スイス時計業界が直面する2つの脅威 「傲慢な態度を改めるべき」
スイスの老舗腕時計メーカーは、米アップルやグーグルが本格展開する見込みのスマートウオッチと、欧州や香港で高級品を買いあさる中国人観光客の減少という2つの脅威に直面している。 高級腕時計ブランド「HYT」のヴィンセント・ペリアード最高経営責任者(CEO)は1月の時点で、「2016年はかなり厳しい年になるだろう」と業界の先行きについて懸念を示していた。そして、その不安は現実になりつつある。 7月末時点でスイスの時計輸出は11カ月連続で減少しており、業界全体が行き詰まっている。「カルティエ」など高級ブランドを傘下に持つスイスの高級時計大手、リシュモンは2月、約350人の人員削減に踏み切った。「オメガ」などの高級ブランドや安価なプラスチック製の腕時計で知られるスウォッチ・グループはこのほど、上期の業績が50%以上急落するとの見通しを発表した。 ただ、こうした経済的打撃は、スイス・フランの高騰や金の価格上昇など、生産者側がコントロールできない要因の影響がほとんどだ。しかもスイス時計業界の経済は長年、堅調を維持してきた。メーカー幹部らが、この嵐をやり過ごせると考えたとしても不思議ではない。 「スイスの時計業界は落ち込んでも立ち直りが早い。人々がスイス時計を購入する理由は、持っていることを自慢するためだからだ」。モーニングスターのアナリスト、ポール・スウィナンド氏はこう指摘する。スイスの時計メーカーは、過去の苦境をこうしたイメージを頼りに生き延びてきた。 だが、スイス時計が高級ブランドとしての輝きを失った場合はどうなるだろうか。こうした状況は、実は1970年代にも起きていた。セイコーなどの日本企業が台頭し、より安くより正確な時計が登場すると、スイス製の時計に取って代わる存在となり、スイスの時計業界は崩壊寸前になった。だがスイス時計業界は安価でデザイン性の高いスウォッチで巻き返しを図り、若年層の購買者を獲得した。ロレックスなどの高級腕時計メーカーも、誰もが憧れる贅沢(ぜいたく)品としての地位を確立し、復活を遂げた。 今回のスイスの時計業界の逆境が1970年代と違うのは、脅威となっているのが日本製の腕時計ではなく、スマートウオッチと移り気な若年消費者層というコンビであるという点だ。市場調査によると、2月のスマートウオッチの世界的な出荷量は、スイスの腕時計を上回ったという。 これに対し、スイス時計業界全体の対応は鈍い。スマートウオッチを脅威と見なす幹部はわずか全体の25%にすぎず、この苦境を脱する解決策を打ち出す取り組みも、いまだなされていない。 こうした状況に対し、リシュモンのリシャール・ルプCEOは「スイス時計メーカーは傲慢な態度を改めるべきだ。技術の進歩は速く、この先何が起きるかは予測できない」と警告を発している。出典:http://www.sankeibiz.jp/macro/news/160812/mcb1608120500006-n1.htm