初めての子供誕生
男の私にとって子供の誕生は結婚から始まって幾らか落ち着きを取り戻す時期にあって又新たなインパクトをもたらしてくれた大きな転機であった。私の場合は結婚が24歳、長男誕生が26歳の時、家庭生活にもなれ男としても結婚してから自信もついて一家の支えとしての自分を客観的に見れる余裕も出てきている。そこに子供の誕生であった。母性や母体の不思議さにも感心したり女の強さを改めて気づいたり男にとって不思議の始まりであった。妻の体や表情を通じて感じる人間誕生と成長はそれはそれは奇妙なドラマの始まりであった。次第に突き出してくるおなかや中から飛び出す手足のとんがり、明らかに動物の生命誕生のプロセスそのものであった。次第に振幅が短くなる陣痛も生命の神秘そのもので生まれるための信号である。男には10月10日の妊娠の大変さやその間の母親としての充実感不安感、陣痛の痛み、生みの苦しみも経験できるものではないけど、この妻と生まれる子の将来がズシンと肩に響くのを感じずにはおれない。生まれる子が男なのか女なのかも気になる所ではあるけどこの子とどんな風に向き合って過ごしていくかが最大の私の関心事だった。野原で楽しく遊びまわる姿やドライブの車の中、レストランでの食事、風呂、保育園、運動会、手を引いての散歩,男の子だったらキャッチボール、女の子だったら洋服で着飾って・・・・どれをとっても私の胸を躍らせるに十分な想像を掻き立てた。出産直前までベットの横で手を握り締めながら彼女へ手渡した励ましの私のメモは読む前に紛失した様で何処へ行ったのでしょうか。精一杯のお礼と励ましのメモだったんです。看護婦さんが拾っていれば当然渡してくれたでしょうに。それほどきつい分娩だったのでしょう。生まれた直後にあった彼女の目には大粒の涙が溜まっていたし、大きな仕事をした後の安堵感でしょうか、表情にも先程と一転した穏やかさが滲んでいたのも印象的でした。何よりも顔に斑点状に広がるうっ血はお産のきつさ大変さを十分物語るに余りありました。彼女がこんなに命を懸けるようなことをしているのに自分は何が出来たのだろうかと自責の念とか申し訳ないとか複雑な心境で立ちすくむ自分が情けない事仕切りでした。実はこれは31年前の話。私にとっては鮮烈な印象で今でもそのときの状況は思い起こせます。それほどインパクトの強いものでした。その後二人の子供に恵まれたけどその事はまた別記したい。