パガニーニ伝:その48
48:ウィルレの話 パガニーニの死んだ後の問題について話そう。 まず問題は後継ぎさ。パガニーニの死が伝えられると、その偉業を継ぐものが誰かという話題になった。当然息子のアキレが第一候補になる訳だが、息子は演奏活動は行っているものの、父親ほどの才能は持ち合わせていなかった。父の残した協奏曲第五番のソロの譜面に伴奏を作ってくれと依頼したこともあるが、例の、技術だけで中身がないという中傷があったので、父親の残した譜面をほとんど表に出さずにしまっておいた。 アキレには女の子しか生まれず、その孫娘が一九二〇年代に演奏したのが協奏曲第三番の第二楽章で、実は彼女らには第一楽章と第三楽章は演奏出来なかった。あまりに美しい第二楽章だけをピアノ伴奏に編曲して演奏していたのだ。シェリングがこれをパガニーニの作品だと見抜いて譜面を求めたが、この二人もパガニーニ作品はひどいといわれ続けていたので拒否した。結局二人が説得に応じたのは四十年も後、一九七一年一〇月一〇日、遂に協奏曲第三番が日の目を見たのである。パガニーニの曽孫二人と、その孫娘が会場に現れた。同時にパガニーニの愛用していたガルネリが使われることで話題も呼んだ。この曲を聞いた人々は、パガニーニもいい曲を作っているじゃないか……ということで見直されるのだが、本当に認知されるまでさら十五年、はっきり言えばいまだに正しい認識はされず、技巧のみを求めた作曲家となっている。 さて、そのパガニーニの愛用したガルネリも話題になった。これを使用する許可を得た者が後継者として認められたことになる。これは特にパリで賭けにもなった。候補者として上位にランキングされたのが、ベリオ、エルンスト、リビンスキー、マイゼーダー、モリク、オール・ブル、シュポーア、ヴュータン。この八人が有力候補だというが、本人が宣伝のために噂を流したことも発覚した。この演奏家たち、エルンストの『夏の名残のバラ(庭の千草)変奏曲』、シュポーアのヴァイオリンとチェロのための協奏曲、ヴュータンのヴァイオリン協奏曲が演奏されるくらいで、そのスケールからも、とてもパガニーニと並ぶとは思えない。まあ、今パガニーニの作品も粗末に扱われているから同等なのかも知れないが。 パガニーニはガルネリをどうしたのか……手に入れた時に約束した通り、博物館に寄贈して、一切演奏させないようにしたよ。私はショーケースなどを掃除することがあるが、中をきれいにするときには警備員が立ち合い、専門家がガルネリを動かす。楽器に息をかけることも許されなかった。 本人が「オルガンのように響く」と言ったが、太い音色は伴奏が鳴り響いていてもしっかり通って来る。素晴らしい楽器であることは間違いない。 先日……といっても、協奏曲第三番が演奏された後だが、イギリスかアメリカかの「何とか鑑定団」とかいう番組があった。世界の名器に値段を付けるのだ。そこにガルネリが登場したが、普通のヴァイオリンとして十億円、パガニーニが使ったという付加価値で三十億円という値がついたね。 ※ ※ ※ レハール:喜歌劇「パガニーニ」 北イタリアでフランス領となっている地区へパガニーニがやって来て、挨拶に「美しきイタリア」を歌う。演奏会が予定されていたが、大公の命令で中止され、人々は残念に思う。そこへやって来たのが大公の妻であるエリーゼ、ナポレオンの妹である。彼女は身分を隠してパガニーニを自分の屋敷の音楽家に雇う。 そのヴァイオリン演奏に聴衆は熱狂するが、パガニーニは賭けでヴァイオリンを取られてしまう。落ち込むパガニーニと慰めるエリーゼ、この夜ついに結ばれる。そこへ、宮廷に仕える信奉者が宮廷にあるヴァイオリンの名器を探し出して届けたため、危うく二人の仲がばれそうになる。 ナポレオンは妹の金遣いの荒さに怒り、パガニーニの逮捕命令を出す。エリーゼはパガニーニが若い女性歌手に手を出しているのを知って、その嫉妬心からこの逮捕命令を承諾する。最後の演奏会、演奏が終わると会場に入って来た軍によってパガニーニは捕まってしまうのか…… まあ、予定通りの結末だが、パガニーニの逸話をいくつも盛り込んで、パガニーニとエリーゼの純愛として描き、なかなか面白いものになっている。 DVDを持っているが、解説がどうもおかしい。パガニーニの影響や主題による作品を紹介しているが、発売当時にはまだ音源が無いもの、訳の間違ったもの、などが紹介されている。例えば、ウェッバーの「スーパー・ヴァリエーション」は「Variations」という題で発売され、私がフルートで遊んだ時に、洒落で「ウルトラ・ヴァリエーション」とをやり、ウェッバーの作品をHPに「スーパー・ヴァリエーション」で紹介した。このタイトルを使っているというのは私のHPからの引用という以外の原因は見つからない。当時音源の無い曲もその当時は同じHP以外には見つからない。どうも疑惑だらけの解説である。 ローゼンブラット:パガニーニ変奏曲 奇想曲第24番によるピアノ独奏曲。 シミットの演奏を所有。 ロックバーグ:カプリース変奏曲 奇想曲第24番による、無伴奏ヴァイオリンのための曲。1970年の作品。51の変奏を書いたが、そこから24曲を選んで順番も大幅に入れ替えて改定した。一方、自由に選んで演奏してよいということもやっているので、演奏によっていつも同じではない。1つの変奏が1分半くらいで計算すると演奏時間が分かる。原曲の番号がついている。 7番にはベートーヴェンの弦楽四重奏曲「ハープ」のスケルツォ、 8番にはシューベルトの「舞曲」作品9の22「ワルツ」 21番にはベートーヴェンの交響曲第7番、 36番にはショパンの練習曲作品10の11 41番にはウェーベルンのパッサカリア 43番にはモーツァルトの「魔笛」 44番にはマーラーの交響曲第5番のスケルツォ など、色々な曲がイメージされて行く。他もそうなのかも知れないが、後は分からない。 51番が原曲の主題で、要するに、曲の最後で主題が演奏される。 ミルシテインから始まり、シュニトケ、間にエルンストの「夏の名残のバラ(庭の千草)変奏曲」をはさんで、この曲で終わるギドン・クレメールのCDが絶品。主題から始まり、主題で終わるのだ。ジャケットが映画「春の小交響曲」でパガニーニを演じた野性的な姿で、解説書の紳士的なクレメールとの対照が面白い。 クレメールは、42、34、35、18、5、21、7、8、23、36、24、25、46、16、43,45、19、38、31、44、41、49、50、51を演奏している。 新井英治は、36、16、43、20、29、33、38、19、35、5を演奏している。 ロッシーニ:パガニーニによせてひとこと(エレジー) 絶大な人気を誇った作曲家で、ベートーヴェンまでがロッシーニとかぶると客が来なくなると恐れていた。パガニーニと大の仲良しだったのは本文を参照。音楽活動はわずか20年、63歳の時に有り余る財産を使ってレストランを経営した。 まあそれはともかく、引退後は軽いピアノ曲を作っていた。曲の終わりの和音だけを並べて1曲にするような変な曲もあるが、その中で唯一ヴァイオリンを使うのがこれ。 新井英治の演奏を所有。 若林千春:Campanella ピアノ独奏のための。鐘の音を描写する和音が続き、その中に「ラ・カンパネラ」が聞こえる。雑誌『カンパネラ』創刊号を記念して作ったもので、演奏されたかどうか……著作権もあるので、自分で録音したものを楽しんでいる。