|
浅田真央と高橋大輔は、日本フィギュア史上最高の才能であるだけに留まらず、世界のフィギュアスケートの歴史にその名を刻むべき存在だ。日本にはほかにも素晴らしい選手がいるが、この2人はやはり別格だろう。 だが、だからといって、トリノの高橋選手の「道」の演技を評して、 いや、ほんとうはこう言ってしまいたい。「高橋大輔は史上最高のスケーターであり、今夜の『道』こそが史上最高のフィギュアスケートだ」、と。 などとオーバーに書くフリーライター(記事はこちら)の姿勢はいかがなものか。いくら日本男子初の世界王者が出て舞い上がったにせよ、それはあまりに過去のチャンピオンに対して失礼ではないか。 Mizumizuも高橋選手の才能は、フィギュア史上でも屈指だと思っている。だが、トリノワールドでの高橋選手は4回転は決まらず(というか、シーズン通して一度も決めることができなかった)、3回転+3回転のセカンドも完璧ではなかった。世界王者になったのも、年齢的に決して早いとは言えないし、しかもまだたった一度だけだ。 すでに二度世界を制覇した浅田選手のほうが実績では上なのだ。「道」は確かにエポックメイキングな作品で、トリノワールドでの出来は、今季一番まとまっていたと言えるかもしれない。だが、完成度と言う意味では、女子では他に誰も跳ぶことの出来ないトリプルアクセルを二度決め(1つは「なぜか」DGされたが、高橋選手の誰が見ても両足着氷になった4Fに比べれば完成度の高さは疑いようがない)、ほぼノーミスだった浅田選手の「鐘」には及ばない。なんといっても、ジャンプを全部クリーンに決められなかったのは痛い。プログラムの良し悪しについては、個人的な嗜好が入るから、どちらが上などと安易に結論づけられない。 過去の名男子フィギュアスケーターについていえば、オリンピックのメダルこそないものの、世界選手権で史上初めて4回転を成功させ、世界選手権を4度も制覇したカート・ブラウニング。10年以上の長きにわたって4回転を驚異的な確率で決め、3度の世界王者、金1つ銀2つの3つのオリンピックメダルをもつエフゲニー・プルシェンコ。そして、この2人をオリンピックの大舞台でしりぞけたペトレンコ選手やヤグディン選手。もしジャンプのことを言わないなら、華麗なスケーティングで世界を魅了し、フィギュアスケートを最初にメジャーにした選手と言っていいロビン・カズンズ。 あまたの名スケーターがいるというのに、トリノワールドの演技をもって、「高橋大輔は史上最高のスケーターと言ってしまいたい」など、身びいきもいいところだ。高橋選手の世界選手権(やオリンピック)での4回転の確率は悪すぎる。ここ一番でああやって失敗しつづける限り、いくら世界王者になろうと、「史上最高のスケーター」などとは、おこがましくて言えない。それが公平な見方というもではないだろうか。 的外れな批判で選手を傷つけるのも問題だが、身びいき以外の何ものでもない的外れな賞賛で選手を必要以上に持ち上げるのも、決して選手自身のためにならない。そもそもトリノワールドでの金メダルについては、高橋選手自身が、「4回転フリップは無謀だった」「金メダルは獲れちゃった、という感じ」と語っている。選手のほうがよほど冷静に的確に自分を見ているではないか。 フィギュアスケートの人気が高まること自体は非常に結構なことなのだが、フィギュアスケートの真の魅力や採点競技ゆえの問題点などを客観的に伝える力量のないフリーライターが、あたかもフィギュアを専門とするスポーツジャーナリストのような扱いで、さかんにあちこちに寄稿しているのを見ると、大いなる危惧を抱かざるを得ない。 同ライターのコラムでは、「バンクーバーでの高橋大輔の優勝」という誤りがいまだに訂正さえされていない(こちらの記事)。間違うことは誰しもある。だが、4ヶ月もホッタラカシという神経は理解できないし、ニュースサイトの劣化もここまできたか、と見ていて情けなくなる。 選手の活躍――その最大の立役者は、やはり高橋大輔ではなく浅田真央だと思うが――で仕事の場が増えたのに、そうした人に限って、特定のお好み選手ばかりチヤホヤし、自分の主観があたかもフィギュアスケート界全体の総意であるかのような印象を読者に与える書き方をする。一方で、もう一般のニワカファンにもわかってきてしまった採点の問題点については、注視するどころが、ファンの批判をそらすことに躍起になっている。これでは本末転倒ではないだろうか。 日本人選手は非常に強い。だが、そのわりにはグランプリファイナルや世界選手権といった大きな試合で、台にのれるのが「お一人様限定」になっているのは不自然ではないだろうか? バンクーバーオリンピックが日本にとって「最強」の選手を揃えた、「史上最大の挑戦」だったとして、その結果が銀1つ銅1つでは、少々お寒くないだろうか? いや日本は一人は台にのせてもらえるからまだマシかもしれない。選手がいい演技をしても点が出ないことになっている国というのも、あるように思う。 かつてロシアやアメリカが強かったころは、同じ国の選手が台に複数のっているという光景も珍しいものではなかった。ここ一番で日本選手は自爆が多い。それは事実だ。だが、どうして自爆するのか。選手にどんな精神的なプレッシャーがかかっているのか、ルールや採点の傾向から掘り下げる人はほとんどいない。 <続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.07.12 01:45:47
[Figure Skating(2010-2011)] カテゴリの最新記事
|