生徒が部活で疲労極限時の授業
中3はクラブの大会があったらしく、みんな一様に疲れた顔。特に陸上部は広島のビッグアーチまで行ってきたらしい。しかし当然塾に欠席者はいない。そのあたりはみなきちんとしている。それにしてもクラブ帰りの連中は顔が赤く、まるで酔っ払いのタコみたいだ。教室に入ると疲労感と倦怠感が充満している。ドンヨリした雰囲気が教室を支配する。ここで「お前ら気合入れえ」と僕がでかい声で説教しても表面上の効果しかないし、そんなことしたら僕自身がバカみたいなので、こんな日は子供のテンションを上げるため雑談を多目にした授業をする。というわけで今日はまず、タイ式トイレの独特な使い方の話から。タイの田舎のトイレで尻を手で拭かざるを得なかった経験を語る。タイの田舎のトイレはホースの付いた水道が横にあって、それで尻に付いたアレを手で洗い流さなければならないのだ。要するに手動式Washlet。軽い実演つきで実体験を語ってやると一人残らず大爆笑。中3でも他愛のない汚い話が受けるのだ。盛り上がったところで2次方程式の図形の文章題。トタン板の両端を折り曲げて雨どいを作ったり、正方形の四方を切り抜いて直方体を作ったり、定番の問題。方程式を解くとX=-2,14と言った具合に解が2つ出るので、図形の問題だから負の解を選んではアカンと教える。このあたりはあらかじめ「図形だから負の数を答えにしたらあかん」と語っておくのではなく、予備知識なしで問題を解かせて間違えさせるのがいい。素早く解き終わり答を-2cm,14cmなんぞと書いて、できたと思ってふんぞり返っている子供のノートをじろりと見ながら、思わせぶりに「ふふふふ」と笑ってやれば子供は「えっ、違うん?」と慌てる。そのうち「あっ、そうなんじゃ。-2cmはありえんし」と言って直す。僕が丁寧に導きながら解かせても頭にしか残らない、だが間違えさせれば身体に残る。ミスしやすいところは習いたてのうちにわざと間違わせるような演出を施す。その後は雑談(カープの衣笠の話。彼が黒人と日本人のハーフとして出生した苦労)→授業(不定詞it~for~to構文)→雑談(ヤマト運輸の小倉昌男社長が規制をめぐって運輸省と戦い抜いた話)→授業(社会文化史。絵画史を中心に。葛飾北斎の版画がフランス印象派に与えた影響について語る)、そんな具合に雑談と授業の繰り返し。クラブで生徒が疲れている日には、生徒を飽きさせないように私はハイテンションを保たなければならないし、雑談のネタをいつもの倍用意しなければならない。そして雑談は常に子供の脳味噌をシェイクするものでなければならぬ。「クラブがあっても勉強は大事」だと常日頃から偉そうに語り、疲れた体に鞭打たせて塾に来させているわけだから、僕はきちんと子供に「お土産」を渡さねばならぬ。