カテゴリ:文学資料館
作家 石演恒夫(いしはま・つねお)
国文學『解釈と鑑賞』 第38巻第9号 発行者 佐藤泰三 製作責任者 黒河内平 編集 金内清次 発行 至文堂 一部加筆 山梨県歴史文学館
【略歴】
大正十二年二月二十四日大阪に生まれた。 東大文学部美学科卒業。織田作之助や従兄藤沢恒夫などの影響を受けつつ『文学雑誌』同人として文学的出発をした。 昭和二十四年二月の『文芸往来』に川端康成の推薦で「みづからを売らず」を発表、つづいて「ぎゃんぐ・ぽうえっと」を『人間』に発表して文壇に登場した。 以後小説を発表すると同時にラジオドラマ、歌謡曲作詞をつづけ、中間小説も手がけた。現在、関西女子学園短大助教授、帝塚山学園女子短大講師。 「文壇処女作」・「ぎゃんぐ・ぽうえっと」(『人間』昭24・8)。「……でも古い大阪については語るまい」という書き出しのとおり、学業半ばで応召した主人公が、復員後東京の大学に戻る気もなく大阪の盛り場の感傷に溺れ過ごす姿を通して大阪の戦後風俗を多彩に織り上げ、独自の詩情を漂わせている。いわゆる文壇への第丁暉としては、少年少女の幼く夢幻的な愛を詩的にうたった「みづからを売らず」があるが、あまりに推なく「ぎゃんぐ・ぽうえっと」は別人の作の感がある。
【代表作品】 「ジプシイ大学生」(『人間』昭25・12)、 「きりぎりすと海」(『新潮』昭28・4)、 「らぷそでい・いん・ぶろう」(『文学雑誌』20号、昭28・4)、 「群盲図」(『文芸』昭29・8)、 「続らぷそでい・いん・ぶるう」(『文学雑誌』21号、昭29・6)、 「スタジアム序景」(『文学雑誌』22号、昭30・―)、 「或る離婚の手記」(『新潮』昭32・6)、 短編集『背番号ゼロ』(昭31、六月社)、 『流転』(昭35、創元社)、 「空っぽのウイスキー壜(ビン)」(『文芸朝日』昭38・6)、 『大阪ろまん』(昭42、全国書房)、 『遠い星』(昭47、春陽堂書店)。
「評価」 織田洋之助なきあと大阪の盛り揚の詩情を血肉化する数少ない作家として期待され「ぎゃんぐ・ぽうえっと」、その続編たる「ジプシイ大学生」「らぷそでい・いん・ぶるう」など、その持ち味をにじませた作品で「らぷそでい・いん・ぶるう」は芥川賞候補にあげられた。ある意味で新感覚派的ともみえるその試みは「計画された文体の効果は惜しくも的を外れてゐる。 新しくと努力しただけ古く見えるやうな誤算に満ちた作品」(岸田国士)との選評を生んだ。作者の持ち味はむしろのちの『大阪ろまん』などで発揮されたと言ってよく、これはルポルタージュ風に現代の大阪風俗を軽快縦横の才筆で綴った快作である。
【竜門挿話】
「らぷそでい・いん・ぶるう」には、作者が織田作之助未亡人昭子と結婚生活 を送った戦後の時期を描いた部分かあり「或る離婚の手記」にのちにその部分を書き込んだものである。その作柄について平野謙は文芸時評で「『悪作』の一語につきる」と否定し去ったが、作者の資質と相容れない素材に立ち向かった作者が及び腰であったのは事実だが、それゆえの作者の苦闘もまた読みとれる態のものである。 (小坂部元秀) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年06月13日 07時05分21秒
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