稽古79回目
■謡…「富士太鼓」2回目これは萩原の院に仕へ奉る臣下なり。さて内裏に七日の管絃の御座候により、天王寺より浅間と申す楽人、これは双びなき太鼓の上手にて候を、召し上せられ、太鼓の役を仕り候処に、また住吉より富士と申す楽人、これも劣らぬ太鼓の上手にて候が、管絃の役を望み、まかり上りて候。この由、聞こし召され、富士浅間いづれも、面白き名なり。さりながら、古き歌に、信濃なる浅間の岳も燃ゆるといへば、富士の煙のかひやなからんと、聞く時は、名こそ上なき富士なりとも、あつぱれ浅間は優そうずるものをと、勅諚ありしにより、重ねて富士と申す者も、かく候。さる程に浅間、この由を聞き、憎き富士が、振舞かなとて、かの宿所に押し寄せ、あへなく富士を討って候。実に不便の、次第にて候。定めて富士が所縁の、なき事は候まじ。若し尋ね来りて候はゞ、形見を遣はさばやと存じ候。雲の上なほ遙かなる、雲の上なほ遙かなる富士の行方を尋ねん。これは津の国住吉の楽人、富士と申す人の妻や子にて候。さても内裏に七日の管絃のましますにより、天王寺より楽人召され参る由を聞き、わらはが夫も太鼓の役、世に隠れなければ望み申さんその為に、都へ上りし夜の間の夢、心に懸る月の雨。身を知る袖の涙かと明しかねたる夜もすがら。寝られぬまゝに思ひ立つ、寝られぬまゝに思ひ立つ。雲居や其方故郷は、あとなれや住吉の松の隙より眺むれば、月落ちかゝる山城もはや近づけば笠を脱ぎ、八幡に祈り掛帯の、結ぶ契りの夢ならで、現に逢ふや男山都に早く着きにけり都に早く着きにけり。急ぎ候程に、都に、着きて候。この所にて富士の御行方を尋ねばやと、存じ候。富士が所縁と申すは、何処にあるぞこれに候さてこれは富士が為、何にてあるぞ。恥ずかしながら、妻や子にて候。のう富士は、討たれて候よ。何と富士は、討たれたると候や。なかなかの事。富士は浅間に、討たれて候。さればこそ思ひ合はせし夢の占。重ねて問はゞなかなかに。浅間に討たれ情けなく。さしも名高き富士はなど、煙とはなりぬらん。今は嘆くにそのかひも亡き跡に残る思ひ子を、見るからにいとゞなほ進む涙は堰きあへず。今は嘆きても、かひなき事にてあるぞ。これこそ富士が舞の、装束候よ。それ人の、嘆きには、形見に過ぎたる、事あらじ。これを見て心を、慰め候へ。今までは行方も知らぬ都人の、わらはを田舎の者と思し召して、偽り給ふと思ひしに、真に著き鳥兜、月日も変らぬ狩衣の、疑ふ所もあらばこそ、傷はしやかの人出で給ひし時、みづから申すやう、天王寺の楽人は召にて上りたり。御身は勅諚なきに、推して参れば下として、上をはるかに似たるべし。その上御身は当社地給の楽人にて、明神に仕へ申す上は、何の望みのあるべきぞと申ししを、知らぬ顔にて出で給ひし。その面影は身に添へど真の主は亡き跡の忘れ形見ぞよしなき。かねてより、かくあるべきと思ひなば、かくあるべきと思ひなば、秋猴が手を出し、斑狼が涙にても留むべきものを今更に、神ならぬ身を恨み喞ち、嘆くぞ哀れなる。嘆くぞあはれなりける。今回の注意点1、1オ 声の出し始めは、吸った息を体に溜めて、密度の濃い声にする。2、3ウ 上歌の時は特に、上の句7文字をゆっくり、下の句5文字を運んで謡うことを意識する。そうすると面白い謡い方になる。3、4ウ ワキは天皇の臣下。シテは田舎者の妻。謡い分ける。息をたくさん吸ってしっかりと出すことを心がけると、演技がしやすくなり、聞き手に伝わりやすくなる。4、5ウ 「クドキ」はシテの述懐。臣下に申し上げているのではなく、心の声。ぶつぶつ言っているような感じ。語尾は伸ばしすぎない。納得いくまで伸ばすと、立派な謡いになりすぎるから、伸ばしすぎずにぶつぶつと謡う。■仕舞「猩々」2回目自分で謡いながら舞いました。自分の部屋で自主稽古する時は鼻歌のように謡ってますが、ちゃんと大きな声を出して謡いながら舞うのは想像以上に声と体力が必要で、汗が噴き出ます。■仕舞「富士太鼓」1回目今まで習った仕舞の中で一番長いです。「今日は名の下空しからず類なや懐かしや」までです。全体の3分の1くらいです。・感想 今日は他の人が来られず、私一人だけなので時間に余裕を持ってお稽古ができました。謡は今やっている「富士太鼓」と「紅葉狩」が終われば初心謡本が全部終わります。だから前回のお稽古の時に謡本を先生が買ってきて下さるということを仰っていたのですが、今日持ってきて下さいました。敦盛・賀茂・鵜飼・小督・船弁慶の5つです。1冊2,100円なので、5冊で10,500円です。けっこう高いです。10,500円分を無駄にしないように勉強しようと思います。