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カテゴリ:SCHOOL EVENTS
差出人のいない手紙
自分で自分に課している、一年に一度の大掃除の日。それが今日だ。名称とは裏腹に、この大掃除は部屋を綺麗にしたいとか、そういう殊勝な気持ちで行われる儀式ではない。単に私が昔の思い出の品を掘り当てたいと思って、その発掘作業に「大掃除」と名付けただけなのだ。 朝から部屋のあちこちを突っつくと、思い出の品が出るわ出るわの大騒ぎ。好きだったアニメのキャラクターの人形やら、誕生日に父から買って貰った玩具やら、転校した友達との間でやり取りされた手紙やら。どれも眺めるだけでホワホワと心が温まる代物だ。当時の自分がそこから透けて見えるのが気恥ずかしくもあり、また同時に嬉しくもあった。 箪笥の奥から茶封筒が一つ出てきた時には、これもきっと昔を私に思い出させてくれるに違いないと踏んだ。特にそう思うに足る理由がその封筒の外見にあった訳では無い。直感のようなものと呼べば良いのだろうか。 誰もいない部屋の中で、誰に急かされることもなくゆっくり封を開ける。するとそこには三つ折になった真っ白い便箋がたったの一枚だけ入っていた。のんびりとした手つきでそれを開くと、そこにはミミズののたくったような文字でこう書かれていた。 『二十才のかおる姉ちゃんへ。 ぼくのこと、覚えてますか。おとなりに住んでいる、ゆずるです。 ぼくは未来のかおる姉ちゃんに、かおる姉ちゃんは未来のぼくにお手紙を書こうって約束したこと、覚えてますか。 今ぼくのとなりで、かおる姉ちゃんもぼくへのお手紙をがんばって書いているみたいです。 姉ちゃんは「こういうしゃちこばった文章ってきらいなのに」とぼやいています。ぼくには姉ちゃんの言葉がよく分かりません。でも、お手紙を書くのが苦手なのは側にいてよく分かりました。おしゃべりは上手なんだから、そのまま紙に書けばいいのにとぼくは思います。 そうそう。未来のぼくとかおる姉ちゃんは、仲良くしてますか。未来のぼくは、背が伸びましたか。かけっこで一等賞を取れるようになりましたか。お姉ちゃんは、どんな人になってますか。今のぼくには何も分かりません。でもきっと未来のぼくらは、虹みたいにきれいな世界で、花みたいにニコニコ笑っているんだろうなと思います。』 思い出の品を掘り当てる時はいつも楽しい気持ちになれた。懐かしいと思いを馳せた。 でもこの手紙だけは違った。 私も彼に手紙を書いて渡したけれど、結局彼はそれを読むことが許される年齢を待たずにこの世から去っていった。 彼に読まれなかったあの手紙は、今はどうなっているのだろうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.11.15 21:35:24
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