序章-少々長めの
多忙な仕事がつかの間の落ち着きを見せ、新たなる多忙な時期を迎えるまでのつかの間のこの時期。明日から3日間の連休を取れることが判明した。堅気のサラリーマンであれば、盆なり、正月なり、GWなりのまとまった連休があるはずなのだが、私の勤務する百貨店は、普通にしていたら、連休取得は不可能に近い。勿論、労働基準法もあるし、制度上、取れないことはなく、『計画的に取得しましょう』ということになっているのだが、経理部とはいえイベント産業のこの業界で、いい年した大人が『計画的な連休』など考えられるはずもない。今回も、半ば頃になって、『このあたりに休もうか』とは考えていたものの、本当に休めるかどうかは直前になってみないと不透明だったため、どこにも申込みをしていなかった。そして、本当に休めそうだとしたのがやっと判明したのが、前日というわけ。正直を言えば、どうしても休まなければいけないほど疲労が蓄積しているわけでもないのだが、7月に入ればまた何かと慌しい時期が待っているわけで、そう考えると、ここで何らかの気分転換をしたいと思ったのだった。気分転換には、旅行が一番だ。ただでさえ、狭い世界に身を置いているのだから、たまには、全く違う世界に触れてみたい。それが一瞬であっても、それで気持ちをリフレッシュできそうな気がした。とはいえ、事前の申込みもしないで出来る旅行など、非常に限られてくる。しばらく行かなかったので忘れていたが、通常の旅行会社に置いてあるパンフレットであれば、どれも『お申込みは旅行の14日前に』云々の記載がある。そりゃ、駅や空港に行って切符を買えば、すぐにでも行けない事もないだろうが、そうすると、当然全てが通常料金となり、非常に割高になってしまう。そもそも、どこへ行こうか。嫁は身重の上に、休みを合わせていないので、泊まり旅行の随行は不可能。となれば、東京か。この際、思い切って、敬愛するアキアカネさんに声をかけてみるか?青学の相模原キャンパスや、故郷八王子など、嫁の嫌がりそうなスポットを気兼ねなく訪れるのも悪くない。調べてみたら、北九州発のスターフライヤーは、前日の予約でも、2~3割安くなるみたいだし、宿だって、インターネットで予約すれば、1万でそこそこの部屋もある。滞在費土産代含めて7万か・・・半分その気になった時、一つの懸念が過る。『天気も悪そうだ・・・』東京に行けば、誰も捕まえられないことはないだろうが、大半は単独行動となる。雨天でそれってどうなんだろう?と思ったとき、親友さえきくっこ氏のことを思い出した。大学時代、今にして思えば、『青春』としか表現のしようのないかけがえのない日々を共有し、遠く離れた名古屋に住む彼。福岡からは、やや中途半端な場所だけに、嫁と娘を連れて行くことは躊躇っていたのだが、ひょっとするとこれは、絶好の機会なのかもしれない。天気の悪さはあまり変わらないだろうが、彼と一緒なら、それもさほど気になるまい。というわけで、電話してみた。『ところで、明日は忙しいんかね?』社会人になって、滅多に会うことの叶わぬ数百キロ離れた場所にいる人間に対しての言葉とは到底思えぬこの言葉が、実は我々の合言葉であったりする。我々の世代で、本当に暇な一日などあるはずもなく、それを重々承知でのこの言葉なのだが、どういうわけか、この言葉を聞けば、万難を排してそれを実現させる。実際、彼とは、この一言で、何度も奇跡の再会を果たしており、幸いにして、今回もそれは例外ではなかった。呆気ないほど名古屋行きは決まり、調べてみたら、飛行機と新幹線は、殆ど時間が変わらないことが判明。しかも、北九州からの名古屋便は、50人乗りの、寂しそうな飛行機。スチュワーデスもいないかもしれないと思ったら、新幹線にしてみたくなった。こっちも調べてみたら、『トクトク切符』というものがあるらしいこともわかった。片道はのぞみで、帰りはブルートレイン。ブルートレインなんて、考えてみたら、20年以上乗っていない。しかし、かつては西村京太郎の愛読者。乗ってみるのも悪くはなかろうと、切符を購入。特に観光するものも考えていなかったので、ここに『1泊2日(車中泊あり)』という、奇妙なプランが完成した。