スマホアプリで挑む脳梗塞「時間との闘い」
東京慈恵会医科大学付属病院で導入した「Join」は、複数の医療関係者間でコミュニケーションを取るためのアプリだ。チャット機能を持ち、コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)、心電図など各種の医用画像や手術室内の映像をリアルタイムに共有することもできる。あらかじめ登録した医療関係者だけが情報をやり取りできる、いわばクローズドなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)と言えば分かりやすいだろう。病院情報システム(HIS:Hospital Information System)と連携する機能を備え、DICOMビューワでの医用画像表示(拡大/縮小/階調変更など)が可能。データのやりとりはクラウド(米アマゾン・ドット・コムのパブリッククラウド)を活用しており、アプリはiOSとAndroid(アンドロイド)の両方に対応する。ちなみにDICOMとは、CTやMRIで撮影した画像のフォーマットとそれを共有するための通信プロトコールを定めた、米国放射線学会などが作った標準規格のことだ。 このアプリを開発したのはベンチャー企業のアルム(東京・渋谷)。そして、医療現場の視点から開発に協力したのが、脳動脈瘤の治療に使う塞栓用コイルを開発したことでも知られる東京慈恵会医科大学脳神経外科教授の村山雄一氏らのグループである。高尾氏は同グループの中心的存在として関わった。開発の狙いは、脳血管疾患治療における「時間との勝負にスマホアプリで挑む」(高尾氏)ことだ。Joinの開発の発端になったのは、脳血管疾患の救急搬送だ。しかし、このアプリは救急搬送時に限らず、その他の疾患領域や医療機関をまたいでの地域医療連携、クリニック間の連携などにも生かせるはずだと高尾氏は語る。 2016年11月時点で、国内では既に100医療機関以上がJoinを導入しており、海外もブラジルや米国、スイス、台湾、ドイツなどで導入が始まっているという。実際、これらのケースでは、救急の現場に限らずさまざまな用途でJoinが使われている。 一方、東京慈恵会医科大学では、救急搬送時におけるJoinの用途をさらに広げる取り組みも進めている。救急搬送時の患者の容体や搬送先をアセスメントするアプリ(開発中)を、Joinと組み合わせる使い方だ。 アセスメントアプリは、複数の質問(問診)に対する回答を基に、独自開発する人工知能(AI)エンジンを使って患者の容体や搬送先に関する判断を支援するもの。医師はこの情報と、Joinによる医用画像、あるいはウエアラブル端末(開発中)で集める患者のバイタルデータなどを組み合わせて判断材料とする。高尾氏は、こうした実証研究を2017年春にも開始することを計画している。出典:http://www.nikkei.com/article/DGXMZO10477970Z01C16A2000000/