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2010.08.02
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カテゴリ:Figure Skating(2010-2011)

<きのうから続く>

もともと平松氏の立候補に対しては、組織内部から反対意見もあった。こちらの記事は次のように伝えている。

日本スケート連盟の橋本聖子会長は15日、国際スケート連盟(ISU)フィギュア技術委員の平松純子氏(67)が6月のISU総会の役員改選で理事に立候補したことを明らかにした。日本からは2002年に退任した久永勝一郎元副会長以来の理事会入りを目指す。

 フィギュアの世界選手権で高橋大輔(関大大学院)浅田真央(中京大)がアベック優勝し、来年は東京開催と日本の影響力が強い今回が当選の好機と判断。橋本会長は「活躍しているときに立候補を出せないというのも情けない」と説明した。

 平松氏は実行委員長を務めたフィギュアの07年世界選手権での運営をめぐって訴訟問題に発展した経緯もあり、立候補に反対した林泰章副会長が辞表を提出したが、橋本会長は「(辞表は)会長預かりにした。理解を求めていく」と話した。

平松氏を立候補させるという橋本会長の判断を後押ししたのは、つまり浅田選手や高橋選手のような優れた選手の存在なのだ(「活躍している選手がいるこの時期に、候補を出せないのは情けない」)。平松氏への不信感が内部でもあったことは、林副会長が辞表を提出したことでも明らかだ。それを押し切る形で立候補し、当選したからには、トリノワールドの女子採点のようなことがないように、健全なルール策定と公平なジャッジング運営に、しっかりと目を配っていただきたい。

過去の不祥事にもかかわらず、立候補への経緯に至った理由を肝に命じて欲しい。不祥事に関しては、ご自身の言い分もあると思う。だが起こったことは起こったことだ。1度世間一般の信頼を失うと、それまで自身で積み重ねてきた努力の多くが水泡に帰してしまう。不本意な疑いをかけられることにもなる。ファンの厳しい目は、今後平松氏にも向けられていることになるだろう。「浅田真央に有利なルール」などと日本メディアが報じるのは、そもそも連盟のメディアコントロール能力の低さ(あるいは誤りと言ってもいいかもしれない)を感じさせる。ファンの間にくすぶっているルールへの不信感は、こんな小手先のウソでは払拭できない。むしろ逆効果だ。

今回の改定で日本選手に関係してくる基礎点を見ると・・・

http://www.skatingjapan.jp/data/fs/pdfs/comm/comm1611j.pdf

3回転フリップ 5.3点(回転不足判定された場合の基礎点3.7点)

これまでの基礎点5.5点から0.2点のマイナス

 

3回転ルッツ 6.0点 (同4.2点)

これまでの基礎点と変わらず

 

トリプルアクセル 8.5点 (同6.0点)

これまでの基礎点8.2点から0.3点のアップ

 

4回転トゥループ 10.3点 (同7.2点)

これまでの基礎点9.8点から、0.5点のアップ

 

4回転サルコウ 10.5点 (同7.4点)

これまでの基礎点10.3点から0.2点のアップ

 

4回転フリップ 12.3点 (同8.6点)

これまでの基礎点11.3点から1点のアップ

 

今回のルール改定ではっきりしているのは、男子の4回転の価値が高まったことだ。もともと4回転は基礎点は高めに設定されていく傾向にあったが、今回また4Tは0.5点基礎点が引き上げられた。トリプルアクセルの基礎点のアップは0.3点とわずかだ。浅田選手は確かにトリプルアクセルを跳べるが、回転不足判定されてしまえば、基礎点はルッツと同じになってしまう。

むしろ、浅田選手の得意とするフリップの基礎点が下がってしまったことのほうが痛いのではないか。ルッツとフリップを差別化することが妥当か否かについては意見が分かれるだろうが、個人的には「理論的にはその根拠は妥当だが、現実にはほとんどナンセンス」だと思う。

それはつまり、こういうことだ。ルッツが難しいとされるのは、楕円形のリンクを滑走してジャンプに入る・・・すなわち向心力が作用する状況で、それに逆らって外側のエッジに乗って跳ばなければならないからだ。ところが、理論上はそうなのだが、どうも実際に選手を見ていると、エッジの「内側に乗って跳ぶ」のが得意な選手と「外側に乗って跳ぶ」のが得意な選手がおり、「内側に乗って跳ぶ」のが得意な選手は「外側に乗って跳ぶ」のが苦手あるいはやや曖昧で(浅田選手や高橋選手)、「外側に乗って跳ぶ」のが得意な選手は、「内側に乗って跳ぶ」のが苦手あるいはやや曖昧(安藤選手、キム選手、小塚選手)らしいのだ。

ルッツとフリップは同じ入り方で跳ぶジャンプではない。ルッツはそれを跳んだ人の名前だが、フリップとは「反転」を意味する。だが、踏み切り時に乗るエッジだけに注目すると、それはどうも技術というより、長年のクセあるいは習慣に基づいた得手・不得手に過ぎないらしいのだ。「両方踏み分けられる選手もいるじゃないか」と言われるかもしれない。確かにエッジ違反を取られない選手はいる。だが、そうした選手はどちらのジャンプも同様に得意なわけではなく、エッジに問題はなくても、ルッツは跳びきれない、あるいはフリップは跳びきれないという、別の得手・不得手が生じる(コストナー選手やロシェット選手のルッツ)。それはつまり、跳びやすいエッジが選手によって違うということだ。

この部分に気づいたのか、「ルッツとフリップは別のジャンプではなく、ルッツ/フリップという1つのカテゴリーの中に納めるべき」とISUに提言したコーチグループもいる(こちらの11番)。一見暴論のようだが、現場のコーチはルッツとフリップに関して、理論と実際が違うことを肌で感じているのかもしれない。

今回フリップの基礎点が下がってしまい、ルッツの価値が増したのは、ルッツが得意なキム選手や安藤選手にとっては有利だが、フリップ頼みの浅田選手にとっては痛い。両足着氷の減点が厳しいのも、わずかに着氷がツーフットになりやすい浅田選手は気をつけなければいけない点だ。

トリプルアクセルが単独でショートに入れられることになったと言っても、それはせいぜい、これまで3Aを連続ジャンプにしなければいけないルール上、かりに3Aの回転が途中で止まって2Aになってしまうと、単独で跳んだ2Aがノーカウントになってしまうという極端に不利な面がなくなったという程度の話で、確実に跳べる2Aのかわりに、女子では歴史的に見ても跳べた選手のほうがわずかしかいない最高難度のジャンプをショートに入れるのが非常にリスキーであることに変わりはない。

男子は4回転時代が戻ってくるかもしれない。だが、日本人選手で誰が確実に4回転を決められるだろう? ハッキリ言って誰もいない。4回転に強いジュベール選手にとっては好ましいルール改正かもしれないが、どうしてこれで、「日本選手には追い風」などとスケート連盟の人間が自慢げに言うのかわからない。ルール改正に際しては、自国に有利になったなどと、内心思っていても発言すべきではない。せいぜい、「これまで高難度のジャンプを阻害する面のあったルールの歪みが是正された」「より公平になった」程度の発言に留めるべきだ。日本スケート連盟のこうしたナイーブさ(褒め言葉ではない)には、いつもガッカリさせられる。ルール策定や運用指導は、民主的ではあるが政治的側面が強い。純粋培養の学者の集まる研究の場ではないし、上流階級の社交場でもない。

日本スケート連盟と一部のフィギュア選手の間には不信感がある――これはよく囁かれる話だ。似たような話はロシアでも聞かれる。ヤグディンはとっくにロシアのスケート連盟の「タカリ体質」を批判し、フィギュア王国ロシアの凋落を予言した。ヤグディンの予言は当たり、あれほどきらきらしい才能を次々に輩出してきたロシアから、優れたシングルスケーターが出なくなってしまった。プルシェンコも自国の連盟の腐敗をお上に直訴したところ報復された。

こうしたことが日本で起こって欲しくない。いや、本当はもう起こっているのかもしれないが、少なくとも日本は今、かつてのロシアのように優れた才能が次々に現れる幸運な時代を謳歌しており、ロシアに起こったような劇的な凋落の兆しはまだ見えない。だが、ロシアの凋落は、あまりに優れた才能が同時に国内に存在したことから起こったとも言える。自国での競争が激しいあまり、コーチや連盟が一枚岩になれず、互いに足を引っ張り合った。これは現在の日本の状況に似ているようにも思うのだ。

連盟と選手の間にある溝を埋めるため――あるいは溝を作らせないためと言ってもいいかもしれないが――橋本聖子会長は選手会の発足を宣言した(こちらの記事)。

スケート連盟に選手会 現場の意見を運営に反映

日本スケート連盟は30日の理事会で、2014年ソチ冬季五輪に向けて競技現場の要望を組織運営に反映させるため、日本代表クラスで構成する選手会(仮称)を連盟内に立ち上げることを決めた。提案した橋本聖子会長は「プロスポーツにも選手会はあるし、選手の意見を直接組織として聞けるようにしたい」と話した。

 スピード、フィギュア、ショートトラックの各部門の構成員から代表を1人ずつ出し合って会長と2人の副会長を決め、この3名はオフシーズンなど競技に支障がない時期にはオブザーバーとして理事会にも出席できるという。橋本会長は「年内に中身を決めたい。要望する選手に責任を持たせることで資質の向上にもつながる」と狙いを説明した

<続く>






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最終更新日  2010.08.08 21:28:15



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