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カテゴリ:お話
姉と二人で買い物をするのはいつものことだった。その度に私は喜んで言う言葉。
「私ね、お姉ちゃんがお兄ちゃんと結婚して、幸せに暮らしてる姿を見るの大好きなんだ!!だから何時までも幸せに!!」 いつも、その事を言うと姉はつらい顔をしながらかすかに笑う。 「ありがとうシェーナ。あなたも私の事ばかりじゃなく自分も幸せになってね」 それが突然崩れるとは… 「危ない!!」 「えっ!?」 姉の声と共に強く前へ突き飛ばされた。 ガシャーン 押された後に聞こえた何かが落ちる音。それは自分の真後ろから聞こえた。 そして、あわてて振り向き自分の足元から微かな声が聞こえてきた。 目の前には、先の尖った棒が何十本とコンクリートに突き刺さっていた。 「シェーナ、ぶ………じ………?」 ちょうどさっき自分の居たところに棒が刺さっており、下には姉の姿。そして、背中には、棒が刺さっていた。 「お姉ちゃん………?お………ねぇ………ちゃ……ん………な……ん……で……?」 「貴女が………無事で……本当に……良かった……」 自分の方が痛いはずなのに、微笑み私に聞いた。 それが最後の微笑だった。 「……お姉……ちゃん……?ねぇ!!…お姉ちゃん!!…ぃや……いやぁーーーーーねえ、起きてよ!!ねぇ!?」 私は叫ぶ事しか出来ないまま姉の体を揺することしか出来ず、近くの人が何か言っていたが、私の耳には聞こえていなかった。その後どうやって姉の遺体を家に運んで貰ったか、自分がどうやって家に戻ったか覚えていない。 気がついたら姉の遺体の横に座って寝ていて、誰かが姉の血を拭って死人服を着せてくれていた。 「…………め………い…………ご…………さい…………ごめ……………さ………な……ごめ……んな………さい………………さい……………ご…………い………姉………ご………めんなさ………い…………」 姉の遺体の横に座り込み、うわ言のようにひたすら謝っていたシェーナが兄の声を聞き、かすかに振り向く 「シェーナ、何があった!?」 「お・兄…ちゃん?お姉ちゃんが!!私を庇って!!ごめんなさい…ごめんなさい…」 シェーナの言葉を聞き、シェーナを突き飛ばし、サリュの骸を揺さぶる。 「なんでなんだ……?何で先に逝ってしまったんだ……?待っててサリュ……俺も今から逝くから………独りにはしないよ」 兄はそう言うと定まらぬ足取りでドアに向かって行った。それに気付いたシェーナは起き上がり兄の腕を掴み引き止める その手を振り解き、罵声を浴びせる 「…お兄ちゃん、お姉ちゃんはそんなこと望んでない」 「うるさい!!俺を兄と呼ぶな!!何であいつが死ななければいけない……?何であいつが死んでお前が生きてる……?あいつの代わりにお前が死ねばよかったんだ!!」 「っ!!…そうだよね……姉ちゃんの代わりに私が死ねばよかったね………そしたら悲しまなくてよかったのにね」 兄の言葉に一瞬言葉も出ず、兄はまた定まらぬ足でドアに向かって歩き出した。 「待っててサリュ」 「ごめんなさい…私のせいで…貴方の大切な人を…でも、お姉ちゃんはそんなこと本当に望んでないよ!!」 「ほら、聞こえるよサリュの呼ぶ声が…『淋しいよ、早く来て』って」 「そんなことお姉ちゃんは言わないよ!!」 「そうだ、お前さえ居なければ!!サリュが死ぬことも無かったんだ!!お前が居なければ!!」 「ニヒーラ!!好い加減にしないか!!」 何時の間に来た村長がニヒーラを止めた。 「父さん…!?何故!!」 「これでも、こいつは村唯一の調合師なんじゃぞ、居なくなっては誰が薬の用意をする!!それで無ければこんな罪人誰がこの村に置いて置く」 その言葉に私は自分の家を飛び出していた。 『森には、どんな願でも叶えてくれる人物が住んでいるのよ。心の綺麗な人には、その人が忘れたいという記憶を取り、森から一生出れない。悪意に満ちている人には、命を取られる』 『いのちとられるの?』 『私は、どんな願いも叶えてくれるならどちらでもいいかも!!お母さんは?』 『…………分からないわ』 『………いのちとられちゃうよ!!だめ、おねえちゃん!!』 『もぉ!冗談だってば』 『どちらも悲しい代償……どちらを選んだら幸せなんだろうね』 あの後、村の外れの大きな木の上に登り、中腹辺りで座り一人泣いているうちに泣きつかれて眠っていた。 その時に幼いころの母の話を思い出した。 「そうだ、森に行けば!!」 「お願いします!!私が出来ることなら何でもします!!だから、お姉ちゃんを生き返らせて!!私のせいでお兄ちゃんが……壊れちゃった……私が奪っちゃったんだよ!お姉ちゃんの命を」 「……駄目だ」 「お願いします!!私の命なんて要らないから!!」 「……わかった…だが、命はいらない…ただ俺と契約し…一生この森から出ないと約束するなら生き返らせてやろうと言ったら?」 「構いません!!」 「一生だぞ…?出れなくてもいいのか?」 「あなたと契約して、またお姉ちゃんと、お兄ちゃんの幸せそうな顔が蘇るなら、私はどうなっても構わない!!例え…お姉ちゃんがそれを望まなくても」 「あの男はその姉の代わりに、お前が死ねばいいと言った男だぞ?」 「言う気持ちもわかります…誰かのせいにしないと余計耐えられない…から……それに、聞き慣れてるから」 「だが、たえられる言葉でもないだろう」 「……そうですね」 「……俺と契約するということは俺が死ななければお前も死なないということだぞ?それでも構わないと?」 「はい、構いません」 「……その願い、叶えてやる」 「ありがとうございます!!」 「ただし代償はいらない、それと俺と契約って言うのもない」 「!!」 「純粋に姉を思ってるんだったら命を粗末にするな」 「…ありがとうございます………昔、母から聞いてイメージした感じは、怖い人だと思っていました。けど、話してみるとだいぶ違ってました」 「違っていたとは?」 「あなたは優しい方ですね?私はそう思いました」 「何故そう思う?」 「私を試したのでしょ?」 「どうしてそう思った?」 「なんとなくでしょうか。間違っていますか?」 「……その通りだ」 「あれ…さっきまでいなかったけどいつの間に…?ところで貴方は…?」 「……ところでお前、下の村に住んでいる唯一の調合師か」 「…………?そうですけど……」 「キヒトこいつに着いて村まで下りてく」 「それは助かるな」 「それで、貴方は…?」 「歩きながら話す、何があっても驚くな」 「あっ…うん…」 「行ってくる。キヒト、願いの代償は私が決めても」 「…構わない」 「あんなに成長したなんて…あの時、消しておいて良かった…だが、また戻ってくるなんてな……」 「あの人はキヒトって言うんですね…でも…」 「どうかしたのか?」 「いえ…何か…いえ何でもないです」 「懐かしい気がしたとか?」 「…あっ。…隠したってしょうがないですよね…懐かしい気はしました…あの人を知っている気が…って、え!?何処行ったんですか・・・?」 「下」 「えっ…下…?うゎ!?行き成り消えたと思ったら下ですか…ビックリしました」 「姿には驚かないのか…?喋っていることも?」 「『それもありかな~』って言うのか本音ですね…それで何で喋っていることを驚かなければいけないんですか?今まで会話していたじゃないですか!!」 「変わらないな…ゎ!!」 「突然ごめんなさい。歩きにくいと思ったので…」 「それは構わない…ありがとう…」 「いいえ…所でお名前何て言うんですか?」 「…ロラナ」 「ロラナさんですか。いい名前ですね。……ロラナ…ロラナ……ロラナ…?」 「どうした?」 「いえ…昔飼っていた猫と同じ名前だったので…いつの間にか居なくなっちゃったんですけどね…」 「そう…か…」 「所で歩きながら話してくれると言う事なのですが…あなたはあの人の?」 「そうだったな、私はキヒトの助手みたいなもんだ」 「そうでしたか!」 「それに、私が居れば、あいつがわざわざ来なくても私を媒介にして術は使える。ところで…調合師…もし、村に着いて…」 「疎外されるでしょうね…森に行って帰って来たこと、誰も気付くでしょう…」 「なぜ…?」 「それでもあの村にはお姉ちゃんが居る…それだけで十分…。それに、今までだって何度も…あったんだから…慣れてます」 「昔、ある娘も同じことを言っていた。『姉が幸せだったら自分はそれでいい、たとえ、すべてを投げ出しても』と…、その理由をキヒトは問いた。その理由を娘は幼いながらぽつぽつと話してくれた。娘は姉に『お前が母親を殺した』と責められ、その事で更に自分を責め続けた。そして、母親が話してくれた『森には、どんな願でも叶えてくれる人物が住んでいるのよ。心の綺麗な人には、その人が忘れたいという記憶を取り、森から一生出れない。悪意に満ちている人には、命を取られる』という話を信じて森に入って来たと…」 「その娘は願いが叶ったのですか…?」 「願いは聞届けなかった。だってその娘の願いは『自分が消えること』だったんだから…」 「えっ!?」 「…キヒトはその娘の母親が死んだ時の記憶を奪い、そして記憶を摩り替えた。その引き換えがここに来た時の記憶と私だった」 「その娘はどうなったんですか…?」 「………。私は、シェーナ…お前がこれ以上、苦しむのは見たくないだけだ…」 「何故…?」 「何故そんなに背負い込もうとする…?キヒトに頼んでいつも見ていた…村人は何時までもシェーナを罪人と呼んで、姉は聖人と…」 「ロラナさん!!姉を悪く言わないで…」 「すまない…言い過ぎた」 「いえ…私は…言われ続けるのが当たり前だと思います…。だって、理由が何であれやっていることは罪だから…」 「どこがだ!!助ける為に薬草を取りに森に入ることが罪なのか!!」 「それが私の役目だから…」 「…着いたぞ」 村の入り口あたり 「お前、こんな日に森に行っていたのか。ふん?連れているのは何だ、こんな時に猫を連れてくるなんてな。実の姉が死んだのに」 「怒鳴るな、煩い。さっさと家に向かうぞ」 「あ…はい」 「しゃ…喋った…お・お前、森の住人か!!異形の術を使うと言う。罪人が掟を破ったぞ!!やっぱり通じていたんだ森の者と。村長を呼べ!!」 一人の男が叫んだとたん村の者がぞろぞろと家から出て入り口に固まった 「どけ。邪魔だ」 「いや、退かない。森の住人を入れるなんて考えられない」 「時間が無くなっても構わないのだな。こいつの姉、サリュを助けるといっても」 掻き分けて一人の男が前に出てきた 「…本当なのか…本当に助けてくれるのか」 「1日経ったら出来ないがな。だが、必要ないと見える。森に帰るぞシェーナ」 「助けてくれ。サリュを!!」 「ニヒーラ!!騙されるな、また…」 「サリュが居ない世界なんて…サリュを生き返らせてくれるんだろ!!」 「ああ。それがコイツの願いだからな」 「早く来てくれ。こっちだ。罪人は牢に…」 「シェーナが居らぬと我らは力を使わん。シェーナが依頼主だからな」 「くっ。お前も来い」 「村長!!」 「それでニヒーラが生きてくれるのなら…そして、サリュも居たらこの村は」 「…初めに言っておく、この願いを叶えたらサリュも罪人になると言うことだが」 「構わない。サリュが居れば…」 「叶え終わったら、代償を頂く。その後如何なっても我らは一切責任を負わないからな」 「あぁ…どんな願いでも構わない」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.05.29 21:51:04
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