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人間仁科のブログ・八重山見聞録外伝

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2007.12.08
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カテゴリ:nobel

その島へはフェリーでやってきた。初めて
訪れる島だった。

南国の観光地らしくTシャツ屋が一杯ある。
俺はかっちょいいのをすぐに見付けた。

値段も2500円と手頃であるし、ラスト一枚
だったので即決。いやぁ、こんな良いデザ
インのTシャツを、こんなちっぽけな南の島
で見つけられるとは思わなかったよ。なん
だか着いたそうそうラッキーだぜ。と、うか
れた心持ちにてレジカウンターへとシャツ
を持っていったのであるが、キャッシャー
の姉ちゃんが妙なことを訊いてきた。

「これ、買いたいんですか?」

「え…あの…え!ダメなんですか買っちゃ」
と俺は激しくも戸惑った。

「はぁ、そうですか。どうしても買いたいの
ですね。今回はキャンセルしようかな、な
んて選択肢は考えてはいないんですよね。
そうなんですね?」などと姉ちゃんは早口
でまくし立てる。

「いや、だから、あのぉダメなんですか?
ダメならダメって言ってもらえれば俺もど
うしても、ってわけでもないんで諦めます
けど。はい」そんな物分りのよさを装いつ
つも俺には事態がまるで飲み込めていな
かった。

「じゃ、やめるんですね。購入しないんで
すね。それでよろしいですね。後からクレー
ムとか一切受け付けませんのであしから
ず」

「いや待ってくださいよ。誰も止めるとは言
ってないじゃないですか」

「止めるのを止めるってことですか」

「いや、だから、そういうことじゃなくて。
う~ん、なんて言ったらいいのかな…」

「どちらなんですか?買うんですか止める
んですか?はっきりしていただけますか」

「え?はい。買いますよ。買っていいのな
ら俺は買いますよ。あなたが買っちゃい
けないみたいなニュアンスのことを言うか
ら…」

「いいえ私はお客様の購入の意志を尋ね
ただけです。買っちゃいけないなんて私
がいつ言いました?言ってませんよ。変
なこと言わないで下さい」

「あ、そうなんですか。わかりました。じゃ
買わせてもらいます。俺、買いますから。
たいへん気に入ったんで買いたいんです。
で、お幾らですか?値札通りでいいんで
すよね。はい、2500円っ」

と、釣銭なしジャスト2500円を手渡そう
としたがレジの姉ちゃんは何を考えてか
それを受け取ろうとはせず、十メートル
ばかり離れたところにいる従業員の男を
呼びつけた。

「店長!店長!今ちょっとよろしいですか。
実は、このお客さんがですね、どうしても
このTシャツを欲しいとおっしゃるんです
が、お売りしてもいいですか?」

バカか、こいつ。
敬語の使い方は支離滅裂だし、Tシャツ
屋が客にTシャツ売らないで他に何を売
るんだよ。そんなこと一々店長とやらに
尋ねることか?おかしいんじゃねぇの、
この女。
と俺はそう思ったが勿論言葉にはせず
に事の成り行きを静観したのである。
そう。事を荒立てなければ俺は無事に
Tシャツを買えるのだ。レジ姉ちゃんに
は腹が立つが、ま、それは相手がバカ。
こっちが大人の対応してやろうじゃない
か。俺はそう思っていた。

店長と呼ばれる男は腰も軽く、さっと立
ち上がると揉み手のひとつもやりそうな
勢いで俺らの前にやって来た。その風
情に俺は少し安堵した。レジの姉ちゃん
みたいな居丈高なおかしな店員ではなさ
そうだ。

「はいはい。こちらのTシャツを御購入さ
れたいと?そうですよね」男の問に俺は
笑顔で頷いて見せた。

店長は俺に営業スマイルを返し、それか
ら少し照れたように笑いなおすと言う。
「お客様、これね、残念ですがお売りでき
ないんですよ~、はい」

え……なんで。
どうして。

「あのですね、このTシャツ、ぼくが買おう
と思ってまして、最後の一枚なんで予約
しておいたんですよ。もうしわけないんで
すが、明日もこのTシャツ印刷しますので、
明日の夕方にでも来ていただければ買
えると思いますからよろしくお願いします。
じゃ、ぼく、まだ棚卸しの途中なんで、失
礼します」

レジカウンターの上に置かれたTシャツを
黙ってたたみ始めたレジの姉ちゃんは殊
更に無表情を装っている。きっと内心勝ち
誇っていやがるのだ。

『遠回しに、やめときなって言ってやってん
のに、人の言うことちゃんと聞かねぇから。
バカだねぇホント』

そのような繰言で俺を見下してやがるの
だ。畜生、はらたつ。

だいたい店の人間が売り物を押さえちゃ
うって、そんなのありかよ。押さえて売ら
ないってなんなんだよ。売らないものを
陳列しておくなっつうの。それに明日印
刷するって言うのならオマエがそれを買
えよ。で、予約してるってやつを俺に売れ
よ。おまえは店の人間なんだからいつで
も好きな時に買えるじゃねぇか。こっちは
明日又ここに来れるかどうかなんてわか
らないんだから。それが道理ってもんじゃ
ねえのか。違うのか。俺のほうが間違っ
てんのか。

畜生、はらたつ。

あんまり腹が立つので俺は店長って奴
のところへ行き、今一度食い下がった。
「いや、あのね、あなたが予約してるほう
を私に回してもらえませんか?明日また
印刷するならそれを店長さんが明日それ
を買われては如何ですか?私は又明日
この店に来れるかどうかもわからないし。
ね、お願いしますよ店長さん。あれ、俺に
売ってください」

「アハハ。いやいや無理ですよ、それは。
だって僕がもう予約しちゃってるんで。も
うしわけないけど又明日来てください」

「いや、だからさ、明日来れるかどうか
がわからないって言ってるんじゃないで
すか。俺の言ってる意味わかる?」

「あのですね、明日来れるかどうかわか
らないのはお客様の都合で、僕はどうし
てあげることもできないでしょ。しつこい
人だな。どう言えばわかってもらえるの
かな…」

そう言って溜息などつかれた日には、俺
もそれ以上食い下がる気がすっかり失
せてしまった。

なんなんだよ、この店。もう二度と来ねえ
よ。畜生、はらたつ。俺はTシャツを買う
のを止め、くさくさした気分を変えるのに
まずは昼飯を食うことにした。で、通りを
歩きながらつらつらと眺めるに八重山そ
ば。よし、それを食ってみようとテキトー
に選んだ食堂の汚い暖簾をくぐったので
ある。

          【続く】







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Last updated  2007.12.08 11:44:36
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