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ソトニコワ選手が、フリーの冒頭の連続ジャンプのセカンドにどのジャンプをもってくるか? それについては直前の予想では、某元女子フィギュアスケーターでさえ、「ダブルループではないか」と言っていた。ソトニコワ選手は連続ジャンプのセカンドにトリプルループをつけることのできる数少ない選手だが、ここのところ不調で、セカンドにループをつけようとしても、そもそもまともな連続ジャンプにさえならないことが増えていた。ショートでやったトリプルトゥループ+トリプルトゥループは素晴らしい質だが、あれをフリーでやったら後半に2A+3Tができなくなる。 それに、ループは回転不足を取られやすいジャンプだ。安藤選手や浅田選手など、セカンドにトリプルループをもってきても、バンクーバーの前からほとんど認定されなくなったのは、Mizumizuが何度となく問題にしてきたとおり。 となれば、冒頭の連続ジャンプのセカンドはトリプルループではなく、確実にダブルループで来るだろう・・・という予想はもっともだが、Mizumizuは懐疑的だった。当時、世間の注目は団体戦で好調だったロシアの美少女リプニツカヤに集まっていたが、オリンピック直前のロシア選手権を制したのは彼女、つまりロシアの「本命」はソトニコワなのだ。 オリンピックで優勝するためには、連続ジャンプのセカンドは是非とも2回とも3回転が欲しい。だから、ソトニコワ選手は大半の予想に反して、最初の連続ジャンプのセカンドにトリプルトゥループを持ってきたのだ。3回転ルッツ(フリップでもいい)に3回転トゥループをつける。つけて、回り切る。これが浅田選手にもできたなら・・・というのは、もう数年前にくどいほど書いたので、もう繰り返さないが、バンクーバーもソチも、結局のところ女王に輝いたのは、セカンドにもってくる3回転トゥループを確実に決めることのできた選手だった。 このことにまったく驚きはない。むしろそうなるだろうと思っていた。3+3の連続ジャンプのセカンドに3回転ループをもってきても、現行ルールのもとではまず認定は難しい。回転不足と判定されれば、GOEが伸びないから、結局のところ、セカンドにもってくる3回転ループは、よほどでなければ武器にならない。今回のオリンピックで、あれほど見事なセカンドの3回転ループを決めた浅田選手でさえ、やはりこの「壁」は崩せなかった。 現行ルールでは、そういうことになるが、だが、そもそもキム選手が優勝を逃した遠因は、3ループを単独でさえ入れることができなかったことにもある。3ループがないから、得意のセカンド3トゥループを最大限生かすジャンプ構成を組めなかったのだから。また、五輪女王のソトニコワ選手は、セカンドに3ループをつけようとして何度も失敗している。ジュニアのころは跳べたが、シニアに上がってからは、つけることさえできずに失敗することも多かった。それをあれほどの完成度で入れてきた浅田選手がいかに偉大か。それは何度でも指摘しておきたいし、才能あふれるロシアのフィギュアスケーターが、なぜこぞって浅田真央を偶像視するのか。その理由がわかろうと言うものだ。 ソトニコワ選手の最初のルッツの踏切エッジとセカンドジャンプの回転は微妙だったようにも見えたが(というか、テレビ放送ではカメラの位置は踏切のエッジが判断できにくい角度にあったので、よくわからない)、公明正大かつ正確無比は技術審判は、エッジ違反なし、回転不足なしと判定し、公明正大かつ正確無比な演技審判は加点を気前よくつけた。 http://www.isuresults.com/results/owg2014/owg14_Ladies_FS_Scores.pdf 最初の3Lz+3Tの得点だけを抽出すると、キム選手が11.70点、ソトニコワ選手が11.10点。GOEの差(つまり質の差)で0.6点というのは、Mizumizuには極めてまっとうに見える。 単独のフリップの点は、余裕をもっておりて、すぐさまポーズを入れたソトニコワ選手が6.80点で、回りきってはいたものの、余裕がなかったキム選手が6.50点で0.3点の差。Mizumizuには多少キム選手に対する加点が好意的すぎるようにも見え、両者のジャンプの質の差を見ると、もう少し点差がついてもいいようにも思えるが、それでも、質によって細かくGOEで点差をつけていくという、新採点システムのもともとの理念がうまく機能した採点例だと言えると思う。 話をもとに戻す。 団体戦に出られなかったことを、ソトニコワは「くやしかった」と語ったが、それは別の見方をすれば個人戦に向けて、ロシアが掌中の珠を温存しておいたとも言える。あまたの才能を輩出してきたロシアという国は、常に「そのときに最も調子のよい選手」を見極める目が、ある意味でとてもドライだ。 オリンピック直前のヨーロッパ選手権では、明らかにリプニツカヤ選手のほうが調子がよかった。たとえばフリーでは、演技構成点ではソトニコワ選手のほうが、1.6点上回っていたが、技術点では、リプニツカヤ選手のほうが9.72点も上。10点近い技術点の差は、いくら演技構成点が上げたり下げたり融通がきく(もちろん、そんなことはございませんとも! 採点は公平ですから!)とはいっても、そう簡単にひっくり返せるものではない。 http://www.isuresults.com/results/ec2014/ec2014_Ladies_FS_Scores.pdf 団体戦には、若くて波に乗っているリプニツカヤ選手を使い、ソトニコワの「ソ」の字も出さない。一方で、団体戦で活躍したリプニツカヤ選手が、世界中の注目を浴び、その結果、本人の強い意志とは裏腹に、個人戦で力尽きるであろうことは、個人戦の前に多くのフィギュア界のレジェンドたちが予想していた。「どれほど彼女(リプニツカヤ)が強くても、あの年齢の少女にこの重圧は耐えられない」。 百戦錬磨のロシア・スケート連盟の重鎮とて、当然それは予想していたはずだ。リプニツカヤは団体戦で「消耗しきって」しまっても仕方ない。個人戦で活躍させるのは、もう1つの「珠」であるソトニコワ。団体戦に「出られなかった」という屈辱も、ロシアの国内選手権をすでに複数回、あの若さで制している天才少女には、必ずプラスに働くだろう。 これはロシアが打って出た「賭け」だっただろう。勝負というのは、常に伸るか反るか。「国の威信をかけて金メダルを獲る」と宣言した団体戦で、リプニツカヤ一人に賭けたロシア。それは見事に当たったのだ。ジャッジも好演技をしたリプニツカヤに高得点で報いた。それを見て、ベテランのコストナーにメダルを賭けているイタリアは解説者が猛反発。まだ「少女」であるリプニツカヤに、こんな高い演技構成点を与えるのは時期尚早だと大ブーイング(実にわかりやすいのぉ…笑)。 そうおっしゃいますが、長野五輪の金メダルを争ったのだって、アメリカの17歳と15歳の「少女」だったじゃないですか。この数年は若い選手の演技構成点が低く出る傾向があったのは確かだが、それは別に絶対的なものではない。その試合の審判団が高い表現力・技術力があると評価すれば、別に何点出したって「不正」ではないのだ。 ロシアにとって唯一かつ最大の誤算は、男子シングル枠が1つになってしまったこと。団体戦で素晴らしい演技をしたプルシェンコ一人に、個人戦も賭けなければならなくなり、他の「駒を配置する」・・・もとい、「珠を出す」機会がなかった。それも遡れば、反ロシア感情の強いカナダで行われた前年の世界選手権での若手の不振にある。 逆に、女子ではロシアは賭けに勝ったのだ。その背景には、「恐ロシア」と日本のネット民が早くから認めていた若手女子の人材の豊富さがある。Mizumizuはソチ五輪で活躍するのは、タラソワ・スクールのソトニコワとミーシン・スクールのタクタミシェワだと思っていた。タクタミシェワのジャンプは理想的な放物線を描く、美しく力強いジャンプ。練習では素晴らしいトリプルアクセルも決めていた。しかし、ロシア女子の最大の敵である、「体形変化」で彼女は五輪前に調子を崩してしまった。 タクタミシェワが崩れても、ロシアにはさらに若い別の才能があった。怜悧な美貌、憂いを含んだ演技。それらと裏腹な、戦士のような激しい闘争心。リプニツカヤも今回の五輪で最も輝いた選手の1人であることは疑う余地がない。個人戦のショートで失敗したことで、逆にロシアの女子シングルの本命はソトニコワだけになった。そのことも今までの採点傾向からすると、ソトニコワに有利に働いたかもしれない。 奇妙なことに、これは日本の男子シングルで、エースの高橋大輔選手が怪我をして、そこから急に流れが羽生結弦選手に来たのとも符合する。五輪でも高橋選手の足の状態がよくないのは明らかだった。力なく途中で落ちてきてしまった(おりてくるというより、回転できずに落ちてきてしまったという感じ)ソチでの4回転ジャンプの直後に、CMで調子がいいときの力強い高橋選手の4回転ジャンプが流れたときは、さすがに胸が痛んだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.10.10 23:51:59
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