第62回富士登山競走(山頂コース・五合目打ち切り)
高速道路の休日特別割引(1000円均一)のおかげで、遠方のレースに参加しやすくなった。と言う割に、今年の私は大会参加が少ない。それは諸々の理由があってのことだが、主たる理由のひとつに「富士登山競走に的を絞っていた」というのが挙げられる。ひとつの大会に気持ちが偏ると、他の大会の魅力がかすんで見えてしまうようだ。一人に惚れたら目移りしなくなるのと同じ。世の女性諸氏よ、彼が通りすがりの美女をたびたび盗み見ていたら、口では惚れたと語ってくれても真の言葉ではないと推して知るべし、って、そんなこと女性誌の恋愛指南コラムに一世紀も前から繰り返し書かれているか。 「富士登山競走」に惚れた私は、こまめに大会を調べることがなくなり、大会にエントリーする回数が減った。 周りの走る人に「今年は完走します」と言いまくってきた。本当に完走したかったから、そう宣言することで自らにプレッシャーを与えて、練習と本番の闘志を高めるのが狙いだった。口で言うだけだから、一日トレイルを走りこむよりずっと楽なことだ。それで走る力になるのだから、利用しない手はない。もちろん、言った以上やり遂げて見せなければ、という気持ちが裏にあってこそ力になるわけなので、それには普段からちゃらんぽらんを口にしない人でまずはあらねばならない。 『つーことは、お前はその資格ありってか?』と問われる前に話題を転じるのであるが、この富士登山競走は7月の最終金曜日に開催される。一般登山者の少ない平日に開催して混雑を緩和させるのが狙いなのだとか。たしかに登山者・ランナーの双方に必要な配慮である。しかし、このために往路の高速代は、休日特別割引が適用されない。幸いに帰路は、高速出口で土曜日の0時を過ぎていればよいので適用される。 それで高速代をケチって下道で頑張って行った結果、富士吉田市近くの道の駅に到着したのは夜中の1時半だった。残りの移動と、駐車場からの徒歩、受付・準備を考えると目覚ましのセットは4時45分。睡眠時間3時間と少し。道中で仮眠をとったとはいえ、ハードなスケジュールにしてしまった。それに寝不足は高山病を招く。今年の反省点その1だ。 翌日、会場に入って放送が耳に入った。「悪天候のため、山頂コースは五合目で打ち切りとさせていただきます」 『あぁー、なんとなく、おそれていたとおり……』 朝から雨で、ウェアに悩んでいた。四季を問わずどこでも、半袖速乾Tシャツに膝上ぐらいのパンツが私の大会基本スタイルで、持ち物に悩むことはあってもウェアで悩むことはこれまで殆どなかった。でも、当大会は難しい。汗と雨でびしょぬれ、疲労困憊、着替えも重ね着も持たずの状態で3,700mオーバーの地に立つ姿を想像してみる。レースの間は全身ヒートしているから濡れや気温の低さに耐えられるだろうけど、下山が甚だ以て宜しくない。 去年は「下りにスパッツが要る」という情報を仕入れて、持っていくかで悩んだものだ。ある挑戦経験者から「下りのことなんか考えない」と、表向きにはあまり褒められたものではない、しかし完走瀬戸際レベルの者には偽りのない極意を教えられて、学ぶところあった。とはいえ、この悪天候ではさすがにそこまで吹っ切れない。 私がmont-bellのストームクルーザーでも持っていたなら、ウエストポーチを一段大きいものにして底にこいつを入れておけば悩むことなく解決なのであるが、高速代をケチっているぐらいだから、そんなええもんありはしない。 そこへ五合目打ち切りの報。悩む必要はなくなった。 今年の反省点その2。先日の北海道での大量遭難事故が思い出される。ストームクルーザーぐらい頼りになるウェアの一着、悪天候に限らず要るなと思った。 山頂コース3,000人に五合目コース776人で、3,776人近くいる会場にしては、トイレの数が少ない。一万人いた福知山マラソンは、簡易トイレのずらっと並ぶ様が壮観なほどであったが、それでもスタートに間に合わない長蛇の列になり、トイレの数が少ないとの要望が出ていた。それと比べるとこちらは参加者3分の1で、トイレの数は1/10以下ではないだろうか。コース中にも満足にない。 通常こんなバランスでは破綻すると思われる。が、そこは富士登山競走。普段から走り慣れている走者が大半だから、本当に必要な者だけがトイレを使っているのだろう。長い列は出来ていたが、なんとか回転していた。 去年は会場からうっすらと富士山が望めたが、今年は雨霞と雲の中。 小雨ふるなか、スタート地点に集合。五合目打ち切りとあって列は全体的にどこか元気がないようだった。恒例(?)のエイエイオーを、時間がないため慌ただしくしたのち、am7:00にスタート! <つづく>