ボクシングの歴史と競技に抗う、パッキャオ。
2019年9月21日、「WBAスーパー王者」キース・サーマンvs「WBAレギュラー王者」マニー・パッキャオのWBA内での統一戦がありました。WBAは2000年12月ランキングから、他団体と複数ベルトを統一した王者やWBA王座を五度防衛した王者を《スーパー王者》と格上げする制度を導入しましたが、王者の乱立が懸念され、それは現在も引きずったままです。この二つ以外にも暫定王座(王者が一定期間、防衛戦を行わない場合、代わりの王者を作る)や、休養王者制度(ケガなどで戦線離脱した場合、はく奪せずに王者のまま)を設けたりして、四団体(WBA・WBC・IBF・WBO)のなかでも一番権威が低いといわれています。(一番歴史が古いWBAですが)他の三団体も《暫定王座》は存在します。要は、世界タイトルの認定料が欲しいゆえの愚行といえます。(17階級と小刻みに区切った階級も同じ理由だと思われます。したがって、ひとクラスではそんなにパンチ力の差はなし。もちろん、選手にもよりますが)紀元前4000年ごろから象形文字などでボクシングの原型が確認されていますが、その当時はラウンド制はなく、ルールも目をえぐったり、金的攻撃、キック、寝技など、どちらかが降参するまであらゆる攻撃が認められていました。16世紀前半、ベアナックル(素手)によるルールなしの決闘がイギリスで発祥。1743年、ルールブックが作られ、近代ボクシングの原型が作られたといわれています。1982年まで世界戦は15Rで行われていました。ラウンド制はいつからか? 諸説あるので一概にいえません。そんな中、現在は17階級あるクラスも、その前はフライ・バンタム・フェザー・ライト・ウエルター・ミドル・Lヘビー・ヘビー級の8階級。さらに、今は主要四団体。ボクシングがそれだけビジネスになるからでしょうが、権威が低くなってマイナーになってしまうのは自分の首を自分で絞めているに他なりません。そんなボクシングの歴史を逆行させてしまった男が「マニー・パッキャオ」だといえます。プロデビューはライト・フライ級(48,9キロ以下)で、初の世界王者獲得はフライ級(50,8キロ)からスーパー・ウエルター級(69,8キロ以下)まで、「今度こそは勝てない」と言われ続けた予想を、ことごとく裏切ってしまったのです。しかも、その階級で「最強の王者」たちに文句ない勝利を収めて。そして、40歳の現在は全階級で一番の激戦区「ウエルター級」(66,6キロ)のWBA王者。ウエルターがいかに難攻不落の階級か……日本人はまだ誰も戴冠しておらず、ヘビー級をのぞき世界中が注目するスーパー・ファイトで、注目度が高い試合が多かったのも、このクラス。レナードvsハーンズ、デラホーヤvsトリニダード、メイウエザーvsパッキャオ。その他……。19歳でフライ級王者になって10階級を股にかけ、フェザー級とスーパー・ライト級はマイナー団体であるがゆえ6階級王者といわれるも、当時の同クラスでは最強王者を倒したために、海外では8階級制覇王者と評される。(フェザー級はメキシコの英雄、マルコ・アントニオ・バレラ、スーパー・ライト級は英国のスーパー・スター、リッキー・ハットン。バレラ戦が出世試合で、ハットン戦での勝ちが最も記憶に残るKOシーン) 2019年1月、メイウエザー2世といわれた「エイドリアン・ブローナー」を3-0の判定勝ち。40歳を迎えても世界のトップクラスを撃破した彼は、次はどんな夢を見せてくれるのか!?写真左からエロール・スペンス(26勝21KO無敗)キース・サーマン(29勝22KO無敗1無効試合)テレンス・クロフォード(35勝26KO無敗)ショーン・ポーター(30勝17KO2敗1分)(9月29日、スペンスとの統一戦で2-1の判定負けのポーターは2敗目)そして、今回のサーマンは……。ポーターを3-0(三者115-113)で下す。WBC王者のダニー・ガルシアを2-1の判定勝ち。両者ともに2億3千万円のファイトマネー。しかし怪我のため、二年の戦線離脱。それから19年の1月に復帰戦を判定勝利するも、内容は良くなかった。1RKOが9回(デビューから8連続1RKO)で、愛称は「ワン・タイム」~計量風景~今回の報酬は、パッキャオ10億、サーマン2,7億。(最低保証)両者のコールから……リング中央でにらみ合い。1R開始から、ややサーマンが有利な展開。残り30秒、左フックでロープに追い詰めるサーマンだが……。飛び込んだパッキャオの右フックがヒット❢前のめりに打ち込んだパンチに押されるように倒れたため、サーマンの肉体的なダメージは弱い。(それでも初回のダウンゆえ、精神的なショックは大きいはず)2R終了後、脚を交互に前後する「アリ・シャフル」を見せるパッキャオ。(調子の良さをアピール)※アリシャフルとは、モハメド・アリが魅せた軽快な足の動き。2Rから一進一退の攻防を見せるも、本来のウエルター級であるサーマンが自力で上回る。7R、カウンターの右フック。しかし、10Rにパッキャオの左ボディフックが炸裂すると、たまらず膝を折ってダウン寸前。サーマンは残り1分20秒、のけぞって後退を続けた。判定はパッキャオだが、114-113(サーマン)115-112(パッキャオ)115-112(パッキャオ)のため、1Rのダウンがなかったら引き分けだった。