塾の遠足と合宿は地獄
僕の塾では中3生を連れて、夏休みに遠足へ行くことにしている。遠足といっても自然の中をひたすら歩くわけではない。そんなしんどい思いをするのは御免蒙る。夏真っ盛りの暑いさなか大勢の子供を引率しながら短パンはいてタオルを首に巻き、タオルが汗でびしょびしょになって絞れるぐらいになるまで歩くような、死の行軍はしたくない。というか,僕にはそんな真似はできない。僕は歩くのは好きだが、夏に歩くのは嫌だ。基本的に僕はアウトドア嫌いだ。そんなハードな遠足をやっている塾の先生は、ただただ凄いと思う。そんなわけで、うちの塾の夏の遠足は大阪へ行く予定である。青春18きっぷを使えば交通費は往復2400円ですむ。大阪まで塾の最寄り駅から普通電車で片道約4時間。結構長い汽車の旅だが、集団で行くと時間はあっという間に経つ。夏は大阪へ行くぞと子供の前で言ったら、ユニバーサルスタジオに行きたいという子が多かった。しかしそれじゃあお金もかかるし、夏休みの暑く混雑したUSJで何時間も行列するのは耐えられない。というわけで大阪の町を歩き回ることになりそうだが、街の中を歩くのは暑い。むしろ自然の中を歩くよりも暑い。3年前8月に京都へ遠足に出かけた時には、京都大学→銀閣寺→哲学の道→南禅寺→清水寺→祇園→新京極という結構長いコースを歩いて回ろうとプランを立てたのだが、夏の京都は異常に暑く、南禅寺のあたりでギブアップしてしまい、タクシーのお世話になってしまった。京都の暑さは半端じゃない。周囲が山で、しかも京都盆地は鴨川・桂川が合流する場所で地下水が豊富であり、その地下水が夏の太陽の力で地中から水蒸気になって沸きあがってくるため、京都の町の湿度はかなり高い。歩いているとアスファルトの上で陽炎が見える時がある。そんなところを何十人も引き連れて歩いているとうんざりしてくる。結局田舎を歩くのも都会を歩くのも暑いという点では同じことなのだが、うちの塾生は田舎っ子なので、都会の遠足の方が喜ぶ。また田舎っ子が都会を見て感心するのを横から眺めるのも楽しいものだ。さて遠足もいいが、合宿もしてみたい。しかしいつも計画倒れで、実際にやるとなるとゲソッとなる。まず合宿をすると子供がはしゃぎ回って、収拾がつかなくなるのが怖い。子供は合宿生活の中で、塾での猫をかぶった姿とは大いに違った野性味を発揮するだろう。そんな状況に慣れていない僕は、「うちの子にかぎって」の田村正和みたいなヒステリックで滑稽な混乱状態に堕る。「はいすわりなさ~い」「うるさい静かにしなさい」と大声でわめいても子供は一向にいうことを聞かない。少々騒がしいのはいいが、子供の安全管理は大変である。合宿中神経を使いすぎてうんざりしてしまうだろう。また、僕は合宿所でのまずい飯には絶対に耐えられない。公共施設で出される飯はたいてい想像を絶するぐらいまずい。刑務所と同じルートで仕入れているんじゃないかと疑いたくなるほどだ。茶色くクサイ古古米の飯ガストのお代わり自由のスープと同じぐらい具が少ないみそ汁「くにょっ」とした食感の蒲鉾みたいなハンバーグ衣がぼってっと厚い冷えたえびの天麩羅むせるぐらい酸っぱいフレンチドレッシングがかかった野菜サラダ底が薄茶色く汚れているプラスティックの皿大きなヤカンに入った出がらしの玄米茶真黄色の汁の中で泳いでいる沢庵・・・調理する人が食事をまずくするため、わざわざ知恵をしぼっているんじゃないかと思うぐらいまずい。食べる側から見ればちょっと許せない。そんな合宿所ではカレーすらもまずい。カレーなんか、まずく作るのが難しい料理だろうに、ルーがやたら黄色く粉っぽいとか、玉ネギが原型をしっかりとどめていて生っぽいとか、今時グリーンピースがのっているとか(しかも乾燥したもの)、そんなカレーはちょっと困る。でも、そんなカレーにはウスターソースをかけたら美味くなるのだが、ソースがなければ困ったことになる。僕はもし戦争や地震が起こり飢饉になったら、粗食に耐える心積もりはしているが、平時にまずい物を食べるのは嫌だ。あと合宿所にクーラーがなかったら最悪である。僕はエアコンがないと生きていけない人間なのだ。特に夏電車に乗った時にクーラーの効きが悪いと腹が立つ。許せないのは端っこの車両にある「弱冷車」。弱冷車は真夏でも車内がぬるくてムワ~ッとしていて最悪だ。やはり夏の電車はクーラーが強烈に効いていなければならない。汗だくで電車に乗ると、汗のしずくが氷の粒になってしまいそうなぐらいギンギンにエアコンが効いていなければならぬ。だから夏なのにクーラーがなく、盛大なセミの泣き声と怒涛の暑気が暴力的に入り込んでくる前近代的な合宿所で授業するのは絶対に嫌だ。あと合宿をすると、塾生の中で参加しないと言い出す子供が出てくると困る。クラブの試合があるから合宿には行けないとか言われると大いに腹が立つ。そんな奴がいたら即退塾させるかも。なんだかんだ理由をつけて、結局うちの塾で合宿はやらないのである。