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浅田選手が団体戦のトリプルアクセルで転倒し、「あの子は肝心なときに必ず転ぶ」などと、言わずもがなの一言を言ってバッシングを浴びた森元首相だが、さすがに一国の総理にまで上り詰めた政治家だけあって、「日本が戦略を誤った」という見方は非常に的を射ている。政治家の「失言」ばかりをことさら取り上げ、そこばかり報道するのはマスコミの常套手段だが、それにうかうかと乗せられ、ヒステリックに攻撃する大衆も、少し冷静になるべきだ。 http://www.xanthous.jp/2014/02/21/mori-yoshirou-slip-of-the-tongue-problem/ 「発言の本意が伝わってないな。私が言いたかったのは、女子フィギュアが戦略を間違えたということ。浅田選手は団体戦に出る必要はなかった。勝ち目が薄い中、浅田選手が 3 回転半を跳べばメダルに手が届くかもしれない。そんな淡い期待があったのだろうが、結果は転んだ。ミスは選手のトラウマになる。実際、( 個人 SP で )また転んだ 」 「 彼女がかわいそうだ。団体戦のため、開会式からずっと現地に入らされ、調整が難しかった。キム・ヨナみたいに本番直前に現地に入ればよかったんだ 」 「政治」の世界を泳いできた森氏は、フィギュアスケートに関しては無知かもしれないが、団体戦から個人戦までの流れを見て、その背景にある「政治的な思惑と駆け引き」、そこでの日本の「敗北」にある程度気付いている。連盟のメンツも考えれば、立場上、すべてを率直には語らないだろうが。 団体戦のメダルなど、よっぽどのことがない限り日本には来ない。淡い期待をもって浅田選手を出したのは間違い。その必要はなかった。そこは、森氏の言う通りだ。浅田選手だけはなない。足の状態が悪かったという鈴木選手ともども、女子シングルは「共倒れ」に終わった感があった。 全日本で鈴木選手を浅田選手の上に置いた日本スケート連盟。「浅田真央がトリプルアクセルで自爆したら、鈴木選手を台にのせてね、お願い。銅でもいいよ、メダル欲しいのぉ~」という思惑がアリアリだったが、団体戦でもう、鈴木選手は回転不足を容赦なくダウングレードされ、ボロボロ。団体戦で鈴木選手の点数が表示されたときの長久保コーチの呆然とした表情が忘れられない。採点傾向をまだ知らない状態で、「もしかしたら、回転不足を取られたかも・・・」と解説してしまった八木沼氏も、アンダーローテーション判定が3つに加えて、3ループはアンダーローテどころかダウングレード判定という結果をみて、「厳しいですねぇ」と、できるだけ明るく言うしかなかった。 Mizumizuも何年も前から、「団体戦など無意味。特に日本にとっては百害あって一利なし」と、言ってきた。いくら五輪に向けた団体戦をいつもいつも日本で開催しようが、そこでまずまずの順位をもらおうが、ISU会長が日本に来て、わざわざ団体戦の意義を安倍首相に説明しようが、はたまた安倍総理がソチの団体戦の会場に足を運ぼうが、ペアやダンスにも厚い層をもつロシア、アメリカ、カナダの間に入れる可能性はほとんどない。 日本はさんざんキャッシュディスペンサーがわりにされてきただけだ。空前のフィギュアスケートブームを背景にISUにたんまり上納したからといって、その見返りがあると思ったら大きな間違いだ。欧米人というのは、そんなお人よしではない。日本だって高いチケットをバンバン売って、儲けた人間がいるだろう。 ソチ団体戦では、ISUの意向に沿う形で、そして「もしかしたらメダルがもらえるかも」という、ありもしない期待をかけて、日本はシングルのエースを次々投入。キム・ヨナ選手が冷静に、「(自分には)団体戦がなくてよかった」と述べた通りの個人戦の結果となった。それは点数という結果というより、日本選手の演技の出来という結果に出た。金メダルの羽生選手ですら、フリーの演技は本来の出来ではなかった。チャン選手が、より本来の出来から程遠かったから勝てたという側面もある。 団体戦がプラスに作用したかもしれないのは、シーズン最初に調子が悪かった(したがって試合数が少なくてすんだ)コストナー選手ぐらいだろう。体力のある男子選手ですら、シングルのフリーまでもたなかった感がある。それは、パトリック・チャン選手にも言えることだが、カナダはちゃんと団体戦のメダルを持ち帰った。団体戦で日本側がもらえたのは、テレビの視聴率ぐらいだろうか。 団体戦でいかに選手が消耗するか。そして、そこでミスした場合、そのマイナスイメージを短期間で払拭するのがいかに難しいか。そんなわかり切った事実から、日本のメディアは全力で目を背けてきた。日本スケート連盟も同様だ。連盟の御用達ライターは、羽生選手のインタビューを引き合いに出して、団体戦の意義を強調した。だが、羽生選手がよかったのは、シーズン通して安定していたショートだけで、フリーではフリップで失敗という信じられないミス。もともと試合で確率の悪かった4サルコウは、やっぱり転倒。 それでも羽生選手が勝ったのは、4トゥループの確率と精度に加えて、トリプルアクセルの圧倒的な安定度がモノをいったと思う。チャン選手は逆に、元来苦手なアクセルジャンプがうまく決まらなかった。金と銀を分けたのは、4回転ジャンプではなく、トリプルアクセルの完成度だったとMizumizuは見ている。 それにしても、チャン選手の滑りの巧さは、金メダルを直接争ったのが羽生選手だったこともあって、ことさら際立って見えた。これが調子のいいときの高橋選手だったら、それほど感じなかったかもしれないが、フリー後半、顔に疲労と落胆の色が濃くなりながらも、チャン選手のスケートはやはり伸びていて、「よく滑っている」という感想が一番ピッタリきた。 羽生選手とのスケーティングスキルの差は明確かつ圧倒的だと思ったが、フリーで演技審判が出してきたSS(スケートの技術)の点は、チャン選手が9.39で羽生選手が9.07と、ビックリするくらい差が小さい。ここでもジャッジは、五輪王者を争う2人に、「順位はつけるが、差はつけない」という原則で来たのだ。演技構成点全体もチャン選手が92.70、羽生選手が90.98で1.72点差。このぐらいの差なら、十分「勝負させてもらえる」。これが10点差とかふざけた点差に広がったら、タラソワじゃないが、誰も勝負させてもらえなくなってしまう。 http://www.isuresults.com/results/owg2014/owg14_Men_FS_Scores.pdf 今の採点システムは、一見、1つ1つの点の積み重ねの結果に見えるが(実際、その通りではあるが)、ことに演技構成点で大切なのは、ある選手とある選手にどのくらい点差をつけるかなのだ。解説の本田氏が団体戦のプルシェンコの最初の演技のときに、「これが基準になる。これでどういう点が出てくるかわかる」と言っていたのも、つまりはそういうこと。絶対評価なのだから、有力選手の点が「基準になる」というのは、おかしな話なのだが、実際のところ、基準となる選手を決め、そこからどのくらい点差をつけて評価するかといった「手続き」が、事実上出来上がっているということだ。 「色白は七難隠す」じゃないが、羽生選手の金メダルという偉業と、彼のルックスやスタイルのよさ、カリスマ性・スター性が、オリンピックでの日本スケート連盟の数々の「戦略の失敗」を覆い隠している。 そして、羽生選手の金メダル1つに終わったフィギュアの総括として、連盟は団体戦が個人戦の前にあったことが選手の負担になった、今後は各国と連携して開催時期を検討していくなどと言い出した。 初めっから見えていたことです! Mizumizuのような素人さえ、何年も前から指摘している。五輪の団体戦導入に日本を絡めてくるISUのやり方のいやらしさ。ほぼありえないメダルをエサにされ、うかうかと乗っかるほうが頭が悪いのだ。 団体戦で女子のエースを温存して女子金メダルを獲得したロシアと、エースと消耗させて女子のメダルを逃した日本。これほど層の厚いシングル女子にメダルなしというのは、もうそれだけで、日本スケート連盟の全面敗北と言っていいのではないか。 言うまでもなく、選手は全員、五輪にかけてきている。五輪で最高の演技をするために。だが、日本選手の中で、一人でも「シーズン最高」の演技を披露できた者がいただろうか? そこが大きな問題だ。何かというと、「オリンピックの魔物」だとか「メンタルの弱さ」などと言うが、五輪でシーズン最高の演技を披露した、ソトニコワ選手、(団体戦の)リプニツカヤ選手、コストナー選手、キム選手、テン選手といったメダリストと比べたとき、日本人選手の出来の悪さは際立っている。 日本人選手の試合数の多さが、まずは一番の原因だろう。キム選手の演技を見て、アナウンサーが、「シーズン3試合目でこの演技」などと言っていたが、3試合目だからこそ、いい演技ができたんです! 羽生選手、高橋選手、チャン選手がシーズンでもっともよい試合をしたのは、何番目の試合だっただろうか? それを分析すれば、おのずとその選手に合った年間の試合数は分かるというものだ。ベテランになってくればくるほど、試合数は制御したほうがいい。コストナー選手やキム選手を見れば明らかだ。 <続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.10.15 09:07:21
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