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2010.07.24
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カテゴリ:Figure Skating(2010-2011)

<続く>

にもかかわらず、判定に対する客観的・多角的な検証は行われることがないまま、スケート関係者は、「今回は厳しいジャッジでした」などといった言葉でお茶を濁している。実際にDG判定(回転不足判定)を行うスペシャリストのほうは、自分は規定にしたがって自分の判断をするだけで、「前の試合に比べて厳しかったかどうかはわからない」などと言っている。実にお気楽な人たちだ。その判断が選手の一生を左右するかもしれないというのに。

女子の3回転ジャンプはそもそも回転不足になりやすい。微妙な不足ジャンプをダウングレードするかしないか。そうやって女子では順位の操作にダウングレードを使うことができる。実際にやっているかどうか客観的に証明することは不可能だが、少なくとも「できる」ことは事実だ。落としたい選手には厳しく取る。勝たせたい選手には甘くする。オリンピックのフリーとトリノワールドで、見た目きれいなフラット選手の3Fがダングレードされたのなどは、その疑いをますます強くさせた。そうやってメダルは配分される。

オリンピックではアメリカ男子が価値ある金を獲ったので女子に配分はない。ヨーロッパで行われる選手権女子では、日本・韓国それに欧州選手に1人は花を持たせるために、アメリカ女子にはやはりメダルは来ない。こうした仮説が妙に説得力をもつ結果に、ちゃんと終わるのだ。

フラット選手は表立って抗議をしていないが、それはジャン選手のようになってしまうことを恐れているのかもしれない。ヨーロッパの某女子選手が、「私のジャンプは問題なかったのに、ダウングレードされた」という発言をした(個人的にはそのジャンプはやはり回転不足気味で、以前の試合でDGを取られなかったほうが意図的なものを感じるのだが)が、つまり世界トップで競っている女子選手は、順位操作にダウングレード(今季から回転不足判定)が使われているということを「内心ではわかっている」と言って言いすぎなら、「大いに疑っている」ということだろう。

ダウングレード判定の問題点は、こうした判定のあやふやさに加えて、点が落ちすぎるということだった。これに対して抗議の声が大きくなると、今度は慌てて、「ダウングレード判定は2分の1回転不足以上」とし、かわりに「4分の1~2分の1不足の場合は回転不足判定で70%の基礎点を与える」という、またまた筋のとおらない細かな規定を作ってきた。70%基礎点というのは、事実上の「中間点」だ。

何度も言うが、少しだけ回転の足りない3回転ジャンプというのは、「質の悪い3回転ジャンプ」なのだ。それを2回転ジャンプの点にしてしまうのは、どう考えたって非常識だ。それをさんざんゴリ押ししたあげく、オリンピックが終わるとあっさり引っ込めた。だが、やや回転不足の3回転ジャンプは、あくまで3回転ジャンプであって、「3回転ジャンプの70%の価値をもつジャンプ」ではない。かりにそうした概念を作ってしまったら、そのジャンプに対する質(出来栄え)を評価するGOEがどんな意味をもつのか。ますますねじくれて理屈が通らなくなる。

ジャンプの基礎点、および加点・減点の反映割合についてもそうだ。今回の改定で、Mizumizuが過去に提言したとおりに改定された。つまりこれまでの基礎点やGOEの反映割合に問題があったことをISUは認めたことになる。問題がなければ変える必要はない。

だが、改定されたとは言え、3Aの基礎点アップはわずかで、これでは演技構成点を少しいじれば意味がなくなってしまう。ルッツに比べてフリップの基礎点が下がり、女子ではルッツの重要性が増した。きれいなルッツがトリプルアクセルの点を上回るという本末転倒な現象が横行することも、3Aの基礎点アップとGOEの反映割合の抑制によってかなりなくなったと言えるが、それでも3Aが不完全とジャッジに判断されれば、ルッツ以下の価値になってしまうという理不尽は払拭できていない。つまり運用次第で、トリプルアクセルの価値はかなり操作できてしまうのだ。

4回転のほうはずいぶんと価値が上がった。これは「女子の3Aに対する過小評価」よりも、「4回転に対する過小評価」に対する抗議の声が大きかったせいかもしれない。これはプルシェンコの功績が大きいだろう。ストイコのような名選手が、外野から声をあげたことも後押しになったかもしれない。

では、日本は? わずかに本田武史が個人的見解として、女子のトリプルアクセルの価値はもっと高くあるべきだと言った程度。4回転に関しては、挑戦をあおる風潮はあったが、そのリスク(少しでも失敗したときのGOEの減点の苛烈さ)について、言及した人はほとんどいない。これも過去に本田武史が非公式の場で、「4回転を跳ぶというのは、それだけでリスク(転倒および怪我のリスクという意味)を負っているのに・・・」と、挑戦してもわずかに失敗すると意味がなくなってしまうような現行の採点システムを暗に批判しただけだ。

今回のルール改正で、ダブルアクセルのフリーでの回数が3回から2回に制限された。基礎点も下がった。これも、Mizumizuがとっくに言ってきたことだ。ダブルアクセルへの加点で、その3段階も上のトリプルループに匹敵するような点が出るのは、明らかに非常識だ。3回転に近い基礎点で、3回転と同じようにGOEがそのまま反映され、3回転以上の回数を入れることができるなど、そこまでダブルアクセルをお得なジャンプにしておくのは、筋が通らない。今回のルール改正は、非常識な部分がやや常識的になっただけだ。

国際的な組織のなかで、個人のプレゼンスを高めるため、あるいは何かしらの利益を得るために、自国を貶めるようなことをするのはもってのほかだが、実際には政治の世界ではこうしたことはよくあるのだ。歴史的に見れば、国益などそっちのけで外国勢力と手を結び、私腹を肥やすことにのみ奔走した清朝末期の高級官僚がその例としてよく挙げられる。

日本という国は今どこか、清朝末期に似てはいないだろうか。政治も、メディアも。

スポーツの世界までそうなってほしくないが、政治やメディアと無関係でいられない、現在の商業主義的スポーツ競技のなかから、清朝末期の官僚の亡霊がこの日本で跋扈しても、残念ながらまったく不思議ではない。

バンクーバーオリンピックでも、メダルを多く獲得した韓国と比較して、「選手より関係者の数が多い日本」などと揶揄された。こうした「関係者」は、本当に「選手のために」働いているのだろうか? 自分たちはそのつもりだろう。だが、自分たちで自負するだけでは意味がない。

本当に選手を勝たせるためには何が必要か。記録競技と採点競技ではアプローチが違ってくるはずだ。にもかかわらず、日本は採点競技も記録競技と同じように考えている。それは完全に間違っている。採点がからむ競技は、ルールで強い選手を作ることも、強い選手を弱くすることもできるのだ。

日本スケート連盟の関係者は、フィギュア競技で選手が「正当な結果」を出し、選手やファンからも、「選手のために働いた」と認めてもらう努力をすべきではないか。連盟が身内にそもそも甘い内部の人間や、彼らにおもねる外部の身内の理屈で動いている限り、ソチでもまた日本選手が理不尽なルールの包囲網に泣くことになる。

投入する資金を、本当に選手のために使うこと。ルール策定の裏にある思惑を見抜き、自国選手の不利にならないように働きかけ、ジャッジが常に公平にジャッジングしているかを、自国の立場で監視すること。

W杯で日本人審判は、おおむね公平だと評価が高かったと思うが、こちらの記事によれば、ブラジルチームの監督は、試合中常に審判にプレッシャーを与え続けたという。

ただ試合中は別。相楽副審はブラジル戦の前半、ドゥンガ監督から日本語で「間違っている!」と言われ続けた。どのベンチ、選手も気迫十分で「押しつぶされそうだった」と振り返った。

表向きは、不公平なジャッジングへの抗議だが、こうした行為は、はっきり言えば、「自分たちに有利なジャッジングをしろ」あるいは少なくとも「自分たちの不利なジャッジングはするな」という働きかけなのだ。実に当然の行為だ。審判も人間、機械でも神でもない。人間が判断というのは、さまざまな周囲の状況に左右される。

フィギュアでそれをやったのが韓国だ。プレOPシーズンからすでに、キム選手への不利な判定(エッジ違反や回転不足)が出ると、メディアをあげていっせいにジャッジを非難した。オリンピックシーズンには、スケート連盟会長が、「キム選手に不利な採点がなされないよう、スポーツ外交に最善を尽くす」と明言した。オリンピックでは直前まで、メディアが審判の公平性に疑いの目を向け続けた。

日本は? そのどれもやらなかったのだ。あの呆れたトリノワールドのキム選手へのフリーの採点についてさえ、プロトコルを解説して、ジャッジの判断を後付で説明しただけだ。あの演技でどうしてあんな点が出てしまうのか。そこに疑念をもつまっとうな批判精神が日本のメディアには欠如している。

Mizumizuのフィギュア関連のブログは、もともとはプロトコルを分析して、そこから選手の課題を見つけ出す作業をしていた。それが意味を失ったのは、何度も言うがロスでの世界選手権だ。GOE(加点・減点)と演技構成点の恣意的操作。これができてしまうのが最大の問題点だった。だから、今回のルール改定では、その点が多少改善されたのだ。

それなのに、とっくに意味を失ったプロトコル、さらに言えばルールがすぐに改定されてしまうことがわかっている試合でのプロトコルの見方をやっと覚え、紙の上でのキム選手の高得点を納得しても意味はない。韓国のメディアはとっくに、「浅田真央の(エッジ矯正後の)ルッツジャンプに加点がつくのはおかしいという意見があった」などと、ジャッジの判断そのものを批判していた。

ジャンプVS表現力で勝負を説明するような、時代遅れの感覚しかもっていない日本のメディアよりよほどルールを知っている。韓国メディアの狡猾なところは、ルールを知った上で、そこに主観(というより虚偽に近い。それが無知からくる誤解なのか、承知の上での確信犯なのかはよくわからないのだが)を混ぜ、日本選手への採点を常に批判することだ。

今回のルール改正も、「浅田1人のためのルール改正」などと非難している。実際には、浅田選手に有利な部分というのはそれほどない(例のショートでの単独3A導入については過去に書いたように、必ずしも浅田選手にとって「有利」にはならないと思う。せいぜいこれまでの不利な部分が是正された、程度の話だ)にもかかわらず、あたかも日本が政治的に暗躍し、ルールをゆがめたような書き方だ。

実際にルールをゆがめたのはキム・ヨナ選手だ。ダブルアクセルへの過剰評価も、GOEでバカげた点を稼ぎ出すのも、キム選手特有の話だ。それがあまりに暴走した結果が、トリノのフリーの点であり、いいかげん手を打たざるを得なくなったのだ。だが、韓国のメディアにそうした視点はまったくない。

こうした韓国の態度が好ましいとも正しいとも思わないが、少なくとも日本人も、「ルールは絶対、ジャッジは公平」などというむなしい神話からは、目を覚ますべきだ。






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最終更新日  2010.07.26 18:38:15



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