トルストイ「戦争と平和」を聴いて?!
プロコフィエフ作曲「戦争と平和」を聴いた。言わずと知れたトルストイ原作のオペラ版だ。昨年11月NHKホールでのキーロフ・オペラ公演。二部に分かれ前半第一部ではホロストフスキー演じるボルコンスキー公爵とマターエワ演じるナターシャとの愛の場面等と押し寄せる欧州軍勢との戦争の兆しを予感させる結末。第二部ではナポレオン率いるヨーロッパの大軍勢との戦いでボルコンスキーを始め多数の犠牲者を出す。ナポレオン軍団がモスクワになだれ込むが、やがて冬将軍の到来とともにナポレオン軍の退却と最後はロシアの勝利をたたえる場面で幕となる。大筋はトルストイの原作を断片的ではあるがしっかり反映されている。NHKホールならではの利点が多々見られ舞台上の登場人物の数の多さや舞台転換のスムーズさなど新国を除いてここNHKホールでしか無理でしょう、チラシの宣伝文句には総勢450名のスタッフとあったが成る程と思うばかりのスケールでした。第ニ部早々のロシアの勝利を誓う群衆たちの合唱から舞台は一転して大砲行き交う中、ナポレオンの登場と劇的な演出にも目を瞠りました。最後はロシアのモスクワの勝利と平和を祝う壮麗壮大なオケと合唱の大団円で幕。歌手陣では今やベテランの域に達するベズーホフ役のゲガム・グリゴリアンが終始安定した歌唱と演技でダントツ!ボルコンスキー公爵役のホロストフスキーは言うまでも無く、感心したのはナターシャ役のイリーナ・マターエワで小柄で可憐な容姿で素晴らしいソプラノを聞かせました。別の日にはネトレプコも同役を演じたそうですが私てきにはマターエワに軍配を上げたいと思います。と言ってもネトレプコの公演は聴いてはいませんけれど・・その位適役でした。ロシアの元帥役のセルゲイ・アレクサーシキン(バス)も存在感ある堂々の歌いぶりでした。ゲルギエフ氏、爪楊枝ほどの指揮棒(棒と言えるかわかりませんが)で終始流れるような指揮振りでオケをドライブ、いつものマジシャン的な身振りとは違ってこれまたユニークでした。なにせ登場人物が多すぎてカーテンコールも延々と続きます。やはり私の感想と同じでトリに登場したのはグリゴリアンでした。その前がマターエワ、そしてホロストフスキー、アレクサーシキンの逆順です。この4人とは別にナターシャに横恋慕するクラーギン公爵役のオレグ・バラショフ、まだ若手ですが張りのあるテナーに将来性を感じました。この録画は主に裏キャストでの(ホロさんを除く)上演でしたがキーロフ・オペラの底力を感じさせるキャストたちでした。それまでロシアでナポレオン連合軍によって荒廃の憂き目に遭ったモスクワに代わり当時のサンクトペテルブルグが芸術の拠点、都となったのもやがてレーニン、スターリンを始め共産政権の荒波のなか、その名をレニングラードと改められソ連崩壊後プーチン政権になって再びサンクトペテルブルグの栄光の名に戻り、そして近年ゲルギエフ達によってサンクト、つまりマリインスキー劇場がロシアのバレエやオペラ、演劇等、芸術の中心に位置する事実を考えると今回のサンクトペテルブルグ建都300年の記念にあわせた今回の来日公演の力の入れ方がしのばれます。キーロフの「戦争と平和」いやはや何ともハラショー!でした。指揮:ワレリー・ゲルギエフ キーロフ歌劇場、O,Cho,演出:アンドレイ・コンチャロフスキー