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キム・ヨナの個人事務所ATスポーツ主催のロスのアイスショー。日本でのジャパンオープンフィギュアとカーニバルオンアイスにぶつけるようなカタチで行われたショーだが、「ショーは成功」という韓国お得意の大本営発表とは裏腹な実情が明らかになってきている。 これはネットで出回っている写真を拾ったものなのだが、2階席から上が見事なほどガラ空き。つまり、2階席以上(というか以下というか)の安いチケットを買って入った人も、下のリンクに近い席に移動させたということだろう。個人の意思でコッソリ移動したにしては、あまりに席がきれいに空きすぎている。 このアイスショーは10月10日にNBCで放映されたが、Nielsen Ratingsによれば、視聴率は0.5パーセント。5パーセントではない。0.5パーセントだ。ちなみに本国韓国ではそれより前にテレビで放映されており、視聴率は3.8パーセントとこちらも振るわない(情報ソースはこちら)。 ショーの会場となったロスのステイプルズセンター。最大収容人数は2万人。 「あの」ロス世界選手権の開催地、つまりキム・ヨナの演技構成点が突然「発狂」し、さらにはその翌シーズンに続く「非常識銀河加点積み増し」採点の端緒を開いた場所だ。あのときMizumizuは、フィギュアの採点に「客観的な公平性を妨げる何らかの力」がいやおうなく巣食った現実をまざまざと見た気がした。それまでもトップの特に女子選手の点に関しては、資金提供元への配慮というのはあったと思う。つい先日、柔道の谷亮子に対する「代表選抜に絡む特別扱い」について言及する記事が出たが(こちら)、 「谷以外の選手では世間の注目やスポンサーの獲得数が段違いなので、(特別扱いも)やむを得なかった部分がありますが、今は違います。後進の飛躍に比べて、谷の技術的な衰えは明らか。これまでのような特別待遇は一切認められないはずです」(女子実業団チームコーチ) 柔道のような勝敗がかなりの確率ではっきりするスポーツ競技ですら、代表選考にはこうした金銭的な思惑が入ってくる。人が採点する競技、しかもその結果がカネを生むとなれば、政治的・金銭的な思惑による人為操作はむしろ付き物だとも言えるだろう。たとえば、トリノオリンピックの日本女子代表選手の選考が、採点も含めて完全に公平で妥当だっだとは、今もMizumizuは思っていない。 だが、同じことをやってるだけなのに、点だけが吊り上る。あれほど呆れ果てた露骨な「爆上げ」の悪印象は、おそらく一生忘れることはない。フィギュア競技大会の中でも「指折りの汚点」だ。世界中から非難を浴びたのはトリノの世界選手権だったが、あの常識はずれの点の出し方もその直接の始まりはロスにある(間接的にはもっと前から、女子への採点は歪んできていたのだが)。 キム・ヨナの所属事務所主催アイスショーでは1万3000席を用意したという。にもかかわらず、現実の客の入りは写真が示すとおり。テレビに映りやすいアリーナ席だけぎゅうぎゅうにして、人気を「演出」しているところなど、ハタから見ていて虚しくなる。 埼玉のスーパーアリーナでのJOとCOI、Mizumizuは両方見たのだが、天井に近い席まで、かなり万遍なく埋まっていた。むしろ気になったのは、リンクを間近に正面から眺められる、非常にいい席が数例固まって空いていたことだ。おそらく、スポンサーがらみの招待などのVIP席で、券をもらったものの来なかった人たちだろう。といっても数列だから、誰かを「移動」させるわけにもいかないだろうけれど、ちょっともったいない気もした。 埼玉スーパーアリーナは、ロスのステイプルズセンターよりも収容人数が多いはずだ。出演したスケーターは、埼玉もロスもどちらも豪華だが、客の入りでは間違いなく埼玉に軍配が上がる。 これは多少大げさに言えば、沸騰する日本でのフィギュア人気と、凋落するアメリカでのフィギュア人気を象徴しているようにも思う。もちろん、キム・ヨナが韓国大本営発表ほどの世界的人気を獲得していないことの証左でもあるが、それはむしろ、韓国(および韓国メディアの出張所と化した一部の日本メディア)の持ち上げ方が「妄想的」なだけだ。 ショーの開催地はアメリカ。誰だって、基本的には自国の選手が好きだから、キム・ヨナがメインのショーでは、韓国系以外にはアピールしにくい。それを見越して「フィギュアの生きるレジェント(これも大本営発表だが)」ミシェル・クワンを同等の扱いとして表に出し、アメリカ国民にもアピールしたつもりなのだろうが、客の入りとテレビの視聴率を見ると興行として成功したとは言い難い。 フィギュアというのはもともとオリンピック前後の1年が稼ぎどきなのだ。オリンピックで知名度を上げてアイスショーで集客する。オリンピックしか見ない究極のニワカファンも多いし、そうした超ニワカも五輪の演技に感銘するとショーに足を運ぼうかという気分になる。だがそれも1年もたてば忘れてしまうから、オリンピック後のアイスショーがメダリストにとっては、最も「旬」だということになる。 その旬のアイスショー、五輪女王キム・ヨナと世界選手権を5度も制したミシェル・クワンが出演し、しかもジョニー・ウィアーやステファン・ランビエールというアメリカとヨーロッパを代表する2大美男スケーター(??)も出ているというのに、この結果とは。 もともとアメリカでのフィギュア人気凋落は、誰の目にも明らかだった。ショーに人が入らなくなっている、フィギュアの競技大会の視聴率は悪い。かつてフィギュアの最大「消費国」はアメリカだった。大小さまざまなショーが各地で開催され、その裾野は広く、日本で言えば地方の体育館レベルのアイスリンクでもショーがあって、世界的に有名なスケーターもツアーに参加していた。DVDが浸透する以前、日本ではフィギュア関係のビデオなど発売されることはなかったが、アメリカではオリンピックのフィギュアのドキュメンタリービデオは必ず店頭に並んだし、ショーのビデオも出回っていた。 そのアメリカでバンクーバーオリンピックシーズンを前にして、グランプリシリーズの全放映権を買うテレビ局がないという事態が起こった。外国でやるフィギュアの国際大会など、アメリカ人は見ないということだろう。するとそれに立腹したISUがグランプリシリーズのアメリカ大会を財政的に支援しないなどと言い出し、アメリカスケート連盟を困惑させた。自国開催以外の大会も含む全グランプリシリーズの放映権をアメリカのテレビ局に売るなど、アメリカスケ連にとっては、「ISUが責任を負うべき問題」。それを口実に「我々を罰するというのは間違っている」――これがアメリカのスケート連盟の主張だった。 アメリカでのフィギュア人気の低迷、その直接かつ最大の原因はスター選手の不在だろう。特に女子シングル。伝統的にフィギュアでは女子シングル選手の人気が最もインパクトが強く、集客力もある。その女子シングルで、アメリカは伝統的に非常に強く、しかも層が厚かった。たとえばクリスティ・ヤマグチは五輪女王であり世界選手権を2連覇したが、全米では1度しか勝っていない。 アメリカからここ数年、世界女王を争える選手が出なくなった理由。その一因に、アメリカのスケート連盟が強化すべき選手を見誤っていることがあるように思う。アメリカは特に五輪シーズンになると台頭してくるアジア系女子をなるたけ抑え、白人を押そうという傾向を顕著にする。プレ五輪シーズンにアリッサ・シズニーが全米女王になったとき、「彼女ではキム・ヨナや浅田真央には対抗できないのでは」と疑問を呈したのは、むしろメディアのほうだった。 今の採点は、技術審判の判定(一番大きいのはダウングレード判定だが、レベル認定やエッジ違反を選手によって甘くしたり辛くしたりすることはできるし、実際にやっているとしか思えない)と演技審判のGoE評価および演技構成点でいくらでも操作ができてしまうから、どういう選手を強くするかは意図的にコントロールできる。アメリカのスケ連は、平板なアジア顔の才能ある選手より、典型的な白人美人のシズニー選手を強くすることで、アメリカ国民に広くアピールするスター選手を作りたかったのかもしれない。 そうして五輪に向けてアメリカはシズニー選手(とフラット選手)を最重要強化選手と位置づけた。だが、シズニー選手はもともとフリーに極端に弱く、後半派手に自滅する。その傾向はどれほど脇からサポートしても変わらなかった。そこが彼女の限界なのだ。そんなことはわかりそうな話だが、ジャンプミスを極力出さない構成にし、シズニー選手の持っている別の要素の素晴らしさを過大に評価すれば、全米女王にまで押し上げることが可能なのが今の採点システムだ。 バンクーバー五輪の直前の全米では、会場で見ていたスコット・ハミルトン(および日本の解説者)も驚くような厳しいダウングレード判定が長洲未来選手に対して行われ、大方の印象とは違ってフラット選手が全米女王になった。やはりアメリカはフラット選手を「押したかった」のだろう。 だが、本当のところ、才能があるのは長洲未来選手のほうだ。それについてはビアンケッティ氏も言っている。「世界女王になるための素質を全部備えた選手」だと。問題は怪我がちなこと。難度の高いジャンプを跳びながら、ほとんど大きな怪我に見舞われたことのない浅田選手とはその点で、「神様からの愛され方」が違うように思う。 <続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.10.21 02:30:04
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