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2008年10月24日
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カテゴリ:歌謡曲

~もっと歌謡曲を! 第1回 恋の奴隷~
香水の臭いがする男



第1042回 2008年10月24日


 昭和45年秋の午後、米沢市民文化会館である高校のブラスバンドが定期演奏会を開いていた。
 300名近い鑑賞者たちの中でブラバンの部員たちは演奏に夢中になっていた。
 スタッフのひとりだった高校二年生の僕はその舞台袖にいた。
 
 演奏会も中盤になろうとした頃だった。
急に舞台の外がにぎやかになってきた。
人の大きな声やクルマを誘導する声と音が袖にまで聞こえてくる。
 僕は、なんだろうと、気になり、ステージ裏口から外に出た。
すると大きなトラックやバスが文化会館の裏にどっしりと止まっていた。
「渡辺プロダクション」
 バスに大きくそう書いてあった。
その名前に震えた。
そして東京がそのままやって来たような気がした。
 
 そうだった。
 今日は、この演奏会が終わった後に、同会場では商工会議所主催の歌謡ショー「奥村チヨショー」があるのだった。
 それにしても、ひとりの歌謡ショーのために、こんな大きなトラックやバスで来るなんてどういうことなんだろうと不思議に思った。
 すると、バスからはサングラスをかけた男や派手なシャツ姿の男たちがどんどん降りてきた。
 どうやらスタッフやバンドマンたちらしい。
 肝心の奥村チヨは見当たらない。
 
 トラックが裏口に横付けされた。
 そして楽器類が降ろされた。
 
 ぼくはビックリした。
「恋の奴隷」なんて変な歌を唄う奥村チヨに、どうして大の男たちがこんなにもたくさん付いてくるんだと。
 
 おおいけない、僕は演奏会の進行係だった。
しかも照明係にも注文を付けていかなければ成らなかった。
 いつまでも持場を離れてはいけなかった。
 
 ステージの袖に戻り、指示をしていた。
すると、香水の臭いがする男が寄って来た。
「キミたち高校生?」
「……」
「ブラスバンドってやつだな」
「ハイ、定期演奏会です」
「何時に終わるの?」
「(夕方の)4時には終わります」
「ホント?
遅れちゃこまるんだなあ」
「……」
「ボクたちのショーは6時からだから、ステージの飾り付けやリハーサルがあるからね」
 
 演奏会は後半に差し掛かっていた。
「闘牛士のマンボ!」
 会場から声が掛かる。
すると一斉に拍手が沸いた。
 演奏が始まった。

 三年生渋谷さんの力強いトランペットが入る。
 これが聴かせる!
 会場はさらに盛り上がり、手拍子も起こる。
 
香水の臭いがする男は僕の傍を離れないで、その演奏に耳を澄ます。
渋谷さんの派手なパーフォーマンスを見ながら、
「なかなかいいじゃないか!
高校生にしては聴かせるねえ」
 と、僕に言った。
「血反吐をしながら練習しているんです」
 僕は背筋をピンとして応えていた。
「そうか!頑張りなさい」
 男はやさしく言った。
「ハイ、ありがとうございます」
 と僕は言った。
 
 その男は渡辺プロダクションの人だろう。
音楽のプロが認めてくれたことに、ひとり喜んだ。

 演奏が終わって、ステージ裏に帰ってきた渋谷さんをつかまえて、このことを報告した。
すると渋谷さんは、
「おい、ホントかよ~。
お前の勘違いじゃないの?
それともお世辞だ。
信じない、信じない」
 と、奥へ消えた。
 
 僕はこんなスタッフたちに囲まれている奥村チヨという歌手は、きっとすごい歌手なんだろうと、その日から見直すようになった。
 「恋の奴隷」もいやらしい歌には聞こえなくなっていくのだった。
 
(脱字誤字はお許し下さい。敬称は省略させていただきました)





~もっと歌謡曲を! 第1回 恋の奴隷~



~もっと歌謡曲を! 第1回 恋の奴隷~




 「山形マンガ少年」まとめてご覧いただけます。

第三部『熱い夏の日』のホームページ


第一部「はじめちゃんの東京騒動記」のホームページ


第二部「旅立ちの歌」のホームページ






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最終更新日  2008年10月24日 19時32分03秒
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