今年読んだ本:その11
「さあ、今年読んだ本……9月に読んだものからご紹介します」「評価は我が儘勝手なもので、A=いつもそばに置いて読み直したい、B=折を見付けて読み直したい、C=機会が出来れば読み直すかも知れない、=多分二度と読まない、E=そのままゴミ箱行き、でございます」「はい、番号は今年読んだ本の通し番号です」101:「もぐら」矢月秀作「いやあ、こんなひどい小説は久し振りじゃなあ。ひどい相手には暴力で解決するしかないという、いじめの推進小説。中身も最初の事件で抱く違和感で全体像、最後に明らかになる真相がつかめるのだから、全く意外な展開はない。正義ぶっているだけのバカな主人公が、全てを暴力で解決しようとする。最後の犯人の告白だって本当かどうか分からないのに、バカが踊らされてまたバカを重ねるという、滑稽以外何物もない。E」102:「超・殺人事件」東野圭吾「『推理作家の苦悩』という副題がついた一冊。買った物を経費とするために、自らの作品をゆがめていく作家。アルツハイマーに近づいた老作家が書く、支離滅裂な推理小説。あらゆるトリックが使われた今、勝負は内容よりも原稿の量だというので、八百枚の作品を無理に二千枚までふくらます作家……そんなのの目白押し。まともな推理小説もある。四人の編集者が作家に呼ばれ、新作の犯人を当てた雑誌に次の作品を発表しようと言う。その小説は、四人の編集者が集まった家で作家が死ぬという内容が書かれていた……など、工夫された短編集。C」103:「魔闘学園」菊地秀行「呆れる文体。最初の章だけで文法の誤り、言葉の意味の間違い……なんだろうと思って読むうちにはっと気付いた。主人公のバカ高校生が考えている通りに本文が書かれた言文一致体なのだ。これが主流になったら……メールで使うような変な略語だけで書かれた作品が出て来るのだろうか……それでは内容は……主人公の前に美少女が現れ、「世界を救うのはあなたです」って……文体が変に新しいのに、中身は古臭い。ガキ向けかと思ったらエッチなシーンも出て来て……当初の予想を裏切らず、ラストまで中途半端。主人公が自分の置かれた立場を理解しない、超自然な現象が起こっているのにそれが全く認識出来ない……こんな奴に地球の未来を託したくない。E」104:「黒頭巾旋風録」佐々木譲「はい、お馴染みの作者が書いたチャンバラ時代劇。江戸時代に現れたヒーローを描く。この作家ではお馴染み、北海道を舞台にした西部劇のシリーズだといっているが、チャンバラとして読める。ただ、馬の使い方などの新しさ、主人公が相手の命を奪わない、など、これまでのシリーズよりずっといい出来と感じる。B」105:「あの名作の舞台」世田谷文学館「世田谷を舞台にした作品を訪ねる散歩の本。もちろん今見ても当時のおもかげがあることも大切だろうが、作品の背景となった時代に思いをはせることが大切なのだろう。B」106:「ピタゴラスの時刻表」吉村達也「美人家庭教師の学習推理シリーズ。連続した死を警察では自殺と断定。しかし、同じ方法、同じ目撃者という疑惑に、ピタゴラスの三角形がからむ。途中の不可能アリバイ工作が笑える……そんなの実際に使っている作品もあるが……真相をつかむ主人公と、ピタゴラスの謎を解く相棒との関係も面白い。本人が説明しているとおり、時刻表トリックがくどく、数式で解くというやり方にげんなりする人も多いだろう。C」107:「カープの奥様」月刊ホームラン:編「いただきもの。広島カープの選手の奥様9人の告白をまとめたもの。出会いから結婚、家庭生活、気遣いなど……共通した精神は、プロ野球選手を好きになったのではなく、愛した人がたまたま選手だったというスタンス。相手がプロでなくとも私はこの人と結婚しましたという世界が全員に共通しているのだ。C」108:「疑心」今野敏「隠蔽捜査シリーズ第3弾。来日するアメリカ大統領を暗殺しようとテロ集団が動くという情報。警備を任された主人公と、アメリカ諜報員との駆け引きなど……秘書の女性への思いはいらないと思うが、真面目一方の主人公とずれているから笑える。C」109:「折々の憎悪」佐野洋「様々な設定のショートショート集。事件が起きて解決するという当たり前のパターンから、事件があるのかどうだか分からないという内容とか、真相は謎のままというものも……推理の多様な世界を味わわせてくれる。C」110:「月なきみそらの天坊一座」井上ひさし「マジシャンと弟子の関係を軸としたシリーズ。戦後の混乱期、マジックだけでは生きて行けず、詐欺にまで手を染めてしまう。それでも憎めないのは人柄か……マジックのネタも明かされるが、まあ、誰でも分かるものだからいいのだろう。C」「さあ、10月1日に入手した本まで来たぞ」「もう少しがんばりましょう」「はい、次回に続く」