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テーマ:映画レビュー(894)
カテゴリ:アメリカ映画
≪人生をどう生きるか、どう選択するか≫
クリント・イーストウッドのアカデミー賞4部門受賞で話題になりました。 女性ボクサーと彼女のトレーナーの話と言うことくらいしか知らずに観たのですが、後半これほど重い内容になっているとは全く予想外でした。 トレーラー育ちで13才の頃からウェイトレスをして生計を立てて来たマギーは、不遇な人生から抜け出す為に、自分のボクシングの才能を頼りにLAでボクシングジムを営むフランキーに弟子入りを志願する。しかし彼は女性のボクサーは取らないとマギーを追い出す。マギーは諦めずにジムへ通い、彼女の真剣さに打たれトレーナーを引き受けることにしたフランキー。彼の指導のもとどんどん腕を上げたマギーは、試合で連覇を重ねていく。 "一生懸命に生きていればいつかきっと良い事が起きる。苦労しても懸命に生きていればその苦労は報われる。" そう思って生きている人は多いのではないでしょうか。 でもどんなにそうやって生きても、悲惨な最期を遂げなければならない運命の人もいる、この映画ではそんな不条理をまざまざと見せつけられてしまいました。 マギーも一時期星のごとく輝く時を持てました。だから、正確には良い事が何もなかった人生とはいえません。ただ、苦労して家族の愛にも恵まれなかった彼女が辿る人生はあまりにもむごいです。フランキーは実の娘から縁を切られ、書き続ける手紙は送り返され続けます。そんな彼とマギーの間に師弟以上の深い絆が生まれるのです。マギーはフランキーに大好きだった自分の父親の姿を見、フランキーはマギーに実の娘を見ている。そんな関係だからマギーは最期をフランキーに託せたし、フランキーもそれを受け入れたのでしょう。 イーストウッドと言う監督の作品は、いつもどこか弱者に目を向けて勇気付けてくれているように思うのですが、これを観た直後は結局救いようがない作品なのかと思い、打ちのめされた気分になりました。 でもよく考えてみたら、これがマギーにとって一番良い選択で、フランキーはそのマギーの選択を尊重してあげた、これは救いようがないのではなく救われたのではないかと思うのです。生きる価値、罪、尊厳、家族愛、いろいろ考えればきりがないのですが、もし私だったら愛する人がマギーのような状態になったら、「頑張って生き続けて」なんて言えるかどうか。 前半から中盤にかけてそして後半へと話は急展開するようにも思われますが、一つの話が又別の話を大きく包むかのように成り立っていて、素晴らしい構成になっています。救いようがない、と思ったにも関わらず『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のような不快感を覚えなかったのは何故かと考えます。それはレモンパイのお店だったり、ジムに力強く舞い戻ってきたデンジャーだったり、彼を迎え入れるスクラップ温かさがあったからかもしれません。 私にとっては泣ける類の作品ではありませんでしたが、考えさせられる作品でした。 モーガン・フリーマンのナレーションと、イーストウッドが担当したという音楽が見事にマッチして静かに静かに終わっていきます。 MILLION DOLLAR BABY 2004年 監督:クリント・イーストウッド 脚本:ポール・ハギス 原作:F.X.トゥール 「テン・カウント」 出演:クリント・イーストウッド、ヒラリー・スワンク、モーガン・フリーマン、ジェイ・バルテェル お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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