GO GO 八重山 【ウミンチュ・パート】1
島へなんか来るんじゃなかった。嗚呼、阿呆か俺は。それが最初に親方の家に連れて行かれて最初に思ったことだけれど、後悔が先に立つならば世の中の誰も苦労はしないし、後悔から学ぶべきものが幾多とあるのは人類の歴史を振り返ればわかるのか否かもよくわからないが、とにかく俺は開き直るより他に術がなかった。だってポケットの中には20円しか入ってないのだから逃げようもない。此処は島なのだ。離島だ。どこでもいいから隣の島まで逃げようにも数キロメートルは隔てられている。遠泳よろしく島から島へと波掻き分けて泳ぐなんざ俺には叶わぬ芸当であるし、船で逃げるには船賃が掛かるとなれば、当世、20円なんかじゃ親戚のおじさんに肩車すらしてもらえないである。否々、親戚のおじさんは肩車に乗車賃など求めぬだろうが、此処は八重山、泣く子も黙る日本列島の南の果てなのだから親戚のおじさんなど影も形も見えないじゃないか。ちくしょう。どうしてくれる。責任者出てこいよ。なんで俺がこんなところまで来なくちゃいけないんだ。一体全体どういう流れなんだよ。自分のことを親方と呼べなんぞと俺にぬかす島のオヤジはどう見てもヤバイ奴じゃねぇか。こいつが寝泊りしろとぬかす小屋はどう見ても倉庫か物置だ。いやいや、この相当の悪臭からして家畜でも飼っていやがったのかも知れない。ま、物置でも家畜小屋でもまだしも片付いているなら話もわかるが、どの角度から見ようとも、100歩は譲ろうとも、これまでの人生で他人にしたとのないくらいのbiggestな譲歩をしようともゴミとしか断じられぬ正体不明・用途不肖の物品の断片破片が堆(うずたか)くも散乱放置されていて寝床はおろか立つ場所すらない有様である。よく見りゃ鳥の羽なんかも宙を舞っていて俺はここが鶏小屋だったことを確信し、親方に尋ねてみたのである。「ここ、ブロイラー飼っていたでしょ。ね。そうですよね」親方は無言の上にこちらを振り返ろうともしないから俺は激しかける。ちくしょうめっ。まったくツイてないったらありゃしない。まじで鶏小屋で寝泊りかよ。いくら丁稚まがいとは言え21世紀の世の中に、それも日本国の領土内において鶏小屋に寝泊りしなけりゃならない境遇にあるのは田舎暮らしのうえに親から虐待受けてる子供か俺ぐらいのものだろう。まったくもって不遇である。南の島々の貧乏神も悪鬼悪霊も全部この身に引き受けてしまったかの如き苛烈なまでの落胆が去来し、俺は今にも崩れ落ちんばかりの態となる。