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<続き>
今のフィギュアでは・・・ 1) ルールそのもののもつ問題 2) ジャッジングの不公平あるいはジャッジの能力不足 3) 選手個人の問題 は分けて考えるべきなのだ。今日本のファンの間で顕著なのは、これらをごちゃごちゃにして、すべてをシステムのせいにしたり、ジャッジの不公平採点のせいにしたり、あるいは選手個人のルール対応能力不足のせいにしたりするから水掛け論になってしまうのだ。 この3つにはそれぞれすべて問題がある。ことにワールド女子では(2)があからさまだったと思う。グランプリシリーズではあれほど評価が高く、気前よく加点「2」がついた村上選手のトリプルトゥループ+トリプルトゥループが今回は2回ともセカンドジャンプがアンダーローテーション判定でGOEも突如マイナス評価になり、点数が伸びない。あのジャンプのどこが4分の1回転不足なのか。そこまで厳しく取るというのなら、一見きれいに決まったキム選手のフリーの連続3回転のセカンドの着氷のほうがよほど怪しい。キム選手のスロー再生を見るとかなりギリギリで降りてすぐにあさっての方向に曲がっていってしまっている。 村上選手のショートのトリプルトゥループ+トリプルトゥループについて、解説の八木沼氏は、まさかアンダーローテと思わず、「高さも幅も十分」「きれいに決まった」と言ってしまった。だって、そのとおりだもん(笑)。 ところが出てきた点数を見て、村上選手は落胆を隠せない。「いつもはもっと出るのに」。得点源の3回転+3回転の回ってるとしか思えないセカンドがアンダーローテーション判定され、これまでキム選手並みに気前よくついていた加点がつかずに減点が並べば、いつものように点が出るわけない(プロトコルはこちら)。 ところで、キス&クライでの村上選手のこうした表情の率直さは、ひたすら「よい子」でいようとする、そしていなければ許されない雰囲気のある日本選手の中では異色だ。ある意味で、彼女の自分の感情に対する素直さは日本人離れしている。バッシングするファンもいるかもしれないが、それにメゲず、これからも自分を隠さないで欲しいと思う。それが彼女の身体から湧きだしてくるようなエネルギッシュな表現力につながっていると思うからだ。 フリーでも同じくセカンドのトリプルトゥループはアンダーローテーション判定。この判定を見て、次に起こるであろうことがMizumizuには予想できた。「こういうことができるから、こういうことをしてくるだろう」と書くと、素直に(苦笑)そのとおりのことをしてくる、実に単純なジャッジの順位操作。彼らが次にやることは? 「浅田選手のトリプルアクセルを、きれいに回っているとしか思えなくてもアンダーローテーション判定する」。 その下地はできたと思う。去年、浅田選手のトリプルアクセルが認定されなかったのは、垂直跳びに近い幅のないジャンプで、回りながら降りてきてしまう傾向が強かったからだと思う。実際には、回っているように見えたジャンプもしばしばダウングレードの餌食になった。オリンピックで3度のトリプルアクセルが認定されたのは、むしろ判定が、それまでのキチガイじみたダウングレート判定の基準に比べれば甘かった(というよりもマトモだった)からだ。 だが、バンクーバーの女子でも、全員に甘かったわけではない。フリーのフラット選手(アメリカ)に対するダウングレード判定だけは、奇妙なほど厳しかったのだ。すでにそういう「実績」があり、誰も問題視していないし、今回のワールドの女子でも、完全に回転が足りずに、だからこそ転倒したコストナー選手の3Fを堂々と認定し、回ってるとしか思えない村上選手のトリプルトゥループを回転不足にする。これだけの判定をしてくれたのだ。今度もっとあからさまな不公平判定が大手を振ってまかりとおっても、不思議ではない。 今回アンダーローテーション判定された村上選手のセカンドのトリプルトゥループは、まさに解説の八木沼氏が言ったように、高さもあり、幅もあり、流れもあった。それでもアンダーローテーション判定できるのだ。そして、それに対して日本のスケート関係者は、誰も異を唱えていない。だったら、たとえ浅田選手が幅のあるトリプルアクセルにジャンプを改良したとしても、同じ判定をされても不思議ではない。もうISUは先回りしているのだ。 浅田選手のトリプルアクセルがなかなか認定されないとなれば、他の世界中の選手は大助かりだ。なんだったら、年に1度か2度、認定してあげてもいい。ちょうど彼女のセカンドの3ループに対してやったように。そうすれば、日本のファンは期待してまた試合を見てくれるだろう。視聴率も取れてテレビ局もバンザイだ。たとえ限りなくクリーンに跳んだとしても、認定されなければ、単に「浅田選手の失敗」にして、浅田選手を「精神力が弱い」「トリプルアクセル頼みの選手」などと叩けばいいのだ。 安藤選手を優勝に導いたモロゾフが今回やったのは、徹底した「減点対象になりうる可能性のあるジャンプの排除」だったのだ。セカンドのトリプルループはまず認定されない。フリップもしばしば回転不足判定されてきたし、エッジももしかしたら狙われるかもしれない。だから、これらを入れず、フリーでは加点をしぶっても、ルール上間違いなく10%増しになる後半にジャンプを固めたのだ。ジャンプの難度を落としたから、全体に余裕が出来る。安藤選手の自信に満ちた余裕のある演技は、ジャンプにほとんど不安がないからできたものだ。 こうしたジャンプ構成(安藤選手はもっと高いレベルのジャンプ構成を組める選手だ)がスポーツとしてどうかという議論は常にある。だが、ここまで回転不足を恣意的に厳しく取るとなると、好意的採点が必ずしも期待できない選手は、安藤選手のような闘い方にせざるを得ないのだ。それはまた、ルールとジャッジングの運用の問題に絡むのだから、「ここまで不毛に厳しく回転不足判定を取っていたのでは、女子を萎縮させ、スポーツの発展を妨げる」という論旨でジャッジの側に改正を迫るべきなのだ。こんなあからさまな不公平採点の中で、なんでもかんでも、選手に「乗り越えろ」というのは間違っている。 話を村上選手に戻そう。 日本の若手が快進撃を始めると、グランプリファイナルまでは割合好意的な点が出る。2008/2009シーズンの小塚選手のときもそうだった。ところが年が明けて大きな国際試合になってくると、「ジャッジが点を出してくれなくなる」のだ。村上選手で、また同じことをされただけだ。Mizumizuも実はグランプリファイナルまでの村上選手に対する点は、「出過ぎ」だと思っていた。だが、それは村上選手がそれに値いしない悪い選手だと意味ではない。彼女は素晴らしいダイナミズムをもった選手だが、まだまだ荒削りだし、なんといっても姿勢が汚い。その選手に奇妙なほど気前のいい点が出てくる。これまで散々思惑採点をくり返してきた信用ならないジャッジたちが、どうして日本の若手にそうも好意的なのか。 日本人ファンの期待(たいていは、むなしい期待に終わることになるのだが)を高めようとしているだけではないか。そんなふうに思っていたのだが、案の定だった。こんなわかりやすい茶番に、なぜ気づかず、日本人が村上選手を過剰に持ち上げたり、逆に優遇採点をされている(多くは浅田選手を下げるために、村上選手を上げているといった憶測からだが)といってバッシングしたりするのか。日本人がそうやって内ゲバ状態になり、ある日本人選手が好意的な点をもらうと別の日本人選手のファンがヒステリーを起こすようでは、ますます「国外の敵」の思うつぼではないか。 強すぎる日本を誰も喜ばない。スキーのジャンプや複合で日本が世界一になったとき、欧米各国がどういう手を取ってきたか。それを思い起こせばわかるはずだ。スキーなんかよりよっぽど商業価値のあるフィギュアで、同じことが起こらないと思いこむほうが愚かなのだ。 そして、キム・ヨナ選手。 今回、失敗した連続ジャンプでも減点されなかったり、「どのくらいのレベルがもらえるか、いきなりではわからない」(本田武史談)はずのスピンのレベルもいきなりオールレベル4を揃え、「軸がぶれていた」と識者に指摘されながらも世界が認めるスピンの名手シズニー選手に匹敵するか、ときには凌いでしまうほどの加点をふるまわれたりと、一人だけ別格の好意的採点をされたキム選手(浅田選手のスピンに対する加点のしぶさとは対照的だ)を、安藤選手が破ったことは素晴らしいの一言だ。だが、点差はわずかで、キム選手がサルコウのあとに2回転だけでもつけていれば勝てなかった。安藤選手が優勝したことで、またもルールとジャッジングの問題点が見えなくなるかもしれないが、おかしな採点はおかしな採点として批判し、改善を求めていくべきなのだ。 スピンのレベル判定は、今シーズンは最後まで怪しかった。咋シーズンは最後にレベルを「4」に揃えられた男子の世界王者は今季は「なぜか」シーズンをとおしてサッパリ対応できない。ジュベール選手はヨーロッパ選手権のときには取れていたレベルをワールドではガタガタ落とし、アモーディオ選手もワールドではヨーロッパ選手権のときよりレベルを落としているのに、地元のガチンスキー選手は、「なぜか」フリーでレベルをヨーロッパ選手権より上げて揃えることができた。 http://www.isuresults.com/results/ec2011/ http://www.isuresults.com/results/wc2011/ 来季はまたスピンのレベル取り条件を変えるらしい。一体何のために、そうもコロコロとルールを変える必要があるのだろうか。こういうことをするから「疑惑隠しでルールを変えている」と言われるのだ。 今回のワールド、浅田選手のジャンプが回転不足だったのはスローで見ればそのとおりだが、なんとまあ大胆にもダウングレード判定の嵐だ。「またあのスペシャリストか」と、少し詳しいファンなら思っただろう。 浅田選手に関しては、特に上にあげた3つの問題点をごちゃごちゃにして、どれか1つのせいにしてしまう傾向がファンの間で顕著である気がする。メディアはと言えば、全部浅田選手の「不調」のせいにして片付ける。どちらの態度も正しくない。 浅田選手のジャンプの強みとは? 多彩で高難度のジャンプを跳べることだ。トリプルアクセルもセカンドのトリプルトゥループも転倒することはほとんどないのだから、別に無理なジャンプに挑戦しているわけではない。ほぼ跳べているジャンプだと言っていい。では浅田選手のジャンプの弱みとは? それは回転数を上げたとき、あるいはジャンプを連続にしたときの回転不足問題だ。 セカンドに2ループをつけただけでファーストがやや怪しくなる。セカンドにトリプルトゥループをつけられるのは、それだけで凄いことだが、これもクリーンに降りて来られない。だから、今のように回転不足を(ときに)転倒以上の減点にされてしまうルールでは弱いのだ。しかも、今回のように安藤選手の調子がいいと、浅田選手に対する採点は余計に厳しくなる(浅田選手が調子がよければ、逆に安藤選手の点が伸びない)。そんなことはここ数年の試合を見ていれば、普通気づくだろう。 ところが、「あなたに対する採点は厳しいのでは?」と浅田選手に面と向かって聞いたのは日本人ではなく中国の記者だった。 ヨーロッパの選手は自分への回転不足判定が気に入らないと必ず声をあげる。コストナー選手やジュベール選手は好例だろう。だが、日本は? 誰も何も言わない。疑問も呈さない。だからやりたい放題にやられている・・・今回のワールドはMizumizuにはそう見えた。 <続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.05.15 02:00:36
[Figure Skating(2010-2011)] カテゴリの最新記事
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