たっぷり見応え、国吉康雄
3月から始まっているというのに、今頃になってやーっと見に行くことができた岡山県立美術館特別展「国吉康雄展」。国吉は岡山出身。ほとんどを外国で過ごしているし、本当は郷土に愛情なんてなかったのかもしれないけれど、岡山人は国吉だーい好きみたなのだ。こういう芸術家が山ほど出ている地域ではないから、少しでもゆかりを感じたら執着しちゃうゾってやつね(笑)前回、国吉展をやった時にも思ったけれど、とにかく力が入っている。日頃美術館に脚を運ばない人もうじゃうじゃ入っちゃう勢い。会期スタートした頃にはお客いっぱいの美術館を報道していたから、あんまりゆっくり観られないかもなあと覚悟して行った……ら、ガラーーーン。うーん、郷土の人たちよ。国吉への愛情はやっぱりこんなものでしたか(笑)美術関係者の話で、今回の国吉展は写真なんかもたくさんあって見応え十分とのことだった。県立美術館のガンバリはここ2,3年ことさら強く感じていたのだけど、いやいや、今回はほーんとに頑張ってました。そんなに大きい施設ではないくせに、今回ばかりは全部見終わった頃にはもうヘロヘロ。徴兵されるのがイヤでアメリカに渡ったんではないか?と言われる国吉。若い頃の作品はいきなりドライポイントとかエッチングとかが目立つよなあと思っていたら、彼、アメリカの美術学校に通ったことで絵の道が拓けた人なのね。普通なら、もっと10代の若い頃の水彩だとかスケッチだとかがありそうなものなのに、いきなり技術を要する作品だから不思議だったんだよね。時代を追って、作品の移り変わりが「わかりやすい」人。テーマもひとつ決まれば飽きるまで描くというのがこの人の特徴のようだ。若き日の静物画を前に、KAIが「うう~ん」とうなっている。「なんでこの人、バナナばかり描いているんだろ?」。おや、ほんと。バナナ、バナナ。全然関係ないようなものの上にもバナナ1本。よっぽどバナナ好きかと思えば、その時期だけであとの作品にバナナが登場することはない。かと思えば、牛、牛、牛。赤ちゃん、赤ちゃん、赤ちゃん。サーカス、サーカス、サーカス。陳列の仕方もあるけれど、大体、時期が集中して同じテーマに挑んでいる。彼、娼婦とかをエロい視点で描こうとした努力も見えるんだけど、あまり女を知らなかったのでは?と勝手に想像。全然淫らでなくて、同じ女性をテーマにしているのならダンサーとかサーカス関係の芸人の方がイキイキとして魅力的。どの女性もどーんと太ももが強調されていて、いわゆる下半身デブってやつ。国吉は写真もたくさん残していて(写真に凝った時期があるらしい)、いろんな人物を撮っているのだけど、周囲の人がみんなおデブだったのかと思えばそうではないのがわかる。ただ、彼の絵のモデルらしい人の写真は豊満よ。おっぱいボーン、腰もボーン、脚もボヨーン。習作よりも本番の絵の方が脚をことさらに強調しているので、意図的な描き方だったってのはわかるんだけどね。とまあ、KAIと勝手な解釈を言い合いつつ見て回りました。戦時中はアメリカと日本の狭間で悩んだ日々もあるとか。自分はアメリカに忠誠を誓うという表現でもあったのか、日本の軍国主義をつるしあげるような戦争画も展示されていて、それには胸が痛んだな。ここまでしないとアメリカに暮らす日本人は、周囲から白い目で見られたのでしょう。日本軍の残虐行為までが絵として描かれていた、それは当時どこに発表されていたんだろうか?この作品展。太っ腹な試みもいろいろあって、私は招待券を利用したから入場料がいくらなのか知らないんだけど、KAIなんて学校からもらっていた割引きチケットを見せたら小学生は100円で入館できるの。しかも、国吉の作品がプリントされたクリアホルダー(2種類のうちどちらか)も入館時にもらえるという特典付き。全部見て回ったら、国吉の作品数点がそれぞれにプリントしてあるハガキに感想を書いて、知り合いの宛先を記入して備え付けの箱に。それを後で美術館が切手を貼って投函してくれるんだってー。…………………帰り丸善の地下ギャラリーへ。4人の作家による市松抱き人形展をやっていて、もう目が釘付け。女の子人形がほとんどを占める中、私を夢中にさせたのは丁稚どんみたいな男の子人形。おかっぱ頭でなくて、ちゃんと髷を結っている。この作家さんの作品は地味な色合いながら上質感あふれる着物をきせていて、どの子も素晴らしかった!!じーっと観ていたら、KAIが作家さんに手招きされる。気のよさそうなおじちゃんだ。「ほらほら、これ観てごらんよ」。と、男の子の市松人形を横に揺らすと、目がぐぃぃーっと動く。うわ、生きた人間みたい。すごい!!!ただし、その子は50数万円だったかな。私には買えそうにないなあ。それに、ウチには不似合いな大きさだ。丁稚どんは16万円。大きさも玄関を飾るにはちょうどいい、すごく悩んだよ。人形を買おうかと思ったのは本当に久しぶりのことだった。KAIからも「お母さんがこんなにホンキで悩むとはよっぽど」と(ほほほ、実はバッグの中に税金と支払い用の20万円が入っていたのよ。危ない危ない。うっかり手を付けるところだったよ…)。