就の礼に出掛けることにした。お供に小僧を一人連れて店を出ると、近所のおかみさんが、「あら、ちょいと、夫婦おそろいでどちらへお出かけ」「甲府ィ、お参り、願ほどき」​【成立】​　江戸に古くから伝わる噺。漢字でで「甲府い」とも、また「法華豆腐」「出世豆腐」「お礼参り」ともいい、『百花園』には桂文治（６）の速記があるが、ここでの題名は「出世の島台」である。今世紀初めに若い人が演じたのを数人聞いたが、どの人も淡々と語って、ちっとも面白くなかった。みなそうだったのは、そういう伝統なのだろうか。もう少し年上の噺家は面白かったのだが……​【一言】​　駅からわが家に帰る途中に小さな空地がある。そこには見上げるばかりの楠の木があり、下に明暦の年号の入った庚申塚が武蔵野のおもかげをちょっぴり残している。ひところ、この木かげにいつもオートバイを止め、区役所編集の地図をひろげているクリーニング屋の店員がいた。いつもおんなじ姿勢で地図に食いつきそうな顔をしているので、“田舎から出て来て、よほど東京の地理がわかならいんだな”と思っていたら、ああやって町内の家を一軒一軒あるいて大分おとくいをふやしたと聞いた。その後、すっかり忘れていたが、近所の奥さんが“あの熱心な店員がクリーニング屋のお婿さんに昇格した”と教えてくれた。家つきの娘というのは、店さきで朝から晩までアイロンをふりましていたお嬢さんなんだろう。“まるで落語の『甲府い』みたいですね”といったが、その奥さんには何のことだかわからないらしかった。（永井啓夫）​○　あの咄は山もなんにもないけど、お爺さんとお婆さんが伝吉を婿養子にしようとして二人で話すとこ、あそこが身上で、実にいいんだ。わたしもよく誉められましたよ。で、サゲのところを三遊亭圓生さんに注意されて直したんです。「夫婦連れでどこへいくんだい」って聞くのを男じゃなくて、長屋のお上さんにしてね。男じゃ色っぽくないし、長屋の職人はそんなことぐらいでわざわざ顔を出さないって。（橘家圓蔵（７））​​【蘊蓄】​　身延山妙法蓮華院は久遠寺といって山梨県南巨摩郡身延にある日蓮宗の総本山。

  2022.05.19

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• 落語「こ」の２０：鴻池の犬（こうのいけのいぬ）

  ​​【粗筋】　捨て犬の黒が鴻池家の坊っちゃんの遊び相手として拾われたが、太って毛並みもいいので犬仲間の親分株となった。ある日近所の犬たちが寄ってたかっていじめらていた犬を助けると、これが幼い頃に生き別れた弟。さっそく鴻池の屋敷へ連れ帰った。屋敷では「こいこいこい」と呼ばれるたびに鯛やカステラをいただくのだが、黒は、「俺は食い飽きているから、みんなお前が食え」　と、全部弟に譲る。そこへまた、「こいこいこい」　ぴゅうッと飛んで行ったが、しおしおと戻ってきて、「はは、坊ちゃんがおしっこするところ……」​【成立】　落ちの部分は安永２（１７７３）年『聞上手』の「犬のとくゐ」。「大どこの犬」とも。上方落語だが、東京へも移入されている。柳家蝠丸が演じたのは、飼い主が餌ではなく、親の夫婦喧嘩を止めてもらおうと黒を呼んだという。​「じゃあ、兄ィ、食い物はないな」「夫婦喧嘩は犬も食わない」​【一言】　大阪では大富豪の鴻池家の飼犬になっているので、東京でも、岩崎家など、実名を出して演る場合もある。同じ生まれでありながら、運不運で出世もすれば零落もするといった人間社会の実態やその心理を、犬の世界の出来事に借りて語ったコント風の珍しい筋だが、それだけに落語としてはおかし味は薄い。サゲは子供に小便させるとき、よく口に出る言葉で、黒のくたびれもうけの図だが、自然にできた巧みなサゲで、江戸小咄を利用したもの。（武藤禎夫）​●　雑誌「上方ばなし」に載っている笑福亭松鶴師（５）の速記を頼りに復活してやりだしたので、古いひとの口演されたのは一度も聞いておりません。前半は人間の話で、後半はすっかり擬人化された犬の物語ですが、そこの変化に不自然さがあってはいけません。いささか大層ないい方ですが、犬に仮託して人生の運不運、有為転変……というものを暗示した作品かと思って演じています。（桂米朝）​【蘊蓄】　鴻池の地位を確立したのは１０代目善右衛門（１８４１～１９２０）。動乱期の幕府の度重なる御用金の調達命令によく応えた。版籍奉還・廃藩置県による資金の回収不能を持ちこたえ、明治３０（１８９７）年に鴻池銀行（後の三和銀行）を設置した。長者番付では江戸の三井と並ぶ西の横綱である。​​​

  2022.05.18

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• 落語「こ」の１９：幸助餅（こうすけもち）

  ​​【粗筋】　大阪阿波座の雑穀屋幸助は、関取の初代梅ヶ谷藤太郎を大の贔屓にしている。梅ヶ谷が大阪難波新地の興行で、挨拶回りをしているときに、道頓堀でばったり幸助に出会う。幸助はいつもとは違って、「もうお前には会えないかも知れない」と言う。梅ヶ谷が幸助を料理屋へ連れていって訳を聞くが、幸助は河内へ行くからだと言って、本当のことを隠し通し、店の勘定５円余りを払い、梅ヶ谷には祝儀に５０円もよこした。​  実は幸助は相撲に夢中になって金を使い果たし、店をつぶしていた。江戸堀二丁目の裏長屋に引っ込み、女房のお玉が勤めていた富田屋から６０円を借りて餅屋を始めようとしていたのだが、その金を店の勘定と梅ヶ谷への祝儀で使ってしまったため、夫婦喧嘩が始まる。仲裁に入った家主が、人に頼んで梅ヶ谷から金を返してもらうことにしたが、梅ヶ谷は祝儀としてもらったものを返す訳にはいかないと断る。家主の方でもどうしようもなく、町内の者が金を出し合って餅屋を開店させてやる。  その開店の日、梅ヶ谷が力士を引き連れて現れ、餅米２００俵、砂糖２００樽に祝儀５０円を包んで、「祝儀は返せませんが、贔屓になりました旦那様の店開きに、お祝いに上がりました。どうぞ、これを納めてください」と言う。  このことで餅屋が評判となり、浪速名物になるという……「幸助餅」でございます。​【成立】　講談でも演じるが、落語の方が元祖といわれている。曽我廼家五郎が芝居にもしている。​【蘊蓄】　梅ヶ谷藤太郎（１）は明治初年に横綱になった実在の力士。​

  2022.05.17

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• 落語「こ」の１８：庚申丁稚（こうしんでっち）

  ​【粗筋】​　丁稚の定吉が、旦那から突然親もとへ帰っていいと言われたが、急に帰っていいと言い出すのはおかしいと、裏へ回って立ち聞きをする。旦那は,「今日は邪魔者を追い払ったからやろう」　と奥さんにせまる。すると、「今日は庚申でしょう。庚申の日に出来た子供は盗人になるから駄目です」「せっかくあいつを帰したのだから。なあ……」「仕方ないわね。ほんなら今晩は一つだけにしといておくれ」  そこへ定吉が戸を叩いて帰って来て、「家へ帰ると、おっ母さんが庚申の日に泊まると盗人になるからと言って泊めてくれません」「さては立ち聞きしていたな（とポカリ）」「痛い。今晩は一つだけにしといて下さい」​【成立】　上方のバレ噺。​​【蘊蓄】　庚申の日にはらんだり、生まれたりした子は盗人になるという俗信があった。夏目漱石がこの日の生まれで、盗人にならぬように最初から金を持たせておこうというので、「金之助」と命名されたのは有名な話。​

  2022.05.16

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• 落語「こ」の１７：工場の月（こうじょうのつき）

  ​【粗筋】　鉄工所が倒産し、お別れ会が開かれる。工場長、足が折れていたのを溶接で治した鉄のテーブルを用意し、初代社長の写真を置く。直したテーブルは見事とほめられるが、「ダメな二代目が会社をつぶしたんや」と嘆く。工場はつぶされてマンションになるらしいが、最後に工場を背景に記念写真、工場の上にちょうど月が出て来た。社員の再就職先探しに尽力した礼を言われ、別れ別れになっても頑張ろうと乾杯の挨拶。不器用で叱られてばかりだった男が、中華鍋を作って工場長に贈る。​「見事な丸みがよう出来とる。最後にええもん作ったな」「はい……でも、取っ手は手を抜いたんで、物を入れて持たんようお願いします」　心残りはないという工場長だが、実は一つだけある。１５年前に妻が倒れた時、仕事を優先して死に目に会えなかった。小学生だった娘はそれきり口をきかなくなり、中学校で不良になり、高校で家を出た。妻の妹とは連絡していたようだが、今更会いにも行けないと言うのだ。工場の古株の男が、工場長に贈り物があると言う。鉄鋼品ではない。実は工場長の娘と連絡を取っていて、娘も時々工場を見に来ていたと言うのだ。結婚して子供もおり、今日、家族３人でここに来ていると言う。現れた娘は仕事がなくなる父に一緒に住もうと言う。「これまで離れていたのに、急に一緒に住むのは無理や」「工場長、そんなことはありません。離れていたものをぴたっとつける溶接の名人やないですか」​【成立】　桂文枝（６）の創作落語。第１３９作目、２００２年９月の作品。​

  2022.05.15

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• 落語「こ」の１６：強情灸（ごうじょうきゅう）

  ​【粗筋】　峰の灸を据えて我慢をしたという話。「この姿を見た女が、俺に惚れたと思ってねえかと思ってね」　これを聞いた男、​「てめえなんぞ、なんだ、豆ッ粒みってな灸を据えやがって、こちとらァ男らしく、もぐさなんぞほら、こうやって山のようだ」「アイスクリームだな、まるで。乗せておくだけかい」「てやんでェ。ほら火をつけるよ」「煙が出て浅間山みてェ」「ほら、熱くねえだろう」「まだ火が回らねえもの。およしよ、熱いよ」「熱いもんか。八百屋お七は火あぶりになったんだ。石川五右衛門を見ろ、釜で油が煮えたぎっている中へ飛び込んで歌を詠んでらァ。石川や浜の真砂はつきるとも……我泣きぬれて蟹とたわむるってなァ。灸なんてものはこう……うム、石川……石川五右衛門は……うム……うッへへへ、うーん、何でェ、石川……ワッ、ワッ、タァッ、ハッ（腕のもぐさを払い落として）……ああ、冷たかった」「強情な奴だな。おい、熱かっただろう」「いや、俺は熱くはねえが、五右衛門はさぞ熱かっただろう」​【成立】​　動きで見せる「仕方噺」。上方に同じ趣旨の「やいと丁稚」がある。丁稚がしくじるとやいと（灸）をすえられるが、ちっとも熱いことあらへんと強がりを言うので、腕にもぐさを山にして火をつける。東京と同じように我慢するが、遂に払い落として「熱かったら払い落としてもええのじゃ」という落ちになる。　いずれにしても、我慢する顔つきの面白さを見せる仕種が生命の落語であるから、こんな粗筋を読んで面白い訳がない。御不満の方は寄席へ行くこと。​【一言】　五街道雲助さんが『強情灸』をやっているのを聞いたことがある。そのとき、なくなった桂三木助（３）師匠の『強情灸』をおもいだした。ふたりのはなしが似ているかどうかはわからない。ただ、どちらも片膝をつきだして、袖をまくったときの、芸人さんの腕のほそさが目についた。（田中小実昌）​​○　峰の灸は背中に、左右三つずつ、全部で６ヶ所、それも６つずつ、全部で​36所すえるんですから。わたしもすえましたよ。こっちは峰寺へ行って、畳の上であぐらかいて灸すえてもらったんだ。（橘家圓蔵（７）：峰寺と呼ばれるのは横浜市磯子区にある護念寺。１８０８年５代住職の万随の夢枕に大威徳明王が立ち、在職中４５年に渡って関東全域から伊豆、甲斐まで回って６０万人いじょうに灸を施術した峰の灸は指先程のもぐさに点火するのを１日５回から７回繰り返す。住職は代々鍼灸師の資格を持ち、平日に施術が行われている）​【蘊蓄】　灸は、漢方医学独特の治療法のひとつで、鍼と併用される。「鍼すべくして鍼すべからざる時に灸を用ふ」とされていた。​　年中行事で、２月２日には「二日灸」があり、この日に灸を据えるとよく効くとされていた。上方ではごく一般に家庭でも据えたが、江戸では灸点所（きゅうすえじょ）へ行くのが普通だった。娘が灸を据える絵を看板にしたが、これによって隠れ売春の宿となり、こうした店で素人が売春したのが「地獄」と呼ばれる。他の落語に言葉が登場する。

  2022.05.14

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• 落語「こ」の番外：高校野球（こうこうやきゅう）

  　高校野球の開催中、今日の試合はどうだったと結果を伝えるもの。高校野球は多くても一日四試合だからねえ……これで一席にするのは……相撲の時期は相撲で同じことがある。相撲になると全部記憶するのが大変。ただ、客が「誰は」と言うと、「勝ちました」と答えるだけだから大丈夫。「誰に」と聞かれると混乱するかなあ。まだそれぞれの力士の逸話を織り込むとネタかなと言えるかも。いずれにせよ高校野球の結果だけでは金返せと言いたくなる。今世紀に入った頃、上方の噺家で３人も高校野球をやった。因みに２００３年の三遊亭若円歌は第1回からの歴代優勝校を言い立てた。一席の落語とは言えるかどうか、疑問はあるが、一応紹介しておく。

  2022.05.13

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• ​落語「こ」の１５：孝行糖（こうこうとう）

  ​【粗筋】　親孝行の徳が認められた与太郎が青緡五貫匁の褒美をもらい、長屋の連中が商売を始めさせようと相談をした。昔、大阪の嵐璃寛と江戸の中村芝翫の顔合わせ興行が人気となった時に、璃寛糖と芝翫糖という飴を売ってもうけた人がいたのに倣い、与太郎に孝行糖という飴を売らせることにした。派手な身なりに頭巾をかぶらせ、鉦と太鼓で、​「♪孝行糖、孝行糖、孝行糖の本来は、粳の小米に寒晒し、榧ァに銀杏、肉桂に丁字、チャンチキチン、ステテンテン。昔、昔、唐土の二十四孝のその中で老莱子といえる人、親を大事にしようとて、こしらえあげたる孝行糖だ、食べてみな、おいしいよ、また売れた、嬉しいね」　という口上で売り歩いて大変な人気。しかし調子に乗った与太郎、水戸様の御門前で、「鳴り物はあいならん」　と言われるのにこれをやり、とうとう６尺棒で打たれてしまう。通り掛かった長屋の人が詫びて許してもらったが、「馬鹿野郎、よっぽどぶたれたろう。どことどこを打たれたんだ」　与太郎、頭と尻を抱えて、「♪こゥこゥとォ、こゥこゥとォ」​【成立】　明治初期に実在した孝行糖の飴売りに取材した上方落語といわれてきた。ところが藤岡屋由蔵（幕末の政商）の『見聞日記』に、弘化３（１８４６）年２月から、藍鼠色の霜降に筍を描いた半纏を着て、この噺と同じ文句で売り歩く男がいたことが記されているのが発見されたため、江戸の方が元祖ということになった。まあそれで一応、上方のものを三遊亭金馬（３）が東京に移植したものが、大ヒット作となった。戦前にはこれと柳家金語楼の「落語家の兵隊」がレコードになって人気を二分した。​​【一言】　一般に考えられているように、知能とはものをどれ程知っているか、ということでなくて、それを使いこなし、異なった場面になったときに、その場面にあった行動のとれる能力だとする学者もいる。だから、知能の低い人は、状況が絶えず変化をして、その都度異なった行動をとらなければならないようなことは苦手である。与太郎が当時江戸市中でも、とくにやかましかった水戸家屋敷の辺で、鳴り物を鳴らしながら飴を売ったというのも、こんな理由によるものであろう。（中田輝夫）​●　この噺は短いので、どうしてもマクラで時間をとるようになります。出商いの売り声や、それにまつわる小咄をふってから本題にはいるのです。（三遊亭金馬（３））​【蘊蓄】　飴の歴史は古く、奈良時代に飴の材料の米を納税した例がある。日本人の最も古い甘味料で、糖分供給のために用い、唐菓子の普及した平安以降、菓子として用いられた。​​

  2022.05.12

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• 落語「こ」の１４：効果音の効果は効果的だったかどうか（こうかおんのこうかはこうかおんだったかどうか）

  ​【粗筋】　ドラマの音響係だが、今はみんなデータになっているが、昔は効果音に物を使った。竹の行李に豆を入れて波音、コンクリートを叩いて靴音、茶碗が割れる音を入れようとして緊張して柔らかい所に落としてしまい、口で「ガチャーン」という失敗もあった。鳥の羽ばたきに、番傘を開け閉めしてそれらしい音を突くったこともある。​　昔話をしてトイレに行くと、店の小母さんが、あの人最初は変な人だと思ったと言う。キャベツを切っても、焼き鳥を焼いても、身を乗り出して来る。暫くして音を聞いているんだと分かった。ラジオドラマで音を出すと聞いて、ドラマを聞いたが、何も効果音はなかった。後で来て、「聞いてくれたか」「分かりませんでした」「コオロギや」少しも分からなかったが、「ああ、あれ本物かと思いました」とごまかした。パチンコ、麻雀は、音で耳が悪くなるから絶対にやらない、かみさんがギャーギャーやかましいので離婚した……何でも知っている小母さんで……　部屋に帰ると、お隣の音が聞こえる。隣が夫婦なら声や音を聞いても面白いが、独り者だ。ガタガタ音がするし、テレビの音は聞こえるし……「そうや、びっくりさせたろ、アイロンに濡れ雑巾を当てて、肉やいたろ……肉ほしがったら、雑巾を出したるねん……ジューッ……夜中にこんなこと……ジューッ……独り者のすることやあらへんなあ……」　ドンドンドン……「来よった、来よった……どうぞ、開いてるから入れ……何や、肉が食いたいんか」「いや、アイロン貸してんか」​【成立】　桂文枝の創作落語、第３９作目、１９８３年９月の作品。実際に効果音を使いながら演じた。​

  2022.05.11

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• 落語「こ」の１３：行員ヤンママの如し（こういんやんままのごとし）

  ​【粗筋】　銀行の支店長が、新人教育係を呼び止める。金髪で化粧の派手な女、客がもたつくと睨みつける。指導しないのかと尋ねると、個性豊かな人材を採用するというのでマスコミでも話題になった人なのだという返事。子供がいるヤンキー・ママでヤンママと呼ばれるが、お陰でヤンキーが銀行に来るようになったのである。お札を数えるのは誰よりも早く、子供がいるので寄り道もしない。そもそも中学時代に飲み過ぎで肝臓を悪くしたから、酒は一滴も飲まない。セクハラ上司にもヤキを入れて、実に真面目なヤンママなのだ。​　話をしていると、外で騒ぎが起こっている。ヤンママが客をどついているのだ。この客、窓口の岡野という女子行員が好きで、毎日１００円を入れに来るのでヤキを入れている。「おう、客だと威張るなら、万札を握りしめて来い」と怒鳴りつけると、その客、「こんなに本気で叱ってくれた人は初めてだ」　と感激、課長も、「いやあ、普通の銀行員が言えないことをよく言ってくれた」　と喜んでいる。「客に手を出すのはいかんよ」　と支店長だけが苦情を言うと、「岡野さんが困っているのを見て、つい怒ってしまいました」「そうか。岡野君は大人しいからなあ。放っておけないのだろう」「岡野さんは、暴走族のリーダーでしたから、義理があるので黙っていられないんです」​【成立】　桂文枝（６）の創作落語、第９４作目、１９９４年１２月の作品。​

  2022.05.10

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  落語「こ」の１２：御印文（ごいんもん）

  ​​【粗筋】　松ッつあんと竹さんが、梅ちゃんに御印文をいただきに行こうとさそう。一緒に出掛けたものの、梅ちゃんが嫌だと言うので、結局二人だけが御印文を頂いた。帰りに婆さん一人でやってる茶店に入り、「御印文をいただいた者と、いただかない者は、偉いお坊さんが見ると分かるそうだね」　と言うと、婆さん、「私が見ても、たいていは分かります」　と言う。そこで、​「実はね、この三人の中で強情張ってどうしてもいただかない奴が一人いるんだが、分かるかい」「さようですねェ……あ、一番向こうの端の方でしょう」「あっ、当たったよ。だから神仏のことは悪く言えないてえのはこれだよ、すぐお前もいただいた方がいいよ。お婆さん、こいつのいただかないてえのはどこで分かったね」「なあに、その人が一番利口そうだから」​【成立】　江戸の小噺を出開帳と結び付けたものであろう。皮肉な落ちが全てであるが、婆さんとの世間話で人手の多さを表現し、自然に御印文の話題になっていく……と自然な運びがよく出来た噺。​​【一言】　狂馬楽の演ったもので、（「開帳の雪隠」の）枕に使いました。（三遊亭圓生（６））​【蘊蓄】　御印文はお釈迦様の判で、額に押すと必ず極楽往生できるという。（写真は善光寺の御印文：信濃毎日新聞社『善光寺さん』）​

  2022.05.09

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• 落語「こ」の１１：恋患い（こいわずらい）

  ​【粗筋】　娘が物思いで寝ついたので、乳母が呼ばれて、​「お嬢さん、これは恋わずらいでしょう。相手はお向かいの繁さまですか」「いいえ」「じゃあ、お役者か何かでしょうか」「いいえ」「いったい誰なんです」「誰でもよい」​【成立】　明和９（１７７２）年『鹿の子餅』の「恋病」、安永４（１７７５）年『豆だらけ』の「鯉わづらひ」、寛政８（１７９６）年『廓寿賀書』も「恋わづらひ」。​ 明和５（１７６８）年『軽口春の山』巻二の「恋やまひ」は、娘が恋の病と分かったが、相手には女房も子供もいる。さて、困ったと嘆く二親に、下女が、「それは何でもない。いい方法があります」と言う。「その方法は」と二親が聞くと、「その男を忘れればよい」​【一言】　なんとなく恋に恋する娘ごころ（興津要）​

  2022.05.08

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• 落語「こ」の１０：鯉舟（こいぶね）

  ​【粗筋】​　髪結いの磯七が、若旦那のお伴で網うちに出た。やっとのことで鯉を一尾捕まえると、磯七が料理をすると言う。「お前、包丁持てるんか」と聞くと、「髪結いやさかい、毎日刃物持ってまんがな」と、包丁と剃刀を一緒と考えて料理を始めたが、いつものくせで、ウロコを起こすついでにヒゲを剃ってしまう。余計なことをしているうちに、鯉がはねて水中へ逃げてしまった。船の上で悔しがっていると、鯉が顔を出して、「磯はん、今度はこっちゃ側も頼んまっさ」​【成立】　大阪噺。「権兵衛狸」と同じ趣向であるが、おかしさでは少々落ちる。桂春団治（１）は成り物入りで派手に演じていた。落ちに至るまでの船の様子、風情を表現しなければ、演ずる価値はない。​​【一言】　秋の風情が漂ういい噺だ。桂枝雀が以前十八番にしていた。（小佐田定雄）​​【蘊蓄】​　鯉は外来種であるが、食用、鑑賞用として古くから飼育された。人面魚のブームがあったが、成長すると体長６０㎝になるものもある。

  2022.05.07

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• 落語「こ」の９：肥舟（こいぶね）

  ​​【粗筋】​　舟遊びの最中に、芸者がおならをして、照れ隠しに、​「♪淀の川瀬のナァ……景色をここにィ、引いて上るヤレ三十石舟」  と歌でごまかそうとした。「それは何の歌だ」「三十石上り舟の唄です」「そうか。わしはまた肥舟の唄かと思った」​【成立】​　上方の噺。東京では「四宿の屁」の「品川」に肥舟が登場する。歌でごまかせるのか、その点が不明。

  2022.05.06

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• 落語「こ」の８：恋は曲者（こいはくせもの） ​

  【粗筋】　上野君と神田君が半年ぶりに出会った。神田君はその間に盛りが付いて結婚し、今は共働き。上野君は好きな相手がいるのでここに通って来ていると言う。​「君も結婚するのか」「まだ片想いさ。この先の鈴蘭という喫茶店でレジをやっている」「名前は小百合ちゃんか」「え、どうして知っている」「近所で評判の美人だもの。それを射止めるのは大変だぞ。どうやっているんだ」　上野君は毎日６回も通って、コーヒー、ジュース、紅茶にサイダー、ソーダ水……お陰で食事をしなくてもお腹がダブダブ。「それで、勘定は払っているのか」「もちんろん」「チップは」「何だそりゃ」「百円の物を飲んだらチップに後百円を置くんだ」　というので、二人でその喫茶店へ。「じゃあ、僕は紅茶」「僕はコーヒーと、ケーキを五人前」「そんなに食うのかい」「これは家へのお土産だ。もちろん君のおごりで」　というのでアタック作戦。レコードの係がいるから、チップをやって高尚な曲をリクエストする。店が終わった後で、店員達が噂にするだろう……「リクエストいいですか」「どうぞ」「あの、ホットウイスキーのアヒルの湖、いや、千鳥、ペリカン、鶏、カラス……」「チャイコフスキーの白鳥の湖ですか」「そうだ、知っているなら早くハクチョウしろ」　という調子で、「じゃあ、料金を払う時にチップを置くんだぞ」「百円だろう」「何を言ってるんだ。百円に百円だから、コーヒー、紅茶、ケーキの値段もだ」「そんな……払って来たよ」「毎日行ってチップを過分に払えよ」「分かったよ。じゃあ、今度君のかみさんを見せてもらいに行くからね」「わざわざ来ることはない。毎日見に来るんだろう」「えっ、どこに」「レジの小百合ってのが僕の女房さ」「どうも変だと思ったよ。俺の財布は空っぽだ」「景気の悪をするな。僕は土産までもらって、いいケーキだよ」​【成立】　昔々亭桃太郎（１）の創作落語。昭和２９年の作で、実際にレコードの音を流して演じたこともあると言っていた。​

  2022.05.05

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• 落語「こ」の７：恋の釣り落とし（こいのつりおとし）

  ​【粗筋】　三大噺で、お題は「北京五輪」「プロフ」「骨（こつ）は釣れるか」。​　シンクロナイズドスイミングのペア、練習場が無くて借りたのが隅田川。「ここで練習して北京五輪を目指すのよ……お題が出たら拍手をして」「それにしても隅田川はないわ」「何言ってるの、船徳が頑張った場所よ」「船徳ってなあに」「あなた私を知らないの。私落語ファンなの。ペアになるんだからプロフくらい見ておいて……ここも拍手よ」「隅田川って汚いじゃない」「東橋で飛び込む人もいるのよ。東橋の旦那に助けられたけど……」「私達白鳥の湖をやるんでしょう。ここで白鳥？」「えっ、白鳥って三遊亭？あんなの駄目よ」「なにそれ」　結局友達は逃げ出し、一人で練習を始め、水の中で白鳥を演じる……「これじゃあ母恋クラゲじゃない……白鳥が服を着せられて、名前がチャッピー……ああ、私レベルの低い落語に毒されている」気が付くと言問橋に流され、江戸時代にタイムスリップしていた。そこで釣りをしている人がいて、「おう、骨は釣れるかい」　と声を掛けた男が、針を口に引っ掛け、「スチャラカチャン」　と歌いながら竿で川をかき回す。「何だ、みんなどっか行っちまったなあ……何だ、川の中からこっちを見ているのは」「あっ、見付かった……すみません、八五郎さん」「何で俺の名前を知ってんだ」「いえ、本当に面白い場面見ました」「面白いのが好きか……面白い話があってな、蕎麦屋で１６文を１文ごまかそうとして時を聞いたんだ」「四つですって言われたんですか」「なぜ知ってんだ。じゃあ、これはどうだ。腐った豆腐を食べさせたんだ。名前を聞いたらな」「酢豆腐って言ったんですね。大坂へ行ってちりとてちんになって……」「何を言ってるが分からねえが……」「ああ、やはり落語って、その時代、現代を描くものなのね。現代へ帰るわ」　北京五輪の予選会。「白鳥の湖」なのになぜか志ん朝の出囃子で白鳥の苦悩を演じ、小さんの出囃子に代わると、指で数字を見せるのが、なぜか八つから四つに戻り、白鳥になってプールから飛び出す。柳好の「梅は咲いたか」に乗って……これは柳好は柳好でも上手な「野ざらし」の柳好である……「カラスがぱっと出りゃこりゃさのさ」と歌いながら踊って大回転……あまりの素晴らしさに審査員全員が満点をつける。「鳥が飛び立つ場面は素晴らしかったですね」「落語が好きなんです」「え、何ですか」「みなさんのお陰で見事にトリを務めることが出来ました」​【成立】　『落語ファン倶楽部』の企画で、高田文夫が題を出すシリーズ第５回で、林家彦いちが演った三題噺。２００８年５月の発売。三題噺は三つの題を織り込んで噺を作るもので、即席で演じる場合は３０分から１時間の作品、後刻、あるいは後日発表する場合は１０分から２０分にまとめるそうだ。​　落語ファンにはたまらない……のかなあ、他の噺のネタが次々出て来る。邪道という声もあろうが、面白いことは間違いない。​【蘊蓄】　尚、シンクロナイズドスイミングは、１９世紀後半にウォーターバレエとして、男性のみが参加するものだった。１８９１年に初めてロンドンで大会が行われたが、その後女性が参加するようになり、１９２０年代には女性の大会が始まり、１９３４年のシカゴ万博で６０名の女性スイマーによるパフォーマンスが披露され、シンクロナイズドスイミングという名が使われた。​　１９８４年のロス五輪から競技に採用されたが、シンクロ（同期）がふさわしくないと、２０１８年４月１日、「アコースティック・スイミング」と呼ぶようになった。

  2022.05.04

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• 落語「こ」の６：鯉の滝登り（こいのたきのぼり）

  ​​【粗筋】　立派な鯉を運んでいた魚屋、どうしたことか、日本橋の上で鯉がはね、川に逃げてしまった。途方に暮れる魚屋に、「俺に任せろ」と声を掛けたのは水屋。商売物の水をだぶだぶとあけながら、「滝、滝、滝」​【成立】　安永２（１７７３）年『再成餅』の「使者」、同８年『寿々葉羅井』の「鯉の滝登」、寛保２（１７４２）年『軽口耳家宝』巻二の「掛づくり」が同じ話。　鯉は滝を登って龍になるという。『道具屋』で絵を見せられた与太郎さんが、鯉を捕まえる方法を思いつくのがこれ。​

  2022.05.03

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• 落語「こ」の５：鯉の心中（こいのしんじゅう）

  ​【粗筋】　鯉が鮒の娘と密通し、次第に鮒の腹が目立つようになった。水中の暮らしがいたたまれず、鰭とヒレとをからませて、「南無網だぶつ」と、網打ち船へ飛び上がった。​​【成立】　明和９（１７７２）年『楽牽頭』の「水中の恋」。鯉の恋の結末。人間なら水に飛び込むところを、魚だから飛び上がったということ。「心中恋のしがらみ」という題があるというのは、一席物だったのだろうか。​

  2022.05.02

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• ４：恋の柵（こいのしがらみ）

  ​【粗筋】　大坂でおしなといえば名の知られた芸者だったが、大店の若旦那の助七と駆け落ち、途中で悪い奴らに金をとられ、多摩川で身を投げようとするのを今戸の新三という親分に救われた。助七が上方へ金の算段に戻るが、その間におしなは新三にちょっかいを掛け、関係を持ってしまう。​　戻った助七、金を工面して来たが……（ここから芝居）おしなの裏切りに気付き、新三に眉間を割られる。おしなが欲しいならそう言ってくれれば熨斗を付けて譲ったのにと、金包みと道中差しを置いて出る。子分の一人が、表へ出た助七を追って来て金と道中差しを渡すと、助七は黙って刀を抜き、新三のところへ戻って黙って刀を振り下ろす。「人殺しだ～」（パタンパタンと附け打ちが入り、歌と三味線が入る）　子分らが集まる。おしなをめぐって新三と助七の立ち回り……チョンと木が入って幕となる。​【成立】　古今亭今輔（５）。珍しい落語の会で、昔覚えたものを４０年振りに演りますと言っている。録音では下座の附け打ちの間が悪いのが残念。​

  2022.05.01

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• 落語「こ」の３：小いな（こいな）

  ​【粗筋】　幇間の一八が約束だから芝居に連れていけとせがみに来た。旦那は都合で行けないので、内儀さんと女中のきよ、飯炊きの作蔵を連れていけと言う。ところが、作蔵はこれが旦那と一八が示し合わせた狂言に違いないと見抜き、仮病を使って家に残ったため、番頭の藤助が代わりに出掛ける。皆が出掛けると、旦那は案の定柳橋の小いなという芸者を呼びにやろうとする。作蔵が「奥様に申し訳ねえ」と言うので、旦那は小いなを３日でも家に入れなければならない「男の意気地」というものがあるのだと白状する。そこで奥方に家を開けさせるのだが、芝居で１日、後２日ほど実家に遊びにやるが、決して本妻を追い出すようなことはしないと言うので、やっと作蔵も納得し、芸者、幇間連中が繰り出した。​　そこへ藤助が血相を変えて飛び込んできた。内儀さんの具合が悪くなって帰ってくるというのだ。藤助も旦那のグルだったのだ。一八は風を食らって逃げたという。そこを片づける暇もなく、玄関に内儀さんの声。旦那以下総出で襖を押さえて入れないようにするが、女中のきよの怪力で襖の引手が取れてしまう。この穴からのぞくと、向こうで幇間が、「♪やれ、初段は本町二丁目で、伊勢屋の半兵衛さんが、ソラお内儀さんを芝居にやりまして、後へ小いなさんを呼び入れて、飲めや歌えの大陽気、ハッ、お目に止まりますれば先妻（先様）はお帰り」​【成立】　柳家小さん（３）が演じたが、前半に「権助提灯」を短縮して入れたという。​最後の台詞は覗きカラクリで、先の客への交替うながす台詞のもじり。​【一言】　（旦那が男の意気地というが）この旦那、まだ小いなを正式に囲ってはいない。あるいは、何か金銭的な理由その他で妾宅を持たせてやれない代わりに、２、３日なりと本宅に入れて、実を見せたいというところか。（立川志の輔）​【蘊蓄】　覗きカラクリは江戸中期からあったが、明治５年、普及してきた写真を採り入れたものが大ヒットし、これからは開化新時代の夏の風物詩となった。

  2022.04.30

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• 落語「こ」の２：鯉泥（こいどろ）

  ​【粗筋】​　料理屋へ入った泥棒が、主人に刃物を突き付けて、「金を出せ」　とせまる。昼間無尽の金が入っているのもお見通しで、三百両を取られてしまう。そのまま退散するかと思いきや、「腹が減ったので飯を食わせろ」　と言い出した。「手前どもは料理屋でございますから、商売物をただであげる訳にはいきません」「勘定は払ってやるから、鯉コクを作れ」  ということで、贅沢な泥棒もあるもので、十分に腹をふくらました。「いくらだ」　と聞くと、「三百両でございます」　とさっきの金を全部巻き上げられてしまった。　親分がぼやきながら表へ出ると、子分が、「親分、中の首尾は」「シーッ、声（鯉）が高い」​【成立】​　天明８（１７８８）年『先年艸』の「鯉うり」。田舎の大尽が幇間と出会い、吉原でへ鯉を売りに来て、若い衆が座敷に紹介する。田舎のお大尽が値を聞いて「それは高い、もっと負けろ」と言うと、若い衆は返事もせずに隣の座敷へ。その客が言い値で買うと言ったので、元のお大尽が悔しがる。そこへ幇間が来て同じ落ちになる。　上方の噺家が演じたのを何度か聞いたが、向こうでは「鯉盗人」と題していることが多い。

  2022.04.29

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• 落語「こ」の１：碁石（ごいし）

  ​​【粗筋】​　碁を打っているのを、そばで見ていた男、​「白の勝ちだね、ほら四つ並んで……あれ、ここは五つ並んでいる。もう勝負はついているじゃねえか……ああ、これは本碁だな……ううん……その隅の石は危ないな」「余計な口出すなよ。目が出来ているんだ。大丈夫だよ」「そうか、危ないと思うがなあ……ほら、落っこった」​【成立】　「笠碁」や「碁泥」のマクラによく出て来る。宝暦２（１７５２）年『軽口福徳利』巻二の「あぶない碁」、宝永２（１７０５）年『あられ酒』巻二の「碁にあぶながる人」、安永３（１７７４）年『富来碁有智』の「助言」、『甲子夜話』にもある。金原亭馬生（１０）が、最後の台詞がうれしそうで……印象に残っている。​

  2022.04.28

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• 落語「け」の４９：源平蕎麦（げんぺいそば）

  ​【粗筋】　紅白の旗を立てて、「おうい、おうい」と日の丸を描いた扇で招き、​「蕎麦のあつ盛りあがらんか。塩梅よしつね」　と呼び込む。これは面白いと、「代は幾らだ」「あつもり１６の時」「これは面白い、供の者にも食わせよう。とも盛、これ盛……皆食うたか……酒盛りもなければならんが……」「酒ですか、もちろんあり盛」「酒をつぎのむ」「いよっ（扇を広げて）のどの守つねのみ」　と褒めると、客、「我こそは酒五位の上戸、胸元の義経と名乗りし上は、平家の一文も払いなし」　と逃げ出す。亭主びっくりして、供の者を引き止め、「こなたも飲んだ。さあ、梶原の二度のかけはいたさぬ。代持つが浦の波銭を、この場において、払った払った」　と言うと、「いや、俺は梶原ではない。義経の身内において」「何と」「酒をただ飲むじゃ」​【成立】　文化１１（１８１４）年、立川談洲楼焉馬の『富久喜多留』の「地口」。いうまでもなく、全てが源平の戦いに関連した台詞になっている。分からないから演る人いないだろうなあ。​【蘊蓄】「紅白の旗」＝源平がそれぞれ紅白の旗を立てた。「おうい」と扇で招く＝一の谷で熊谷次郎直実が平敦盛を呼び返した。「蕎麦のあつ盛」＝熱いのを盛るということに、「敦盛」を掛ける。敦盛は平経盛の末子、清盛の弟に当たる。一ノ谷で熊谷に討ち取られた。「塩梅よしつね」＝ちょうどよい塩梅という意味に源氏の総大将「義経」を掛ける。「あつもり１６の時」＝蕎麦の値段が１６文ということに、敦盛が１６歳だったことを掛ける。「とも盛、これ盛」＝供の者にもこれを食わせようということに、平家の武将、平知盛と平維盛を掛ける。知盛は清盛の四男。一の谷で破れた後、門司に布陣して半年間源氏の四国九州への上陸を阻止したが、屋島で源氏の急襲に動転して、天皇と共に海に逃れたために拠点を失った。維盛は清盛の嫡子・重盛の長男。富士川の戦い、倶利伽羅峠の戦いでは大将軍として指揮するが、いずれも敗北、特に倶利伽羅峠では壊滅的で、平家一門の中で孤立する。平家一門が都落ちをすると、同道せずに那智の沖で入水した。「もちろんあり盛」＝もちろんありますと「平有盛」を掛ける。有盛は清盛の嫡男・重盛の四男。壇ノ浦で、異母兄・資盛、従兄弟・行盛と三人で手を取り合って海に身を投げた。「酒をつぎのむ」＝酒を注いで飲むということに、「佐藤継信」を掛ける。もとは奥州藤原氏の家臣で、秀衡の命で弟・忠信と共に義経軍に加わった。『平家物語』では、屋島で平教経（のりつね）が義経を狙った矢を自ら受けて死ぬ。『吾妻鏡』では一の谷で戦死したことになっている。「のどの守つねのみ」＝喉を通り常に飲んでいるからいい飲みっぷりだとほめるのに「能登守教経」を掛ける。教経は清盛の弟・敦盛の次男。能登守。壇ノ浦で義経を狙うが、義経が船から船へ飛んで逃げて諦める。源氏の十人力という男が３人掛かりで取り押さえようとするが、一人は海に突き落とされ、後の二人の首を脇に抱えて海に飛び込む。「酒五位の上戸胸元の義経」＝酒豪の上戸というもを、「従五位の上」と洒落て源義経へつなげた。義経は実際には「従五位の下」。「平家一文も払いなし」＝義経が平家一門を振り払った。「一文も払わない」という洒落。「梶原の二度のかけ」＝梶原源太景季は、屋島で前後に勧める逆櫓を提案、壇ノ浦では先陣を申し出、いずれも義経によって却下された。これを「二度の駆け引き」といい、これによって義経に恨みを抱くようになる。「代持つが浦の波銭を」＝「大物浦（だいもつうら）」神戸、猪名川の河口港、義経が平家追討のために船出した場所。浦に立つ波という洒落から、裏が波になっている銭銭につなげた。「酒をただのむ」＝ただ酒を飲むのを「佐藤忠信」に掛けた。忠信は『源平盛衰記』巻４８では、岡忠信、鎌田盛征、鎌田光政と共に「義経四天王」の一人としている（歌舞伎では、「亀井六郎、片岡八郎、伊勢三郎、駿河次郎と数字合わせになっている」。奥州藤原氏の家臣だったが、秀衡の命で兄・継信と共に義経軍に加わった。『義経千本桜』四段目で、鼓にされた親狐を慕った子狐が、忠信の姿を借りて鼓を持つ静御前を守る。義経の危機に、狐に戻って彼を救う。　小噺では庭の手入れをしている者に声を掛けると「私はただの夫（ただの夫役＝労働者）でございます。「忠信なれば、一の谷の合戦の模様を語れ」「それはつぎの夫（継信）にお聞きください」というのがある。『猫忠』では、三味線にされた親の皮恋しさに、吉野屋常吉に化けて来る。狐忠信でなく猫の「ただ飲む」、弁慶橋に住む吉野家常吉で「吉常（義経）」、弟分が駿河屋次郎吉だから「駿河の次郎」、もう一人が「亀屋六兵衛」で「亀井六郎」、師匠が延静なので静御前と、『千本桜』の人物がそろう。　平忠度（ただのり）、清盛の異母弟で、歌人としてもすぐれていて藤原俊成に師事していた。源氏が攻めて来たので都落ちするが、自分と共に歌が海の藻屑と消えてしまうのはしのびないと、俊成の屋敷へ戻って来る。俊成は平和であれば素晴らしい歌人なのにと嘆く。忠度は一ノ谷で戦死、俊成は『千載集』を編纂した時に、朝敵であるから詠み人知らずとして歌を載せた。数首あるのだが、『平家物語』では「ささなみや志賀の都は荒れにしを昔ながらの山桜かな」だけを紹介する。『新古今和歌集』の後の『新勅撰和歌集』からは名前が出るようになった。　これを小噺にしたのが、私は大好き。　薩摩守忠度があまたの敵を蹴散らして、ほっと一息つきかげ（ほっと一息つくのと、「月影」を掛ける）に、彼方を見れば酒屋あり。「酒を所望」と飛び込んで、一杯グッと引っかけて、「戦の最中で金がない。忠度とつけておけ」　親父耳が遠く、「何、ただのみとな」とは聞き違え。まさか「ただのみ」とは付けられず、帳面に……「飲み人知らず」　これも説明しないと分からないから、演る人いないだろうなあ。

  2022.04.27

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• 落語「け」の４８：源平盛衰記のアレンジ：「生中継・源平（なまちゅうけい・げんぺい）」 ​

  【粗筋】「全国一千万の源平ファンの皆さん、こんにちは。エキサイティング源平合戦の時間がやってまいりました。祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり……​　今回は、四国は屋島から、源平の戦いを全国ネットワークを結んで、完全生中継でお送り致します。解説はお馴染み青田正一さんです」　鎌倉の頼朝公に「梨元に言いつけるぞ」の梨元が直撃インタビュー、「では屋島にズームイン」　源平双方の様子をレポーターが伝え、試合前にこれまでの源平の戦いをまとめ、前回の一の谷の試合を振り返る。　そこへ平家方から、竿の先に扇を建てた小舟が漕ぎ出される。義経が様子を見に出ると、ヨシツネファンの女性から嬌声が上がる。扇の的を射るのだと理解し、ベンチへ戻ってコーチの弁慶らと相談の末、山倉、三浦ら弓の名手を集める。ところが、場内にアナウンスされたのが代打の那須与一。８万５千の観客がどよめく。この与一が見事的を射抜く。「青田さん、どうでしたか見事でしたね」「そうですね。若者らしく、まっすぐで勝負したのが勝因でしょうね」「それではヒーローインタビューです。もちろん今日は那須与一でしょう」 「ゼッコーチョー」と叫んだ与一に好きな女性のタイプを聞き、イチゴとメロンはどちらが好きかとインタビューが続いているが、「今週のプレゼントは、『燃える闘魂』と書かれた義経直筆のサイン色紙を１０名様にプレゼントいたします。それでは次回、壇ノ浦でお会いしましょう」​【成立】　桂文枝の創作落語第２２作目。テレビ中継という発想は面白いが、それだけという感じもする。これでやれば何でも簡単に落語に出来るもんねえ。​​【蘊蓄】　インタビューで関係のないことを聞くのは日本だけかと思ったらそうでもないらしい。大坂なおみが精神不安定になったこともある。先日は大谷が大リーグで６回までパーフェクト、そのインタビューで質問した記者、「見事なピッチングでしたが、佐々木朗希についてどう思いますか」、投球内容とか何を考えて投げたかを聞けよ……もっとも、これは野球について尋ねているからそれほど問題ではないらしい……というのが、レベルの低さを証明している。​

  2022.04.26

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• 落語「け」の４７：源平盛衰記（げんぺいじょうすいき）

  ​【粗筋】　源義経は木曽義仲の軍勢を粟津の一戦で滅ぼし、その勢いで平家を討伐しようと摂津、播磨の国境までやってきた。「鹿も四つ足、馬も四つ足」と崖を下ろそうとするが馬達は、​「馬と鹿が同じだなんてそんな『馬鹿』な話があるか。特別手当をいただきたいね」  と動かない。義経さん、ぽんとボーナスをはずみ、これが名代の「日雇（ひよどり）越え」。　屋島では平家が船を出し、扇の的を射抜いてみよとの挑戦。実は平家の作戦があった。第一に、これを狙う弓の名手は佐々木・菅原という名手のいずれかであろうから、岩場に伏兵を置いて暗殺しようという計画。第二に、扇に矢が当たらなければ、それで源氏の勢いも衰えるであろうと考え。そして、万一扇に矢が当たっても、扇に日輪を描いてあるので、これに矢が当たると源氏に天罰が下るかもしれないという目算。　ところが射手に選ばれたのが下野中学を優等で卒業したばかりのスポーツマン、那須与一宗高。暗殺者の方では、「誰なんだ、これは……」とあっけに取られて殺すきっかけを失い、与一は見事に扇の鼎を貫いた。　この乱戦のさなか、いとも優しき笛の音、さすがは平家の武士よと、義経が様子を探りにいくと、実に意外、時子姫がさめざめと涙を流している。美人の泣き声が笛の調べに聞こえたのである。時子姫は義経に介錯を頼むところへ、平家の武将能登守教経が駆けつける。時子少しも騒がず八木節で辞世をよみ、義経も仕方なく、「♪抜いた刀をしまわりましょうか、ヨイショ……」  と合槌を打ったから、そばに来ていた教経も踊り出した。これでは平家が滅びるのも当然で、踊る（奢る）平家は久しからず……​【成立】　『平家物語』の名場面を散りばめた生粋の東京落語。昭和の初年、トーキーの出現で活動弁士が失業し、徳川夢声、松井翠声らが、洋服で高座に立つ「漫談」というものを始めた。落語の方も影響され、漫談調落語が増えた。その一席と言われている。​　林家三平（１）が演じた唯一の「普通の」落語と言い伝えられている……実は唯一ではないし、くすぐり沢山、脱線自由だから「普通」ではない。　義経を中心に、その生い立ちから語っていくのが本来のものらしく、「熊坂」が加わる速記もある。「ひよどり越え」で切る場合、「このくらい馬を大切にした人はいない。だから戦の評判よりも、吉原と洲崎の評判がよかった」というバレで落とすこともあった（「馬」が男のモノの立派なのをいう）。　壇ノ浦で総大将の教経が死を前に踊って落ちというのがあったので、これが最も古い型かも知れない。　現在では時間的制約もあって、那須与一の部分だけを取り上げるのが一般的。春風亭小朝は、見事的を射抜くと源平双方が与一を褒めたたえ、平家の武者の一人が船上で舞い始める。これで平家の敗北は決まった。踊る平家は……で落とした。この場面でこの落ちを用いたのは、私が聞いた中で初めて。『平家物語』では、感極まった平家の武者が船上で舞を始め、義経の命でこの者を射殺すことで、再び戦いが始まる。古来の落ちとそれを生かした見事な改定。  大阪では桂三枝が現代風にアレンジした（次回紹介）。​【一言】　小ゑん（立川談志）は『源平盛衰記』を語るときに、木曽義仲がくりから谷で牛のつのに松明をつけて、平家の陣屋になだれこませる。平家の軍勢がその猛襲に浮足だってくると、ひとりの大将が絶叫する。「なんだ！バッファローなんか恐れるな、だれかフライヤーズの山本八を呼んでこい」また平清盛が沈む太陽を呼びかえして、熱病にとりつかれると、その記事がたちまちアメリカの雑誌『ルック』に報道される。それを読んだハリウッドの女優マリリン・モンローが「わたしは清盛さんがだいすき。だって“お熱いのがお好き”」と告白する。（虫明亜呂無）​​●　わたしが『源平盛衰記』を演じ、桂文楽師匠に頭からどなられたことがあった。あんなものをやっちゃあいけない、というのだ。なぜいけないのか、わたしには理解できなかったが、文楽師匠はとにかくいけないの一点張り。こっちは口惜しいけれど、相手が文楽師匠じゃ仕方ない。泣寝入りだ。のちになって聞いてみたら、「あいつは近頃生意気になっているので一度どっかでこっぴどく小言をいってやろうと思っていたんで、わたしいいました」と。（立川談志）​​【蘊蓄】　一の谷の合戦は１１８４年２月７日、屋島は１１日。​　『徒然草』には『平家物語』の作者は信濃前司行長だとある。実際には語り継がれるうちに増補されたものであって、一人の作者ではあり得ない。元々前半のうちおおよそ３巻、平家のおごり高ぶる様子を描いたもので、俊寛が加わって６巻になった。後半の源平の合戦は明らかに後から付けられたもの。

  2022.04.25

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• 落語「け」の４６：幻灯（げんとう）

  ​【粗筋】　ロンドンに岩出銀行という個人経営の銀行があった。この社長が道で会った乞食少年の正直な行為に感心し、学校へ行けるように世話をし、卒業後は自分の銀行の社員にした。社長の娘がこの青年を好きになったが、社長は乞食上がりの男に娘をやる気はないので、青年を叱りつけ、あきらめる様子が見えないと解雇してしまった。その数日後、社長が殺され、青年に嫌疑が掛かり、逮捕される。​　社長の弁護士が殺害現場で血の手形を見つけるが、当時は指紋など知られていなかったため、警察でも相手にしない。弁護士は長く日本にいたが、そこでは爪印、拇印というものが意味を持っていた。同じ指紋の者は他にいないので証拠になるのだと警察を説得し、警察も納得して関係者の手形を集めた。そのままでは見えないというので、２台の幻灯機で犯人のものと、関係者の手形を並べて壁に写し、銀行の小使いが真犯人であることを証明する。青年はめでたく令嬢と結ばれ、銀行をますます繁盛させる。​【成立】　快楽亭ブラックの速記が、明治２５（１８９２）年６月の『東錦』第３号に「岩出銀行血染の手形」として掲載されている。同年の１２月８日、今村次郎が「幻灯」という題で９７ページにわたる速記を残している。​​【蘊蓄】　簡単な指紋の歴史。​○  １６８８年：ボロニア大学教授のマルピギー（伊）が、解剖学上から指紋の研究を発表。色々な模様があるという内容。○  １８２３年：ブレスラウ大学教授のプルキンエ（独）が、同じく解剖学上から指紋を分類して発表。○  １８８０年（明治１３）：フォールズ（英）が、東京の築地病院に在勤中、個人を鑑別するのに指紋が有効であることを『Nature』誌１０月２８日号に発表。（個人鑑別に利用できると論じた最初のもの）○  同年：同誌の１１月２２日号に、ハーシェル（英）がインド・ベンガル地方で、文書偽造や囚人の鑑別に用いた経験を基に、同じ論を展開。○  不明：その直後と思われるが、ダーウィンの従弟のゴールトン（伊）が、指紋は万人不同、生涯不変という事実を論証、その分類法を発表。○  １８８３年：マーク・トウェイン『ミシシッピー河の生活』を出版。指紋で犯人を見つける最初の作品とされている。（江戸川乱歩によれば、これ以前に「幻灯」は演じられていたという）○  １８９２年：快楽亭ブラックの『幻灯』速記を出版。○  １８９４年：マーク・トウェイン『抜けウィルソン』を出版。これも指紋で犯人を探すネタ。○  １９００年：キャデット『新聞記者の冒険』出版。指紋を扱った最初の本格ミステリー。○  １９０７年：フリーマンがソーンダイク博士を主人公とする推理小説のシリーズ『赤い拇指紋』を発表。指紋ということが一般化するきっかけとなる。○  １９０９年（明治４２）：日本で指紋法が実施される。

  2022.04.24

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• 落語「け」の４５：源太の産（げんたのさん）

  ​【粗筋】　源太が産婆の娘にほれたが、産婆が反対をして家に入れてくれない。留守に忍び込んで会っていたが、産婆が急に帰ってきたので、あわてて妊婦に化ける。産婆は近目なので、おなかに目をつけるようにしてさすっていると、ピーンと立ったモノが顔にピシャリ。​「あ、邪険な子や」​【成立】　上方のバレ噺。桂米朝が桂南天から聞いたのは、「元気な子や」という落ちだったそうである。​

  2022.04.23

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• 落語「け」の４４：源太と兄貴（げんたとあにき）

  ​【粗筋】　高利貸しでは儲からないってんで、色々な悪事を考える。​　「この老人が金持っていると評判で」とカツアゲを計画。「おう、金を出せ」「はあ……おい婆さん、ちょっと来ておくれ」「はあい」……「源太＝、カネというのが婆さんの名前やないか」　伝書鳩売って、相手が離したら戻って来るからそれをまた売ればいい……「源太―、鳩が鳥屋へ帰って行ったやないか」豊臣家の埋蔵金を探したら、出て来たのは「豊臣家御用達」と書かれた布。「源太―、豊臣家のマイ雑巾やないか」　「兄貴、真面目に働きましょう。甲子園でカチワリ売っとるのを見て感動しました。わしらもかき氷やりましょう」「いや、源太、氷菓子（高利貸し）はこりごりだ」​【成立】　笑福亭仁智がやった。その都度「源太ー」と怒鳴る。要するに小噺集で、何でもありというオムニバス。「日本の話芸」では３０分番組で、２０分がマクラだった。その後「純情編」など、続編も聞いた。古典のネタ、新作のネタ、何でもあり……そういう作品なので番外としてもいいが、一応二人のキャラクターが出来ているのでここに入れておく。​

  2022.04.22

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• 落語「け」の４２：現代テレビ事情「窓」（げんだいてれびじじょうまど）

  ​【粗筋】　朝のテレビ情報番組が視聴率が伸びない。プロデューサーは、カナダの学者、マクルーハンが言った「テレビは窓だ」という言葉を引いて、街頭テレビに人が集まった時代は終わった、今のテレビは、窓と同じで日常の習慣でスイッチを入れるようになったのだ。自宅の窓をずっと見ている人はいない、だから、突然何か声を出す、怒鳴る、そういうのでぱっと視聴者にこちらを向かせる人が人気が出る。そこで企画会議、地方局で出来ないスター大集合、却下。刑務所対抗歌合戦、却下。人気番組のパクリ、却下。起死回生の一打は、一億円をどこかに置いて、見付けた人がもらっていいと公表する。これを隠しカメラで追う。拾った人の人生の変化、周囲の人の様子、これをドキュメントにする。さあ、企画が発表されると大騒ぎ。これは大変な視聴率になるだろうと期待したら、０．４パーセント……みんなが一億円を探しに出て、テレビを見なかったのだ。​　これを聞いた部長、五階の窓から飛び降り……「部長……ああ……テレビは窓や」​【成立】　桂文枝の創作落語、第２３作、１９８０年１２月の作品。お正月に向けての新作だが、ううん、結局救いのない噺って笑えないなあ。文枝さん、こういう落ちが好きなのは、何かモヤモヤがあるのだろうと思っていたら、本人、ある番組で「その頃はそうだった」と仰った。今も変わっていないようだけど……​

  2022.04.20

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• 落語「け」の４１：剣術（けんじゅつ）

  ​【粗筋】「先生、この間試合に参った者があったそうですが、いかがでした」​「いや、相手はまだまだ未熟な剣術。竹刀を振り上げ、真一文字に打って出た。さそくの早業とはここじゃ」「ほう、どうなさいました」「額で受けた」​【成立】　明和９（１７７２）年『鹿子餅』の「試合」。素人剣術などでよく使われるネタ。​

  2022.04.19

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• 落語「け」の４０：賢者の贈り物（けんじゃのおくりもの）

  ​【粗筋】　お咲が決断して髪結のところへ行く。きれいな髪をしているので、髢（かもじ）を作るのに高く買ってくれるというので売りに来たのである。手拭で頭を隠して道具屋へ行き、煙草入れを買う。夫のために買ったのである。帰って来た夫は手拭に気付き、坊主になっているのでびっくり。​「お前さんに何もしてあげられなくて……髪を売って煙草入れを買うて来たの。あなたの大事にしている煙管に合うと思って」「そうかい……実は、俺もお前のためにこれを買うて来たんや」「これは……まあ、私が欲しがっていた櫛……でも髪がこれじゃあ」「また伸ばして使えばええ……」「でもお前さん、こんな高い物……お金はどうしたの」「笑うてや。あの煙管を売ったんや」​【成立】　Ｏ．ヘンリーの同名の短編小説を落語にしたもの。テレビで上方の噺家が演った時に、司会のアナウンサーや評論家は大絶賛していたが、淡々と進んで行って山場もないし、ちっとも面白くなかった。どうやら、落語は笑わせるだけのもので、こんないい噺をする例はないということらしい。評論家って人は人情噺を知らないんだって分かった。　女房は髪を伸ばせばいいが、亭主は煙管を取り戻せない……そういう皮肉な結末もあるからこうやって打ち込んだら本当に面白いと気付いた。じゃあ、なぜ詰まらなかったのだろう。　そもそも何のためにプレゼント交換をするのだろう。江戸時代だから、誕生日も結婚記念日なんてないし、新年を迎えるから？……二人が同じ日に実行したというのがピンと来ない。大学時代に聞いただけ。大学時代とはっきり言えるのは、原作を読んだ直後だったから。高校までは英語の本は読んでいないので断言できる。​

  2022.04.18

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• 落語「け」の４１：げんこ俥（げんこぐるま）

  ​​【粗筋】　車夫が「ゲンコでいかがです」と符牒で言うので、「いくらだか分からんが、乗ってやろ」　と、取り合えず乗ったが、降りる時に、「八十銭です」といわると、いきなり車夫を殴りつけ、五十銭を払った。​「旦那、何をそんな乱暴をなさるんで」「ゲンコというたやないか」​【成立】　上方噺。演じる人はないと思う。​【蘊蓄】　「ゲンコ」とは車夫の符牒で五十銭のこと。つまり、客は分かっていて高くふっかけるのを殴ったのだ。「ゲンコ（拳固）」という言葉を生かしたのだろうが、手を出すのは後味がよくない。​

  2022.04.17

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• 落語「け」の４０：健康居酒屋ＤＮＡ（けんこういざかやでぃいえぬええ） ​

  【成立】　新しい店を見付けて入ると、健康食品ばかり。​　飲み物は、高麗人参酒、ハブ酒、黒豆酒……　料理は、モロヘイヤ炒め、イチジクの葉の炒め物、黄粉のシソの葉巻……　酒を飲んで健康にいい料理を食べるという。主人が言うには、「どんどん飲んでもらいたが、そもそも酒は体に悪いから」「じゃあなんでこんな店出すんや」　健康についての話が始まる。「友達は元気だったが、最近夜寝られなくなった」「不眠症ですな」「いや、コンビニでバイト始めたんや」　勘定になると、うっかり……さっきの店で使い果たしていた。「すまん、これ、わしが書いた本や。今日はこれで堪忍して」「健康の本ですか……それなら店に置いておくと喜ぶ客もおますから……」第１章：私は４５歳で身長８センチも伸びた……通販のシークレットブーツで……第２章：私は子供が出来なかったが、５０歳で……子供をふんだ……第３章：これを飲めば胃の調子が分かる……胃カメラを飲め……第４章：畳の上で死にたい人へ……畳を背負って生活しろ……最終章：１００歳まで生きる法……１００まで死ぬな……「お客さん、寝取るがな。これ、起きなはれ。何やこの本。ひどいもんです」「あんた、最後まで読んだの」「読みましたがな」「ほな、大丈夫……あんた、長生きするわ」​【成立】　笑福亭仁智が演った。後半は「指南書」の改定といってもいい。​

  2022.04.16

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• 落語「け」の３９：けんげしゃ茶屋（けんげしゃぢゃや）

  ​【粗筋】　国鶴という女を囲った村上の旦那、国鶴を初め、両親そろっての大変な縁起担ぎであることから、いたずらを仕掛ける。大晦日に行き合った出入りの職人に、元旦の昼時に数人を集め、葬儀の恰好をして「冥土からしぶとが迎えに来た」と言ってくれと頼む。​  新玉の春。旦那は国鶴の元へ。父親林松右衛門の長寿を祈った句「のどかなる林に掛かる松ゑもん」というのを、「喉が鳴る、はや死にかかる松右衛門」と読んで怒らせ、お節料理にも一つ一つ縁起の悪い屁理屈をつける。そこへ国鶴の仲間の芸妓連が繰り込んだ。座敷がわっと明るくなりかけたところへ、昨日約束をした葬礼の一行がやってくる。「冥土からしぶとが迎えに」でびっくりするが、大阪御堂筋が「めいどう」で、「しぶと」というのは渋屋藤兵衛の略だと説明して座敷へ上げる。この男も心得たもので、芸妓の名前の「新松」を「死ぬ待つ」、「小伝」を「香典」などと一々間違え、最後に、「この娘が今わしの可愛がっている女や。国鶴いうてな、洟垂れ芸者やけど可愛がってえな」「ああ、洟も垂れるやろ、名前が首吊るかァ」　座敷は大変な騒ぎになり、母親は正月そうそう何でこんなことになるのかと表で泣き出した。ここへ通り掛かったのが繁八という幇間。葬式の様子を見て、親父が死んだのだろうと悔やみを述べ始め、また母親を怒らせる。訳を聞いて、それなら私が座敷を明るうしてみせましょと、勝手に上がりこんで「おめでとうございます」を連発。旦那は、「明日どうなるか分からぬ命だから国鶴と永久の別れを惜しんでいる、何がめでたい」　と叱りつける。「しまった、しくじったか」　と部屋を飛び出したこの幇間、死に装束を身につけて出直し、位牌を出すと、「先程は大変に失礼致しました。正月早々旦はんのような贔屓を失ってはこの先どうしてよいか分かりません。これからは『繁八』を『死に恥』と戒名（改名）致します。頓死玉（年玉）の憂い（お礼）に伺いました。これはこころばかりの位牌（祝い）でございます。いずれ仲間一同で、葬礼（惣礼）に伺います」「……ううん、よう出来た。これからも贔屓にしてやるぞ」「おッ、ご機嫌が直りましたか。ああ、めでたい」  とまたしくじりよった。​【成立】　純粋の大阪噺。本来は、旦那が繁八の死に装束を貸せと言っているので、国鶴が奥へ逃げる。旦那が死に装束で追って来て、「何しに来はりました」「ちょんの間、死にに来た」というのが本来の落ち。前半には「粟餅」で旦那がしくじる部分が加わる。​　昔は幇間はわき役に過ぎず、国鶴が奥へ逃げると、旦那が死に装束で追って来る。「何をしにいらしらのです」「楽しみをしに（死に）来た」というのが本来の落ち。東京では繁八の台詞に答えて、旦那が「その時には纒頭（てんとう＝花・祝儀のこと）をやろう」と落とした例がある。粗筋の落ちは桂米朝が演じているもの。これがもっともすっきりした落ちになっている。  「かつぎ屋」ほどポピュラーではないが、わざわざ葬式の行列まで作ってからかいに行くなど、大阪らしい味わいを持っている作品。縁起を担ぐ噺は多くあるが、大阪花柳界の正月を舞台に華やかに展開する。​【蘊蓄】　「けんげしゃ」とは縁起を担ぐ人で「御弊担ぎ」とも言う。『国語大辞典』『広辞苑』等にも載っていない。『上方演芸辞典』では京都の言葉と書かれているが、その後の資料では、京都では使用例がないと否定されている。大阪の古い言葉というのが正解か。​

  2022.04.15

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• 落語「け」の３７：元久桂（げんきゅうかずら）

  ​【粗筋】　「元久桂の皮をはいでおさめよ」とおふれが出たが、村の連中はこの意味が分からない。物知りに聞くと、「元久という男の面の皮をはぐのだろう。気の毒に……」　と言う。どうも腑に落ちないので、役人に聞くと、​「そうではない。    名にし負はば逢坂山のさねかづら人に知られで来るよしもがな  という歌がある。さねかづらのことじゃ」「ははあ、では女房のを持って来ますか」​【成立】　上方噺。歌は「百人一首」２６番、藤原忠平の歌。落ちは、女性の陰核を「さね」といったことから勘違いをしたというバレ。​​【蘊蓄】　「元久桂」はマツブサ科サネカズラ属の常緑蔓性木本。説明のある通り「さねかずら（真葛）」の異名。茎を細かく切ったものを水につけて整髪料とした。「美男桂（かずら）」というのが今は一般的らしく、百人一首を手掛かりに調べることが出来たが、今は「元久桂」という名称は使われていないようだ。​　　五味子髪を結ふにびなんかづらとて南五味子の茎を水に漬しそのねばり汁を用ゆ。　　（『嬉遊笑覧』１８３０）　というのを見つけたが、また分からない。果実を干したものを「南五味子（なんごみし）」という。韓国のお茶「ゴミシ茶（オミジャ茶）」が有名だが、漢方薬にも用いられる。甘味、酸味、辛味、苦味、鹹味（かんみ＝塩からい味）という五つの味を持っているという意味らしい。　つまり、茎から出た粘液でなく、果実から取った整髪料も使われているということ。

  2022.04.14

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• 落語「け」の３６：喧嘩の仲裁（けんかのちゅうさい） ​

  【粗筋】　長屋の二人が喧嘩の仲裁をしてもらった礼にと、家主を訪ねた。土産にと酒の切手を持参したが、御馳走するからそれを酒に替えてきてくれといわれて大弱り。期限切れの古い切手を持って来たのがバレてしまった。トンチンカンなやり取りばかりする二人にあきれた家主が、とうとう、​「お前さん達に付き合っている暇はないから、もう帰っておくれ」​【成立】　上方噺。「長持」の前半を独立させたもので、落ちもない。桂春団治（初代・２代目）のレコードが残る。​

  2022.04.13

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• 落語「け」の３５：喧嘩長屋（けんかながや） ​

  【粗筋】　夫婦喧嘩が始まり、家主が仲裁に入るが、女房をほめて亭主をけなすので、​「人の女房におべっかを使う助兵衛家主め」  といわれて家主もかっと来て、「こんな不細工な女房に誰が手を出すか」　と言うので女房も怒り出し、三つ巴の喧嘩に発展。同じ長屋の吉公が止めに入るが、「大家の味方をして家賃を負けてもらおうと言うのだろう」「誰がそんなことをするかい。このけち大家が負ける訳はないだろう」「誰がけちや。お前ら、よってたかって、家賃を踏み倒す腹じゃろう」「ほら、こんな時でも家賃の話や」　これも巻き込まれる。とうとう長屋中の者みんなが巻き込まれての大喧嘩に発展。近所の女房達が、「熊さん、後はあんたしかいないよ。止めておあげよ」  と言う。熊さんが出掛けたが、入口に、「満員御礼」​【成立】　上方噺。本来の落ちは熊さんが、「俺は行けねえ。今度なぐり合う時に家がせまくなる」と言うもの。桂小文枝（５）は最初の女房が中からはい出して玄関に張り紙をしたが、見ると、「満員につき、場所ございません」と下げている。桂花丸がこれで演じたのを見たことがある。​

  2022.04.12

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• 落語「け」の３４：喧嘩指南（けんかしなん）

  ​【粗筋】　町内に「喧嘩指南所」という看板が出来て、さっそく出掛けて行くが、喧嘩なのにへらへら笑っていたり、優しく丁寧なことばになってしまったり、ちっとも喧嘩にならない。師匠が呆れているところへ飛び込んで来た男、​「おう、教えてくれ。まごまごしてるとはり倒すぞ」「うん、お前はものになる」​【成立】　享和２（１８０２）年『一口饅頭』の「小言指南所」。入門に来た者が「弟子にして下さい」と言うので「挨拶もなしにいきなり何だ。ぶしつけ千万、手打ちにいたす」と刀を引き寄せる野に対し、「このべらぼうめ、たわ言を抜かすと踏み殺すぞ」「これは下地がある」というもの。資料本では、原作が見付からなかったのか（探さなかったのか）、文化年間（１８０４～１７年）に指南物が流行したので、その頃に作られたものであろうと書かれている。最後の男だけが小噺として枕に残る。「道楽指南」と同工異曲。​

  2022.04.11

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• 落語「け」の３３：蹴鞠（けまり） ​

  【粗筋】「江戸で面白いものを見た。「マリ」といって、白くて丸いものだが、羽根もないのに空を飛ぶ。四人掛かりで囲んで捕らえようとするが、人の足に食いつくては逃げるのだが、一人がやっと踏んづけたら、屁をひって死んだ」​​【成立】　安永２（１７７３）年『飛談語』の「鞠」。この頃江戸で流行があったらしい。同年『聞上手』の「鞠」は、隣で鞠を借りて来いと言われた小僧が、「お隣も鞠が足りず、四人で一つの鞠を蹴っております」と言う。　これらの前年、明和９（１７７２）年『鹿の子餅』では「朝鮮人」で、日本に旅をした土産話。もう一つ「鞠」という噺があって、親に蹴鞠を禁じられ、手代に命じて鞠を庭に埋めることにするが、「せめて埋めた印に、柳を植えてくりゃれ」​

  2022.04.10

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