小学校のころ、何年生のときだったかは忘れたが、夏に青海島(北長門海岸国定公園)を回る船に乗った。青緑色の不思議な海の色とあちこちにある洞窟の不思議な景観、それに大きな岩のアーチを真上に眺めながらくぐったことなど、感動的な思い出として胸に残っている。
それからは機会はなかっのたが(まあ、ああいうものはだいたい一度で十分ということになるものだ)、この夏、本当に久しぶりに乗ってみた。
小学生のころは、デッキから海や洞門や洞窟を眺めていた記憶があるのだが、今はデッキに出ることのできない、小型の水中翼船のような天井のある船に変わっていた。
夏は冷房がきいているが、横の窓は全開にできる。
最初の名所、花津浦。海は深い藍色。
コウモリ洞と名付けられた、洞窟が並んだ岸壁。子どものころは、こうした穴が非常に神秘的に見えたものだ。
世界的景勝地でもあるイタリアの「青の洞窟」も見てしまった今となっては、こうした洞窟や洞門に感激することはないが、それでも、形だけではなく、灰色がかったり茶色がかったりと、色も変化に富んだ岸壁は、見ていて面白い。
突き出た岩にはやたらと「仏」とか「ナントカ観音」という名前がついている。危険ととなりあわせの漁を生業としていた人々が、岩の形に宗教的な意味を与えて無事を祈った時代が確かにあったのだと実感した。
沖(島の北側)に出ると、緑がかった青に、海の色が変わってくる。金子みすゞが自選詩集を「琅?集」と名付けているが、もともと青々とした美しい竹を意味し、最高級の翡翠の呼び名である琅?は、この海の神秘的な色から思いついたのではないかと、ふとそんなことを思った。
子どものころ見た青海島の海はもっと澄んでいたようにも思ったが、今でもやはりその色の変化は美しい。
大門と呼ばれる岩の大アーチをくぐる・・・と思ったら、半分ほど入ったところで船はバックしてしまった。
遠ざかる大門。昔は、船のデッキから直接アーチが頭上を通り過ぎていくのを見た記憶があるのだが・・・ あの迫力はもうなかった。
青海島の南側に戻ってくると、海の色は再び藍色に沈む。
小山を海上にランダムに置いたような眺めは、なるほど「海上アルプス」と言われれば、そういうイメージなのかもしれない。
1時間半と少し長い青海島一周船の旅だが、夏の天気のよい日に仙崎港に来たら、一度経験してみる価値はある。