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2008.04.17
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「颯太郎ー!!」


春の夕暮れ時。大学の研究室に残り作業をしているはずのはるが、勢いよく玄関の扉を開けて帰ってきたと思えば、早速パタパタと大きな足音を響かせて台所までやってきた。キラキラと瞳を輝かせて颯太郎を見つめるはるを、カーテンの隙間から差し込むオレンジの光が照らす。
夕飯の支度をしていた颯太郎は、フライパンを持つ手をいったん止めてガスコンロの火を消し、はるに向き直った。眩しく光る目の前の表情に惹かれ、颯太郎は自然とその身体を引き寄せていた。


「そ、颯太郎っ」
「お帰りなさい、ハルさん…」


優しい抱擁にうっとりと身を委ねそうになるはるだったが、今の第一の目的を思い出し、ぐいと颯太郎の胸を押した。それでも猫のようにすがり付いてくる颯太郎を力一杯引き剥がす。


「ハルさぁん…」
「そんな猫撫で声使ったって駄目だぞッ!先におれの話!」


その言葉で先程のはるの嬉しそうな表情を思い出した颯太郎は、不思議そうに首を傾げた。


「そうでしたね。どうしたんですか?」
「おれさ、この前から新しい分野の研究を進めてたんだけど、ある程度文章が纏まって、今日小田桐教授に見てもらったんだ」
「わぁ、お疲れ様です!」
「それがさ、すっげー好評で…あの教授が絶賛してくれたんだ!」


普段からヘラヘラとしている小田桐だが、ああ見えて研究に関しては厳しいことで有名だ。簡単に合格点は出さないし、褒め言葉を安売りしない。しかし鋭い指摘と的確なアドバイスがあるからこそ生徒達は成長していく―――それが彼の持つ教師としての器なのかもしれない。
そしてそれが、はるが小田桐を慕って彼の下で学んでいる要因でもあった。学問と本気で向き合っているからこそ厳しい判断を下す。そういった点で、本当にはるは小田桐への尊敬の念を抱いていた。



「そう、ですか…、良かったですね」


はしゃぎ明るい口調で話すはるを横目に、浮かない表情を見せる颯太郎。
しかし颯太郎は、複雑な気持ちを抱きながらも懸命に笑顔を取り繕った。
それに気付いたのか、はるが怪訝そうな顔で颯太郎を見つめたが、颯太郎は自らの邪念を悟られないようにと視線を逸らす。

颯太郎も、はるが小田桐を慕っていることは分かっている。それに、こうして大学であったことを逐一報告してくれるのは、恋人としてとても喜ばしいことで…はるの歓喜に心から共感し、祝福してやりたい。

――――しかし、やはり他の男のことではるがこんな嬉しそうな笑顔を見せているのだと思うと、面白くはないのだ。



「…颯太郎?なぁ、どうしたんだ?」


視線を逸らそうとする颯太郎を逃がすまいと覗き込むはる。その瞳を捉えられた颯太郎は再びはるの身体を胸に引き寄せ、ぎゅうと強く抱きしめた。心の不安を埋めるように…。

初めのうちは突然のその行動に戸惑い、頬を染めていたはるだったが、いつもとは違う―――そう、まるで初めて彼の弓道の練習試合を見に行った帰りに抱きしめられた時と同じような、颯太郎の不安定な気持ちが伝わり、はるは大人しく腕の中にすっぽりと収まったままでいた。

あの頃は分からなかった颯太郎の気持ちが、今なら少し分かる。それは、これまで颯太郎と共に過ごし理解出来るようになったということか。それとも…


自身が“恋”を知ったから、なのだろうか――――





静かな沈黙を破ったのははるの方だった。



「颯太郎…おれは教授のこと凄い人だって思ってる。憧れてるし、カッコイイと思う」


颯太郎はビクリと肩を震わせ、はるを抱く力を一層強めた。しかしはるは気にも留めず言葉を続ける。


「でもな、お前への気持ちとは全然違うぞ」


颯太郎がはるの言葉で腕を緩ませた隙に、はるは颯太郎の背中にそっと腕を回し少し背伸びをすると、彼の唇に自らのそれを重ねた。


「……っん…」
「……っ、…ん、……」


突然の出来事に驚きを隠せない颯太郎だったが、滅多に見ることの出来ない情熱的なはるの行動に自らの欲情が見え隠れする。受け入れるだけだった颯太郎の舌が、部屋に響く水音に翻弄され、徐々に積極的に動き始めた。
どちらからとも分からない口付けが繰り返される―――そして最後にちゅっと唇を啄ばむ音を鳴らすと、名残惜しそうに互いの唇が離れた。



「…は、ぁ……、…こんなこと、したいって思うの、颯太郎だけだ」
「ハルさん…っ」
「颯太郎はこれでもまだ分からないっていうのか?」


顔を火照らせながらも必死に訴えようとするはるの気持ちに、颯太郎は目尻が焼けるように熱くなるのを感じた。



「違います…っ、分かります、俺だって同じ気持ちなんですから…

でも…やっぱりヤキモチ妬きますよ。ハルさんのことを、愛してるんですから…誰よりも… だからきっと小田桐先生だけじゃなくって、ハルさんに近づく全ての人に俺は妬いてしまいます」

「颯太郎…」


自分は本当に愛されている―――それを実感する度、颯太郎という存在が更に大きく、自分にとってのかけがえの無いものとなる。愛する者に、同じように愛してもらうことがどれだけ幸せなことか、彼に出会わなければ一生知ることもなかっただろう。


「不安にさせてるのは、おれ…なんだよ、な。でも…大丈夫だから、」


―――お前が思ってるより、おれはお前のことが好きだから、愛して…る、から


そう続けると、はるは真っ直ぐ颯太郎を見据え、少しだけ照れ臭そうにはにかんだ。
颯太郎にすれば、はるの言葉が全てで…その一言だけで幸せを感じられる。大袈裟かも知れないけれど、本当に他に何もいらないとさえ思えてしまう。
片想いしていた以前とは違う。はるも、颯太郎と同じ気持ちを抱いてくれている。そしてその“好き”の感情を大切にしてくれているのだ。


「そんな可愛いこと言われたら、俺、我慢できなくなっちゃいますよ?」
「なっ、なに言って…ってどこ触ってんだ!ばか颯太郎ッ…!」


はるの背に回っていた颯太郎の手が、服の中へと入り込み、ひんやりとした感触がはるの肌を伝った。


「そ、そう…たろ……、こんなとこで…」


はるが熱っぽく声を上げると、それがまた颯太郎を煽る。


「そう、ですね。寝室へ移動しましょうか」
「ん…でもメシが先だ」
「…、ハルさん……」
「だって、颯太郎、料理の途中だったんだろ?」
「そう、ですけど…」


彼が食べ物に目が無いことは承知しているつもりだが、この状態でおあずけを食らうのは颯太郎には少々辛いものがある。
しかし…


「今日の晩御飯は何だ?美味いメシ、楽しみにしてるぞ!」


はるに満面の笑顔を向けられると、もう何も言えなくなってしまう。颯太郎はがくりと肩を落としつつも苦笑を漏らし、眩しそうに目を細めた。
この可愛らしい笑顔には、いつまで経っても勝てる気がしない。しかし、負け続けているのも悪くないと思えるのは、颯太郎のはるへの想いがどこまでも深く果てしないから。

そして颯太郎は思う―――永遠にこの笑顔と共に過ごしてゆきたい、と。



「ハルさん、好きです」

「うん、オレも。好きだぞ、颯太郎」




そう、いつまでも、ずっと―――




***




やっと書けたー゚ヽ(*´∀`)ノ゚.:。+
もう、何てゆうか、ものすっごい達成感…!
文章の良い悪い関係なく、何とか終わらせられたのが嬉しいです!
初☆新婚さんSSということで、ちょっと甘く見て下さい!
しかしこれを公式のSS募集に提出しようと考えてたり、する…大丈夫なのか(笑)
嫉妬ネタとかありきたりすぎるかな?いろいろ心配です…
でも、はるさんが颯太郎を好きになる前と後の変化、みたいなのを書きたかったので、満足です。
颯ハルはバカップルですw あぁぁ新婚さんプレイされた方と語り合いたいよーー!





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Last updated  2008.04.18 03:55:51
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