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2012.11.06
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カテゴリ:ふる里忘れがたく

 

 

 

 

 

               忘れもしない。

               それは私が小学校6年生の時だった。

               町に、サーカスがやってきた。

 

               そのサーカスの団員の家族で、一人の女の子が私のクラスへ転校して来た。

               ストレートで綺麗な長い髪。物静かで、卵型の少し大人びた面立ち。

               たった1ヶ月間だけのクラス・メイトだったけれど。

               A子ちゃん。

 

               その名前は今でもはっきりと、フルネームで覚えている。

               他に誰がクラス・メイトだったか、ほとんど名を覚えていないのに、

               彼女のことだけは覚えているのは、彼女がサーカスと共に町へやってきた

               少女だからだと思う。

               田舎の山猿の私には、それだけで充分ミステリアスな存在だった。


               そのサーカスへは、母に弟と見に連れて行ってもらった。

               覚えているのは人間ポンプ、球形の鉄の枠の中をバイクで走る曲芸?

               ピエロもいたかなあ…う~ん、テレビで見たこととごっちゃになってるかな。

               花形はなんといっても、空中ブランコだった。


               彼女の家族がその後、どれほどの期間サーカスにいたかは知れないけれど、

               私はこんな風に時々彼女を思い出していた。

               何度も転校を繰り返したのかなと思うと、人見知りをする私は子ども心に、

               つらくはないのかなあと思ったものだった。

               彼女と特別仲良しになったわけじゃないのに、サーカスという私には

               非日常的な空間は、そこに身を置く一人の綺麗な少女の面影を、

               私の脳裏に焼き付けて、彼女と共にどこかへ去って行ったのだった。
 

               ドッジボールが上手だったA子ちゃん。

               貴女はどこかの小学校を、どこかの小学校の誰かを覚えているのかな。

               どこの学校の、誰を覚えているのかな。

               貴女のふるさとはどこなんだろう。

               ふるさとというものを、どんな感覚で捉えているんだろう…。

 

               元気でいれば私と同じ年齢。

               もしも同じ町に住んでいて、どこかですれ違っていたとしても、

               互いに気づかないんだなあと思うと、縁というのは不思議なものだ。


               思い出すと、昭和の匂いがするいくつかの思い出。

               懐かしくなって少し検索したら、小学校の木造の講堂が、まだ当時の姿のまま

               残っていることがわかった。

               ペンキの色まで当時と同じだった。

               私がバイトをしたラーメン屋も、当時と変わらないたたずまいで、

               写真に収められていた。

               その写真の向こうには3階以上の建物がない。

               もちろん町のどこかには、マンションなどもあるんだろうけれど、

               その店の背景にはないってことが、私には途方もなくうれしいのだった。

 

               店舗が並んだ国道やバイパス沿いのように、どこもかしこも似たような

               風景にするのは、たぶんとてもたやすい。

               忘れ去られたのではない。変わらないことがまるで奇跡のような町の、

               昭和の匂いが漂う個性的な風景。

               今となってはそれこそが、ある種の貴重な先端のようだ。

 

               カラーだけれど少し色褪せて、幾つもに千切れたフィルムの断片。

               頭の中で繋ぎ合わせて、たった一人の上映会に、秋の夜長が更けていく。

 

               さて、今夜は何色のドロップを、頬張ろうかな…。

 


★ リック・ブラウン & ピーター・ホワイト/Kisses in the Rain ★

 

 

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最終更新日  2018.01.26 10:33:54
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