96:お婆さんの初恋(おばあさんのはつこい)
【粗筋】 老人ホームに来て三ヶ月のお角婆さん、友達になったお梅婆さんと話していて、まだ恋愛経験がないと告白する。若い頃は恋愛なんかなく、みんなお見合いだった。ところが、亡くなったお爺さんは、結婚前に恋愛をしていたのに、家族の反対でお角婆さんと結婚したのだと、孫達に話していたという。一度は恋愛したいというので、ベテランのお梅婆さんが相談に乗る。相手は……ここに来てから色々物色している。「恋愛は教わる物じゃなく、天然自然に出来るんです」「雑草ですね」「恋をすると胸の内がモヤモヤして来るんです」「煙草の吸い過ぎと同じですね」「違います。胸がキューッと詰まって、体中がカーッとしてくるんです」「じゃあ、お芋を食べ過ぎた時みたいですね」 とりあえず、色目を使って手を握るという練習をすることになった。相手は誰がいいか……ちょうど現れた吉田さんにする。「吉田さん、私胸がキューと詰まって、体がカーッとして来るんです」「高血圧か、心臓病ですね」「私の胸の内を分かって下さい」「レントゲンを撮るといいですよ」 これではらちがあかない、手を握って、「私、あなたを愛しているんです」「ええっ……」「どうしました、座り込んで」「私は驚くと腰が抜けるんです。戦争で、爆弾が落ちてからそうなりました」「私は爆弾ですか」「とにかく、びっくりして腰が抜けました」「私はがっかりして気が抜けました」【成立】 鈴木みちを作。古今亭今輔(5)が昭和40(1965)年7月の「落語漫才作家長屋公演」で初演。老人ホームで実際に聞いたことを落語にしたいと、今輔が鈴木氏に依頼した。