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カテゴリ:NOVEL
一度触れたら、もう駄目だ。
君がどんどん欲しくなる。 必死になってアタックを重ねた結果、僕は彼の恋人になることが出来た。 互いの休日が合えばのんびりデートをし、平日にもマメに連絡を取る。 至って順風満帆なお付き合いをさせて頂いていて、僕としても幸せな限りなのだ。 幸せ、なのだが――…。 思い人はどうにもシャイで初心だから、必然的といって良い位に彼は接触を嫌がる傾向にあった。 そろりと頬に手を伸ばすだけでびくりと体を震わせて、恐る恐るこちらを覗き見てくるから、それ以上先の行為に進めた試しがない。 正直を言うと、結構辛い。 僕は健全な男だから、好きな子とはキスだってしたいし、それ以上にもっともっと互いの愛を確かめ合えることもしたいと思っている。 彼にも人並みにそういう欲求はある筈なのだが、ひょっとしたら今までに誰かと付き合ったりしたことがないのかもしれない。だからその欲求にも気付けずにのほほんと笑えるのだ。 今日だって、折角僕の家に君が来てくれたというのに何も手を出せず、二人で仲良くシアタールームで映画鑑賞と洒落込んでいる。 彼が「この映画、面白いですね」と嬉しそうに笑っているのは見ていて嬉しい。 嬉しいんだけれども。 願わくば、もうちょっと恋人らしいことがしたいなぁ、なんて。 「ホラー系の映画でも観ていれば、あまりの恐怖に僕に密着してくれたりなんかして」と下世話な妄想をして早速実行に移してみたのに、彼は全く動じない。寧ろ僕の方が怖くなってきて、彼に夢中で抱きつく。 「うひゃあ!」 ちょっと、いやかなり情けない声を上げる僕の頭を、彼は小さな手でそっと撫で上げた。 「大丈夫ですか、検事」 「…」 なんとなく気恥ずかしくて答えにくい。 「検事にも怖いものがあるんですね」 可愛らしくはにかんで、彼がへへっと言う。 「こ、怖くなんかあるもんか! どうせこれは作り物なんだから」 虚勢を張ってみたけれど、声がみっともなく震えているのが分かる。 「大丈夫ですよ。怖いなら怖いって、言っていいんです」 まるで神様のように慈愛に満ちた微笑をし、彼は告げた。 「俺は貴方を笑ったりしませんから」 そう言って憚らない彼の腰に、おずおずと腕を回す。 その小さな胸に耳を当て、彼の刻むビートをこの心に刻む。 そうすると不思議と穏やかな気持ちになって、さっき観ていたホラー映画の内容なんて少しずつ気にならなくなっていった。 「ありがとう」 そうひっそり呟くと、耳ざとく聞き取って「どういたしまして」と歌うように返ってきた。 その優しさに一度触れたらもう駄目だ。 君がどんどん欲しくなる。 どんどん君を手放せなくなる。 *********** エロ表現で行くぞと思って最初の二行書いたんだけど、書いてる途中で何故かヘタレな響也さんになっていたという罠。そして最後はエロとはかけ離れた文章へと帰結。 エロは書けないなぁ…。いつも痛感します。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.10.07 16:47:27
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