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山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

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2021年12月09日
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カテゴリ:文学資料館

『津久井日記』

 

津久井・富士・甲斐日記(日記記行文)に観る甲斐

 

   丸山光重氏著 

一部加筆 山梨県歴史文学館

  

   「津久井日記」

 

「津久井日記」は、寛雲老人の作であるという。寛雲は武州の人で、

「芝崎の宮居近き柳が原のほとりなる撫草庵の主」

といわれているが、「国書解題」に書名もなく、人名辞典にもみあたらない。

この寛雲が天保九年(一八三八)に思い立ち、甲斐の盆地を巡り、郡内道中を帰途につかれた紀行が「津久井日記」だというのである。ここには甲斐にて詠んだ俳句や和歌を中心にとりあげてみる。 

まず、鶴島村(現上野原町)付近で詠んだもの

   

谷川やふじもはたかの山かつら

   川水にうつすや山のひとへきぬ

   鮎つるや笠がなくれば昼のかね

   みそさして世をまろかれとちの輪栽

   あしわけ船となりやせむ御祓川

   

御そさしてはらへはつこもなつ川や

こゝろすみたにたてる磯串

 

蝶の羽の露のおもみや今朝の秋

村雨に麦つく歌もはつみけり

 

山鳥の尾上にひびく入相のかねも

ほのかに里ぞくれ竹

 

山寺の入相のかねつくつくと

きりにうもれし賤のなりわひ

 

きり開から鐘やこほるゝ山の寺

扨秋をわがもの顔や萩の咲

前島の安衛来る

山畑や秋をならへと三かの月

初秋や棚田はふたつ三かの月

能成法師江戸へ立つ

 

関こさば萩も咲てと言伝よ

  

山こえてきても心のやすよりを

とぶなりつねといふはきかいそ

  

四日月や足もとくらき川の音

   岩におく浪にはもろし四日の月

   山鳩や尾上に秋のあめをよぶ

   あな尊ふと金剛心の秋のやま

 

前安、用あってわかれる。

   

まれに来て秋の手向や花いちご

雲に人かと見ればしほらしわれもこう

   虎杖や柚も通はぬ山に咲

   岩と石のあいだせかれて女郎花

   斧音のこだまとぎれて真昼かな

  

真心の山系のかをり薄からて

竹のふしぎのえんにぞあり筒

 

  千とせ経るきの橋もしめるや星今宵

ふし袴着て参りけり神の山

ならしばにたばねこまれつ秋の草

埋もれし昔ののりもけふの秋

秋の蝶の越路の春を知つとやら

沢深み水に音してきりきりす

谷の家の霧突切てたつ煙り

かまきりやはくちの湿ゐ沢つたへ

朝露も人のいらかや浅草寺

そっと身にしむ風や菊の乱れ咲

袖くゝる霧のまがきや小笹原

飛石や水にひらめく秋の蝶

 

なりはひも細き糸くる賤の女の

つマれさせとや機織の力く

 

国栄ふ甲斐にこけむす亀石や

つるの都のはし長き代に  つる=都留

 

たみ酒のかをりに市もわきたちて

鼻をいかめる人のにぎはひ

 

秋草はふまじ峠の月のてり

日の色もさすがに残る暑かな

鶴露やはくちの湿る水の音

朝露もものものしやな旅刀

 

大椚・野田尻・大目で

  

蜂つゞき足もっかれて大くのき

腰きえはヽとよはる野田尻

   

池のおもは年経て名のみ残るこそ

ゆたかに栄ふ御代ぞ長みね

  

袴着て庄屋かゝとへや富士の御師

  

すそ細にあやなく背負ぶ蔦かっら

芒もおなじはかま着のさと

 

猿橋へ

  

さるはしゃおぼつかなくもくす(樟)のはな

 

 

のぞみ見れば長持うたのこゑしほり

駅路のくものあしもたまらず

  

いにしへの人の心にましらなる

雲のかけはしわたしもそする

  

浪くゝうる岩にや秋のこけ匂ふ

     山うどの花もふとるや秋の雨

 

花咲の辺で

  

村雨に秋の錦を染させて

にほふ千種も花咲の里

  

五百とせのむかしの秋や法の道

   穂すゝきのまねく御法や山の寺

   蛇の角の析れて美し花いちご

  

つみ深きまよひの渕の角女字も

六字の石に打をられけり

 

初雁にて

   

里の名もゆかしときけば鹿の声

   秀吉や戸紬に鹿のこゑ遠し

   朝霧に包むこだまや杵の音

   

ねたましき心の角も石にをれて

六つのちまたの文字ぞ尊ふとき

   

峠をばひと羽にのして舞さかる

つる瀬の間ははやこえてけり

   

鹿笛や石につまつく山のかひ

 

 柏尾山大善寺で

 

   東から来たよ馴染の瑠理ぼとけ

   

月の秋かゝるたくみは何仏

 

   世のちりを払ふまでかは空をゆく

月も雲間を見得かくれしつ

   

すみ登る月には秋の不二くろし

 

   ふじを負ふ三阪も秋の雲の帯

 

東光寺

   

地を守る仏尊ふとや稲の出来

 

 酒折の宮

 

   秋は馳やかつらの花の神路やま

 

 一蓮寺、境内に正木稲荷安置

   

乱菊や鳥居もあかき利生なれ

 

 甲府で

 

   山越て月には甲斐もあきの旅

山寺や外にものなし月の照

月清し松風止んで秋の風

かくまでと思はざ肛しよふじの秋

秋ばれや朝日の匂ふ不二のみね

富士はれて国いっぱいの秋静

古城や松はむかしの秋の風

ものゝふの名は石垣やこけの花

 

きのふまでめなれし雪は夢山の

ゆめとぞ霞む春のあけぼの

 

法性のみねの松風吹あれて

その夢山のうつゝなき世を

 

手向ばや富上野の露もこの清水

夕風や稲葉のなみも音静

七尺はさらんしをんの花のかげ

 

から衣きて見し甲斐もありがたき

不二の高根の秋の染いろ

 

草枕して虫となれ月の照

明方やわせたの匂ふやまのてら

山寺や芒をらして日の登る

斧音に萩は散りける岩開放

入相のかねや秋知る名残かな

 

山印守僧都や秋のもの積んで

世わたる人に指なさされそ

 

   賤か家の世わたるわざは紬くとも

けむりはふとく立る蚊遣火

  

ふたよ三夜月にとはまし国のさた

   さらばぞとわかつ扶や朝の露

   朝風や篠も笛吹秋の川

 

鵜飼山に詣で

  

鵜もうかめ皆帰の波のいさ和川

 

八幡神社に参り

  

あづさ弓ひかぬ音かひの男山利

益も早音やはた八まむ(八幡八幡)

 

恵林寺で

  

ものゝふの名は動かずや兜萄

 

駒飼へ

  

あま酒のあつ音心をわすれねば

つめた音水にあせをながしつ

  

こゝまでも葡萄の薫るたむけかな

   とりついて登る笹子の峠哉

  たゞただのめ残る暑も杉の影

 

初雁の里で

  

蝶ふたつ見うしなひけり秋の山

  

白浪も遠音山路はおのづから

ぼさつ(菩薩)も石のおもきちかひに

 

鶴島(現上野原島国)にて

 

木兎のなく夜曇りて秋もよし

藪重し雨のあしたや秋静

置土や魚油の匂い予庄屋の軒

いかめしく折敷にもれと稲初穂

秋川や深きつみさらん知らぬ火か

に身をこがす鵜飼や秋の河

穂薄の闇をほのめく月の小野

山畑や多は小くらし蕎麦の花

谷こしに行人くろし秋の雨

ふす猪にはあらでさわがし薄はら

きのふけふ雨にはいとゞ秋のます

鶺鴒や稗の落穂をたゝく雨

たゞひとり雨の山路や秋の暮

 

つみ深き世やあき川の鱈とり

むくいはしらしおのがみのきて

 

たゞひとり雨の山路や秋の暮

焼もちに口あたゝめつ秋の雨

 

   山住も世の憂いよりはすみわびぬ

ことの外なるみねのあらしに

 

まとあけて戸紬覗きつ鹿の声

   山茶くむ茶碗けやりつ鹿の声

   鹿鳴や木履もとかし脊戸のロ

   つまこふる鹿にぽいとyもの思ふ

   鹿の音も身にしか夜半の雨あはれ

   妻乞になく夜ふけ犬り雨の鹿

   さほしかの声ちほそるや雨のあし

   虫の音もしばらくやんで鹿の声

   鹿なくや間にも覗くあめのあし

   恋すぞと思へば鹿の雨に行 

 

とある。

俳句や短歌のみを拾いだしたのであるが、俳句・短歌を中軸とした紀行文だといえよう。

邪道と思いつきも俳句・短歌のみをとりあげた。






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最終更新日  2021年12月09日 05時48分12秒
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