名作落語大全集

[落語] カテゴリの記事

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• 落語「け」の３０：毛抜き（けぬき） ​

  【粗筋】「今、三十二文でこの毛抜きを買ってきた」​「ほう、そりゃァずいぶん安いな。どれどれ……おい、こりゃァ全然抜けないぞ」「ああ、それを疵にして買った」​【成立】　安永２（１７７３）年『聞上手』の「毛抜」。毛が抜けないことを非難して、毛抜きを安く買ったという間抜け落ち。「道具屋」では全部髭を抜いてしまい、品物を買わず「生えたらまた参る」というくすぐりがある。尚、３２文なら８００円くらいで、今ならもっと安くていい物もあるだろう。​

  2022.04.07

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• 落語「け」の２９：けつまづき

  ​【粗筋】　けつまづいて転び、あたりを見ながら起きたが、ちょっと進むとまた転んだ。​「えい、いまいましい。これだったら起きなければよかった」​【成立】　天明年間（１７８１～８９）に成立した、大田南畝の『うぐひす笛』にある「七転び」。中国の『笑府』の「跌」の翻訳。頑固者、気の短い者が登場する噺のマクラに用いられるが、不精者のマクラで聞いたのはちょっと違和感。​

  2022.04.05

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• 落語「け」の２８：月賦幽霊（げっぷゆうれい）

  ​​【粗筋】​　去年死んだ、妻の露子が幽霊になって現れた。​「うらめしや」「おい、うらまれる覚えはないぞ。葬式だってちゃんとやっただろう」「何よ、あの葬式。段ボールの棺桶で坊さんのお経は３分、たった１万円で終わりって、あの世で形見が狭いのよ」「安いって文句を言いに化けて出たのか」「違うの。あの葬式代月賦だったでしょう。もう一周忌なのに、一月分しか払ってないから、成仏できずにいるの。ほら、足が１歩残ってるのよ」「あ、こりゃお面白い」「面白くないわ」　亭主の方も言い訳はある。勤務先がつぶれて生活するのがやっとなのだ。そこへ葬儀社の集金人が来たので、露子が相手をする。「払わないと仏も浮かばれないでしょう」「はいその通りです。私の顔を覚えているでしょう」「顔……きゃあっ……」　って、結局脅して追い返す。亭主は喜ぶが、金を返すまで成仏できないのだ。仕方なく、露子がバーでアルバイトをして自分の葬儀代を稼ぐことにした。「新人の露子でーす」「美人だね。美人薄命というから気を付けろよ」「もう遅いわ」「君と一緒にいると天国に行くような心持だ」「よろしかったらお連れしますわ」　人気が出て、月賦の一部を返すことが出来た。それで無事に足が消えたのはいいが、足がない女ではバーの務めは出来ない。画家のモデルになって残りを返済。無事成仏できることになった。「うらめしや」「露子。成仏したんじゃないのか」「だって、バーに勤めるのに、新調した着物のお勘定、まだ残ってるの」​【成立】　大野桂作、三笑亭笑三が演った。​

  2022.04.04

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• 落語「け」の２７：けつね

  ​【粗筋】　大和国高田の平野を歩いていた侍の前に、一人の娘が救いを求めて来た。侍が、「お前は狐（けつね）だろう」と言うと、​「さすがはお武家様。私は狐です。甚九郎に捕まっている姉狐を助けていただきたく、声を掛けました」  というので、甚九郎のところへ行き、姉狐を五両で買い取り、助けてやる。甚九郎の娘・おたねが、その金で買い物をしたいと言うので、甚九郎が金を置いた仏壇の前へ行くと、小判が柿の葉に変わっている。　侍の方は、郡山で紀の国屋という宿に泊まり、日記をつけていると、白髪の老人が現れる。「助けていただいた狐でございます。小判をお返しに来ました。ところで、次の間に物騒な奴がいるのでお気を付け下さい」  と言う。次の間をのぞいてみると、甚九郎が追って来て、鉄砲を構えている。ところが突然体がしびれ、侍に声を掛けられて、恨みに思って追ってきたことを後悔する。そこでボーンと鐘の音……「甚九郎、今鳴る鐘は何時じゃ」「初夜でございます」「ほう、狩人に狐に庄屋（初夜）、まるで狐拳じゃな。今までのことは水に流して、来い来い」  というと、狐が恥ずかしがって。「コンコン」​【成立】　森暁紅の原作を花月亭里丸が落語にした。橘ノ円都がたまに演じた上方噺。​​【蘊蓄】　河内、大和では狐を「ケツネ」という。別に「きつね」でよさそうだが、そのまま残す。「初夜」は戌の刻、午後８時。​

  2022.04.04

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• 落語「け」の２６：結婚相談所（けっこんそうだんじょ） ​

  【粗筋】「こちらが結婚相談所です。どんな人と結婚したいんですか」​「出来れば女性をお願いします」「どこから来ました」「自宅から来ました」「自宅は」「６畳一間のアパートです」「アパートはどこにあるんですか」「八百屋の隣です」「八百屋はどこですか」「うちの隣です」「今どちらにいるんです」「あなたの前にいます」「ご家族は」「父と兄が九人います」「お父さんの出身は」「とうだいです」「本郷の東大ですか」「潮岬の灯台です」「一番上のお兄さんは」「きょうだいです」「京都大学ですか」「私の兄弟です」「二番目は」「せんしゅうです」「専修大ですか」「先月上京して先週帰りました」「その次は」「ほうせいです」「法政大学ですね」「洋服店で縫製をやってます」「その次は」「とうほうです」「東邦大学ですね」「途方にくれてます」「その次は」「せいけいです」「成蹊大学ですね」「整形に失敗して鼻が三つあります」「次は」「とうかいです」「東海大ですね」「地震でアパートが倒れたんで……倒壊」「次は」「りっきょうです」「立教大ですね」「陸橋の下でホームレスしています」「次は」「青山です」「青学ですね」「墓地で眠っています」「次は」「じょうちです」「上智大学ですね」「危険な情事にはまっています」「次は」「いかしかです」「医科歯科大ですね」「イカと鹿が好きなんです」「次は」「きゅうしゅうです」「九州大学ですね」「吸収合併でリストラされました」「次は」「青山です」「分かりました。墓地で眠っているんですね」「洋服屋さんです」「次は」「とうきょうりかです」「理科大ですね」「東京にリカという彼女がいます」「次は」「あじあです」「亜細亜大学ですね」「アジャパー」「次は」「明治です」「明治乳業って言おうと思っているんでしょう」「明治製菓です」「次は」「早稲田です」「理工ですか」「ばかです。早稲田は住んでる町です」「次は」「中央です」「中央で検事か弁護士ですか」「刑務所に入っています。中央商店街で放火しました」「いい加減にしなさい。９人兄弟って言って１７人も出てるじゃないか。そもそもアジャパーとか伴淳アチャコなんて、若い人に分からないでしょう。もうお帰り下さい……次の方どうぞ」「辰巳七郎、３８歳。お願いします」「きちんとした人だね。ご両親は健在ですか」「信州で材木屋やってます」「建材ですね。地主ですか」「はい、痔を持ってます」「今の年収は」「１０億です」「そんなにあるんですか」「プロ野球選手が」「あなたの年収は」「２００万です」「プロの１日分にもならないね……今のお住まいは」「東京でアパート暮らしです」「バスが付いてますか」「バスはありません。毎朝仕事仲間がトラックで迎えに来ます」「身長は」「１メートル５センチ」「あなた、今まで立ってたんですね……清潔な人が好まれますが、お風呂は」「２回入ります」「１日２回ですか」「年に２回です。大晦日と元日」「それ、片方をお盆にできない……あなたのような人には紹介できないね」「そんなこと言わないでお願いします」「じゃあ台湾行きなさい」「台湾で誰か紹介してくれますか」「蒋介石」​【成立】　昔々亭桃太郎（２）の創作落語。細かいギャグが次々というネタ。下らない……って、どうしてこんなに面白いんだろう。​

  2022.04.02

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• 落語「け」の２５：結婚紹介所（けっこんそしょうかいじょ）

  ​【粗筋】　「すみません、こちらが結婚紹介所でしょうか」​「はいこちらですよ。で、あなたはご本人ですか、そうですか。顔を見せて下さい……え、それが正面……これが顔の表面かね……ううん、こりゃ大変だ」「先に聞いておきたいんですが、値段はどうなっていますか」「相手が１７，８から二十歳くらいで５千円、３０歳で２千円、４０過ぎで８００円、５０代で３００円、７０以上は無料です」「せっかくですから５千円で……でも高いですね」「いや、結婚式場の費用まで入っている」「え、それなら安い。一流ホテルで……」「いや、この建物の中にある。お稲荷さんと荒神様が祀ってある」「狐の嫁入りですな」「で、女性はどんなのがいい」「どんなのがあるんです」「洋風、和風、古風、モダン……どうにでもなる」　というのでモダンな洋風を見せてもらうと、何と外国人。しかも髪を七色に染め、頬が赤く、額が黄色、服もオールカラー……そもそも言葉が通じない……「では、モダンな中にも日本的な古風な部分も持っている人がいいです」　出て来たのは、日本髪にワンピース、ブーツをはいて番傘を差している。「普通の人はいませんか」　ってんで出て来たのがようやく普通の人。「気に入りました」「そうかね。じゃあ、服を脱いで……」「え、どうしでです」「体を調べるんだよ。腐ったところがあっても返品できないからねえ」「まるでバナナですね」「バナナ並みの立派な物を持っているじゃないか。それじゃあ書類を作ろう。君の名前は」「加藤喜代正といいます」「どっかで聞いた名前だな。なるほど、立派なヤリの使い手だ。ちょうどいい。彼女の名前がトラ子だから……財産はあるかね」「そんなものありません。安月給で、来てもらっても暮らしの苦労を掛けるのが心配で」「それは大丈夫だ。トラ子とキヨマサだからヤリクリはうまくいく」​【成立】　昔々亭桃太郎（１）の創作落語。昭和２７年で、当時はまだ結婚相談所のようなものはなかったという。​

  2022.04.01

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• 落語「け」の２４：結婚式（けっこんしき）

  ​【粗筋】　結婚式で仲人の挨拶。​「えー本日ここに新しい夫婦が誕生したというのは、まことにご愁痛、いやご同慶にたえません。ただいま神前においていとも厳粛に、しかもしめやかなる葬儀が、いや結婚の儀がとどこおりなく行われたましたことは、まことに遺憾、いや欣快に存ずる次第であります。お二人の経歴ですが……ええ（ポケットを探るがメモがない）……経歴はありません。　私は仲人が好きで、これでちょうど５０組の掛け合わせを致しました。社長になって立派にやっている夫婦があるかと思うと、中には生活苦のために夫婦心中したものも６組ばかりございます。今日のお二人がどちらになるか楽しみであります。仲人は骨が折れるといいますが、後で少なくとも３万円、多ければ数万円の謝礼が頂けますのでそれを楽しみにしています。この間全然よこさないのがありましたが、ああいう夫婦は先行ろくなことがないと思います」  新郎の会社の社長は、「初め私に仲人をやってくれとのお話がありましたが、その任ではないとお断りをしました。しかしこの次には是非引き受けたいと思います。その日の一日も早く来るのを神に祈っております。新郎は勉強好きで高校には６年も通い、大学は試験官の手違いで入学、会社に入ってからも遅刻は週に５、６回しかありません。先月会社の金を遣い込んだのがバレて近々クビになる予定でございます」  新婦側の主賓、女学校の校長先生、「新婦は私の学校を首席で卒業なさいました方と一緒に卒業なさいました。本来お茶の水大学に入る予定でしたが、試験問題と意見が合わず、私の方にこられました。在学中は洋裁和裁は申すに及ばす、琴、生け花、三味線、茶の湯というものは一切やらず、花嫁修行を続けてこられました。お父さんはこの方の生まれる４年前に亡くなり、お母さんは若い男を作って只今行方不明でございます。尚、素晴らしい報告がございます。新郎新婦は知り合って３月（みつき）ですが、来月めでたくお子さんをご出産の予定です」​【成立】　春風亭柳昇の創作落語。​一般に演っていたのは「子供のころから非常に健康で、病気といえばただ梅毒を患っただけでございます」という落ち。やはりこれではまずかろうと、上記の落ちで演じた場合もあるらしい。これなら放送でも大丈夫……でも放送でも梅毒で演っていたよね。まあ、ここではこちらの落ちにしておく。​【一言】　たてまえの裏側に隠された本音を、よそいきの顔をした列席者の前にさらけ出すという、実に爽快な咄である。あのフラのある柳昇の口調によく合っていて、まるみを帯びた社会風刺になっている。（馬場雅夫）​​【蘊蓄】　結婚式でよく演奏されるのは、メンデルスゾーンとワーグナーの「結婚行進曲」。メンデスルゾーンの曲は『真夏の夜の夢』の中にある曲で、３組の新郎新婦を迎え入れる華やかな曲。舞台ではこれに続いて葬送行進曲が流れるのがおかしい。ワーグナーのものは楽劇『ローエングリン』の終盤で演奏されるが、結婚したばかりの二人が翌朝には別れる運命になることを暗示する曲。​

  2022.03.31

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• 落語「け」の２３：結婚の申し込み（けっこんのもうしこみ） ​

  【粗筋】　息子の勝治に子供が出来た。そもそも結婚していないのに。​「相手は前に連れて来た、伏見真希いう子や」「お前、２５で生活力もないやろ。貯金あるのか」「全然ない」「どうするんや」「こんな場合は親が出さなしゃあないやろ」「勝手に決めるな」　とにかく子供が出来るなら結婚せねばならぬ。「相手の親に謝りに行てくれるか」「何で親が謝るんや。ほな、こうしよ。まだ結婚は早いから駄目……そうやな母さん」「ええんちゃう。私達も出来ちゃった婚やったし」　結局本人が相手の家に挨拶に行くことにするが、向こうでも反対している。なぜか、男の名字が原だから……「腹真希」……腹巻になってしまうのだ。　挨拶に行くと父親はまだ早いと反対していて、子供が出来ていると聞くと怒り心頭、しかし、もう許すしかないと、腹が目立たぬうちに結婚してほしい……ということで、来月中には結婚式を挙げると誓約書を書かせる。勝治、やっと許してもらい、疲れ果てて帰って行った。「真希、良かったな、これで３０前に結婚できるぞ」「そうね。でも勝治君だまして悪かったわ。ちゃんと仕込まないと」​【成立】　桂文枝（６）の創作落語、第１４７作目、２００３年２月の作品。​

  2022.03.30

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• 落語「け」の２２：結婚ノススメ（けっこんのすすめ）

  ​【粗筋】　離婚して父と息子で暮らしているが、まだ小さい息子から、再婚しないのかと聞かれる。お前が大きくなるまでは再婚しないと言うと、「子供に重荷を背負わすな」　と言う。「母ちゃんとよりを戻すのは無理や。こないだ電話したら、母ちゃん、絶対にあらへん言うてた」​　息子はこれを近所の小母さんに話していた。お見合いの世話が好きな人で、若い看護師と日曜に会いに行くと言う。びっくりした父親だが、息子に背中を押されて出掛ける。息子が色々気を遣うのだが、父親は緊張していて話も出来ない。そのうちに仲人役の小母さんに,「二人きりにしておきましょう」　と連れ出される。息子は心配していたが、無事二人が結婚することになった。　３人での生活が始まり、おやつの用意が出来たと新しい母親が呼ぶのに、息子は部屋から出て来ない。何だか元気が無くなったようだと言われて、父親が見に行くと、音楽を聴きながら寝込んでいる。自分でお見合いを勧めながら、再婚されるとお父さんを取られたようで寂しいのだと夫婦で話をしていると、起きた息子からも、「弟か妹が欲しい」　と言われる。「お前も寂しいから、弟か妹が欲しいのやな」「そやない、弟か妹がいれば、気兼ねなく家を出て行けるんや」​【成立】　桂文枝（６）の創作落語、第４８作目。タイトルをカタカナで書いたのは、「学問ノススメ」のパロディだろうが、中身は関係ないようだ。​

  2022.03.29

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• 落語「け」の２１：月給日（げっきゅうび） ​

  【粗筋】　待ちに待った月給日、みんなで飲みに行こうと相談がまとまり、行きつけの飲み屋へ出掛けた。「何か作りますか」「犬小屋頼もうかな」​「……何ですか」「子供が犬を拾ってきて、犬小屋を作ってくれって頼まれているんだ。何か作りますかって言うから、思い出しちゃった」  歌でも歌おうということになって、「♪いかに正義のためとはいえど、かかる火の粉は払わにゃならぬ……」「うちの勘定も払って下さいよ」「余計なことを言うなよ。この店は汚い爺ィと婆ァだけど、行きつけだからきてるんだ。勘定を払えるならきれいな女の子のいるところへ行くよ。今日は月給日だから、勘定まとめて払おうと思っているのに、勘定（感情）を害するよ」「それは済みませんでした」「じゃあ、もう勘定のことは言うなよ」「言いません」「忘れろ」「忘れました」「じゃあ、払わなくてもいいな」「冗談じゃない」「おい、ごらんよ、女の子がいないと思ったら、いるよ」　呼んで話をすると、これが飛んでもない田舎娘で、なまりが強い。恋人がいるという話になり、鎮守様の祭の日にくどかれたが、二人そろって肥だめに落ちてしまったと言う。「恋に落ちたって、下肥かい」「これが本当の恋（肥）人だ」​【成立】　三遊亭圓歌（３）の創作落語。適当に切ったり増やしたりできる重宝な話。古典の「居酒屋」などと同じで、店の親父とのやりとり、娘とのやりとりだけでも一席に出来る。「授業中」で大変な人気になったが、その同級生らが社会人になるのが「浪曲社長」で、これはその続きということを解説していた。中沢信夫さんは登場しない。​​【蘊蓄】　イギリス２５年で所得を倍にすると宣言した後、ＧＨＱ経済科学局長マーカットの会談の席で、池田勇人が「日本は１０年で所得を倍にしてみせる」と豪語。「所得倍増」が流行語になったのは昭和２７（１９５２）年。成功と見るかどうかは分かれており、イギリスは物価はそのままで成功したのに、日本では物価が一緒に上がって行った。最近のアベノミクスと同じ。ただし、アベノミクスは給料は上がらず、物価だけを上げた。経営者が儲かって、これから一般に回るところだったが、本人の解説では、新型コロナが流行ったため、循環が止まっていると説明している。​

  2022.03.28

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• 落語「け」の２０：月宮殿星の都（げっきゅうでんほしのみやこ）

  ​【粗筋】　鰻をつかもうとして天に昇った男が、雷の五郎蔵の世話で天国を見物してまわる。織物工場で虹を織ったり雪を作ったりしているのを見学。その後月宮殿へ行くと、星達が掃除をしている。奥につづらがあって、中には臍がつまっている。これを一つ食べると、たちまち通力がついて、体が宙に浮くようになったので、葛籠を背負って、「葛籠負うたがおかしいか」　と逃げ出した。追手を振り切ろうとして、昔久米仙が落ちた穴から落ちると、ちょうどわが家の裏口。女房がびっくりして杓（しゃく）で叩き始めたが、よく見ると自分の亭主。​「お前さん、どこへ行っていたのさ」「雷のところで臍を盗んできた。お前こそ、何だって俺を杓で打ったんだ」「臍（江戸）の仇を長杓（長崎）でうった」​【成立】　幕末に林家蘭丸が創作したという。前半は「鰻の天上」。鰻屋（素人鰻）と同じように鰻をつかんで町内を一周し、上に向けると二階から屋根へ上がって、とうとう天に昇って行く。手紙が来るが、手を離す暇がないので、代筆と書かれているというネタ。​　「葛籠負うたがおかしいか」は元文２（１７３７）年豊竹座で演じられた『釜淵双級巴』で石川五右衛門が、葛籠を盗もうとして赤ん坊を見付けて言う台詞。父性愛を見せる場面として大流行語になった。

  2022.03.27

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• 落語「け」の１９：けちの飯（けちのめし）

  ​【粗筋】　けちな旦那、奉公人にも麦飯ばかりで、おかずは年に１、２回……花見で遅くなるというので、女房がこの隙に奉公人に何か食わせようと、米の飯を炊いた。ところが旦那、思いの外早く帰り、飯をお櫃に移すのを見てウウーンと倒れてしまう。奉公人が慌てて、医者よ薬よ、しかし、医者も薬も金が掛かるから、後で何か言われたどうしよう……と右往左往するばかり。女房が、「何も心配ない」と抑えて、​「これは米ではありませんよ。豆腐のかすですよ」　と言ったら、旦那、すぐに息を吹き返した。​【成立】　寛文１２（１６７２）年『つれづれ御伽草』の「米の飯に絶入」。ケチの落語で、米に限らず金が掛かると聞いて気を失うが、気付け薬を飲ませ目を覚ます。値を聴いてまた失神、「これは頂き物ですよ」と聞いて「そうかい」、という具合に使われている。​

  2022.03.26

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• 落語「け」の１８：けちの水難（けちのすいなん）

  ​【粗筋】　けちの親子が連れ立って出かけたが、父親が誤って川へ落ちた。息子が助けを呼ぶと、男が「百を下されば上げてしんぜましょう」と言う。​「それは高い半額に負けてくれ」「いや、百でなければ上げぬ」　川の中で親父、水をがぶがぶしながら、「俺が死んでも７２文以上は出すな」​【成立】　天保８（１８３７）年『落噺仕立おろし』の「欲心」、明和５（１７６８）年『軽口片頬笑』巻五の「足下見る井戸替」、安永２（１７７３）年『聞上手』三篇の「井戸」など。もとは中国の『笑府』にある「溺水」。​７２文は半端に感じるが、銭が１枚４文で、１８枚。江戸の人は４進法は得意だった。

  2022.03.25

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• 落語「け」の１７：けちの信心（けちのしんじん）

  ​​【粗筋】　けちが小僧を連れて恵方詣り。賽銭を投げようとすると、１文銭がなく、どれも４文……仕方なく、後ろを向いて、「小僧、お前もおがめ」​【成立】　安永２（１７７３）年『口拍子』の「恵方参」。『甲子夜話』では、明和５（１７６８）年に製造された寛永通宝が４文なのだが、１文とそっくりなので使い間違えることが多かったと説明し、投げてから気付くという、同じ小噺を載せている。簡単に言うと、裏に波があるのが４文で、無いのが１文というが、これも例外があるようだ。　ケチが１文だと思って４文を投げて気付き、「南無さん」と声を上げる、４文を投げた途端「家内安全、五穀豊穣、世界平和」と幾つも祈る、などの変化がある。明治の頃には新しい金貨が出て、小銭と大きさが同じで、回りにギザがあるのを指で確かめて投げるとキラッと光って……という同じネタもある。見てから投げればいいのに、ケチじゃなくって粗忽者だねって思う。確かめない無精者かも知れぬが、無精ならそもそも信心に出掛けないだろうし……​

  2022.03.24

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• 落語「け」の１６：下女日高川（げじょひだかがわ）

  ​​【粗筋】　娘に惚れ薬をかけようとした時に風が吹いて、後ろにいた下女にかかってしまう。ヘチャの下女に追われ追われて日高川。船で逃げると、下女は川に飛び込む。いよいよ蛇になるかとおびえて見ていると。薬が流れて帰って行った。​【成立】　上方噺。宇井無愁が「シャレた咄」とほめているが、「いもりの黒焼き」という落語がほとんど同じようなものだから演じられないと思う。演じるとすれば、「黒焼き」の中にエピソードとして入れるしかないだろう。それでも思わぬ女に追いかけられる同じパターンが重なる。​

  2022.03.23

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• 落語「け」の１５：下女の屁（げじょのへ） ​

  【粗筋】　下女が人前でおならをしたので、客を帰した後、折檻に尻をまくらせて叩く。ところが尻を見た旦那、ついフラフラと手でないモノで折檻をしてしまう。​  翌日、旦那が一人で部屋にいると、下女が入って来て、「旦那様、またおならをしてしまいました」​【成立】　中国の『笑府』にある「屁婢」。枕に、こういう噺の小噺集によく登場する。どういう折檻をしたのか、うぶな私にはよく分からない。​​【一言】　この可愛さは玄人にはない。同種の咄はフランス小咄にもあり、相手は女中でなく女房という設定もあるが、やはり法律で認められていない男女の関係にこそ色ごとの真髄はあるのだ。女房が来たから一体どうしようというのか。「女房にいまいましくも惚れられる」というではないか。（馬場雅夫）​

  2022.03.22

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• 落語「け」の１５：下女の屁（げじょのへ）

  　１９９５年に、表計算を勉強するために落語のタイトル一覧を作った。２００席くらい。その後東京大学の資料を手に入れたら、小噺なども入れて１２００余。あ、落語だけにこの噺が落ちていたとか……２０００年までに思い出し思い出し、集計されたのが２０００席。粗筋などをまとめて発表を開始したが、毎週１席で４０年掛かる計算。今、こうして整理しているが、昨日とりあえず「サ行」までまとめたが、１５７５席。ううん……死ぬまでに終わるかしらん。落語「け」の１５：下女の屁（げじょのへ）【粗筋】　下女が人前でおならをしたので、客を帰した後、折檻に尻をまくらせて叩く。ところが尻を見た旦那、ついフラフラと手でないモノで折檻をしてしまう。  翌日、旦那が一人で部屋にいると、下女が入って来て、「旦那様、またおならをしてしまいました」【成立】　中国の『笑府』にある「屁婢」。枕に、こういう噺の小噺集によく登場する。どういう折檻をしたのか、うぶな私にはよく分からない。【一言】　この可愛さは玄人にはない。同種の咄はフランス小咄にもあり、相手は女中でなく女房という設定もあるが、やはり法律で認められていない男女の関係にこそ色ごとの真髄はあるのだ。女房が来たから一体どうしようというのか。「女房にいまいましくも惚れられる」というではないか。（馬場雅夫）

  2022.03.22

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• 落語「け」の１４：下女稲荷（げじょいなり）

  ​【粗筋】　大阪では、四月と十月が下女の出替わりとなる。下女達がその時には暇をとると話をしていると、一人だけがずっと同じ家にいると言うので、​「あんたんとこは食べ物がええのか」「そら、毎日赤ご飯や」「ああ、それで稲荷（居成り）や」​【成立】　聞いたことはない。尚、「下女」「女中」は放送禁止用語で「お手伝いさん」とか「家政婦」といわなければならないが、落語という芸術の必要性から、そのままにしておく。​​【蘊蓄】　「居成り」とは、奉公人が年季が来ても元のまま奉公を続けること。​

  2022.03.21

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• 落語「け」の１３：下女（げじょ）

  ​【粗筋】おや、おさんちゃん、久し振りねえ。どちらへお出かけ」「はい、今日は宿下がりで」「あら、ではどこかへご奉公なさっているの」「下谷の餅屋に」「それはうらやましいわ。御餅を沢山いただくんでしょう」「なあに、去年は湯屋にいたけれど」​​【成立】　明和９（１７７２）年『鹿の子餅』の「下女」。原作で下女と話しているのは男で、ちょっと堅苦しいから侍だろうか。​　分からない人のためにちょっと説明すると、餅なら食いだめも出来ようが、風呂では入りだめは出来ない……いや、寄席で本当に分からない人がいたのよ。昔の三平さんのように、「これはなぜおかしいかと言うと」って説明しなければならないようになるのだろうか。

  2022.03.20

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• 落語「け」の１２：袈裟御前（けさごぜん）

  ​【粗筋】　渡辺亘の妻、袈裟御前にほれた遠藤武者盛遠、いうことを聞かないとお前の母を殺すぞとおどされ、夫がいる以上いうことを聞く訳にはいかないと、今夜忍び込んで夫の首を取ってくれと申し出る。言われた部屋に忍び込んで首を取ったが、男の首にしては軽く髪も多い。不思議に思って切り口に手を当てると、べっとりと飯粒。​「ああ、今朝の御膳（袈裟の御前）であったか」​【成立】​  遠藤盛遠は、人妻を強引に口説いたり、裸で藪に寝たり、奇行がたえなかった。雪中那智の滝に５日もつかって失神すると、悟りを開いたと勝手に文覚と名乗って高尾神護寺に勧進し、院御所法住寺殿へおしかけて暴力を振るったため伊豆へ流罪になる。ここで頼朝に会い、父義朝のしゃれこうべを見せて決起をうながしたが、平家滅亡後、八十歳にして謀反のうたがいで隠岐へ流されたのが最後となる。この最初の人妻への恋慕事件が題材。​【一言】　幼稚なオチだが、こうでもオトさないと落語には無理な素材なのだ。（宇井無愁:​林家しゅう平が演じていた。この陳腐な落ちを避け、文覚として修行に励む。断食を終えて食事を与えられるが喉を通らず、「ああ、まだ今朝の御膳がたたっていた」と落とす。シューベルト、「オペラ座の怪人」などの歌入りはしゅう平らしいが、聞いていてちょっと疲れる。​【蘊蓄】　『平家物語』にはこの事件はない。『源平盛衰記』にあるのは『今昔物語集』巻第十を翻案したものらしく、事件そのものも疑問視されている。​　久安６（１１５０）年とも保元２（１１５７）年ともいう、淀川（現・大川）に掛かる渡辺橋が完成し、橋供養が行われた。警護に当たっていた遠藤盛遠は、橋のたもとの桟橋から輿に乗る美しい女を御簾の隙間からかいま見る。彼は一目でそのとりこになるが、相手は従姉妹に当たる袈裟御前、盛遠が１７歳、袈裟御前は１６歳であったが３年前に渡辺左衛門尉渡の妻となっていた。　恋患いに落ちた盛遠は伯母の衣川を訪ね、袈裟への恋で自分はだめになっている、これは伯母が自分を殺そうとするに等しい、武士として仇のあなたと一緒に死ぬ、という屁理屈をこねて衣川に刀をつきつける。衣川は仕方なく風邪で伏せっているからこっそり逢いに来るようにと袈裟を呼び出し、事情をうち明ける。板挟みになって苦しむ袈裟だが、母親のために盛遠と一夜を共にする。夜が明けると、盛遠はいよいよ一時も離れていられなくなった、と彼女を帰そうとはしない。仕方なく、それなら自分の夫である左衛門尉を殺してくれと言い、洗い髪にして酒を飲ませて眠らせるという約束までする。　袈裟は夫を酔わせて奥に寝かしつけ、自分が洗い髪で夫の代わりに横になる。忍び込んだ盛遠は約束通り濡れた髪を頼りに首を掻き切るが、屋敷へ戻って確かめると愛する袈裟のものだと知り、泣き叫ぶ。　無常を感じた盛遠は、翌朝渡の元へ赴き、すべてを話して自分の首を切ってくれと頼む。渡は、人を殺しても来世の苦難を招くだけだとし、妻は我々に道心を呼び起こすための観音だったと考えるのがよいと言って、自ら髪を切り落とす。盛遠もこれに倣って髪を切り、怪僧・文覚が誕生する。母の衣川や様子を見ていた３０余人が一斉に出家を遂げた。　というのが『源平盛衰記』にある話。やがて、一目で恋に落ちたのでなく、幼なじみであったという話の方が説得力があるというので一般化し、主人公も激しい恋の行動力を持つ盛遠から、悲劇の女性・袈裟へと移った。武士の妻が母と夫への献身を行うということになり、相手と一夜を共にするのは不都合ということでこの場面がカットされるようになった。　芥川龍之介は「袈裟と盛遠」で二人が共寝する場面を描いたため、非難の声が殺到したが、これが本来の姿である。岡本綺堂や菊池寛、小山内薫など、１０人以上の作家が色々な角度からこの事件を描いており、石井歓の作曲で歌劇にもなった。

  2022.03.19

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• 落語「け」の１１：下戸（げこ）

  ​【粗筋】　下戸が寄り合って、​「俺はひどいもので、奈良漬けを食ってあばれ回り、後で何も覚えていなかった」「それなら私の方がひどい。前の夜に酒を飲んだ人がそばへ来ただけで二日酔いになってしまいました」  これを聞いていたもう一人が、「ウイーッ、僕ァもうダメだ」​​【成立】​　安永２（１７７３）年『聞上手』二篇の「大下戸」。原作は酒に弱い話を聞くうちに真っ赤になってしまうもので、台詞はない。マクラに用いられる。「俺ァもうダメだ」よりも「僕ァもうダメだ」という音が何となくおかしい。​　寛永５（１６２８）年『醒睡笑』巻二にあるのは、風呂に行ったら、髭の男を見て船酔いを起こす。「この間の船頭に似ているから」​【蘊蓄】　酒を飲めないのを下戸というが、律令制では、各家を家族数や資産などで、大戸、上戸、中戸、下戸という四つに分けていた。婚礼の折に飲める酒が、上戸では８瓶、下戸では２瓶と決められていたことが語源といわれる。​　もう一説、中国は秦の時代、万里の長城の下にある門は通行人も多いが、上にある門では全く人が通らない上に寒さが厳しい。この上下の門が「下戸」「上戸」で、上の門には体を温める酒を、下の門には菓子を配ったという。中国から生まれた言葉が日本に来た例は多いが、これは疑問。中国で「下戸・上戸」を使っていないから。　中国から来た「五十歩百歩」は、五十歩逃げた者が百歩逃げた者を臆病と笑ったということで、日本では「大した違いがないこと」という意味で使うが、中国では「自分の欠点に気付かず、相手を非難すること」に使う。　飲めるのを「左利き」と言うのは、右手で槌を持ち左手で鑿（のみ＝飲み）を持つからだという。

  2022.03.18

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• 落語「け」の１０：外科本道（げかほんどう） ​

  【粗筋】　藪のくせに外科本道の講釈を垂れるが好きな医者、毎度迷惑なのは患者の家。近頃強盗が出るようになり、昨夜も誰やらが裸にされたと、まことしやかに話すと、効果てきめん、医者はあわてて帰ってしまった。やれ、これでゆっくり寝られると思っていると、表戸を叩く音。開けると例の医者が裸で立っている。​「いわんこっちゃない、盗賊に襲われなすったか」「いや、家へ帰って着物を脱いで来た。これで安心して外科本道が語れる」​【成立】　明和９（１７７２）年『譚嚢』の「追剥」は、夜は物騒になったというので裸で出て来たという噺。安永２（１７７３）年『座笑産』の「貝焼」はいつも割り前を払わぬ男を、同様に脅して帰すが裸になって戻ってくる。翌年刊行『軽口五色帋』下の巻の「噺数寄」は、長話の好きな男を帰らせる話で、よりこの落語に近い。東京では「長尻」とも。東京の「蔵前駕籠」、大阪の「そってん芝居」と同じ仕組みであるため、あまり演じられなくなった。​​【一言】　同一話が豊前の吉四六話、土佐の泰作話など、地方民話にもあって、かなり広く分布したモティーフである。（宇井無愁）​​【蘊蓄】　「本道」とは「内科」のこと。外科は「がいりょう」と読まれた。外科は手術といっても縫い合わせる程度が最大限のもので、一般には膏薬などを貼るのが普通だった。​

  2022.03.17

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• 落語「け」の９：京阪神日常事変（けいはんしんにちじょうじへん）

  ​【粗筋】　京都と大阪と神戸の三人娘。大阪娘が仕切って、５時までに入れば半額になるビヤガーデンに吹っ飛んで行く。京都娘はのんびりして、大阪娘は乗りつっこみが身に付いているし、神戸娘は「うちは大阪やない。神戸や」ときっぱり言う。つまみも、大阪娘はお好み焼き、京都娘は豆腐、神戸娘はサイコロステーキ、好みが違う。神戸娘が、「今年の初物や」　と笑うと、大阪娘が、「それはちゃうやろ。初物は恵方向いて黙って食うんやろ」「それは節分やろ」「京都はどうなん」「初物をいただくと七十五日寿命が延びます」「それ、もらえるの？　ただ？　もらえるもんならもらうで」　……これも大阪人の性である。「６６７０円やから、一人２２２０円や」「大阪の人は計算が早いな」​「あんたステーキ食うたから端数の１０円出し」「ええ……」　そういうやり取りの間に京都の娘は姿を消す。「あの娘、すぐ迷子（舞子）になるねん」​【成立】　桂あやめの創作落語。​

  2022.03.16

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• 落語「け」の８：芸通（げいつう）

  ​【粗筋】　茶屋の女将、座敷で客に、​「お客様、よい義太夫がございますが」「それは聞き飽きたからいらぬ」「それなら豊後節はいかがで」「それも聞き飽きた」「声色の上手がございます」「それも聞き飽きた」「半太夫節もございます」「それも聞き飽きた」　この客、よほどの通人か、あるいは何かの師匠かと、よく聞いたら湯屋の番頭。​【成立】　明和２（１７７３）年『坐笑産』の「目利違い」。番台でいつも聞いているから聞き飽きたということ。​

  2022.03.15

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• 落語「け」の７：稽古屋（けいこや）その３ ​

  【粗筋】　稽古屋で唄を習い、毎晩屋根へ上がって練習をしている男がいる。風の強い晩に「♪焼け立つゥ……」と唄うと、通行人が驚いて、​「火事はどこです」「♪海山越えてェ……」「そんなに遠ければ安心」​【成立】　上方噺。明治の末、笑福亭松鶴が上京して「歌火事」という題で演じ、その後、桂小南（２）が「稽古屋」という題で演じている。古今亭志ん生（５）もこの型。これは、前半は「その１」に準じて進んで行くが、「その２」のように様々な人の稽古が描かれ、最初の男が言葉を覚えるよう命じられてこの落ちになる。新しいところでは柳亭小みちが演じている。​

  2022.03.15

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• 落語「け」の６：稽古屋（けいこや）：その２

  ​【粗筋】　稽古屋へ通い始め男、貴撰の「♪世事でまるめて、浮気でこねて……」を習うが、うまくいかず、からくり節になる。また、鳶頭は途中で木遣りになる……という具合に、歌がどこかでおかしくなるというものを集めたもの。節が変わって落ちの代わりとなる。​​【成立】　柳派が演じていた音曲噺。他の落語にも引用されている。​

  2022.03.14

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• 落語「け」の５：稽古屋（けいこや）その１ ​

  【粗筋】　女にもてない野郎が兄ィに相談、​「昔から色男金と力はなかりけりというが、お前は色もなく金も力もない、特異体質だ。後は芸しかないだろう。唄の一つも唄えると、女がそれを聞いてブルブルッとくるてえ奴だ」　と言われて唄の稽古に行く気になった。さっそく兄ィに紹介された師匠を訪ね、試しに唄ってみると、「お話をしていると江戸ッ子のようですけど、お唄を聞くと異国の方のようですね」　と、師匠も不思議な顔をする。まず唄の文句を覚えるようにと言って、師匠は子供の踊りの稽古を始めた。この男が子供のおやつの焼き芋を食べ泣かせたり、立ち小便で濡れた草履を乾かして笑わせたりするので、稽古も思うように進まない。とうとう師匠が怒り出し、「あなたいったい何しにお出でになったんです」「何しにってェことはないんですよ。唄の一つも覚えて、色事でもしようと思うんですがね」「あら、それは私のところでは駄目ですよ。色は指南の外でございます」​【成立】　音曲噺。林家蘭丸（１）の作か。師匠の唄と素人の唄を見事に唄い分ける力量を要する。大阪噺であるが、春風亭小朝が江戸風の小粋な演出で演っている。​  春風亭小朝がＮＨＫの新人落語コンクールで演じたのがこれ。カップを手にした彼が「重いです」と言い、準優勝だった噺家（実は権太郎）が「軽いです」と言ったのは自己の芸を卑下した見事なくすぐりだった。やがて、小朝は看板３０数枚を飛び越えて真打になった。その力量からいえば当然のことであったが、古い考えの残る芸の世界では一大事であった。小朝は先輩や同輩の嫉妬を一身に受けて苦難の道を歩みだしたのである。こういう優勝への道を本人が書いている。

  2022.03.13

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• 落語「け」の４：芸子草（げいこそう）

  ​【粗筋】　植木屋が面白い草が入ったと勧める。「芸子草」といって、題を紙に書いて鉢の下に入れると、その歌を唄うというのだ。試しに「福寿草」と書いて入れると、「♪春の日の……」と唄い出した。旦那が喜んで買い取り、宴会の席へ持参して床の間に飾ったが、紙に書いて入れても、ウンともスンともいわない。恥をかいた旦那が、植木屋に苦情を持ち込むと、​「ああ、それは置いた場所がいけません。芸子草、床はつとめません」​【成立】　上方噺。床の間と寝床をかけた落ち。東京でもあるのか、鳴り物入りで演った古い録音を聞いた記憶がある。​

  2022.03.12

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• 落語「け」の３：慶安太平記（けいあんたいへいき）：３「箱根越え」 ​

  【粗筋】　東海道三島の宿、一膳飯の甲州屋に入って来た僧が飯と酒を頼む。この坊主、懐に三百両と他に１２、３両は持っている。これに気付いた商人風の３人連れ、箱根山に掛かった所で同行しませんかと声をかける。「断る。お前らは護摩の灰だろう」と言うと、その通り、３人掛かりで掛かって来るのを軽くあしらって殺し、３人の懐から金を奪って行く。これを見ていた由井正雪、供の者２人を連れて後を追う。​​【成立】　談志はこの後「皿回し・秦式部」を演じた。ＣＤがあるようだが聞いていない。２０１９年、神田伯山が５日間の連続で演じたが、講談では１９席あるという。​　１「正雪の生い立ち」２「楠木不伝闇討ち」３「丸橋忠弥登場」４「忠弥・正雪の立ち合い」５「秦式部」６「戸村丹三郎」７「宇津谷峠」８「箱根の惨劇」９「佐原重兵衛」１０「牧野兵庫（上）」１１「牧野兵庫（下）」１２「柴田三郎兵衛」１３「加藤市右衛門」１４「鉄誠道人」１５「旗揚げ前夜」１６「丸橋と伊豆」１７「奥村八郎右衛門の裏切り」１８「正雪の最期」１９「一味の最期」。これで粗筋も分かるので、後筋は必要あるまい。

  2022.03.11

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• 落語「け」の２：慶安太平記（けいあんたいへいき）：２「吉田の焼き討ち」

  ​​【粗筋】　宇津ノ谷峠で紀州三度飛脚の小笠原武右衛門を倒し３千両を奪った飛脚の十兵衛と、十兵衛を嵐山まで連れて行くことで３百両の礼金を受け取ることにした善達、三千両は山中に隠し、吉田城下の江戸屋に入る。番頭が宿帳を持参するが、松平伊豆守が、宇津ノ谷峠で事件があったので、旅人は明日の取り調べが済むまで宿から出すなというお達しを出していた。十兵衛は頼まれた手紙を届けねばならぬと言い、同情した主人が奉公人の半纏を借して、すぐ戻るよう念を押す。役人が来て泊り客と数が合わねば宿が迷惑をするのだ。十兵衛はすぐに戻って来て善達に、火薬を仕掛けたので火事になる、その隙に逃げようと話をする。火事が起こって番頭が逃げるよう声を掛けた回ると、既に二人は逃げた後だった。知恵伊豆と呼ばれる松平伊豆守、逃げ惑う人の中に旅姿の二人を見付け、役人達に命じて追わせる。春見山まで来た二人、これで大丈夫と思ったら、声をかけた者がいる。これが由井正雪であった。​【成立】　立川談志が演じたもの。人物は話した通りに記録したが、高坂陣内と名乗ったのが十兵衛なのかなあ。​

  2022.03.10

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• 落語「け」の１：慶安太平記（けいあんたいへいき）：１「幕開き」

  ​【粗筋】　芝・増上寺で今日との知恩院へ３００両を届けることになったが、途中悪い奴に取られたら全額弁償、金がない僧侶では死んで詫びるしかない。誰も行こうとしない中、大黒堂別当の従弟・善達が名乗り出る。善達は夜明けと共に走り出し、回りの怪しい者に気を配りながら六郷の渡しまでやって来た。渡し船に乗ると、途中で見掛けた目つきの悪い飛脚がいて、新橋・神崎屋の飛脚だと言う。こちらの素性を見抜いていて、一緒に行こうと声をかける。振り切って行こうと、無視して全力で走り抜け、箱根の山に掛かる。振り返ると、飛脚はちゃんと付いて来ている。府中の宿に転がり込むようにして飛び込むと、飛脚を追い払いもせずに泊まった。善達が寝てしまうと、飛脚は宿の女中に、真夜中九つに「明け六つです」と言って起こすよう頼む。​　約束通り「明け六つですよ」と起こされ、２人は握り飯をもらって走り出す。安倍川まで来たが夜が明けない。不審に思う善達に、飛脚は「少し上流に杭が打ってあるから、あすこを渡ろうと」と誘う。宇津ノ谷峠まで来ると、飛脚が４人現れる。一緒に来た飛脚は、徳川家に怨みがあり、紀州の飛脚を襲って３千両を奪う手はずであった。途中で足止めされによう善達と同行したのである。ここで善達が反撃に出た。「ではここまで手間に半分よこせ」「いや、十両なら出す」　飛脚は、豊臣の残党・上田左衛門尉幸村の家臣、高坂陣内と名乗る。坊主の方も負けてはいない。「大阪落城のみぎりに活躍した、岩見重太郎改め、薄田隼人正の忘れ形見、関若丸あらため吉田初右衛門という大坂方の残党だ。そういうおいしい仕事は俺がもらってやる」とチャンバラが始まった時、ふもとの方からシャンシャンシャンという音……紀州三度の金飛脚が上がって来た。​【成立】​　立川談志の連作第１話。浪曲の木村松太郎から教えてもらったものを落語に仕立てた。浪曲は河竹黙阿弥の作だという。道行というか、道中記で、東海道五十三次を紹介しつつ進めて行くのが聞き所。立川談春は「善達の旅立ち」と題している。

  2022.03.09

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• 落語「く」の５４：鍬盗人（くわぬすっと） ​

  【粗筋】　狂歌の先生が権助に、裏の出口のところの地ならしをしておくよう命じると、権助は鍬がないからできないと言う。どうしたのか尋ねると、盗まれたという返事。だんだん追求していくと、実は権助が自分で盗んで屑屋に売り、酒を買ったものと判明。あきれかえった先生だが、​「いまさら仕方がない。それなら何か狂歌を詠めば許してやろう。昔、細川幽斎という人が、柿の木に登って実を取ろうとしたところを秀吉公に見つかった。幽斎が木から落ちて小さくなっていると、秀吉公が、　　柿の本に人まるくこそ見えにけりここがあかしのうらかしらなみ　と狂歌をお詠みになった。すると幽斎が、　　太閤のお庭ではじをかきのもと人丸ならで顔もあかしに　と返歌をしたので、秀吉公がその罪を許したという」「ほんなら、わしも詠みましょうかい。    狂歌師の家にいりゃこそ鍬（句は）盗む」「ほう、こりゃなかなかうまい。で、下の句は」「隙（鋤）があったらまた盗もうか」​【成立】　上方噺。「句は」と「鍬」を結び付けたもので、先生の問いかけも「下の句は」と言っている。声に出せばすぐ分かる。だから音で聴くのが大事なのだ。​

  2022.03.08

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• 落語「く」の５３：桑名舟（くわなぶね） ​

  【粗筋】　伊勢詣りの二人連れが、尾張熱田から桑名までの船にのったが、沖へ出ると鮫に囲まれて船がぴたっと動かなくなった。船頭の話では、めいめいが自分の持ち物を海に入れ、それが沈んだものが犠牲になって船を救うのだという。人身御供に選ばれたのは講釈師で、死ぬ前に一席やりたいとの申し出に船の者も承知し、講釈が始まった。これが次々と演題が変わっていくという滑稽講釈。ところが話が佳境に入ると鮫が皆逃げ出し、舟も動くようになったので、無事向こうに着いた。後で鮫たちが集まって、​「おい、どうしてあの講釈師を食わなかったんだい」「えっ、講釈師だったのか。あんまりポンポン叩くので蒲鉾屋だと思った」​【成立】　元は上方の「東の旅」の一つだが、上方では「兵庫舟」という。経緯が違うのでそちらも参照。「狼講釈」とも同工異曲。上方の「桑名舟」は東京の「岸柳島」という噺。「伊勢詣り」という題で呼ぶこともあるが、「夢八」「三人旅」なども同じ題名で呼ばれる。東京でも旅を描いた連作などの一部だったのかも知れない。​  滑稽講釈は「狼講釈」「素人講釈」なども同じ趣向で、講釈のテンポが全て。芸がなければ聞けたものではなくなる。　蒲鉾を作るのに練り合わせて叩くのが落ちにつながっている訳だが、これは1811年（文化８）、十返舎一九の『宮島参詣続膝栗毛』二編上にある。桂小南（１）の速記も同じ落ち。​​【蘊蓄】​　蒲鉾は白身の魚をすり身にし、調味料や片栗粉を加えて練り、板につけたり簀巻（すまき）にして蒸し、茹で、あぶり焼きにしたもの。古くは竹輪蒲鉾が多かったらしく、色形が蒲の穂に似ているのでこの名がついた。板についたものが一般的になると、「幕が開いた時に舞台にいる役者」、「机にかじりついている人」、「教師」を「かまぼこ」というようになった。いずれも「板（教師は黒板）についている」という洒落。​​​

  2022.03.07

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• 落語「く」の５２：鍬烏（くわがらす） ​

  【粗筋】　野良仕事をして帰ろうとすると、頭の上で烏が、「くわー」​「そうじゃった、鍬を忘れて帰るところだった」　と持って帰ると、飼っている鶏が、コッコ、コッコと餌をついばんでいる。「お前は餌をやっとるのに役に立たぬ。鍬を忘れそうになったのを、烏が教えてくれたぞ」　と言うと、鶏が、「クワ、クワ、クワー……トッテコーカ」「もう遅いわい」​【成立】　上方噺。日本昔話集成４２０の「嘉兵衛鍬」は、百姓の名が「嘉兵衛」で、「カヘー、クワー」と鳴くというもの。鶏は出ない。​

  2022.03.06

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• 落語「く」の５１：鍬潟（くわがた） ​

  【粗筋】　身長２尺２寸（６６．６６……センチ）の小男、いつも馬鹿にされているが、３尺２寸（９６．９６……）の鍬潟という力士が７尺余（２１２センチ余。相撲資料館では１９７センチとされ、生月鯨太左衛門が２２７センチ）の雷電為右衛門を破ったという話を聞き、自分も二代目鍬潟を目指そうと相撲部屋へ行く。親方が驚いて、​「ほう、小ッこいやつじゃな、こら、人間かい」「大きいやつだ、これ、人間かい」　弟子にしてもらい、みっちりと稽古をして帰る。「あァ、ありがてえなァ、とうとう相撲になっちゃったなァ。これでもう人に馬鹿にされねえ……関取がまわしを締めながら唄ァ唄ってたなァ。ありゃ相撲取の唄てえんだ。おれも唄いながら帰ってやろうか……なんとか言ったなァ……あそうだ  　♪勢州なァ……い、ェェ桑名ァにゃァ、過ぎたるもォのォはねェ……　あァ、気持ちが悪い（と、右手で頭を押さえて振り返り）あァはあ、馬のまたぐらァくぐってきちゃった」　疲れ切って家に帰るとそのまま寝込んでしまい、女房に起こされると、「あァーあ……おい、嬶。稽古はせんならんもんじゃい。いま、わしがグッと伸びをすると、それ、この通り手も足も布団の外へグッと出よるがな」「そりゃ出るはず。座布団が着せてあるのや」​【成立】　「小粒」と同じ落ちなので、「馬のまたぐら」で切ることが多い。上方噺を三遊亭円生（５）が委嘱したという。​​【一言】　お膝元だけに、大阪には「太閤はん」という渾名のつく人は多い。有名な相場師だった松井伊助は「北浜の太閤はん」であり、小林一三は「今太閤」であった。もちろん、その機略商略によって、あっぱれ天下をとったという意味であるが、同時にこの渾名の由来は、背が低いことにもある。大男の太閤はんは、どだい存在しないのである。歌舞伎俳優の番頭――いまでいうマネージャー役にも、やはり「太閤はん」がいた。しかも二人も……。といって、この二人の太閤はんは、べつに機略商略があったわけでは、むろんない。浪花座や中座の組見の日、木戸口で「へぇ、おこしやす」と、ひいき客の下足ぐらいはそろえて、草履取りの役目はしただろうが、けっして、天下をとるなんて、大それたことをやってのけたわけではない。ただただ、背が低いだけのことで……。が、たださえせまい芝居の世界に、太閤はんが二人もいては、ややこしいてしょうがない。相談の結果、その一人のほうに、べつな渾名をつけた。いわく「はねこっさん」はねとは泥はねである。背が低いから泥はねが頭上を飛びこすというわけだ。はねこっさん、自分は天下をとらなかったが、主人の俳優は道頓堀で、随一の人気者となりみごとに天下をとった。いまは、亡くなった主人の息子に、このはねこっさん、あいかわらず、まめまめしく仕えている。その息子とは――当代、実川延若。またしてもの「道頓堀ばなし」である。（三田純市）​​●　親父（円生（５））と同じに、サゲをいわずに「あははは、馬のまたぐらくぐってきちゃった」で高座をおりてます。……（本当の落ちが）『小粒』とおんなしなんですよ。だから先代も、このサゲは演りませんでした、馬の股をくぐって来ちゃったというところで、いいんだと思うんです……相撲取りが馬の股を、威張ってくぐって来たッてんで、えッへへへ……そのサゲの方がいいと思います。（三遊亭円生（６））​​【蘊蓄】　雷電為右衛門（​1767～1825）、信濃出身、無類の怪力で大関在位16年の記録を持つ。巨漢として有名で、「酒屋に使いに行くと刻限が早いのに雨戸が閉まっている。戸を叩くと、雷電が叩いていたのは二階の雨戸だった」という小噺もある。松平家の抱え力士となり、横綱免許を出す吉田司家が松平家の家臣にあたるため、横綱の申請は出されず、大関のまま引退した。通算２５６勝１０敗、優勝２５回。鍬潟という力士は実在していない。

  2022.03.05

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• 落語「く」の５０：咥え煙管（くわえぎせる）

  ​​【粗筋】　商家の柱に「くわえきせる無用​  ひの用心」と貼り紙が出たが、奉公人一同「くわえきせる」の意味が分からない。そういう場所には知ったかぶりがいるもので、「奉公人は、おかずは少なくとも飯はいくらでもお代わりができる。しかし、着物は夏冬のお仕着せだけや。食うはええけど着せるはいかんというのが『くわえきせる無用』や」「ほな、食うのはなんぼ食うてもええのか」「だが、あまり食うと、それ、ひい（脾胃）の用心」​【成立】　上方噺。演じられているとは思えない。言うまでもないが、「くわえきせる無用」は、煙管をくわえたまま仕事をすることを禁止している。落ちも「脾の用心」だけで十分に思う。​【蘊蓄】　「脾」は五臓の一つ「脾臓」。腹が減ると、この脾臓がだるくなるので、「脾だるい」といった。江戸時代、洒落言葉が流行すると、「惚れている」を「ほの字」、「湯帷子・浴衣」を「ひ文字」というように頭文字だけを取って洒落ることが出てきた。「脾だるい」も同様に「ひ文字」となり、「ひもじい」という形容詞に変わっていった。アンパンマンではお腹がすいたではなく、「ひもじいよう」という台詞が多い。​

  2022.03.04

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• 落語「く」の４９：慈姑（くわい）：その２

  ​【粗筋】　やせ衰えた男が八百屋に来て、「慈姑を下さい」　と言う。八百屋が、「慈姑は精を減らすと申します。あなたのような人は、精力のつく山芋をおあがんなさい」　と言うと、「慈姑は女房に食わせるのです」​​【成立】　安永２（１７７３）年『今歳咄』の「くわえ」。同７（１７７８）年『乗合舟』の「薬買い」は、本町三丁目の生薬屋で精力減退の薬を求め、「妾や女房に使います」と言う。​

  2022.03.03

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• 落語「く」の４８：慈姑（くわい）：その１

  ​​【粗筋】　遊郭で、慈姑が出たので客が食おうとすると、女郎が来て、「慈姑は精を減らすというから毒でありんす。よしなんし」「じゃあよそう」　と投げ出す。慈姑がころころと起き直って、女郎を見て、「おれより、おまえの方が毒だ」​【成立】　安永３（１７７４）年『稚獅子』の「くわい」が原作として挙げられる。延享４（１７４７）年『軽口花咲顔』巻三の「くわゐのつげ口」、寛保２（１７４２）年『軽口若ゑびす』巻五の「物いふくわゐ」など、類話が多い。落語の本にも出ているが、寄席では聞いたことがない。女房、女郎ではなく、妾と旦那の会話で演じる人が多い。　分からない人は、「その２」を待ってね。　​

  2022.03.02

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• 落語「く」の４７：黒ん坊（くろんぼ） ​

  【粗筋】　しわいな旦那が、口入れ屋に注文するのに、​「よう働いて、金をほしがらず、飯を食わず、着物はいらない……そういう奉公人はおらんか」  という。まさかいないだろうと思ったら、注文通りの者がいるという。アフリカから来た黒ん坊で、飯は食わずに肉を食い、着物を着ずにいつも裸である。日本に見物に来て、色々体験したいので、給金もいらないという。さっそく会うことになり、「お前がアフリカの黒ん坊か」「お前が日本のしわん坊か」​【成立】　上方噺だそうだ。​

  2022.03.01

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• 落語「く」の４６：黒玉つぶし（くろたまつぶし）

  ​【粗筋】　ある女郎のところに通いつめていた男が、遠方へ行くことになり、暇乞いに訪れた。女郎の方では、こんな男別にどうでもいいが、お茶を指につけて濡らして、泣いたふりをしている。　​隣の座敷の客が、しめっぽい話にのぞき見をして、女が客を馬鹿にしているのだと腹を立て、墨をすって茶碗に入れ、こっそり取り替えておいた。泣いていた男がひょいと顔を上げると、女の顔が真っ黒。「お前、顔はどないしたんや」　女郎も鏡を見てびっくり。「あんまり泣いたから、黒玉をつぶしてしもたんや」​​【成立】　『平中物語』のモデル平貞文の墨塗り譚に題材を得たもの。狂言の『墨塗女』になｔっているが、安永３（１７７４）年『軽口五色紙』上巻の「黒ぬり」が笑い話の原話。ここでは「女郎の口説きが長く、芝居の台詞などが織り込まれる。安永１０（１７８１）年『はつ鰹』の「なじみ」も同じ趣向だが、女が勝手に間違えて茶碗のそばの硯から塗ってしまう。墨を塗るのをやめたのが「涙の茶」。これが東京に移植されて「お茶くみ」となった。【蘊蓄】​​　『平中物語』からは、芥川龍之介の『好色』、谷崎潤一郎の『少将滋幹の母』といった文学作品も生まれている。　『源氏物語』の「末摘花」で、源氏が紫の上と雛遊びをして、戯れに鏡に映った鼻を赤く塗る。紫の上が拭き取ろうとすると、「平中がやうに、色どり添へ給ふな」と言う。古い注釈書『河海抄』には、「これは平中墨ぬりの故事をふまえたもの」と注されているが、『平中物語』に墨塗り譚が見付からず、話だけが伝わって原作は消失したものとされていた。昭和１８（１９４３）年になって『古本説話集』巻上「平中の事  第19」の、平中がそら涙を用意したのを墨と取り替えられる話が発見され、現在はこれが原典として落ちついている。　『堤中納言物語』の「はいずみ」では、突然に訪ねて来た男にあわてて、女がおしろいと間違えて墨を塗ってしまい、愛想を尽かした男が帰ってしまうという話がある。女は常に身だしなみを整えておけという教訓で、笑いはあるが事実上悲劇、これが狂言では純粋に女を笑うための話と変わる。

  2022.02.28

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• 落語「く」の４５：黒木屋（くろきや）

  ​【粗筋】　京都三条寺町にある縮緬問屋の黒木屋で、一人娘のお絹さんが病に倒れ、医者も加治祈祷も効き目はない。死ぬ前に欲しい物をやろうと、望みの四条新町の新粉屋新兵衛の新粉団子を求めて来る。お絹さん、「おいしい」とこれを食べたとたんに、「ううん」と苦しみ、そのまま息を引き取った。当時は土葬であったが、思いが残るというので、着物や愛用の品まで棺桶に入れ、三百両の金も一緒に埋めてしまう。この店に仕える新七、この金を盗み出そうと夜中に墓を掘り出すと、財布の紐がお絹さんの首に掛かっていた。ぐっと引っ張った拍子に、喉につまった餅が通って、息を吹き返す。棺桶に着物を詰めたので、暖められたところへ新七が活を入れたということらしい。​　まさか死んだ娘が家には帰れないと、そのまま手に手を取って駆け落ち。江戸に出ると、浅草の空き家を買って呉服屋を出す。これが次第に繁盛し、二人の間に男の子も生まれる。江戸では縮緬がまだ知られていないので、今の家をつぶして新たに建て、元の店の知識を駆使して、名も「黒木屋」として江戸で知らぬ者はないほどにした。　京の黒木屋は、主人夫婦がすっかり気落ちして商売に身が入らず、店の者も集金に行ったまま逃げる、店の物を盗んで出奔……と店はガタガタ。とうとう財産を売り払い、その金で娘の供養と、貧しい人に施しをして、自分達は娘の成仏を祈って諸国の寺社巡り。善光寺から日光へ回り、江戸の浅草寺へ来たのが、娘が死んでちょうど十年目。夫婦は自分の店と同じ「黒木屋」という立派な店を付けて呆然としている。　これに気付いた新七が二人を呼び込み、挨拶をすると、両親もびっくり。「まあ、立派になって……お嫁さんもいるのでしょう」「ご紹介します」　と自分達の娘なのでまたびっくり。孫とも対面して、久し振りにいい布団で休む。「これも観音さんのご利益じゃろうなあ」「ええ、こんないい布団で寝るとは思いませんでした」「夕べの木賃宿の蒲団は格別汚かったのう」「しらみがぞろぞろ這い出して、夜っぴて寝られやせんだがな」「うんうん、あれも、観音さんのご利益じゃ」​【成立】　桂小南（２）が演ったのを子供の頃に聞いた記憶がある。「紺田屋」を同じ「黒木屋」で演じる例があるようだ。​

  2022.02.27

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• 落語「く」の４４：九郎蔵狐（くろうぞぎつね）

  ​【粗筋】　浅茅ヶ原に狐が出て、人間の睾丸を蹴って気絶させると、その間に食い物を盗んで行くという。九郎蔵という百姓がこいつを退治してやろうと出掛け、草むらに隠れて様子を探っていると、狐が現れて女に化けた。そこらに落ちている馬糞を重箱に詰めてどこかへ持って行く様子。後をつけると、何と九郎蔵の家に行き、女房にさっきの重箱を渡している。かつて知ったるわが家で、節穴からのぞいてみると、女房がぼた餅を食おうとしている。​「それを食っちゃなんねえ」　と声を上げたとたんに、睾丸を蹴飛ばされて目を回した。　気が付くと、自分の家の馬小屋で、馬の尻をのぞいたから、馬に蹴られて目を回したんだとさ。​【成立】　柳橋の円橘（３：三遊亭）の速記が残り、三遊亭小円朝（３）が演じていた。​

  2022.02.26

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• 落語「く」の４３：クレオパトラ（くれおぱとら）

  ​​【粗筋】　エジプトの女王となったクレオパトラ、１７歳の時に、１０歳の弟と結婚させられる。これは当時の風習だから週刊誌にも取り上げられなかったが、年頃の女の子が弟の子守では詰まらない。３年後、ジュリアス・シーザーが来ると、絨毯が贈られた。土地の名物だから、すぐ見たいと言うシーザーが広げさせると、中から美女が飛び出した。邪魔が入らぬようクレオパトラが絨毯に入って会いに来たんで。シーザーの力を借りて弟を追い出し、エジプトの女王となる。半年後、​「シーさん、ローマへ帰るんですって。いったいどういう訳で」「シーザー言って聞かせやしょう。お前の色香に迷うても、国を忘れぬ愛国者。国へ帰ったその上で、迎えに来るから……チョン……待っていろ」　ってんで、ローマに帰るが、ブルータスに殺されちゃった。アントニウスがブルータスをやっつけて、シーザーの後を引き受けるついでにクレオパトラを手に入れようとエジプトから呼び出した。「これがパトラちゃん……もっとこっちさ来う、こけぇ来う、こけえこう」　と鶏みたいになって、エジプトに帰ったクレオパトラを追っ掛けて、エジプトに住民票を移し、地中海沿岸を抑えようとして、ローマのオーグスティヌスと対立、追い詰められて、「アレクサンドリアも今宵かぎり、縄張りを捨て、国をすて……」と覚悟したところへ、クレオパトラが自殺したという情報、「ううん、わしも井戸に身を投げべえ」「どうして井戸なんです」「昔から言うではないか、英雄井戸（色）を好む」　井戸が無いので、胸に短刀を突き立てたところへ兵士が駆け込んで来た。「クレオパトラの自殺は誤報でした」「あれ……早く行ってよ～」　これを知ったクレオパトラ、毒蛇に胸を噛ませて自害する。あたしも毒蛇になりたかったね。蛇で命を絶って、これで本当に身（巳）の終わりとなりました。​【成立】　大野桂作、柳亭痴楽が演った地噺。​【蘊蓄】　アレキサンダー大王が来たというので付いた地名がアレクサンドリア。水戸黄門が来たというのがミトコンドリア……本気にした人がいるので、後の方は嘘ですよっと言っておく。　ジュリアス・シーザーから出たのが「ジュライ」、オーグスティヌスから出たのが「オーガスト」。私の先生は、「１月から６月までは神様で、７月８月にこの二人が割り込んだ。だからセプト＝７、オクト＝８、ノナン＝９、デカン＝１０という、数字が２つ​ずつずれた」と説明していたが、全くの嘘。古代ローマでは１年が３月から始まったのである。因みにナポレオンが制定したカレンダーは、１年が１０月から始まる。　セプト、オクトで書いたが、高校の理科で、メタン、エタン……と炭素結合の数字を１０まで覚えたから、誰でも知っていると思ったら、意外に覚えて居ない人が多いので驚く。オクトが８で、８本足の蛸を「オクトパス」というのは誰でも知っているのに、なぜ他を忘れちゃうんだろう。

  2022.02.25

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• 落語「く」の４２：廓の穴（くるわのあな） ​

  【粗筋】　吉原へ来た田舎者、並んでいる女を見て、若い衆に素性を聞く。「孝行に売られ不孝に請け出され」という川柳があるので、親のために身を売ったのだろうと答えると泣き出してしまう。花魁の名前を調べ、値段が１円だと聞くとしゃがんで金勘定を始めた。とにかく金を払えば気に入った花魁を一晩中自由に出来ると説明されて、​「銭つうものは、形（なり）は小ゃっけえが、調法なもんだねェ」「さようでございます。お宝と申しますからな。しとつ、お上がりを願いましょう」「いやァ、銭の方が尊いだ。（握った銭を頂いて）頂えて帰りますべえ」​【成立】　廓のちょっとした噺や欠点、すなわち「穴」を集めたもので、廓の小噺集という程度の意味の題名。先代円生（５）がずば抜けて上手かったという。「粗筋」は三遊亭円生（６）の演じたもの。​​【一言】　もちろんこれは枕噺で、これを演って、それから長い噺にかかる、マクラとして廓の情景をしゃべって行くというものです。まァこういう噺は廓があって、はなやかだった時代には本当におもしろい噺だったのですが、廓のない今は時代が変わってしまって、ひとつの古典としての意味しかなくなってしまいました。（三遊亭円生（６））​​【蘊蓄】　「七五四五分廻し」という、前がようやく合うか合わないかという巾のごく狭い着物を着る。袖は弥蔵というもので、袂（たもと）がない。これは吉原で人に突き当たっても、女の手前謝る者はいない、喧嘩になる時にすぐ拳固が出るようになっている訳である。​　　♪葉裏葉表  葉表葉裏  萩の葉裏に  鳴くきりぎりす……　という投げ節を唄って歩くが、大門を入って唄い始めて、突き当たりの水道尻という所でぴったり終わらせる。以上が粋な冷やかしの条件であった。

  2022.02.24

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• 落語「く」の４１：廓大学（くるわだいがく）

  ​【粗筋】　吉原に入り浸りの若旦那、いよいよ勘当かという時に、番頭が今は反省して二階にこもって「大学」を読んでいると助け船、親父もしばらく様子を見ることにした。若旦那の方は次第に我慢ができなくなり、吉原のことを思い出しては一人言、大声を上げて親父に聞きつけられてしまう。見つかった『吉原細見』の本を『大学』だと見せ掛けて、​「大学、朱憙章句、ご亭主の曰く、大学の道は道楽を明らかにするにあり、金を使わすにあり、自然に泊まるにありと……」「どうもあやしいな。なんだ、この本にある松山・玉章というのは」「マツヤマ・タマズサではなく、ショウザン・ギョクショウという、儒者の名前です」「変な名前の先生だね。どこにいるんだい」「行ってごらんなさい。ズラリと孔子の家（格子の内）に並んでいます」​【成立】　安永２（１７７３）年『今歳花時』にある「額」は、吉原の大門に「大学」と書いてあるのが分からず、「大学は格子（孔子）の居所（いしょ）にして、諸客（しょかく）床に入るの門なり」と説明されると、「しかうして後にへきす、か」という小噺。​寛政８（１７９６）年の『喜美談語』にある「学者」が更に落語に近い。落ちは『今歳花時』と同じ、「孔子の家」を吉原の「格子の内」と洒落たもの。これがこの落語の原作と紹介されているが、「大学楼」の方であろう。　若旦那の台詞は、もちろん「大学」のパロディ。原文は「大学の道は、明徳を明らかにするにあり、民を親（あら）たにするにあり、至善（しぜん）に止（とど）まるにあり」。　遊女の名前を音読みして堅苦しくするのは、「松葉屋瀬川」にも用いられているくすぐり。​【蘊蓄】　大学」は儒教四書の一つ。朱憙（朱子：​１１３０～１２００）が注釈、改定したので、日本では朱子学と呼ばれた。一方、「吉原細見」は「新吉原細見記」で、吉原の店や遊女の名まで詳細に紹介された案内書。絵図付きで、毎年改定されたが、延宝年間（１６７３～８１）から大正５年まで、２３０年に渡る大ベストセラーとなった。

  2022.02.23

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• 落語「く」の４０：クリスマスイブ（くりすますいぶ） ​​

  【粗筋】「兄ぃ、何いら立っているんですか」「今日は何の日か知っているか」​​​​「今日は１２月２４日です」「イブだよ」「ああ、この間行ったキャバクラの女の子、イブちゃん」​​「そうじゃねえ。明日、１２月２５日は何の日だ」​「大正天皇崩御の日です。昭和元年て６日しかなかったんです」​​「そうじゃねえ、キリストの誕生日だろう」「ああ、クリスマスですか」​​「知ってんじゃねえか」「二人とも彼女がいないで、組の電話番ですねえ」​「彼女とデートしてえじゃねえか。ディズニーランド、いいなあ」​「ドブネズミの親方がいる」​「ミッキーマウスだよ……サンリオ・ピューロランドもいいぞ」​「ああ、リボン付けた化け猫」「キティちゃんだよ」​​「兄ぃ、じゃあ、僕が電話番しますから、デートに行って下さい」​​​​「いいのか……ありがとう……いや、よそう」「どうして」「俺、彼女いないから」​「じゃあ、一緒にパーティしましょう。お酒の代わりにＣＣレモン。シャンパンだと思って。七面鳥の代わりに鳩サブレーもあります。ケーキの代わりにスポンジの上にクリーム乗せて」「スポンジって、台所のスポンジ、クリームは歯磨きかい」​　二人でしけた宴会を始めたところへ、組頭がやって来た。​「忘れ物をしたんだ」「大事なものですか」​​「見付からないと取り返しがつかないことになる」「一緒に探しましょう」​​「いや、あった、あった」「何です……大きな靴下……何ですか、それ……」​​「お前ら知らねえのかい。サンタさんにプレゼントをもらうんだ」​​「サンタさん来るんですか」「去年はトカチェフが入っていた。一昨年はワルサーＰ３８……」​「それ、組長、頭のお父さんが入れてるんでしょう」​「サンタさんだ。まさか、お前ら、サンタさんはいないなんて言うんじゃないだろうな」​​​​「サンタはいませんよ」「「ふざけるな、サンタさんを呼び捨てしやがって。ぶっ殺してやる」「待てぇ」「あ、組長」「あ、パパァ」​​​​​「おう、今まで黙っていて悪かったな。実は俺がサンタさんの代わりにプレゼントを用意したんだ。今年が最後のプレゼントだ。組長を譲る」「え、パパァ、いいの」​​​​「お前も４５歳だからな」「パパァ、じゃあ、組員から上納金ガッポガッポ巻き上げますよ」「その息だ。さ、一緒に帰ろう」​​​​​「行っちゃった……何だ、あの親子……こんな組やめてやる」「兄ぃ、夜が明けますよ」「何か置いてある。組長から俺たちにだ。やっぱりいい人だなあ、どこまでも付いて行くぞ……ほら、ライター」「ジッポーですか」「チルチルミチル」「１００円かーい」​​​​「こっちは時計だ。ブルガリって書いてある」「高級品ですね。腕時計ですか」「砂時計」​「ブルガリにあるんですか」​「これは……ドンペリだ」「高級シャンパンですね」「見ろ、ＣＣレモンのペットボトルにっマジックでドンペリって書いてある……何かあるぞ。この３つから、好きな物１つを持っていけ」​「せこいですねえ」「３つから１つなんて選ぶの難しいぞ」​​「はい、三択に苦労しますね……」「何だ」「いや、三択に苦労するって」​​「ここまで来て、これが落ちか。これもみんなサンタのせいじゃ（聖者）」​​【成立】　古今亭今輔（６）の創作落語。２０１４年の１２月に寄席で聞いた記憶で打ってみた。こんな感じだったと思う。​​​​​

  2022.02.22

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• 落語「く」の３９：クリスマス（くりすます）

  ​【粗筋】　お医者の先生様にいつも世話になっている長屋の連中、いつも無料で病気を診てくれるばかりでなく、先生の子に飴玉をやったらお返しに御馳走になった者もあり、お小遣いをやったら倍の金をお返しにもらった者もいる。何かみんなでお礼をしようということになり、ある人がこんなことを言い出した。​　１２月の２５日は西洋のお正月で、暮れの内にやってしまうので『暮れ済ます』という。前の夜に『サンザン苦労スル』という人が子供に贈り物をするらしい。そこで、みんなで医者の子供に贈り物をしてはどうだろうということに話がまとまった。　さて当日、みんながプレゼントを持って集まった。鉛筆が三本、消しゴムが一つ、飴玉が５、６個……ひどいのは医者の子供が忘れていったおもちゃ。それでも気持ちが大事だというので、屋根へ上がり始める。　連中が煙突から入ろうと屋根で騒いでいるのを聞きつけて、先生が驚いた。泥棒に違いないと、先にお金を渡して帰ってもらおうと、書生に命じて煙突から金を差し出すと、上にいたサンタクロースが、「おや、驚いた。お返しが先だ」​【成立】　三遊亭円右が演っていた。よく意味も分からずにサンタクロースの真似をする長屋の連中が面白いが、みんながクリスマスを知っている現代にはピンとこない噺になってしまう。​　サンタクロースの住まいはスウェーデンにあり、手紙を出せばちゃんと返事をくれる。プレゼントを世界中の子供に配っているが、一晩で世界中を回るのは時差を考えても無理で、多くの下請けが雇われていると思われる。スウェーデンで修行をすると実際にサンタクロースの免許がもらえるそうだ。子供に内緒でプレゼントを運んで行って見つかった時は、これを言い訳にすると誤魔化せる（かも知れない）。　ある年、我が家で「プレゼントは何がいい」と尋ねると、「大丈夫、幼稚園で手紙を書いたからサンタさんはちゃんと知っている」と答えた。翌日、サンタさんから「君の書いた字は日本語だったから読めなかった。何が欲しいのかな」と、日本語で電話が掛かってきたそうである。​【蘊蓄】​  ギリシャ、ローマの農耕と豊作の神「サントゥヌス」は冬至の日に甦って食物、ワイン、祭、喜びをもたらす。ゲルマン人農民と貧乏人の神「トール」は北国に住む白い髭を長く伸ばした老人で、煙突から暖炉に入ってくる火の神である。また、デンマークやノルウェーの「ニッセ」、スウェーデンやフィンランドの「トムテ」は、冬至の祭である「ユール」の当日、山羊のひく橇でプレゼントを届ける。帽子と靴下は赤く、服は灰色の妖精だという。　３世紀に小アジアに生まれた聖ニクラウスは１２月５日に孤児を尋ねてプレゼントを送った。「ニッセ」のスタイルをとってロバに荷物を運ばせた。この人の名「セント・ニクラウス」が詰まって「サンタクロース」になったのである。　でぶで真っ赤な洋服を来ているサンタクロースはコカコーラ社のポスターから生まれたもので、赤はコカコーラ社のイメージカラーである。伝説的なデザイナーであるハットン・サンドブロム（１８９９～１９７６）のデザインによるもので、１９３１年に人間的なサンタクロースをと注文されて生み出したもの。これが大ヒットして、現在のサンタクロースは全てこのデザインをとっている。

  2022.02.21

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• 落語「く」の３８：グリコ少年（ぐりこしょうねん）

  ​【粗筋】　子供の頃はグリコでおまけが好きだった。江崎社長が偉かった。毎日自分で買って、「君ぃ、いかんよ。おまけが昨日と同じだったよ」　と文句を言うと、社員が、「社長、これ、おまけ２つ上げますから……」「いいの、もらっちゃって」​　ペコちゃんは目玉くるくるして何を考えているのか分からない。だいたい歯にくっついてしょうがない。　森永のエンゼルちゃんも私の中ではグリコにはかなわない。　しかし、その後のチップス世代という軽い世界の台頭、それも８分の５なんてのが出て来ると、一つの時代の終わりを感じる。そんな中で社長が亡くなり、あのグリコのランナーが夕陽のごとく、海に沈んでいく情景が目に浮かぶようだ……​【成立】　三遊亭円丈の自作自演。お菓子の歴史を語る。最後にグリコを客席にばらまき、一粒加えて「３００メートル走れるかどうか」と両手を挙げて走って退場する。​　テレビでこれを演じてから、創作不条理落語（？）が次々世に出た。私もいくつか聞いた（見た？）が、どう整理しても文章で説明できないものもある。「何でどこを切った」「なたでここ」、どっちの女優がすごいか討論を口返すが落ちが付かず……四つん這いで帰って行く背中に「落ち」。　私が接した師匠の最後の高座は、国立劇場。落語協会のお祭り「謝落祭」で、ガラガラ抽選があるが、５年連続で寄席の招待券が当選した（最大７ヶ所、最低１ヶ所がそれぞれ一回）。必ず国立劇場が入っていて、こちらの日程で行くのが必ず円丈師匠の会だった。つまり５年連続で師匠の会に参加した。最後の時は、物覚えに問題が出ていて、台詞が出て来ないと仰って、メモを前に置いて一席やられていた。毎年出していた作品集も、５巻予定が２巻で断念されたそうだ。私が挨拶をすると……私は江崎なので、「じゃあ、グリコやるか」と仰って……最後に聞いた話が「グリコ少年」になってしまった。【薀蓄】​　江崎グリコの発売は大正１１（１９２２）年２月１１日。もちろんグリコーゲンで、１粒で３００メートル走るだけの栄養が取れるということ。ランナーはオリンピックで走った日本人ランナーをデザインしたが、それが台湾の人だったので問題になるとか……まあ色々あった。社長は大分の出身で、私と同じ「えさき」さん、大阪へ出たら、みんな「えざき」さんと呼ぶので、社名は濁るようにした。​

  2022.02.20

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• 落語「く」の３７：暗闇地獄（くらやみじごく）

  ​​【粗筋】　けちん坊が地獄に落ち、暗闇地獄に落とされた。ここは少しの光もないのに、けちな男は灯を持っているらしく、迷う様子もない。地獄の鬼達がそんなはずはないと調べると、爪に火を灯していた。​【成立】　天明８（１７８８）年『先年艸』の「しわんぼう」。けちのことを「爪に火を灯すような」と表現することを知らないと分からない噺。けちの噺の枕に用いられる。​

  2022.02.19

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• 落語「く」の３６：蔵前駕籠（くらまえかご）

  ​【粗筋】　慶応４年正月３日、鳥羽伏見の戦いが始まって江戸の町は物騒なことが多い。白昼堂々、よからぬ輩が徒党を汲んで商家に押し入る騒ぎ。こんなことなら持っている金は今のうちに使ってしまおうというのが、江戸ッ子の心意気。吉原が殷賑を極めるようになるが、この吉原通いの駕籠が襲われるようになった。​　ところが世の中には、こういう時に行けばモテるだろうと、危険をおかしても吉原へ行こうという女郎買いの決死隊みたいなのがいて、いやがる駕籠屋に酒手をはずみ、着ているものを全部脱いで尻の下に敷くと駕籠を走らせた。天王橋を渡った辺りで黒覆面をした数人の侍が飛び出し、「我々は由緒あって徳川方にお味方いたすもの。軍用金に事欠いておる。身ぐるみ脱いで置いてまいれ」　と刀の切っ先で駕籠の垂れを上げると、下帯一枚の男が腕を組んでいたから、「ううん……もう済んだか」​【成立】　明和９（１７７２）『譚嚢鹿子餅後篇』は、世の中がぶっそうだと聞いて、裸で出掛ける噺。安永３（１７７４）年『軽口五色紙』も同様、安永４（１７７５）年『浮世はなし鳥』の「おいはぎ」で駕籠屋の利用になる。安永６（１７７７）年『落語六義』、など同じ趣向の小噺が多い。これらを維新当時の話として仕立てたもの。「おいはぎびっくり」とも。大阪の「そってん芝居」の他、「外科本道」、「長尻」などが同工異曲。特に「そってん芝居」は追剥対策に裸になるという設定も同じ。どちらかの移植という説もあるが、小噺からそれぞれ独立して発展したと考える方がよさそうだ。上方では小噺に倣って、客が追剥に「もう向こうで済んだのじゃ」という。東京の、追剥が勝手に解釈する方が優れていると思うが、いかが。​　この舞台となっている時代は、将軍が大阪城に移った時期で、出る追剥はこの隙を狙った勤皇派の侍。しかし、落語の中で追剥が必ず「徳川方だ」と名乗っているのは、新しく政権を取った勤皇派への配慮であり、この噺が明治の初期には演じられていたものと推察できる。　それでも枕程度のものだったが、林家彦六が駕籠かきのやりとり、侍たちの仕草を見事に演出して一席のものに育て上げた。​【一言】　安永年間の小咄に肉づけしたこの落語のオチは、なかなか気がきいている。ストーリーそのものはきわめて単純で、べつにどうということもない筋立てなのに、それが古典の名作として生き残ったのは、ひとえに結びの「ううん……もう済んだか」という一句のおかげだろう。（江國滋）​​〇　追剥の出た天王橋は、浅草橋から蔵前にむかって右側にある交番あたりになりますかね。ただ寂しいばかりじゃなく、追剥が仕事をしてから逃げやすい場所でないと具合が悪いんで……（林家彦六）​​【蘊蓄】　駕籠屋には街で客待ちをしている辻駕籠と、店をかまえている宿駕籠があった。今のタクシーとハイヤーの違いと考えればよく分かる。​

  2022.02.18

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