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テーマ:映画レビュー(894)
カテゴリ:ドイツ映画
≪ 彼らの勇気は真似できない≫ 今日の作品も実話ベースです。 第二次世界大戦下、ドイツ、ミュンヘンでナチス政権に抵抗する学生グループ「白バラ」がありました。彼らを取り上げた映画は過去にも『白バラは死なず』(未見)などがあるようですが、本作は東西ドイツ統一後、旧東ドイツで見つかった資料を基に作られたので、主人公ゾフィーについては一番近い可能性が高いと思います。 1943年、東部スターリングラードではドイツ軍は苦戦、多くのドイツ兵士の血が流されている事、勝ち目のない戦いだと国民に知らせるべく、大学でビラをまく事を決めた白バラのメンバー。その中には、メンバーの中心的存在ハンス・ショルの妹ゾフィーもいた。ハンスとゾフィーは、計画通りに大学でビラをまくが、すぐに捕まってしまう。 最初のシーンは、ゾフィーが女友達とラジオから流れてくる海外の音楽を聴いて楽しそうにしているものです。そこにはごく普通の21歳の女性の姿があり、これから彼女に起こる恐ろしい出来事を知る由もない屈託のない笑顔が溢れています。 彼らのアジトで計画を練るシーンは一転して厳しい表情に。 それからいよいよ大学構内でビラをまくシーン。ハンスと二手に分かれ、早足で人目を避けながら、という状況。音楽も緊迫感があり、ハラハラ、ドキドキ。 屋上から(3F?)から最後のビラにゾフィーが手をかけるシーンでは、思わず「止めて!」と叫びそうに。 そして捕まってからの尋問官とのやり取りは更に緊迫感を増し、いろんな証拠を次々と挙げられそれに答える様子は、サスペンスドラマの様相も呈しています。 彼らのそれまでの活動などを描いて欲しかった、と言う気持ちもあるけど、その後のゾフィーの取調べや葛藤を見ると、そこまでは描けなかったかもしれない、という思いもあります。しかし、映画自体は飽きずに一気に見ることが出来ました。 有名な話なのでネタバレになりますが、結局彼らはここで捕まり、わずか5日で処刑されてしまうのです。 大学にビラをまくのは危険だという仲間の忠告も聞かずに押し通したのはハンスでした。正直、あまりにはやった行動ではないか、と思うのです。初めはビラまきを否定したゾフィーでしたが、次々と出される証拠に答えるものの辻褄が合わなくなる所も出てきて、最終的には3人の子供がいる仲間に容疑がかけられることによって、兄と自分2人だけでやったということを供述します。そのあたりが、結局は行き当たりばったりの行動のような気がして残念で仕様がないのです。「白バラ」の男性メンバーは、フランス侵攻やスターリングラードに従軍した帰還兵だっただけに、もっと他の方法もあったのではないかと。いや、あの時代そんなに甘いものではなかったのでしょうね。 彼女のあの確固たる信念はどこからきているのでしょうか?尋問官にも、裁判において裁判官にも堂々と自分の思想、主張を述べ、決してひるむ事のなかった21歳の女子学生。彼女の主張は尋問官の心をも揺るがすものであったのは事実でしたし、女性の警官もそうでした。おそらくあの裁判に立ち会った多くの人たちも心の中ではゾフィーと同じ気持ちだったかも。 権力に真正面から立ち向かったゾフィーたち。 立ち向かいたくても、立ち向かえない尋問官たち。 そして、自分の保身の為に立場を振りかざし立ち向かうものに刃を振りかざす裁判官。この裁判官の罵詈雑言、みっともないと思えるほどの裁判の様子。ゾフィーが「あなたがいつかこの場所に立つわ」と言うシーンには、「そうだ、そうだ」と胸がすく思い。でも、実際あの裁判官はその後どうなったのでしょうか。 ゾフィーたちは正義の為に死んだ、と言えるのかもしれませんが、私にはよくわかりません。でも、逮捕されてわずか5日間で処刑された彼らの家族の事を思うと、いたたまれないのです。それで良かったのでしょうか。今彼らはドイツではヒーロー、ヒロインなのかもしれません。後世にそのように思われているだけでも、彼らには意味のある事だったのかもしれません。恐怖政治の中でそれに反抗しながら生き抜くのは難しい事だったのでしょうが、抵抗をしないよりは良かったのか。恥ずかしいけど、私には出来ないような気がします。 圧倒的多数の中にも本音は絶対に違うものを持っている人がいる、それは確かだと思います。それを表に出せない世の中の恐ろしさを、改めて感じました。 SOPIE SCHOLL - DIE LETZTEN TAGE 2005年 ドイツ 監督:マルク・ローテムント 脚本:フレート・ブライナースドーファー 出演:ユリア・イェンチ、アレクサンダー・ヘルト、ファビアン・ヒンリヒス、ヨハンナ・ガストドロフ、アンドレ・ヘンニック、フロリアン・シュテッター DVD お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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