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東京なな猫通信

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2008年03月12日
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昨日、また身体慣らしに近所を散歩してみたら
またドエライ疲れちゃいまして(>_<)
へばり方が尋常ではないので、
まあ、まだまだなんだなーと自覚したなな猫です(^_^;)
こんないい天気の今日、
街でもお散歩したいのに、身体がへばってます。

どこがどうってわけでもないんだけど
やはり十日間飲まず食わず、
その後も20日間くらいはお粥程度しか喉を通らないということは、
あとあと尾を引くもんですね。


そういうわけで、うちでダラダラ読書していることが多い今日この頃ですが
昨日今日、久しぶりに引っ張り出した本たちの中に
『堀辰雄 妻への手紙』がありました。

堀辰雄夫人の堀多惠子さんの著書ですが
元気だった頃の堀辰雄が夫人にあてた手紙をまとめたもので
わたしの好きな本のひとつです。


堀辰雄の著書の中でも特にわたしの好きな、
『大和路信濃路』のもとになっているような書簡もあって
何度読んでもなんだか新鮮に読める。

この、書簡集のあとに、多惠子さんの思い出が書かれていて
そこに、こんな一文がありました。


  辰雄の死の二日前、急に空が暗く雷が鳴り、浅間の小砂利を巻き上げて、
 硝子戸にばらばらと吹きつけるやうな突風が起りました。びつくりした私
 が寝床の傍に駆けより、病人の体を蒲団の上から抱くやうにして支へ、片
 方の手で辰雄の手をしつかり握つてゐますと、辰雄は何か恐怖を感じたの
 か「不気味な風だなあ」と何度も繰り返して言ひました。その晩、夕食の
 あとで、
 「お前は意気地がないから心配だよ」といふので、私は「あら、突風が怖
 いと言つたのはあならぢやあないの。私はちよつとも怖くなんかないのに」
 といふと、ただにつこり笑つてあとは何も言ひませんでした。

 そして又その翌晩、眠りに就く前の支度をしてゐる私にやさしく「お前は
 いくぢがないから心配だなあ」と同じやうに繰り返したのです。私はああ、
 辰雄さんは突風のことぢやあない何か別のことを考へてゐるのだなと気付
 いたのでした。もうその頃は常習になつてしまつていた睡眠薬を十一時頃
 のみ、辰雄は「おまへも寝なさい」と言つて細い長い指を挨拶するやうに
 一寸動かしてから「グッド・バイ」と何日【ルビ;いつ】になく冗談めか
 して言ひました。

 「グッド・バイぢやあなくて、グウテン・ナハト」でせう」と私は言つて、
 笑ひながら次の間に退つたのですが、その晩、又血痰が出始めて 【中略】
 それからほぼ二時間ぐらゐしてから、「またなんだか出さうだよ」と声を
 かけられ、急いで立つて行つてからの私は、あとからあとから続く出血に
 無我夢中でした。大変なことになつた。どうしようと思ひながら、【中略】
 辰雄を呼び続けてゐる自分の声が静かな部屋一杯になつてゐるのに気づい
 た時は、もう何もかも終つてしまつてゐました。其処にはなんの苦痛もな
 ければ苦痛のあとさへも残つてゐませんでした。

                     『堀辰雄 妻への手紙』所収
                     [読みやすくするため改行はなな猫の任意]
                 

ちょっと長い引用でしたが、
ひとの最期というものは、自分でわかるものなのかなと
わたしの父の最期を思い出しながら書いてみました。

父は、長い胸の病の末、病院で息を引き取ったのでしたが
それまで、人工的に開けた喉の穴から痰を定期的に取る作業を
母たちと交代でしていたのに
その晩は、もう大丈夫でしょうと看護士に言われ
母が自宅にちょっと戻った、その夜のこと、
結局、痰が喉につまって、誰もいない部屋で亡くなったと思われます。

わたしは、一旦落ち着いたからと
遠く離れた北関東の自宅に帰っていて
電話で父の死を聞きました。

そして思い出しました。
わたしが自宅に戻るために、しばしの別れをしに行った朝、
父はわたしの手を取って「さよなら」と言いました。
多惠子さんのように、わたしも
さよならじゃないでしょう、と思ったのを覚えています。



「辰雄を呼び続けてゐる自分の声が静かな部屋一杯になつてゐるのに
気づいた時は、もう何もかも終つてしまつてゐ」た……。

この声が、聞こえるような気がしました。
名を叫び続けていた多惠子さんの声が。


本当に、「其処にはなんの苦痛もなければ苦痛のあとさへも」
残ってないんですよね。
死の前と、後の、厳然たる境というのは。


わたしも体がいま悪く、
なんだかこんなことを身につまされたように考えていました。





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Last updated  2008年03月12日 13時14分23秒
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